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オムニバースの英雄 ~ゲーマーがゲームの腕で異世界を救う物語~  作者: 西一
最終章 セカンド ワールドウォー
43/44

革命

 オシリス星の自動防空警戒管制から、敵機襲来を告げる警報のサイレンが鳴り響く。

 首都星オシリスには、強力な軍隊は無く、僅かな守備隊と治安部隊のみである。

 そこへ、オメガが来襲――。

 ユウトの乗るブルーの『ヤマト』を先頭に、『リバティ』のグリーン、『ツァーリ』のレッド、『ハンガン』のホワイト、『フジ』のシルバー、『アスカ』のカーマイン、『ラファール』のパープル、『レオン』のホワイト、『アドラー』のブラウン、『ファンフー』のイエロー、最後尾には、リーダーであるエマの乗るゴールドの『アリスト』と、それらを見守るように、リアムの操縦する軽空母オリオン号が続いた。

 上空には、編隊を組で飛行する色鮮やかな機体が宙を舞う。 

 オシリス星を守る守備隊は、オメガの脅威に臆して反撃すら出来ない。

 十一機のアームキャリーが難なく首都に降り立ち、オシリス星の人々は敗北を悟った。

 そして、戦争が終わったのだと確信したのだった。


 宗教的な建物が並び建つ、それまでの未来的な惑星都市とはまるで違っていた。

 何より、オシリス軍の将校や軍属の工員達の士気が無い。誰かの指示を待っているのか? 意識があるのか死んでいるのかすら分からないロボットのようだった。

「なんなんだ、彼らは……なんて無気力な目をしているんだ、本当に生きているのか?」

 彼らの死んだような目を見て、ノアの背筋に冷たいものが走りゾッとした。

 新人類が創造した究極の人口知能とされるアテン神に支配された住人は、AIの末路を物語っているようだった。

 一方で、兵士達の士気の無さに、よく戦えたもんだ、とノアは感心する。科学技術に頼り過ぎ、人間が置いてけぼりになってしまったようだと。

 兵器が優れていて、それを操るアテンには未来が見えていた筈。総合力で合同軍は優位に立っていた。だが、例え戦争に勝利したとしても、肝心の人間が腑抜けでは、未来が無いではないか……。

 

 上空で浮遊しているリアムの操縦するオリオン号が、副砲を向け守備隊を威圧したまま待機しているお陰で、自由に行動出来たオメガのメンバーが、怪しい気配に誘われてオシリス星のシンボル的建物である司令塔に向かった。

 高台に築かれた黄金に輝く司令塔は、上方に向かって徐々に狭まった四角錐の建物で、まるでピラミッドの形状と同じだった。それは、アテン神の権威を示す象徴として建てられたものだった。

「オシリス人ってぇのは、よっぽど金ピカ物が好きなんだな」

 呆れたようにノアが言うと、レオンが言った。

「黄金の輝きは、高価で尊い物に見える。それは地球人だけじゃなく、全ての人間に備わった本能なんだろう、民衆を従わせるのには好都合の輝きだ。それに加えて、ピラミッドの形状は、宇宙エネルギーを受けて、生命力を活性化させる効果があるらしいからな」

「あのピラミッドを構成するブロックの一つ一つが、スーパーコンピューターのシステムラックのような役割をしているんだろう。究極の人工頭脳、原理は一緒なのかも知れないな」

