セカンド ワールドウォー
行く当ても無く、さ迷う第三勢力となったオメガ。
「もう、争いは、こりごりだ。我々の保有する植民惑星の資源を、戦争によってむしり取られて、益々、生活が苦しくなった。我らは貴女が発たれたことが嬉しい。今後は貴女に付き従います。この近くに、我がプレイアス銀河にあるのですが、自治領のマイア星を自由にお使い下さい。その星は、軍事拠点の軍港としの重要な場所、両陣営の、睨みを利かすのには良いかも」
オメガに付き従う合同軍傘下、アルキオネ星の司令官が言ってくれた。
「じゃあ、お邪魔するわね」
エマが感謝の気持ちを伝えると共に、彼らの行為に甘えた。
オメガは合同軍側の傘下であった、アルキオネ星のあるプレイアス銀河に迎え入れられた。
エマはそこで中立を宣言し、譲られた惑星・マイアに引き籠る。
度重なる争いに嫌気がさしていた諸銀河は、エマの考えに共鳴し戦線を離脱して、続々と集まって来た。
とっさのエマの行為によって、戦争は回避されたかにみえたが……。
惑星・マイアの軍港に降り立ったオメガのメンバーは、艦隊司令部の中にあるコントロールタワー(管制塔)に上った。
そこで彼らの見たものは、果てしなく続く荒涼とした景色だった。
「チェッ、期待した星とはずいぶん違うじゃねえか! 軍港って言ってたから、それなりの発展した星と思っていたのに、寂れた星、あの司令官もケチだなぁ」
中継基地に過ぎない寂れように、ノアが愚痴をこぼすも、
「何言っているのよ、惑星、いえ、太陽系を丸ごと貰ったのよ。地球じゃ、小さい土地の奪い合いで争っているんだから、感謝しなくちゃあ」
エマが言った。
「そうだよな、国どうしが密集しているヨーロッパじゃ、考えられない。ずいぶんと気前が良いじゃないか」
レオンも言った。
「こうしてみると、領土だけがやたら広い、なんにも無いロシアの湿原地帯みたいだな」
とノアがからかうように言うと、すかさずイバンが言い返す。
「手つかずの自然、地球にとって、貴重な大地なんだよ」
見渡す限りの湿地帯、荒涼とした大湿原を見渡しながらエマが言った。
「地平線が大きく見える。もしかして、地球より大きな惑星なんじゃ」
「そう、この星は地球よりも大きなサイズの星ですよ」
リアムが説明すると、
「スーパーアースですね」
ハオュが答える。
「ちょっと待て、地球より大きな星だったら、重力も大きいんじゃ、地球と変わんないぞ」
ノアが不思議そうに言うが、
「簡単な話だ、単に地球より質量が軽いってことだよ、それこそ、重力をコントロールしているんだろう、きっと」
イバンが言った。
「私はこの星を、私達のユートピアにしたいわ。私の住むニューヨークも、もとは、なんにも無い島だったじゃない。これから私達が頑張って、宇宙の中心に、と言ったら大げさかもしれないけれど、自由・平等・平和を尊ぶ、そんな理想の星にしてみたい」
「いや、エマさんになら出来る。この寂れた星を、俺達オメガの第三勢力が、大宇宙の首都星にしてみせる」
レオンが力強く言った。
港の沖に小さな島があった。その島を見たノアがふと思い、エマ以外のメンバーを呼んで、彼らの前でヒソヒソと話した。
「あの島を見て思ったんだ、ニューヨーク沖にあるリバティ島と同じだって。あの島の上に、エマの像を建てたら、面白いんじゃないか?」
「自由の女神、か。エマさんにはお似合いだな」
「あいつが聞けば、絶対に造らせないだろうから、俺達だけの秘密だぞ」
「おう、エマさん、喜んでくれるかな」
リーダーに喜んでもらおうと、チーム内だけの楽しみが出来た。
「三公の中で最大勢力を誇ったパーシアス連邦の、アルゴル星。広範囲の自治権を有するが故に、その突出した力が仇となり、真っ先にデッドの攻撃を受け、その力を失ったのです」
デッドの侵攻で荒廃し切ったパーシアス連邦。
「いくら落ちぶれたとはいえ、あんたらの親分だろう、裏切ってもいいのかよ」
