にじゅうはち もう一人の半次郎
旧ランプ管理室。
その名前だけなら、ただの昔のデータ置き場に聞こえる。
しかし実際に開いたその場所は、今まで半次郎が見てきたランプの世界とはまったく違っていた。
いつもの明るい街並み。
きれいに飾られた部屋。
イベント会場。
フレンドのアバター。
そういう華やかな雰囲気はなく、そこにあったのは古い建物のような空間だった。
壁には昔のランプのロゴ。
床には消えかけた文字。
そして、動かなくなった大量のアバター記録。
「……ここ、本当に同じランプなのか?」
半次郎は小さくつぶやいた。
楽しく遊んでいた場所の裏側。
見てはいけない場所を見ているような気持ちになった。
その時。
「すごい……」
料理人フレンドが周囲を見ながら言った。
「昔の料理投稿の記録も残っています」
「そこ見るの?」
半次郎が思わずツッコむ。
「いや、料理人さんらしいけど」
すると発光体が壁の前に立った。
『これは貴重なデータです』
珍しく真面目な顔をしている。
半次郎は少し驚いた。
いつもなら、
「限定アイテム!」
「効率!」
「ガチャ!」
しか言わない発光体が、今回は静かだった。
『昔のランプを知れば、今のランプで何が起きているか分かるかもしれません』
「……発光体でもそういうこと考えるんだ」
『失礼ですね』
発光体は光を強めた。
『私は課金するために頭を使っています』
「結局そこなの!?」
少しだけ空気が軽くなる。
その瞬間。
寝落ち神が壁際で止まった。
「寝た?」
半次郎が見る。
しかし今回は違った。
寝落ち神は、古いログを見つめていた。
『……ここ、まだ残ってたんだ』
「知ってるの?」
半次郎が聞く。
寝落ち神はゆっくり答えた。
『昔、ここで初代ユーザーが最後にログアウトした』
半次郎の表情が変わる。
「最後に?」
『そう』
『その時、初代ユーザーは言った』
寝落ち神が画面を見る。
『ランプは完成した。でも、まだ誰かが来る』
半次郎は息を飲んだ。
「誰かって……」
答えは分かっている気がした。
でも、聞くのが怖かった。
その時。
管理室中央のモニターが突然起動した。
古い映像が流れる。
そこには、一人のアバター。
今の半次郎と同じ姿。
しかし名前表示が違った。
【金四郎】
「……え?」
半次郎の頭が混乱する。
「金四郎って……俺の現実の名前……」
画面の中のアバターは、ランプの世界を歩いている。
服を選び。
部屋を作り。
フレンドを作り。
ガチャを回している。
まるで――
半次郎が初めてランプを始めた時と同じだった。
「これ……俺の記録?」
料理人フレンドも驚いている。
「でも、おかしいです」
「何が?」
「この記録の日付……」
料理人フレンドが指を止める。
表示された日付。
それは、
半次郎がランプを始めるより、ずっと前だった。
「ありえない……」
半次郎の声が震える。
すると画面に新しい文字が出た。
【初期登録者】
【金四郎】
【アバター名変更後】
【半次郎】
その下に、最後の記録。
『この世界を楽しめる人が来るまで、私は待つ』
半次郎は画面を見つめた。
「俺が……待たれてた?」
その瞬間。
非公開ユーザーから通知。
『思い出してきましたね』
続けて表示される。
『でも、まだ一番大事な記憶を忘れています』
そして画面に、新しい場所が表示された。
【未登録エリア】
その名前の横には、
【管理者:半次郎】
という表示。
半次郎は固まった。
「……管理者?」
自分はただ遊びに来ただけ。
初心者だったはず。
なのに。
ランプの奥には、自分の知らない自分がいた。
そして未登録エリアへの入口が開く。
そこから聞こえた声。
『やっと戻ってきたね』
その声は――
半次郎自身の声だった。
――