 技術者でもあるレオンが言った。

「あの中にアテンが、未来を見通せるという神がいるんだな」

 ノアが鋭い眼差しを司令塔に向けた。


 オメガのメンバーが、司令塔の建物の中に入って上階へと続く階段を登って行くと、最高幹部である神官達がいて、

「これより先は、行かせぬ」

 オメガを制止する。が、

「どけ!」

 と睨(にら)みを利かせたイバンが脅しを掛ける。

 すると、殺気立ったイバンに尻込みした神官達は抵抗することなく道を開けた。


 オメガのメンバーは中枢部らしき部屋の中に足を踏み入れた。

 あれは――。

 部屋の中は、水族館を思わせる巨大な水槽があった。

 巨大な水槽の中、大きな魚が近付いて来た。謎のベールに包まれていたアテン神が姿を現す。

「あれ、人魚じゃ……」

 近付いた人魚を見てメンバーの誰もが驚いた。

「――エマ? か!」

 真っ先に、エマを良く知る幼馴染のノアが声を上げる。

 エマとそっくり、これが、最高幹部の神官達が神と崇めるアテン神の正体だった。


「見ないで! 見ちゃあ駄目よ、絶対に!」

 上半身裸の人魚、エマとそっくりなだけに、自分の裸を見られているようで恥ずかしくなったエマが、慌ててメンバーの前に出て両手を振りながらアテン神を隠した。

「ユウトも、絶対に見ちゃ駄目だよ」

 サクラも釘を差す。

 ……あの時、ロボットが触手を緩めたのは、私をアテン神と勘違いしたんだわ。だから、私の言葉に従ったんだ……。


「長い髪が邪魔して、見てないぞ」

 ノアにつられて、

「俺も」「俺だって」

 レオンが、ナタンがそれぞれ言って、

「普通、誰だって見るよな」 

 とイバンが悪びれもせず堂々と言った。

 こういう場面、何故か男同士盛り上がる。


『何故! 何故、あなた達オメガがいるの? ブラックホールに吸い込まれ、消える運命だったのに……』

 驚きを隠せない。

 エマに似たアテンが信じられない様子で言った。

「デッドが助けてくれたの。人間相手なら手玉に取ることも出来たんでしょうけれど、デッドが相手だと分が悪いようね、予測出来なかったんじゃないの」

 エマが嫌味っぽく言うと、背中を向けたままのノアが引き継いで言った。

「さすがのあんたでも、太古の神を超えられなかったんだよ。人知を超えただけの人工知能AIとは違うんだ」

『デッド……いまいまし奴』

 そうアテンが苦々しく言うと、その顔が豹変する。

『その体は私のものよ! 私は、この部屋から出て自由になりたいの! お願い、あなたの体を譲って欲しい』

「駄目だ、エマ! 奴の話を聞くな。そうやって洗脳するのが手なんだろう」

 振り返りながら言ったノアに、

「こっち見ないでって言ってるじゃない! あっち向いててよ、もう!」

 エマがキツく当たる。

「ちょっとぐらい見たっていいだろ、お前の体じゃないんだし、ケチケチ言うなよ」

「駄目! 見れば見るほど私と同じ、胸の大きさなんか、そっくりだもん」

「エマとおんなじ胸かぁ……どんなんだ? 見るなと言われれば、なおさら見たくなるよなぁ」

 また振り返えろうとするノアに、

「駄目って言ってるでしょう!」

「なら、リアムならいいのかよ」

「もちろん。だって、私の彼氏だもん」

「あれって、幹部達に見られていたんだよな。でも、大事なところが魚で良かったじゃないか」

 薄ら笑いするノアに、

「もう! ノアの馬鹿!」

 エマが油断して水槽にもたれ掛けた瞬間、アテンの手が透明な壁をスリ抜けて伸びる。

「きゃぁー!」

 エマの叫びにメンバーが一斉に振り返ると、エマが水槽の中に引きずり込まれようとしていた。

「どうなってんだ! ガラスの壁をスリ抜けている」

「今はそんなことどうでもいいだろ! エマさんが」

 ノアが慌ててエマの体を引き寄せるが、アテンは凄い怪力で引き込もうとする。

『バン、バン、バン』

 銃声音が聞こえた――。

 イバンが護身用の銃で発砲した音だった。


 水槽の向こうでアテンがゆらゆらと浮かんでいる。すでに息絶えていた。

「……さすがはスペツナズのイバンだ、ためらいが無い。俺だと、エマは撃てないからな」

「俺にだって、ためらいはある。ああしなければ、エマさんはアテンに乗っ取られていたからな。恐らく強化ガラス、こちら側に抜け出した一瞬の隙を突かなければ、アテンは倒せなかっただろう。ためらっている暇は無かったんだよ。見ろよ、あれ、アテンも、紛れもない人間だ」

 ふわふわと漂うアテン。

 その血の色は赤、人間と同じ色だった。


「狭い水槽内に閉じ込められていたからな、人間になって、自分の足で一度、外に出てみたかったんだろう……最後は、人間らしく死ねたんだ、イバンに感謝しているんじゃないのか」

