ファイナルステージ
いよいよデッド本拠地の攻略が始まった。
銀河連合が一斉に蜂起したことで、デッド主力軍が各銀河へと散った。
手薄になった彗星銀河・エイベルに向けて連合軍の精鋭が一気に侵攻し、最大規模の上陸作戦を敢行する。
連合軍精鋭・宇宙連合艦隊は、大型空母十二隻、巡洋艦三十隻、中・小型空母を含む艦艇六百隻。艦載機六千機が投入された。
対するデッド軍は、大型空母六隻、戦闘艦八隻、巡洋艦十二隻を含む艦艇二百隻。艦載機千五百機をエイベル銀河に集結させ連合軍を迎え撃つ。
戦闘の火蓋はデッド軍の集中砲火から始まった。
両軍を隔てる宇宙空間に、まばゆいほどの光線が飛び交う。母艦の中で待機しているケンジ達に緊張が走った。
対峙する連合軍の大艦隊とデッド軍艦隊。激しい空中戦を縫うように、次々に連合軍の攻撃機部隊が最前線へと投入された。
リックの部隊も呼応して、本拠地・サルガス星を目指した。
やがて攻撃部隊の目の前に、白く輝く惑星が見えた。
銀河連合にその存在を隠し続けた本拠地・サルガス星が姿を現す。
「あれよ、あの星がデッドとか言う敵の本拠地よ」
一人乗りの雷撃機・アレスに無理して乗り込んだサヤカが、ケンジにしがみ付きながら言った。
「いよいよ、始まるんだな」
ケンジがサルガス星を睨み付け気を集中した。
サルガス星は地球と同じ大きさの惑星で、その存在を掻き消す分厚い大気に覆われ不気味さを増していた。この星を拠点にして、各艦隊の旗艦に指令を発していたのである。
クライマックスが始まり、次々と連合軍のアームキャリーがガス雲惑星へと降下した。
太古の惑星に降り立ったアレスとレイア、そして隊長機・マルス。
見渡すと、廃墟の古代都市を覆い隠すように木々が茂っていた。
粒子のように漂うガスがレーダーの機能を奪う。一帯には無数の敵機の陰、多くの敵がいることは分かる。
無数の人型ファントム機が点在し、侵攻して来た連合軍を待ち構えていた。
「何か、ウジャウジャいるよ。大丈夫なの?」
そう勘の鋭いサヤカがケンジの耳元で囁く。
「俺に任せろよ。対戦ゲームは、俺の最も得意とする分野だぞ。でも、この世界じゃ持久戦は無理。短期決戦で一気に勝負を決めないとな」
ケンジ得意のバトルが始まった。
それまでの空中戦と違い地上戦、一帯は瞬く間に戦場と化す。
突然、あちこちで爆発音が聞こえた。それも、空爆のようなもの凄い音が響き渡った。
近くで何かが起きているのは確かだが、何も見えない。
見えない恐怖がケンジを襲ったが、心眼を持つサヤカがそばにいてくれる。
無限に広がる大宇宙の中、たった一つのメイオール銀河を見付けたサヤカの心眼の能力。レーダーが利かなくてもサヤカがいてくれて心強かった。
そんな頼りになるサヤカが、ビームライフルを構え撃とうとするケンジに待ったを掛けた。
「待って! 何かヤバイ気がするよ」
――その時、アカリからの通信が入った。
「銃を撃つのは危険! このガス雲の成分は、レーザー光線の高エネルギーに反応して引火爆発するの。危険だから、くれぐれもGスーツは着用してね」
間一髪のところで自爆を防いだ。
一撃で敵を仕留める高エネルギーのビームライフルは、一帯を漂うガス雲によって封じられ使用不可能になった。
先程の爆発音は、情報を知らない連合軍のアームキャリーが、ビームライフルを使用したことによる爆発音。サルガス星に漂う濃い大気は、星の存在を掻き消すと共に、敵の攻撃を防ぐシールドの役目を担っていたのだった。
「ありがたい、命拾いしたよ、サヤカ。だから撃ってこなかったのか。となると接近戦だな」
早速、エニフ星から貰ったアイテム・ビームサーベルが役に立った。
ビームサーベルのグリップを強く握り締めると、ビーム状の刀身が現れた。
『ブーーン』と音が鳴り、刀身がまるでガスバーナーのように青白く光るサーベル。アリオト星の物より強力だった。
星を取り巻くガスが銃撃戦を阻止し、ビームサーベルを用いた接近戦となった。研ぎ澄まされたサヤカの勘が冴え渡り、敵の突撃を直前で察知する。
「右! 左! 後ろ!」
とケンジの耳元で的確な指示を出す。
文字通り二人三脚、最強のコンビだった。
ケンジの発する思考にアレスは素早い動きで付いていく。手足のように動くアレスの性能に驚嘆するケンジ。
強力なサーベルで人型ファントム機を斬る、突く。
何度か刃を交わすうち、
「人間の同じで、頭が急所のようだな」
とケンジは弱点を見抜く。
ケンジのテクニックを吸収し、アレスと一体になった感覚。ケンジの魂がアレスの乗り移ったかのように、剣技を駆使して、目の前に立ち塞がる敵を次々と仕留め、ひたすら前進。奥へ奥へと掻き分け進んで行く。
奥深く進んで行くと、小高い丘の上に白い建物があった。
それはまるで、ギリシャの首都、アテネにあるアクロポリスの丘に建つパルテノン神殿のように見えた。
