さんじゅう もう一人の金四郎
もう一人の金四郎
未登録エリア。
白い空間の中央で、半次郎は立ち尽くしていた。
目の前にいるアバター。
姿は自分と同じ。
服装も似ている。
でも、表示されている名前だけが違った。
【金四郎】
その名前を見た瞬間、半次郎の頭の中が一瞬真っ白になる。
「……俺?」
いや、違う。
自分は今、半次郎だ。
ランプの中で作ったアバター名。
現実の自分は金四郎。
なら、目の前にいる存在は――
「昔の俺……なのか?」
画面の中の金四郎は、静かにこちらを見ていた。
しかし、表情は半次郎が想像していたものとは違った。
怖い存在でもない。
怒っているわけでもない。
どこか安心したような顔だった。
『やっと来たんだね』
また、その声。
半次郎自身の声。
「なんで……」
半次郎はゆっくり聞いた。
「なんで俺がここにいることを知ってるんだ?」
金四郎は少し笑った。
『知っているんじゃない』
『待っていたんだ』
その言葉に、半次郎は戸惑う。
「待っていた?」
『そう』
『いつか、ランプを楽しむ人が来ると思っていた』
半次郎は画面を見る。
そこには昔の記録が流れていた。
まだ今のような便利な機能もない。
部屋も少ない。
イベントもない。
それでも、そこには楽しそうなユーザーたちがいた。
コメント。
日記。
交流。
今のランプと同じ。
ただ、少しだけ違う。
「昔のランプって……」
半次郎がつぶやく。
「もっと普通だったんだな」
金四郎はうなずいた。
『そう』
『競争する場所じゃなくて、残す場所だった』
その言葉を聞いて、料理人フレンドが静かに言った。
『だから半次郎さんは、今でも楽しめているんですね』
半次郎は少し照れた。
「いや、俺なんてガチャで失敗して騒いでるだけだけど」
すると発光体がすぐ反応する。
『失敗ではありません』
「え?」
『未来への投資です』
「絶対違う!」
いつもの空気が戻る。
しかし次の瞬間。
発光体が突然止まった。
『……あれ?』
「どうした?」
『私の過去データがあります』
全員が画面を見る。
そこには、まだ光っていない普通のアバターが映っていた。
名前は――
【発光前】
「……」
半次郎は無言になる。
「発光前って名前なの?」
発光体は慌てる。
『これは仮名です!』
「いや、仮名にしても雑すぎる!」
料理人フレンドが笑う。
珍しく発光体が困っている姿に、半次郎も少し笑った。
しかし、その直後。
未登録エリアの奥から警告音が鳴った。
ピコン。
【管理者記録更新】
【新しい情報があります】
画面に表示された文章。
『初代ユーザーは一人ではありません』
半次郎の表情が変わる。
「一人じゃない?」
金四郎が静かに答える。
『そう』
『最初のランプには、もう一人いた』
画面に古い名前が表示される。
【初代管理者】
【非公開】
そして、その下。
現在の名前。
半次郎は息を止めた。
「……」
表示された名前。
それは――
【半次郎】
ではなかった。
【???】
になっていた。
その瞬間。
非公開ユーザーから通知。
『そろそろ会いましょう』
『あなたが忘れている、もう一つの名前を教えます』
未登録エリアの扉が開く。
その先には、誰も入れなかった場所。
【記憶保管庫】
という文字。
半次郎はゆっくり歩き出した。
自分の知らない過去。
そして、自分が忘れている名前。
そこにはランプの本当の始まりが眠っていた。
――




