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 エニフ星の母艦に乗船してケンジが帰って来た。

 アリオト星の住人達は英雄を総出で迎え、ケンジを非難していた幹部達との間に絆が生れた。


「英雄のお帰りだ。あいつに、また救われたな。益々気に入った」

 リックの言葉に、アカリの頬が赤くなった。

 それを見て、

「おや、強力なライバルの出現だな」

 とリックがからかい、サヤカを興味の眼差しで見た。


 アカリはケンジの無事にホッとしていたが、隣にサヤカがいるのに驚いた。しかも、しっかりと手が握られている。

「今回の活躍は俺じゃなく、彼女のお陰なんです。サヤカがいてくれたからこそ、目的が達成されたんです」

「あたしは、あたしは早くケンジに帰ってもらいたいから必死で……早くケンジを返して下さい。お願いします」 

「今は無理だ、もう少し待ってくれないか」

 リーダー・ウィリスは困惑した。

「無理言うなよ。俺は困っている人を見捨てたり出来ない、みんなの期待に応えたいんだ。俺の活躍出来る場所は、このオム二バースの世界なんだから。あの、メガネありますか? これと同じやつ。でないとこいつ、いつ消えちゃうか分からないもんで」

「それで、しっかり手を繋いでいたのか。珍しい現象だな。こっちに来る瞬間、抱き付いたりしたんだろう。だから、一緒に来れたんだな。もしかして、二人は付き合っているのかい?」

 興味ありげにリックが尋ねた。

「そんな、たまたまです。こいつとは単に幼なじみなだけです」

 ケンジが言うと、即座に、

「そうです! でなきゃ、なんでこいつと手を握らなきゃならないんです」

 とサヤカがわざと嫌そうに言って手を離す。

「貴重な戦力を失う訳にはいかないからな。少々、扱い難いのが玉にキズだが」

 笑みを浮かべながらリックが呟いた。


 こうしてケンジとお揃いのメガネを掛け、二人は縛られることなく自由になった。

「何これ? ピッタリフィットするメガネね。さすがは進んだ文明の機器、脳波に反応しているのか、見たいと思った遠い所も一瞬でズームしてハッキリと見える。何より、掛けているなんて気付かないほど軽くて、まるで体の一部みたい。地球で言う立体のホログラムで出来た、そんな重さの無いメガネね」

 優等生のサヤカはメガネがよく似合う。

 ケンジがつい見とれてしまった。

 ケンジとサヤカのただならぬ関係に、アカリは複雑な思いで二人を迎え入れた。

  


 バラバラになっていた銀河連合が、救世主・ケンジの活躍によって一つにまとまろうとしていた。

 銀河連合が一丸となってデッドに立ち向かう時がきたのである。


 大宇宙全図を見入っていたサヤカ。それは地球儀ならぬ、巨大な宇宙儀。

 全ての銀河が三次元映像のプラネタリウムのように、こと細かく記されている。

「敵を攻めるにしても、肝心のアジトが長年分からないでいるんだ。何故か全宇宙の隅々から我々の行動を、まるで監視しているとしか思えない……」

 リックが、デッドを倒せない理由として、敵の本拠地が分からないことを挙げた。

「……あれ、あれじゃないかしら。邪悪な気を感じるよ」

 とサヤカが地図の中心を指差した。


 そこは太古の銀河で、消滅しかけの彗星銀河。誰も住んでいないだろうと考えられている場所だった。

「銀河連合の中心部? そんな所、いるはずがないじゃないか」「お譲ちゃん、これは遊びじゃないんだよ」

 とサヤカの言葉に誰もが無反応、まともに受け止めようとしない。

「すいません、勝手なこと言って。こいつ、この世界に来て勘が鋭くなっているんです。でも、違いますよね」

 ケンジがサヤカに代わって謝った。


「彗星銀河・エイベルは、かなり太古の世界。生命の痕跡すら残っていない場所だがな。かつて、最も怪しいサルガス星に偵察部隊を派遣したが、分厚い雲に覆われた星には、なんの反応も無かったはずだが……」

 エニフ星の幹部の言葉に耳を傾けていたリックが、

「……まてよ、そうか、そういうことだったのか! 灯台下暗しとはよく言ったものだ。敵は案外、近くにいたんだな。サルガス星を覆い隠す分厚い雲が、その痕跡を掻き消していたのか。太古の軍隊は、そこから指令を発して……敵のアジトは、長年その場所が分からなかった。どこから来て、どこに帰っているのか。だから我々はやられっぱなしだったんだ」