アレスが飛び上がって、一気に丘の上へとたどり着く。
そこから下界を見下ろすと、ガス雲に包まれた雲海の世界が広がっていた。
敵は追って来ない。否、近付けないのだろう。ここは聖なる地? 進入を拒み何者も寄せ付けない、そんな雰囲気が漂っていた。
神殿の前には、守護神の形をした岩が侵入者を拒むように鎮座している。
アレスが神殿に近付こうとすると、岩が崩れ出し、守護神の本体があらわになった。
凶暴な狼の顔をした、ダークグレーの不気味な姿。
「エジプト神話に出てくるような、頭が犬の形をしたロボット。見るからに怖そう、大丈夫なの?」
「どうやら、あれが本拠地を守護するアームキャリー、ボスキャラの登場って訳か」
ケンジが敵のアームキャリーを見た瞬間、かなり手強い相手だと思った。
それはゲーマーとしての直感、背筋に冷たいものが走る。
だがケンジは、それに恐れることなく闘いに挑む。
サルガス星を守るのは、太古最強生物のDNAを受け継ぐ大型アームキャリー『ハデス』。
ヒグマのような威圧感に、虎の持つハンターとしての瞬発力、そして、サイのような破壊力のある突進。地上において、まるで最強哺乳類の集合体のようで、それまでのロボットより、動きもバワーも格段に優れていた。
ハデスの振り下ろす剣は、威力こそ無いものの、ハンマーのように重たい。そのパワーから衝撃波が出ていた。
大きい割には動きが俊敏、しかも、ビームサーベルが長いため、ハデスの懐に入って行けない。超人となったケンジでさえ歯が立たない強敵、ハデス。
攻撃を仕掛けることすら出来ず、防戦一方のケンジ。
アレスはサーベルを持つ右腕を無くし、右足を無くしてバランスを失い、青い機体は勢い良く仰向けの状態で地面に倒れ込んだ。
ハデスが視界から消え、ケンジは焦った。
「敵はどこだ!」
「目の前! 襲って来るよ!」
サヤカが答える。
ケンジは、反射的にアレスの上体を起こして、左手を開いた状態で突き出した。
その構えからサヤカは、アニメで見たことのある、一瞬で敵を倒す必殺技の光線が掌から出るのかと期待したが、
「手も足も出ないとは、このことだな」
お手上げ状態だとケンジは素直に言った。
「なに、呑気なこと言っているのよ!」
戦意喪失のケンジをサヤカが怒鳴り付ける。
「勝負は一瞬、焦っても仕方がないよ」
万策尽き、万事休す。
でもケンジはそれを、ピンチを楽しんでいるように見え、サヤカには死への恐怖は無かった。
振り上げたサーベルを上段に構えたハデスが、アレスの謎めいた構えに警戒しながらも、ジリジリと詰め寄る。
いよいよ絶体絶命。
ハデスがとどめを刺そうとした、まさにその時――。
ケンジは禁断の航空魚雷を発射した。
目の前に閃光が走ったかと思うと、漂うガス雲を掻き乱しながら爆風が一帯を襲う。
何もかも燃え尽した跡に、焼け焦げ無惨な姿のアレスがあった。
「……どうやら、助かったみたいだな。サヤカ、大丈夫か?」
「一体、あの後何が起こったの? あんたが急に振り向き抱き締めたと思ったら、一瞬、真っ白な世界に変ったけど……てっきり死んだのかと思ったじゃない」
「その答えは、このメガネだよ。とっさにメガネを外し、サヤカとアレスも一緒に、一時的に地球に戻ったのさ。でも、この巨体はさすがに無理、一瞬では戻りきれなかったようだな」
「それならそうと、最初に言ってよね。あんたと心中するのかと思ったわ」
「俺だって、気付かなかったよ。ゲームではよくあるんだ。追い込まれた時だけに発揮される、一瞬の閃きってやつ」
「それも、あの一瞬で見抜いたの? あんたって凄いじゃない! 無敗のゲーマーと呼ばれるだけのことはあるわね」
ケンジが切り札として放った航空魚雷は、ハデスに致命傷を与えた。
母艦を撃沈させる威力のある航空魚雷。至近距離からの強力な火力は無論、巻き添えをくらう自殺行為である。それに加え、ガス雲の相乗効果も相まって凄まじい大爆発が起きた。
だが一瞬、地球に戻ったアレスは時間差によって衝撃を緩和させ、その身を守る頑丈な装甲がケンジ達を守ってくれた。ケンジはハデスに闘いで負け、勝負に勝ったのである。
二人の安否を気遣ったアカリが駆け付けて来た。
「ご免な、アカリ。勝つには勝ったけど、アレスがメチャクチャに壊れてしまって……」
「大丈夫。これだけ破損してしまったら自己修復は出来ないだろうけど、頭脳に損傷はないみたいだから、死んでいない。ちゃんと生きているわよ。その証拠に、破損している所が再生しようとしているでしょう。修理すれば元通りになるわ。多少、時間が掛かるけどね」
『元通りになる』と言ったアカリの言葉に、安心したケンジが視線を神殿に向けた。
「この先に、全てを破壊し尽くした敵の、真の姿があるんだな」
「うん」
サヤカが大きく頷く。
護身用の銃を持った三人は、ゆっくりと神殿の中に入って行った。