 容姿は違えども、アテンはエマと同じ双子のような存在、ただ、未来が見える能力だけが備わっているに過ぎなかった。


 もう、終わったのよ。さぞ、辛かったんでしょうね。期待され、必要とされて……でも、全ては終わった。自由になれたのよ。そうエマが心の中でアテンに言った。

 悲しそうな表情のエマを察したノアが言った。

「エマとそっくりな容姿で、人間と同じ考える力を持った究極の人工知能AI。だが、実際に動く身体がなければ人間じゃない。どんなに科学技術が発達しても、生身の人間は、そう易々とは作れやしないんだ。何故なら、人間は生まれて来る生き物なんだからな。そもそも、デッドは人間が創ったんじゃない、大自然という本当の神が、途方もない年月を掛けて創造した、自然の一部なんだ。そんな大自然に、人間ごときが競い合おうなんて、ハナから無理があったんだよ」


 オシリス星の誇る優れた人工知能・AIは、政治・軍事・行政組織の隅々まで浸透し、社会の中心的な役割を果たす。

 人間を従属させかねない人工知能への戸惑いや不安はあったものの、AIは人間より遥かに頭が良く、また人間のような感情に流された判断は一切行わない。AIは圧政を敷くことなく、またその予測は100%正しいことからオシリスの人々はなんの不安も無く暮らしていた。

 デッドが存在するまでは……。

 混迷の世の中、人々を引っ張ってくれ、導いてくれる強い指導者を、オシリス人は求めた。万能な頭脳に、それまで無かった人間の感情、それもオム二バース世界の人々が尊敬と崇拝する英雄、それがエマだった。エマとの融合こそが、彼らオシリスの科学者が求めた、デッドを超える究極のAI、神の姿だったのだ。

 


 崇拝するアテン神の死に、発狂したオシリス星の代表、アテン神の言葉を伝える最高指導者、大神官・アイが、「神は偉大なりぃー!」と叫びながら、何かの装置を作動させた。

『ゴゴゴ――ゴゴォー』

 建物が大きく揺れ、壁にヒビが入ったかと思うと、天井が崩れ出した。

 追い詰められた大神官アイが、オメガを道連れに、司令塔を崩壊させたのだった。


 司令塔が崩れ出し、メンバーの頭上に瓦礫が落ちて来る。

 手で頭を覆って身を伏せるが、その頭上に容赦なく凶器となる破片が落ちて来た。

 外界の光が差し込んで来た。その時――。

 見上げると、建物の隙間から、崩れようとする司令塔を支え、メンバーの身を守ってくれる、見たこともない巨大なロボットの姿が見えた。


「皆さん、大丈夫ですか!」

 ロボットからリアムの声が。

「――リアムか! リアムなのか? そのロボットは一体?」

「何言っているんですか、人型になったオリオン号ですよ」

「はぁ?」

 唖然として言葉が出ない。

「皆さんに言ってなかったですか? 人型になるって。オリオン号のオリオンって言う名は、巨人を意味するそうですから」

「聞いてない、聞いてないぞ! そんな重要なこと、先に言えよ。巨大な空母がロボットに変形するなんて、誰も想像すら出来ないし、考えやしないだろ。大きいと思っていたアームキャリーより、はるかに大きいんだから。まあ、その巨大さのお陰で、俺達無事でいられたんだ。俺達の危機を救ってくれて、ありがとうよ、リアム。お前も、立派なヒーローだな」


