セカンドステージ
やがて、目指していた惑星、エニフが見えてきた。
ケンジは遭難を逃れ、奇跡的にエニフ星にたどり着いたのだった。
宇宙空間に建設された銀河ステーションのプラットホームには、何隻もの大型航空母艦や戦闘艦が停泊している。アリオト軍が喉から手が出るほどの貴重な艦艇がズラリと並んでいた。
航空母艦は銀河間を航行出来る唯一の船。その母艦を宇宙空間に晒しているのは、デッド軍との交戦意思がないことを知らしめる行為だった。
デッド軍への降伏はすでに決まっていて、この全の艦艇がデッド軍の戦力として加わるのである。言い換えれば、エニフとの交渉次第では、アリオトは救われるかも知れない。
ケンジは覚悟を決めてエニフ星に乗り込んだ。
銀河航空法の規定に従って、敵でないことを知らせるために船体を振った。
すると、警戒を解いたエニフ星はシールドを解いた。
姿勢制御された輸送船にエニフ星から放たれた光が当たると、導かれるように船は進む。
エニフの誘導電波に身をゆだねた輸送船は、ゆっくりと惑星内へと入って行った。
そこは想像を絶する世界だった。
重力が完全にコントロールされ、彼方へと続くメガフロート(巨大人工浮島)には空中都市が見える。
また、視線を下に向けると、大地を覆い尽くす巨大な高層ビル群に、縦横無尽に走る高速道路。人類が到達した究極の都市がそこにあった。
未来都市を思わせる夢のような光景にケンジとサヤカは目を奪われる。
その光景は、それまで疑心暗鬼でいたサヤカを納得させるに十分だった。
「あの光、なんにも無い場所に降りろって誘導しているみたいだけど、滑走路なんて見当たらないよ」
サヤカが不思議そうに言った。
「言ったろ、小型の飛行機はロボットになるって。飛行機の車輪と同じで、地上ではロボットに変形するんだ。直立だと、スペースが広く取れるだろう。何もかも効率的なんだよ」
誘導された広場に、ロボットに変形した輸送船が着陸して、ケンジとサヤカは地上に降り立った。
「凄いわね、巨大なロボットなのに、ちゃんと人間をエスコートしてくれるんだ」
「車でもあるだろう、勝手に駐車してくれる、自動駐車システムってのが」
「……ま、まあ、ずいぶんと機能のレベルが違い過ぎるけど、同じようなものなのね」
地球上の科学技術とは余りにもかけ離れていて、サヤカには頭の整理が出ず付いていけない。
そんな戸惑うばかりのサヤカが周りを見渡し、地球ではない別の星であることだけはハッキリした。
「地球より千年は進んでいるみたいね、この世界は。あんたにとって、理想の世界、憧れのヒーローになれるんじゃないの」
「そんな簡単にはいかないよ。これからが本番なんだから……」
重要な任務を自ら志願したものの、果して自分にその大役が務まるのだろうかと、今頃になって気付き、もの凄い不安に襲われるケンジ。
もちろん、何一つとして解決化策がある訳ではなかった。このステージでは、戦いとは無縁の交渉術が必要なのだ。
デッド軍の襲来だと怯えていた多くの住人が、ケンジ達が敵でないと気付いて近付いて来た。
その群集をかき分けながら、いかつい軍人に護衛されたメイオール銀河・エニフ星の元首が出迎えた。
「こりゃ驚いた、小型機で銀河間を走行して来たのか。誘導電波からの情報だと、我がラニアケア配下、一六卿の一つであるアリオト星の住人、いや、そのメガネはもしかして、異次元の住人か? 遥々、小宇宙から来たんだね。それにしても、変わった宇宙服だな」
この星には無い珍しい学生服、特に、サヤカの着ているセーラー服姿を物珍しそうに見詰めながら言った。
「はい、俺達はその世界にある、地球と言う星から来ました。あの~、これと同じメガネはありますか? メガネの無い彼女がいつ消えるかハラハラしているんです」
「残念ながら、我が銀河には無い。そもそも小宇宙には得るものが無いから。おっと、これは失礼、手付かずの自然があるね。ただ原理は分かるよ。消えないように、しっかり手を繋いでおくんだね」
と元首が冗談で言ったのだが、二人は真に受け、慌てて強く手を握り締めた。
「さて、本題だ。ここに来た理由を聞かせてもらおうか、単なる観光じゃないだろう。だが、君の言わんとしていることは分かっているがね……。せっかく、遥々小宇宙から来てくれたが、もう決まったことだ。見ての通り、銀河ステーションに停泊している空母は、戦う意思が無いことをデッドに示している。我々首脳部は、この星の住人を守るため、一人の犠牲者を出さない選択をしたのだ。諦めるんだね。君は大人しく、地球とやらに帰るといい。そのメガネを外すと、戻れるんだろう」
――チキショー! 苦労してここまでたどり着いたんだ、今更引き返す訳にはいかない。そう強く思って、ケンジは唇を噛み締めた。
