にじゅうさん 「見ている誰か」
イベントサーバー崩壊の騒ぎから数日。
半次郎は、いつものように「ランプ」を開いていた。
あれだけ大きな騒動があったのに、ランプの街並みは何事もなかったように戻っている。
カラフルな建物。
歩き回るアバターたち。
流れる日記投稿。
新しいイベントのお知らせ。
画面の中は、相変わらず楽しそうな世界だった。
しかし、半次郎の中には小さな引っかかりが残っていた。
「……本当に、ただのバグだったのか?」
半次郎は自分の部屋の椅子に座りながら、前に起きた出来事を思い出していた。
存在するはずのないログ。
誰も知らないはずの日記内容。
そして、突然届いた謎の通知。
『あなたの記録を確認しました』
あの文章を見た瞬間、半次郎は背中が少し冷たくなった。
だが、怖がってばかりもいられない。
なぜなら……。
「ランプ、普通に楽しいんだよなぁ」
そう。
変なことは起きる。
でも、料理人フレンドと話したり、変なアバターに出会ったり、くだらないことで笑ったりする時間も確かに楽しかった。
その時だった。
通知音が鳴る。
ピコン。
「またか……?」
半次郎は恐る恐る画面を見る。
そこには、見覚えのないユーザーからのメッセージが表示されていた。
ユーザー名。
『非公開ユーザー』
「……いや、名前それでいいのかよ」
思わずツッコミが出る。
怪しい。
ものすごく怪しい。
普通ならもっと名前を隠すために、適当な名前をつけるものではないのか。
「非公開ユーザーって……隠す気ある?」
半次郎が画面を見ながら悩んでいると、後ろから声がした。
「半次郎さん、それ絶対押しちゃダメなやつじゃないですか?」
振り向くと、料理人フレンドが立っていた。
いつもの優しい雰囲気。
そして手には料理。
「いや、なんで今料理持ってるの?」
「緊張するとお腹空くかなと思って」
「俺がホラー映画見てる時の友達みたいな扱いされてる!」
半次郎が叫ぶと、料理人フレンドは笑った。
その空気で少しだけ緊張がほぐれる。
そこへ、突然まぶしい光が現れた。
「フハハハ!事件の匂いがするぞ!」
発光体だった。
相変わらず全身が光っている。
「いや、毎回登場が派手すぎるんだけど」
「重要人物は光るものだ」
「そんなルール初めて聞いた」
発光体は半次郎の画面を見ると、急に真剣な顔になった。
「……これは」
「知ってるのか?」
「知らん!」
「知らないんかい!」
半次郎のツッコミが響く。
すると、発光体は胸を張った。
「だが安心しろ!調査には課金が必要だ!」
「何でも課金に結びつけるな!」
いつもの騒がしい空気。
しかし、その瞬間。
画面の通知がもう一度鳴った。
ピコン。
今度は全員が静かになる。
新しいメッセージ。
『あなたたちは、まだランプを知らない』
半次郎は息を止めた。
冗談ではない。
誰かが、本当に見ている。
その時、さらに下に小さな文字が表示された。
『次は、あなたの部屋を見に行きます』
半次郎の部屋。
それは、現実の部屋ではない。
ランプ内に作った、自分だけの空間。
なのに。
なぜか、その言葉は現実まで見られているような感覚を与えた。
そして半次郎は気づく。
メッセージの送信時間。
それは――
半次郎がランプを開く前の時間だった。
「……俺がログインする前から、待ってたってことか?」
誰も答えられない。
発光体も、料理人フレンドも黙って画面を見る。
その時、遠くから眠そうな声が聞こえた。
「……それ……たぶん……前からいる……」
全員が振り向く。
そこには、いつの間にか寝転がっているアバターがいた。
「誰?」
半次郎が聞く。
すると、そのアバターは目を閉じたまま答えた。
「……寝落ち神……」
そして次の瞬間。
「……この人、ずっと見てる……」
その言葉だけ残して、寝落ち神はまた眠り始めた。
半次郎は思った。
この世界には、自分が知らない何かがある。
そして、その何かは。
少しずつ、自分の近くまで来ている――。