 外に出てみると、百メートルを超える超巨大人型ロボットの雄姿が見えた。

 あれが軽空母の変形型とは思えない。でも、リアムの言った通り、背中には短くなった飛行甲板が亀の甲羅のように貼り付いている。紛れもないオリオン号だった。


 巨大さ故、出入りするのは足からで、そこからリアムが出て来た。

「人型と言っても補助的なもので、戦闘には不向きです」

「そりゃあ、そうだろう、あんな巨体が動きまわったんじゃ、惑星がもたないよな。きっと、亀のように遅いんだろう」

 見上げるほど高くそびえ立つオリオン号をノアが見詰めた。


 指導者と呼ばれる神官達が観念し、地べたに座り込んだ。

「我々の負けだ。殺すがよい」

 最高指導者・アイが言った。

「誰も殺したりはしない。その代り、償ってもらうわ。生きて、償ってもらうから」

 エマが言うと、

「我々を導いてくれる神を失ってしまったのだ。もう、生きてはいけぬ」

 力尽きるようにアイが言った。

「何が神だ! 神が人を殺めよと命じる筈ない。神とは人々を救うものだろうが。そこで間違ってるって、何故気付かないんだよ。民衆を先導する指導者が、呆れるぜ!」

 怒り交じりの声でノアが言い放つ。

「崇拝する神は死んだんだ。むしろ、縛り付けられたシガラミから抜け出し、自由になれて良かったじゃねえのか」

 今度は、イバンが言った。


「何故だ、何故我らを助けた。神の名において引き起こした戦争。神が死に、我らも死ぬ運命だったのに……」

 一人の神官の言葉に、

「神の名のもとに戦争だぁー? バカげてる。そんなことで、生かされた人生を無駄にしてんじゃねえよ。生きて、生き抜いてこそ、神様てぇのは喜んでくれるんじゃねえのかよ。この体は、自分一人のものじゃない。借りもんなんだ。キッチリ使い切って返すべきだろう、違うか? そもそも、神によって生かされた命、人間の持つ寿命まで生きてこそ神様も喜んでくれるってもんだろうが。頭の悪い俺でも分かるぜ。だから、こんな、貴重な命を奪い合う戦争は、一刻も早く終わらせるべきなんだ!」

「そう、本当にそう、ノアの言う通りよ。いつまで繰り返すのよ、こんな戦争を……。つまるところ、戦争って、子供のイジメじゃない。逃げ道の無い追い詰められた子供達を、大人達が寄ってたかってイジメているとしか思えないわ。何故、純粋無垢な子供達が、大人達の勝手な都合で起こした戦争によって、天寿を全う出来ずに、不運のうちに世を去らなければならないのよ」

「子供のイジメ? そうか、お前、保母さんになるのが夢だって言ってたよな。子供が好きなんだな、エマは。この大きな戦争を、子供のイジメに例えるとは、エマらしい……。確かに、そうだ。大人達のいがみ合いが、結果として子供を虐げているんだよな」

 戦争を子供のイジメと例えたエマの言葉を、無言のまま聞き入っているイバン。


「羞恥心に訴えるのよ、争うことって、恥ずかしいことなんだって」

「羞恥心に訴えるだぁ?」

 ノアには意味が分からない。

「中学生のあなたは、かなり悪かったよね」

 唐突にエマが言った。

「そうだな、中学の頃、突っ張っていた。今思えば恥ずかしいことしたなぁー」

「喧嘩したり」

「ウ!」

「人の物を平気で奪ったり盗んだり」

「ウ!」

「まあ、良いお手本になったじゃない、悪いことの見本としてね」

「それ、褒めているのか?」

「どう、今もあんなことしたいと思う?」

「まさかぁ、もう勘弁、恥ずかしいよ。もう大人になったんだし、もうしない。あの時はガキだったからな、許されてたんだろうけど、今となっては、みんなの目があるから、恥ずかしいよな」

「恥ずかしくて出来ないでしょう。それよ、その恥ずかしいと思うことが大事なの。それをみんなに気付かせてあげれば、どんなに素晴らしいことか。私はそれを伝えたい。良心ある大人こそ恥ずかしいんじゃないかって伝えたいのよ。良心ある国こそ、見苦しいんじゃないと思わなくちゃ」


「うーーん、なんとなく、なんとなく分かる気がする。人間てぇのは、唯一、恥ずかしいと思う生き物だからな」

「長い間、戦いに明け暮れていた私達地球人が言っても説得力は無いけれど、戦いを繰り返してきたからこそ分かるの。上からの押し付けや力による支配は長くは続かない。だから、違った形で争いを無くさなければいけないのよ」

「羞恥心に訴えるかぁ。そうだよな、電車の中でキレるオヤジ、見ていてカッコ悪いもんな。最も恥ずかしいことだ。それと同じことだとしたら、戦争をやっている本人も恥ずかしくって、シラケてしまうだろうな」

