サタナエル編1-2
「ま、まて! ぐあっ!?」
彼は将軍を刀で突き刺した。将軍は必死に命乞いをしたが、彼は無視した。
「私はおまえに死を与えよう」
彼は将軍の体から刀を引き抜く。将軍はいすに座ったまま机に倒れた。
将軍の体から血が流れ出る。彼は将軍を殺した。そして何ごともなかったかのように姿を消した。
後日、将軍が殺害されたことはニュースとなってツヴェーデン中に流れた。
将軍の死をマスメディアは大きく伝えた。検視の結果、将軍は刃物で刺し殺されたらしい。
犯人は不明――
次に殺されたのは魔法省の長官だった。長官は背後から刀で貫かれて絶命した。
セリオンはそれらの犯行がサタナエルによるものだと思った。サタナエルは標準よりも長めの刀を使っていた。セリオンは戦いの準備を整えた。
「いくの?」
「ああ。おそらく犯人はサタナエルだ。俺があいつを止めないと」
エスカローネは不安そうに尋ねた。
「その人強いんでしょう? 勝てるのかしら?」
「正直戦ってみないと分からない。能力は俺より上だと思う。それでも俺とあいつはどこかひかれ合うんだ」
セリオンは廃棄された軍の基地にやってきた。
ここはセリオンがサタナエルと初めて出会った場所だった。そして、ここにサタナエルの姿もあった。
サタナエルは背を向けて立っていた。
「……久しぶりだな、セリオン」
「サタナエル……」
サタナエルは振り返った。
「将軍も長官もおまえが殺したのか?」
「違うな。私は彼らを救ったのだ」
「救った?」
「彼らは死によって救済された。私が死をもたらしたのだ」
「殺したことに変わりはない」
「この基地を覚えているか? この基地で私は生まれたのだ」
「この基地で、俺はおまえと出会った」
「感動的な再会だ。私とおまえには宿命がある。それは戦いだ」
サタナエルは刀を構えた。セリオンも大剣を構える。
二人は同時に地を蹴った。二人の武器、大剣と刀がぶつかり合って、火花を散らした。
セリオンは連続でサタナエルを攻撃した。一方、サタナエルは浮遊して回避する。
サタナエルはセリオンの背後に回り込み、斬りつけた。セリオンは間一髪でかわした。
セリオンのほおに冷たい風が触れた。サタナエルは刀で突きを繰り出した。セリオンは大剣で受け流す。
サタナエルは素早く刀で斬りつける。セリオンもそれに合わせて大剣でおうしゅうする。
「くっ!?」
セリオンは後ろにジャンプして一時後退した。戦いはサタナエルが優勢だった。
「はあ……はあ……はあ……」
「どうした? 息が上がっているぞ?」
セリオンは蒼気を発した。凍てつく闘気がほとばしでる。
「フッ、蒼い闘気か。クールだな。まるでおまえを象徴しているかのようだ」
「今度はこっちの番だ!」
セリオンは蒼気をまとってサタナエルに斬りかかった。
サタナエルは涼しげにセリオンの大剣を受けはらう。
サタナエルが今度は斬りつけてくる。サタナエルの刀が振るわれる。
セリオンは大剣でサタナエルの攻撃を防ぐのとよけるので、精一杯だった。
セリオンは壁に追い詰められた。サタナエルは強烈な一撃を放ち、セリオンを吹き飛ばした。
セリオンは壁に激突し、地面に倒れ込む。
そしてサタナエルはセリオンの腹部を刀で貫いた。
「うっ!?」
「死ぬがいい、セリオン。私がおまえに死を与えよう」
セリオンは倒れた。サタナエルは刀を抜くとその場を去っていった。
「さらばだ、セリオン」
セリオンは暗くなる意識のなかでその声を聞いた。
ただ自分がサタナエルに敗れたことだけは理解した。
セリオンはテンペルに運ばれた。アンシャルが基地に侵入し、セリオンを見つけ、連れ去った。
エスカローネはセリオンに回復魔法をかけ続けた。セリオンの出血はひどかった。
