にじゅうよん 「寝落ち神の秘密?」
半次郎は、目の前で静かに眠っているアバターを見つめていた。
いや、正確には「静か」という表現が正しいのか分からない。
なぜなら、そのアバターはランプの街中で堂々と寝ているからだ。
周囲を歩くユーザーたちは、特に気にしていない。
むしろ慣れているようだった。
「……この人、いつからここにいるんだ?」
半次郎が小声で聞く。
料理人フレンドは首をかしげた。
「たぶん……かなり前からですね」
「かなり前?」
「僕が初めてランプに来た時も、この場所で寝てました」
半次郎は固まった。
「え?」
「その時も寝てました」
「じゃあ、何時間?」
料理人フレンドは少し考える。
「……何日かもしれません」
「ログアウトしろよ!」
思わず叫ぶ半次郎。
しかし寝落ち神は反応しない。
いや、よく見ると少しだけ目を開けた。
「……起きてる……」
「起きてるなら返事して!」
半次郎のツッコミが響く。
寝落ち神はゆっくり体を起こした。
「……質問……」
「なに?」
「今日の晩ご飯……」
「知らないよ!」
「……じゃあ寝る」
「会話終わるの早すぎ!」
半次郎は頭を抱えた。
謎の存在。
不思議な発言。
なのに、全然怖くない。
むしろ疲れるタイプだった。
そこへ発光体が近づく。
「なるほど……この人物も重要キャラクターか」
発光体は寝落ち神をじっと見る。
「ログイン時間、異常」
「反応速度、謎」
「しかし装備は初期状態」
そして真剣な顔で言った。
「これは……」
全員が息を飲む。
「無課金の極み!」
「そこ!?」
半次郎は思わず叫んだ。
発光体は本気だった。
「装備より睡眠を選ぶ……新しいスタイルだ」
「いや、ただ寝てるだけじゃない?」
「違う。これは精神力の勝利だ」
「絶対違う」
いつものような会話。
でも、半次郎は少し気になっていた。
なぜ、寝落ち神はあのタイミングで言ったのか。
『この人、ずっと見てる』
あれは偶然なのか。
それとも。
半次郎が考えていると、寝落ち神が突然つぶやいた。
「……非公開ユーザー」
空気が変わる。
半次郎はすぐ反応した。
「知ってるの?」
寝落ち神は目を閉じたまま答える。
「……知ってるような……知らないような……」
「どっち?」
「……夢で会った」
半次郎は黙った。
冗談に聞こえる。
でも、寝落ち神の表情はいつもと違った。
眠そうではある。
しかし、少しだけ寂しそうだった。
「……ランプができる前から……いる」
その言葉に、半次郎の背中が寒くなる。
「ランプができる前?」
料理人フレンドも驚いた顔をする。
発光体ですら黙っていた。
いつもならすぐ課金の話をするはずなのに。
「……それ、本当なの?」
半次郎が聞く。
寝落ち神はゆっくり立ち上がった。
そして、珍しく真っ直ぐ半次郎を見る。
「……半次郎」
「な、なに?」
「君の日記……」
「え?」
「最初から……読まれてる」
半次郎の心臓が跳ねた。
日記。
それは半次郎がランプで残してきた記録。
楽しかったこと。
失敗したこと。
ガチャで外したこと。
くだらないことまで書いた、自分の場所。
「でも……公開設定は……」
半次郎がつぶやく。
すると寝落ち神は、静かに言った。
「……非公開ユーザーは……」
一瞬間を置いて。
「見る側じゃない」
「え?」
「……ランプの中にいる側」
その瞬間。
半次郎のスマホ画面に、新しい通知が表示された。
『あなたの日記にコメントが追加されました』
しかし。
半次郎はその日記を開いていない。
コメント欄には、たった一文だけ。
『やっと気づいたね』
送信者。
非公開ユーザー。
そして、その下に表示された日時は――
まだ未来の時間だった。