「そう簡単なことじゃないのは分かっている。格差や差別、様々な問題が複雑に絡み合っているから、簡単には抜け出せない。それは分かっている。それは分かっているけれど、一つずつクリアしていかないとね。羞恥心を刺激して、戦争は恥ずかしいことなんだと、誰もが思うようになれば戦争は無くなる。今直って訳にはいかないけれど、そういう考えが浸透した子供達の世代には、力で物事を解決しようとする愚かで恥ずかしい戦争は、選択肢の中から消えていて、過去の出来事として、きっと無くなっている筈よ。そう、私は信じたいわ」

「紛争でよく見る映像の中で、子供達の逃げ惑う姿をよく見るけど、どう見たって大人が子供をイジメているようにしか見えない。そんな弱い者イジメなんかして、誰に自慢が出来るというんだ? カッコ悪い、恥ずかしことなんだと早く気付けよ。だいの大人が、子供相手にマジになって喧嘩してもなぁ、カッコ悪いだけだとな」

「それよ、そのこと。うまく説明出来ないけれど、野蛮でカッコ悪いんだと思うことが大事。兵士一人一人がそう思い、止める勇気を持って欲しい。戦っている人達は、それぞれに正義があるだろうけれど、周りの人はいい迷惑よね」

「お前の説明はくどくない。簡単で誰にも分かり易い。要するに大人になりきれてないってことだろ。いつまでヤンチャしてるんだよ、って言いたいんだよな」

「弱い者が強い者に戦いを挑むことは愚かだし、強い者が弱い者に挑むのも大人げない、みっともない行為だわ。始まってしまった戦争は、もう誰にも止められない。親の敵、子の敵と、殺された恨みを晴らそうと全力で命のやり取りを行うのよ。復讐心や恨みは、何よりも怖いものだから。だから、どんな形であっても戦争を食い止めなければならないの。私達地球人は、嫌というほど経験してきたんじゃない。不名誉な話だろうけれど、それを、私達地球人が教えてあげなくちゃ、争い事の先輩として、ね」


「戦争はフェアーじゃない。ゲームとかスポーツとかは実力が伯仲しているから面白いんであって、今の戦争はほとんど弱い者イジメだよな」

「そうだよなぁ」

 とヒロトが言って、話を続けた。

「平和な日本で暮らしていると、争いをしている国々が、歴史の教科書に載っている過去の出来事のように見えるんだ。まだこんな争いが現実に起こっているんだなぁって違和感を覚えるんだよ。人を傷付ければ逮捕される。ましてや、人を殺めたら死刑にもなるんだから、争い合っている国は、法律も秩序も無い野蛮な国に見えるんだ」

「野蛮な国って、お前、カッコ良い顔して、さりげなく俺の国のことを言ってんだろ? お前んとこは、単なる平和ボケなんだよ。だが、お前の言う通り、くっだらねえ戦争は、時間の無駄遣いであり、究極の環境破壊、資源の無駄遣いなんだよな」


 それまで黙って聞いていたオシリス星の最高指導者・アイが、反論した。

「……我々は神に導いて欲しかった。人間は過ちを犯す生き物だと、先の大戦で嫌というほど思い知らされた。だから神にすがったのだ。そもそも、神とは何か? 生命を生み出す力? いや、人を良き方向へ導く力だと我々は考え、アテンを創ったのだ」

「未来が見えれば人間は苦労しないし、苦しみから解放されるんだろう。だからと言って、何も考えることもなく、言われるがままに行動するなんて、それで、本当に生きているって言えるのか? 動物園の動物じゃあるまいし、考え、行動するのが人間だろ。早く目を覚ませ! そもそも、人間の世の中なんだぞ、いちいちコンピューターに伺(うかが)いを掛け、それに従うなんておかしいだろ、もっと自由に生きればいいんだ。滅びるも栄えるも、人間が決めること、いちいち聞かなくても、自分で考えろ! 人間だろ、一人一人に考える力が備わっているんだ。そうやって前に進めば良いんだよ。その一歩は短いもんだが、その積み重ねが重要なんじゃないのか。いつ達成出来るか分からないが、そうやって前に進んで行けばいい。いつまでも待っていてくれる筈さ。この宇宙の時間の流れに比べれば、短いんだから」