「もはや、宗主星とは名ばかり、強い統制化に置かれていた、かつての従属関係であった治世とは違う。植民惑星の多くが独立しているのです」
アルキオネ星の司令官がオメガのメンバーに説明する。
「反抗する一番の勢力から叩くのは鉄則だからな、真っ先に、この世界の大将が標的なったんだな。次いで、厄介な科学力を封じたのか」
「大宇宙をまとめようとしていたデッドは、エニフの経済力を利用して復興させようとしていたからこそ、あえて手を出さなかったのでしょう。今、合同軍を実質的に動かしているのは、オシリス星です。アルゴル星は、ただ利用されているに過ぎず、合同軍を実質動かしているのはシャプレー連邦のオシリス星なんです」
「オシリスって、どこかで聞いたような……」
ノアが呟くと、メンバーが一斉にリアムを見た。
「お、お前、確かオシリス星出身だったよな!」
思い出したノアが問い詰める。
「ワタシは、彼らの暴走を阻止するために、危険を冒してエマさんに会ったんです」
「そうよ! 私を助けるためにね。何か、文句でもある?」
ノアを睨むようにエマが言って、リアムを庇った。
「要は、この世界を手に入れんがための戦争、覇権争いだろう。全く、宇宙から見た人間は小さく、まるで、微生物。薄っぺらい膜の中でしか生きられない弱い生き物なんだぞ。そんな生き物が一番を競ってどうすんだよ。一つにまとまらないと、何も始まらないだろに」
憤るノアが鼻息を荒くして言った。
「それ、あちこちで争いの火種を作っている、アメリカもんに言われたくないがな」
嫌味を込めてイバンが言う。
「あ、争いの火種ってな、警察、世界警察だぞ。無償で治安を守ってるんだろうが。少しぐらい、感謝してくれても、いいだろう……」
「ク、クク……」
ノアとイバンの言い合いに、メンバーの笑いが漏れた。
「我が艦艇の『オリオン号』、小型の軽空母をお使い下さい。きっと役に立ちますよ」
オリオン号は正規空母の半分程度の大きさだが、機動性に優れ、性能は大型空母と同じ航続距離を誇る。
ただ搭載する航空機が少ないだけの軽空母がオメガ専用の移動手段となった。
「良いねぇ、いくら強力な部隊を誇っていても、それを運用する船が無けりゃ、宝の持ち腐れだからな。艦隊決戦では、機動性のある小型の方が有利、的が小さい分、狙われ難いしな」
そうレオンが言うと、
「同感だ、戦いに勝利しても、基地まで帰る手段が無くては、宇宙のモクズ同然だからな。で、誰が操縦するんだ? そもそも、メンバーの中で操縦出来る者がいるのか?」
ナタンが一同を見回しながら言った。
「オレがやる」
ノアが名乗りを上げた。
「オレ、船舶免許持ってるんだ。親父のクルーザーを運転したことがある。お前達は高価なクルーザーなんて持ってないだろ」
自慢ともとれるノアの言葉に、
「船は船でも、空を飛ぶ宇宙船よ」
即座にエマが突っ込みを入れる。
「じゃ、ワタシが操縦します。こっちの世界はワタシに任せて下さい」
自信を持ってリアムが言った。
「リアムはメカに詳しいからな、軽空母の操縦は適任だよ」
年長のレオンのお墨付きを得て、
「じゃあ、頼んだわよ、リ・ア・ム」
嬉しそうにエマが言った。
オメガ率いる第三勢力の大艦隊がマイア星に降り立ってまもなく、緊急の情報が入った。
「我が本星、アルキオネ星に大型魚雷が撃ち込まれ、甚大な被害が出たとの報告が入りました」
青ざめた顔で、アルキオネ星の司令官が言った。
それは裏切った者への、見せしめのための狙い撃ち。
不意を衝かれ、防御が間に合わず被害は甚大とのことだった。
「なんて、なんてことするのよ! 酷いじゃない……許せない、何の罪も無い民間人に対して刃を向けるなんて……許せない!」
復唱するように繰り返すと、
「戦う!」
冷静な口調だが、内面に怒りを溜めているのがチームメイトには分かった。
拳を握り締め、抑え切れない怒りを覚えたエマが、制裁を加えた合同軍に、反撃の合図を出そうとしたその時、