 そう力強く言った。

 これまでの謎が解けた。

 敵は意外と近くにいたのだった。


 敵の本拠地が判明したことで、銀河連合が秘密裏に作戦会議を行う。

 作戦会議は、連合軍総司令部で行われ、最高司令官の下、各銀河の首脳が集まりサルガス星上陸作戦の計画が立てられた。

 作戦内容は、全銀河が一斉に蜂起することによって敵主力を引き付け、手薄になった本拠地サルガス星を急襲するものである。



 作戦会議から帰って来たリーダー・ウィリスが、全隊員に向かって言った。

「準備もろもろあって、決戦は協定世界時である標準日時の、明後日と決まった。銀河連合が一丸となってデッドに戦いを挑む。初めて我らが有利になった、やっとここまでたどり着いたんだ。明後日、全ては決まる。そこでだ、明日は思いっ切り遊んでこい!」

 ウィリスが隊員達の日頃の労をねぎらった。 


「鉄のオキテとか言う恐ろしそうな集団って聞いていたんだけど、良いところもあるじゃない。せっかくの休みなんだから、そうね、地球に戻って思いっ切り遊びましょう。このメガネを外すと、一瞬で戻れるんでしょう」

 勝手に物事を決めるサヤカに、ケンジはいつも振り回されてきた。

「私は……私は、北山君が行く所なら、どこへでも」

 頬を赤らませたアカリが、ケンジの方を見詰めながら言った。


 ふ~ん、そうなんだ、とサヤカは思った。

 サヤカは、アカリと再会した時にピンときた。女の勘というやつで、彼女もケンジのことが好きであるということを。

「あんなスリルを味わった後で、どんなアトラクションを乗ってもハラハラなんかしないよな」

 ケンジが言うと、

「見渡したところ、ここには海が無いみたいね。じゃ、海遊館に行かない。『遊ちゃん』が見たいし、そうしましょう」

 サヤカが決断した。

「ゆ、ゆうちゃん?」

「巨大なジンベイザメの遊ちゃんよ。きっとアカリさんも驚くわよ」

「はあ~……」

 機転の利いたサヤカの提案には何か説得力があり、呆気に取られたケンジが溜息を付いた。



 地球に戻ったケンジとサヤカ、それにアカリは、大阪湾を望む天保山ハーバービレッジに遣って来た。

 最初に三人は、世界最大級を誇る大観覧車に乗った。


 ラッキーなことに、四基しかない、側面底面が透明なシースルーキャビンに乗ることが出来、サヤカが喜んだ。

「これ、一度乗ってみたかったのよね。一人じゃ、来れないでしょう」

 とサヤカが言うと、ケンジが不思議そうに聞いた。

「俺と違って、人気者のお前は友達が多いだろ。俺はゲームが友達みたいなもんだからな」

「あのね、こういうムードの出る場所は、女友達と来ても盛り上がらないのよ」

「そういうものなのかぁ~。乗れば一緒、見える景色は同じなんだから」

 と二人の会話は噛み合わない。

 三人の乗ったゴンドラは、百十二メートルの頂上を目指してゆっくりと昇って行く。


 アカリが眼鏡越しに、海を照り付ける太陽の反射に目を細めながら言った。

「私は海を見るのが初めてなの。ずうっと大気の無い表面がむき出しになった惑星で暮らしていたから……住む星を追われ、魔の手から逃げるように秘密基地へと転戦を繰り返してきたから……。私達には安住の地はどこにも無かったの」

 笑いの無いアカリが気になっていたサヤカは、彼女の背負ってきた重荷を少しでも和らげてあげたいと思った。


 待ち望んでいた海遊館の入館ゲート前に来て、

「痛い、お腹が痛い」

 突然、サヤカがお腹を押さえてうずくまり、

「あたしは無理、動けないから二人で行ってきて」

 とケンジを見上げながら言った。

「お前が行きたいって言い出したんだぞ、全く……仕方ないな、二人で行くか」

 不満そうにケンジが言うと、アカリと二人で海遊館の中へと消えて行った。


 ムードのあるトンネル型水槽アクアゲートで仲良く密着する二人を想像し、サヤカが羨(うらや)ましそうに海遊館を見詰める。 

「気の優しい。そんなんじゃ、アカリに彼氏持っていかれるぞ。諦めるのかい?」

 サヤカが振り返ると、そこにリックがいた。

 ラフな格好だが、それが良く似合っている。サングラス風の異次元メガネを掛けたリックは俳優かと見間違うほど、ついサヤカが見とれてしまった。

 ハッとしたサヤカが、何故? 驚いた顔で見詰めると、

「別世界に一度来てみたかったんだ。なかなか良い所だな、地球って所は。視察だよ、視察。復興のモデルにしようと思ってな。これが、戦いを繰り返し、幾度となく復興を遂げてきた世界なんだな。実に参考になるよ」