 ノアが幹部達に向かって言った。 

「ノアの言う通りよ、そんな人工物の神なんかに支配されたくないわ! 目を覚ますのよ! AI・人口知能に支配されるより、人間として心豊かに生きることの方が、もの凄く大事だってことを。未来は、見えていないから良いこともある。そりゃあ、不安もあるだろうけれど、見えないからこそ人間は頑張れるのよ」

 エマが力を込め、力強く言った。

 エマの言葉は、人工知能の支配からオシリス人が打破した瞬間だった。

 科学技術の発展が、人類を幸せにしたのだと自負していたオシリスの人々。エマの言葉は、その考えを打ち砕き、自立心を芽生えさせたのだ。


「だったら、お前が私達を導いてはくれないか。家柄、血筋、どれを取っても申し分ない身分ではないか。我々を導いて欲しい。我々は間違っていた。科学力によって人々を幸せに導く筈が、いつの間にか戦争に応用し、永遠に戦争を無くせなくしていたとは……。戦争を終わらせる方法があるとしたら、それは、エマ・ライアン、貴女が、この世界の王となることだ。そして、世界に号令を掛ける。それ以外に、繰り返される戦争を終わらせることは出来ないだろう」

 大神官・アイが、アテンに頼らず自らの考えで述べた。

「そうだ! あんた、良いこと言うな」

 ノアが感心。

「私が、この世界の王に……」

 戸惑うエマが呟く。

「お前、言ったよな。この戦争を終わらせるなら、なんでもするって。今が、その時なんじゃないのか? その命を投げうって、誰もしたことの無い偉業を成し遂げてみろよ」

「……そう、ノアの言う通りかも知れない。この世界のために、私の命を捧げたい」

「その言葉、ワタシは聞きたかった。その言葉を待っていたんです」

 瞳を潤ませながらリアムが言って、

「ワタシも、エマさんのために、この命を捧げます」

 エマの瞳を見詰めながら誓った。

「おいおい、二人だけで、そう熱くなんなよ、オレ達もいるんだからな」

 熱くなった二人に、ノアが声を掛ける。

「そうだ、エマさんなら出来る。なんたって、俺達のリーダーなんだから」

 レオンが力強く言うと、

「さすがに神にはなれないけど、エマさんだったら、この世界の人々に、平和と幸せを与えることが出来るんじゃないのか」

「そうだよ、エマさんになら出来る」

 ウーゴが、ナタンがそれぞれ言ってエマの背中を押した。


 気が付くと、いつの間にか人だかり。

 オメガの襲来に怯え、警戒していた住民が、敵ではないことが分かりエマ達のもとに集まって来ていた。

「リアム? リアムなの、生きていたのね!」

 群衆の中、一人の女性がそう叫びながら駆けて来た。

「母さん!」

 リアムが応える。

 その女性はリアムの母親だった。死んでいると知らされていた息子が生きていたのだ。再会を果たした二人が抱き合って喜ぶ。

 ハッとした母親が振り向き、エマを見た。

「あなたは、もしや、エマ、さん?」

「はい、私は、エマ・ライアンです」

「そう、息子を守ってくれたのね」

「とんでもない、お母様、リアムに、私の方がリアム君に守られていたんですよ」

 優しくエマは微笑んだ。


『強力な指導者を!』『エマを世界の王に!』『永久平和を!』

 突然、群衆の中から声が上がった。

 彼らもエマに女王になれと、声援を送った。

 敵である民衆がエマを褒め称えている。

「皆が、ああ言っているぜ、王になれとな。そして、争いごとを、完全に終わらせるんだ」

 ノアも力強く言った。 

「私が王に? この私が、女王に……」

 興奮が冷め、落ち着きを取り戻して我に帰ったエマが再び呟く。

 

 アテンという支柱を失ったオシリス星に革命が起こった――。

 リアムが涙ながらに訴え、それに応える形で、エマが命懸けで貫いた不戦の行動が実を結んだ。

 知らず知らずの内に、誰からも信頼され期待される存在、全てを任せられる存在へとエマを成長させていたのだった。


 先の見えないトンネルを走っていたエマの目の前に、見失っていた一本の道が出現した。そんな気がした。

 息をするのも忘れるほどの緊張感を抱きながら、体の奥底から盛り上がってきた感情を無理に抑え込んだ。

 大宇宙・オム二バースに平和と秩序をもたらすと期待されているエマ。今、彼女は覚悟を決めた。


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