多くの命が、何より俺を信じてくれたアカリの命が無いんだから……でもこの状況、何かに似ているな。なんだっけ……そうだ! シミュレーションゲーム。三国志の赤壁の戦いの場面と同じじゃないか。あの時、孔明はなんて言って呉国を見方に引き入れたんだっけ……。
「俺は帰りませんよ。逃げたりはしない。俺だけじゃない、アリオト星の住人は誰も逃げたりはしません。だって、死を恐れてはいませんから」
そうケンジがワザとらしく言って一同を見渡し、更に、
「アリオト星では女性でも戦っていたけど、この星には、真の男はいないようですね。悪いことは言いません。戦うのが怖く、逃げている貴方方に俺は降伏を勧めます。素直に降伏して、奴隷として生き残って下さい」
と誇らしげに言い放った。
「なんだと! 貴様、この状況が分かっているのか!」
エニフ人のプライドを傷付けられ,二人を好意的に見ていた彼らの目付きが変った。
血の気の多い軍部の将校達が、すぐさまケンジを取り囲む。
「……ちょっと、なんてこと言うのよ。殺されちゃうじゃない……」
恐怖のあまり、サヤカが引きつった顔をしながら言った。
暴言を吐いたケンジも、血の気が引いた。殺される、と。
「そうだ! 彼の言う通りだ。遥々、小宇宙から遣って来て戦うというのに、肝心の俺達が降伏するなんて、あんた達は恥かしくないのか!」
一人の青年が弱腰の指導部を避難した。
「そうだ、そうだ! 我々も戦うべきだ」「今こそエニフ星の、メイオールの力を見せる時だ!」
口々に言ってケンジの味方になってくれた。
彼らの視線は、奇跡を起こしたケンジに向けられ、まるで救世主を見るような熱い視線が注がれる。
それはまるで、スポーツ観戦の場で行われるウェーブのように広がっていった。
群衆の勢いに押され、後退りした元首が重い口を開いた。
「一緒に、戦おう」と。
その言葉によって、エニフ星を、否、メイオール銀河を飲み込んでいく。
ケンジの勇気ある発言が、エニフ星の住人に火を付け参戦を決意させた。
メイオール銀河の全ての勢力が一丸となってデッド打倒に動いたのである。
興奮冷め止まぬ中、ケンジ達はある部屋に案内された。
そこは、何かしらの軍事施設だった。
「君は、接近戦の経験はあるのかね?」
そう元首に聞かれ、
「ないです」
とケンジが言って首を振った。
「ないのなら、あれを持って行きたまえ」
元首が指差した方には長い棒状の物があった。
「母艦の分厚い装甲を切り裂くために開発した剣、もう使うことは無いだろうと思っていたが、勇者の君にこそ、持つのがふさわしい。この先の戦いで、きっと役に立つよ」
「……あれが剣? まるで麺棒じゃない。あんな物で敵を倒せるのかしら」
ゲームに関心が無いサヤカには、様々な場面で使われる武器の類は知らない。
「麺棒って、お前なぁ、うどんを作るんじゃないんだぞ。あれはビームサーベル、ビーム状の刀身が現れて剣の役目をするんだ」
まさに、敵を倒して入手するゲームのアイテムのように、ケンジは強力な武器を手に入れたのだった。
輸送船のフライトレコーダー(飛行記録装置)に記された飛行データーを分析し、宇宙全図と照らし合わせて急いで航路図を作成した。
ケンジが、命懸けでメシエ銀河から遣って来た道程が物差しとなって、新たな航空路が完成したのである。
航路図を用いた原始的な航行ではあるが、銀河間の横断が可能になった。
メシエ銀河とメイオール銀河間の『奇跡の道』が戦況を大きく変える。
デッドは強力な軍隊を用いるも、広大な宇宙を支配するには至っていない。デッド軍が支配するのは点と線のみである。戦線を拡大したデッド軍にとって、最も恐れていたことが起ころうとしていた。
銀河ステーションに停泊している多くの航空母艦。
ケンジはメイオール銀河の主力艦隊を伴ってアリオト星へと戻る。
「間に合ってくれ、どうか、持ちこたえていてくれよ」
祈る思いでケンジはアリオト星を目指した。
一方、総力戦でデッド軍の侵攻を阻止していたアリオト軍は、リック隊も果敢に攻め、なんとか持ちこたえていたが、限界に達していた。
「全軍、撤退!」
リーダー・ウィリスの合図が全軍に伝わり、アリオト軍は首都星に立て籠もった。
星間電磁シールドによる広範囲のバリアによってデッド軍の侵攻を防いでいたが、星に蓄えられてある全エネルギーをシールド装置に注いでいるため、僅かな時間しか持たない。
そのエネルギーが尽きること、それは即ち、アリオトの命運が尽きるということである。
追い詰められ、絶体絶命のアリオト星。
だが何故か、潮が引くみたいにデッド軍が引いた。
デッド軍の包囲網が解かれたのである。
危機は去った。
一体何が起こったのか、誰にも分からなかった。