 ふと我に返ったサヤカが、リックが彼氏と言ったことの誤解を解こうと思わず言い返した。

「あたし達、そんなんじゃ~」

 こっちの世界じゃ、思っていることが見透かされてしまうんだった。そう思ったサヤカが、慌てて両手で顔を隠す。

「ハハッ、心をのぞかなくても見え見えだよ」

「あたしは、ケンジのことなんかなんとも思っていません」

「なら、俺と付き合うか?」

 リックが言うと、

「あたし、年上の男性には興味ありませんから!」

 サヤカがキッパリと断った。

「おぉ、気の強いお嬢ちゃんだこと。でも、それが君の良いところだな。この通り、あの二人を引っ張って、良き方に導いてやってくれ」

 そう言ってリックが頭を下げた。

 

 鉄のオキテと恐れられる隊長の、優しい一面に面を食らったサヤカ。

「隊員を縛り付ける厳しい決まりは、彼らの命を守るためでもある。彼らには生きて欲しい。そう願うからこそ厳しい決まりになるんだ。特に、アカリには立ち直ってもらいたい。あいつが女ながら戦っているのは、親の仇でもあるのだろうが、忌わしい記憶を振り払うため、ジッとしていられないんだろう。それが痛々しいんだ……。だが、その心配は無さそうだな。あの二人、なかなかお似合いだったぞ」

 リックがあえて意地悪く言うと、

「あたし、諦めた訳じゃありませんから」

 思わずサヤカの本音が出た。

「そうだ、その意気。人生、諦めなければ願いは叶う、そうだろう。俺達も、何年も諦めずに戦い続けてきたからこそ、ようやく光が差して来たんだからな」

「ずっと想ってきたのに、諦めたりはしません。ただ、アカリさんに、一度でもいいから笑って欲しかったんです。友達として支えてやりたかったんです」

「そうだな、こんなことは上官の立場じゃなんともならん。友達がそばにいて支えてやらなきゃな。おっと、帰って来たぞ。上官は怖がられる存在でなくちゃならないから、俺が来たことは秘密にしておいてくれよ」

 そう言ってリックは姿を消した。


 ソフトクリームを食べながら歩いていたケンジが、サヤカを見付けると、

「オ~イ! サヤカ~、下痢(げり)治ったのか、下痢~ぃ!」

 人目をはばからずに大声で言った。

「ちょっとぉー、声が大きいわよ!」

 慌ててサヤカが言う。

「もう、治ったのか? 心配したんぞ」

 とケンジが気遣い、アカリと一緒に近寄って来た。


「それにしても、随分早かったわね。もっとゆっくりしてくればいいのに」

 青色をした名物のジンベエソフトを見詰めながらサヤカが言うと、

「アカリがお前を気遣って、友達を一人にして楽しむ気にはなれないんだと。でも、お目当ての遊ちゃんはしっかり見てきたけどな。気の毒だから、お前の分も買ってこようと思ったんだが、お前、下痢だろ、ソフト食べて下痢を悪化させちゃ」

「もう、『下痢、下痢』って何度も言わないでよ! そんなんじゃないんだから。全く、デリカシーが無いんだから、あんたは」

 二人のやり取りに、そばにいたアカリが思わずクスッと笑った。


 そんな自然に出たアカリの姿をケンジとサヤカが不思議そうに見詰めると、二人の視線に気付いたアカリが、

「あっ、ご免、つい」

 と即座に謝ったが、

「いや、そうじゃなくって、今、笑ったよね」

 サヤカが笑みを浮かべながら言った。

 アカリがハッとして、

「私も、みんなと同じように笑えるんだ……何年ぶりだろう、こうして笑ったのは……。二人のお陰、ありがとう」

 そう言いながら深々と頭を下げた。

 

 甘い物に目のないサヤカが、ケンジの食べ掛けのジンベエソフトを奪って、

「今度、また来ようね、三人で。だって、あたしだけ見てないんだもん」

 と言うと、ケンジもつられて言った。

「そうだな、また来よう。そのためには明日の決戦に生きて、生き抜かなきゃならないんだ。さあ行こう! 決戦のファイナルステージへ」

 三人はお互いの手を握り絞め、生き抜くと誓い合った。


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