「駄目だ! エマさん自ら攻撃の指示を出しちゃ、駄目なんだ」
リアムが引き留めた。
「じゃ、どうしろっていうの!」
「エマさんは、エマさんだけは怒りにまかせて、自らの手を血で染めちゃならない!」
「じゃあ、どうすんだよ! 俺達の命が掛ってんだぞ、自衛手段だよ!」
ノアがリアムの胸ぐらをつかみ、睨みながら言った。
「やっぱり、合同軍のオシリス星を庇うんだな。お前はオシリス生まれだからな」
「違います! ワタシはエマさんに戦ってもらいたくはない、エマさんだけは」
そうリアムは言い、涙ながら訴えた。
「……ご免、私、カーっとなってしまって。リアムの言う通りよね。だから、もう泣かないで、リアム」
――どこまでエマの母性本能を上手く遣える奴なんだよ、と、こいつの武器は涙か? 一瞬ノアの頭によぎったが、苛立ちから、
「どっちだ? どっちに攻撃すればいいんだよ! あっちにも付かず、こっちにも付かずじゃあ、この戦争は終わらないんだぞ!」
と声を上げた。
「私達に向かって来るのが、敵よ! それならいいでしょう」
そう言ってリアムの方を見ると、彼が大きく頷いた。
息の合った二人の姿を見せ付けられ、素直にお似合いの二人だな、と不覚にもノアはそう思った。
「第七章において、四十二条に基づいて使用される軍隊ね」
エマが頭の隅にある情報を探りながら呟くが、
「第七章、四十二条? なんだ、それ」
知識の無いノアにはなんだか分からない。
「国際連合憲章のことを言っているんですよ。第七章・四十二条、平和に対する脅威に際して、軍事的強制措置を取ることが出来ると定められているんです」
最も知識のあるハオュが詳しく説明する。
「そう、私達は平和的な国連軍を目指すのよ」
「オメガが、国連軍かぁ……何かカッコ良い響きだな」
「あと、もう一つ、これだけは誓って」
「なんだよ! まだ、何かあんのかよ」
「どんなことがあっても生きること、どんなことをしてでも生き抜くことよ。生き抜くことが、リーダーとしての私の命令よ」
「分かってるよ、そんなこと。俺達が死ねば、お前が一番悲しむんだからな」
ノアの言葉に、
「おう!」「もちろん!」「はい!」
チームメイトもそれぞれ声に出して言った。
大義を持つと人間は普段以上の力が出せる。彼らの心の底に、静かな闘志がみなぎってきた。
オメガが結束力を強めたのも束の間、マイア星にも危機が迫る――。
ワームホールが遮断される直前に、強力な二発の大型魚雷が発射されていた。
エマの率いる第三勢力の誕生を見計らったように……。
レーダーがエネルギー体を捕捉、異空間を通って、マイア星に接近しているのを探知する。
もう一つの大型魚雷が、マイア星に接近。
「この星を狙って来ている。ワームホールが遮断される前から、計ったように正確に」
冷静にレオンが言った。
悲しみに打ちひしがれる間もなく、新たな脅威がオメガを襲う。
大型魚雷の詳細なデーターが、被災したアルキオネ星から送られて来た。
『航空魚雷の正体は、ハヤブサの意味を持つソカリス。オシリス製の巡航ミサイル』
「オシリス製の巡航ミサイルだって! 遠く離れた、他の銀河から撃ち込まれたっていうのか? まさか! リアム、密かにオシリス星と繋がって、だからオレ達の行動が筒抜けだったんだろ!」
ノアが真っ先にリアムを疑った。
「ち、違います! ワタシはオシリス星を裏切って、今や追われる身、信じて下さい!」
「なんてこと言うのよ! 彼はずぅーっと私と一緒にいるんだから、そんな通報なんて出来っこないでしょ!」
口を尖らしながらエマが庇う。
「ずぅーっと一緒だなんて、オレの前で言うな! 余計、落ち込むだろうが……」
「『ソカリス』は、本体が強固なシールドで覆われ、おまけに妨害電波が発生していているから、地上からの迎撃は不可能なんです。至近距離で軌道をかわさないと」
リアムが説明すると、すぐさまエマが指示を出す。
「みんな、出撃して!」
