にじゅうきゅう 未登録エリアの住人
第29話 未登録エリアの住人
『やっと戻ってきたね』
その声を聞いた瞬間、半次郎は画面から目を離せなくなった。
自分の声。
しかし、自分が発した声ではない。
スマホの向こう側から聞こえたその言葉は、まるで昔の自分が今の自分へ話しかけているようだった。
「……ちょっと待って」
半次郎は混乱した。
「俺、ランプ初心者だったよね?」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「服選んで、部屋作って、ガチャで失敗して……」
そこまで言って、ふと気づく。
「……失敗?」
横を見る。
発光体がすぐ反応した。
『はい。あなたはかなりガチャ運が悪いです』
「今そこ!?」
半次郎は思わずツッコんだ。
こんな不思議な状況でも、発光体は通常運転だった。
『ですが安心してください』
発光体が胸を張る。
『課金すれば確率は解決します』
「怖い解決方法出してくるな!」
料理人フレンドが苦笑する。
『でも、半次郎さんらしいですね』
「俺らしい?」
『不思議なことが起きても、ちゃんと笑えるところです』
その言葉を聞いて、半次郎は少しだけ落ち着いた。
確かにそうだった。
ランプで起きることは普通ではない。
未来からコメント。
存在しないユーザー。
自分と同じ姿の初代ユーザー。
怖いはずなのに、どこか楽しかった。
だからここまで来た。
その時。
未登録エリアへの入口が完全に開いた。
中に広がっていたのは、真っ白な空間だった。
街もない。
部屋もない。
ただ中央に一つだけ、小さな机が置いてある。
その上に古いスマホ。
半次郎が近づく。
すると画面が自動で起動した。
表示されたのは、一つのメッセージ。
『ランプを作った理由』
半次郎は息を飲む。
そこには文章が続いていた。
『この世界は、誰かが競うためだけの場所ではない』
『誰かと出会い、笑い、思い出を残す場所』
半次郎は静かに読んだ。
「……」
思えば、自分がランプを続けている理由もそうだった。
ランキングでも。
限定アイテムでもない。
料理人フレンドとの会話。
発光体の変な発言。
寝落ち神の意味不明な行動。
そういう時間が楽しかった。
その時。
寝落ち神が机の横を見る。
『あ』
「どうした?」
『ここに来た人、昔は三人いた』
半次郎が振り向く。
「三人?」
寝落ち神は指を三本出した。
『初代ユーザー』
『管理を見る人』
『そして……』
そこで止まる。
「そして?」
寝落ち神は少し眠そうな顔で言った。
『ランプを終わらせる人』
空気が変わった。
半次郎は笑えなかった。
「終わらせる?」
寝落ち神はうなずく。
『ランプには、始まりの人と終わりを見る人がいる』
『でも最後の一人は、まだ決まってない』
その瞬間。
机のスマホが震えた。
新しいログ。
【管理者認証】
【対象:半次郎】
【確認します】
画面に質問が表示される。
『あなたは、この世界を残しますか?』
『それとも、消しますか?』
半次郎の指が止まった。
「いやいや……」
声が震える。
「急にそんな大きな選択迫られても……」
すると、非公開ユーザーから通知。
『選ぶのは今ではありません』
『ただし、あなたはもう戻れません』
続けて表示された。
『次に会う時、私はあなたの前に姿を見せます』
半次郎は画面を見る。
その下に新しい名前。
【非公開ユーザー:接続準備中】
そして最後の一文。
『初めましてではありません』
半次郎の背筋が寒くなる。
「……俺、会ったことあるの?」
未登録エリアの奥で、誰かの足音が響いた。
ゆっくり。
こちらへ近づいてくる。
その姿が見えた瞬間――
半次郎は言葉を失った。
そこに立っていたのは。
自分と同じ姿のアバターだった。
ただし名前表示は違う。
【金四郎】
――