それがセリオンの意識を失わせていた。それでも、セリオンは一命を取りとめた。
エスカローネやディオドラはつきっきりで看護した。
「今は安静にさせておくほうがいい。眠らせておくんだ」
アンシャルが言った。
宇宙空間――巨大隕石は突然その軌道を変えた。巨大隕石はエーリュシオンへとしだいに接近してきた。
隕石はしだいに肉眼で確認できるようになった。
巨大な隕石が近づいてきている――
市民たちはパニックに陥った。この世の終末として、迫りつつある死を嘆く者たちもいた。
あれが地上に落下したら、地上の生物は死滅し、永劫の冬が訪れるであろう。
サタナエルはその憎しみから世界のすべてを破壊しようとしていた。
全世界の危機だった。
ツヴェーデンの隣国デーネマルク Dänemark でも同じようにパニックに支配された。
ここは夢なのか。それとも彼岸の世界なのか。セリオンには分からなかった。
セリオンは高い柱の上にいた。周囲は一面に雲海が広がっていた。霊的な、気息的な世界だった。
「……俺は死んだのか?」
「いいや、違うね」
セリオンの後ろから声がした。セリオンは後ろに向き直った。
「こういう場所ははじめてかい? 純粋に気息的な世界だ。スピリチュアリティーを鍛えるにはちょうどいい」
「おまえは、天使スラオシャ Sraoscha 」
スラオシャは宙に浮き、セリオンよりも高いところにいた。スラオシャはメガネを掛け、銀色の髪をしていた。スラオシャには翼があった。
「やあ、セリオン、 君とは五年ぶりだね。神剣サンダルフォンを手渡した時以来だ」
「そうなるな。十五歳の誕生日におまえが贈った大剣だ」
「でも、今その話は置いておこう。今は差し迫った課題があるのだから。君はサタナエルと戦って負けた。だからこそ今君はこの世界にいる。だから君がサタナエルに勝てるように、私が君のスピリチュアリティーを鍛えてあげよう」
スラオシャはそう言うと手から銀の槍を出した。
「君はサタナエルに勝ちたいかい?」
「もちろん、勝ちたい。いや、俺は勝たねばならない!」
「ならば新しくスピリチュアリティーを鍛えることだね。そこに勝機がある。ではすぐに始めることにしようか」
セリオンはスラオシャと戦った。スラオシャは強かった。
特に巧みに操る彼の槍に、セリオンは翻弄された。
「まだまだだな」
スラオシャと戦ってどれくらいたっただろうか。この空間では時間が流れていないような錯覚にとらわれた。
スラオシャはセリオンのスピリチュアリティーがより強化され、増大していくのを感じた。
気息的な修行は大きな効果を現しつつあった。
「これまでかな」
「? どういうことだ?」
「現実に戻れば分かる」大きな危機が訪れつつある。そしてそれを阻止できるのは君だけだ、セリオン・シベルスク Selion Sibersk。 神の祝福が君と共にあるように」
セリオンは突然目を覚ました。どうやらベッドで眠っていたようだ。
隣ではエスカローネが眠っていた。ずっと看護してくれたのであろう。セリオンの傷はふさがっていた。
セリオンは少し前までいた世界を思い浮かべた。あの世界はなんだったのだろいか? ひとつ言えること、はあの世界は気息――Geistで満ちていたということだった。
エスカローネが目を覚ました。
「セリオン! 目が覚めたのね! よかった! 本当によかった!」
エスカローネはセリオンに抱きついてきた。
セリオンは外に出た。
「あれは……」
空には巨大隕石がはっきりと見えた。
「数日前からだ。あれが見えるようになってから、ツヴェーデンはパニック状態だ」
アンシャルが述べた。
「サタナエルだ。あいつがあれを強引にエーリュシオンにぶつけようとしているんだ」