「出撃しろって、まだ、見えない異空間に巡航ミサイルが潜んでいるんだろ、どこから飛んで来るのか分からないんだぞ!」
「だからなのよ。選ばれしオメガの瞬発力なら、対応出来る。みんなが待ち構えていれば、どこから飛んでこようと、すぐさま対応が出来る筈よ」
異空間を抜け、巡航ミサイル・ソカリスが不気味な姿を現す。
「サクラ! いける?」
エマが声を掛けた。
「うん! まかしといて」
サクラが即答。
チーム一射撃の正確さがあるサクラに命運を託した。
サクラの搭乗するアームキャリー『アスカ』の前に、マイア星から転送された大型ロケット肩撃ち式発射措置が出現、それを受け取ったアスカが肩に乗せて構える。
「ミサイル先端の、僅か下を狙って」
エマが的確な指示を出した。
「まだか! もう迫っているぞ、早くぶっぱなせ!」
ノアがサクラを急かす。
「まだよ! 軌道修正出来ないぐらいに引き付けないと。もっと引き付けて、でないと軌道を変えられるわ。一発勝負なんだから」
巡航ミサイルをギリギリまで引き付け、狙いを定めたアスカがロケットランチャーの引き金を引いた。
ロケットが勢い良く発射られ、その反動でアスカが吹き飛ばされた。
「きゃーー!」
「姉さーーん!」
ユウトの乗る『ヤマト』がアスカを押さえ、引き留めた。
「大丈夫、ありがとう、ユウト」
「――いったか!」
ノアが声を上げ、チームメイトが、放たれたロケットに視線を向ける。
一同は祈る気持ちでロケットの行方を見守った。
巡航ミサイルの先端の僅か下、計ったように正確にヒットし爆発、僅かに軌道が変わった。
惑星をかすめ攻撃をかわし危機は去ったかに思えたが、意思あるミサイルは惑星の間近で自爆した。
『ド、ゴーーン!』
巡航ミサイルが自爆、マイア惑星を飲み込んだ――。
しかし、とっさに張った星間シールドよって爆風を防ぐことが出来、被害を最小限で抑えることが出来た。
「酷い……何故、こんな酷いことが出来るの……」
エマが唇を噛み締めながら言うと、
「こんな危なっかしい物をバンバン撃ってきやがって。いくら植民惑星とはいえ、血の通った人間のすることじゃねえ!」
ノアも吐き捨てるように言い、
「人口知能に操られた人間達だ、それが正義だと思い込んでいるから止めようがない」
イバンも言った。
両陣営が睨み合う極度の緊張の中、二発の巡航ミサイルによる先制攻撃が引き金となって、開戦の火蓋が切って落とされた。
「これで、腰抜けの大将も戦うを得なくなっただろう。全てはアテン神の予知通りに動いている――そう、これは神の裁きなのだ」
遠く離れたオシリス星で、最高指導者・大神官のアイが呟いた。
大宇宙の大海原で戦闘が始まり、一瞬にして多くの命が奪われた。
至る所で艦艇の残骸や死体が漂っていた。
無秩序な暴力が空を、星を呑み込む。
生存者を求めて、オメガのメンバーは戦場となった空域を駆けまわった。
爆発を免れたものの、大破して戦闘続行不可能となった艦艇、虚しく宙を漂流している艦艇。
「どうしてこんな酷いことが、人間に出来るの……。全ては、決断を間違った私が悪いの」
それぞれの大義を進んだ結果が、これ? 神なんていないじゃない……。
累々と死体が漂っている悲惨な惨状を目の当たりにして、誰のために、そしてなんのために見知らぬ相手と殺し合わなければならないの……兵士一人ひとりに家族が、愛し合う恋人がいて、彼らの帰りを待っているんじゃないの……。エマはやり切れぬ思いで、凄惨な戦場跡を見詰めていた。
「……私のせいだわ、私の……。私が勝手なことをしたから……多くの尊い命が失われてしまった」
泣き崩れるようにエマが言った。
「お前のせいじゃないだろ。お前はやるべきことをやったんだ。今までのとっさに下した判断、どれ一つ間違ってなかっただろ」
「そうですよ、エマさん。被害は最小限で抑えられたんです」
「でも、でも、私は戦争を抑え切れなかったのよ!」
「大人になり切れてない一人の女が、何が出来ると言うだよ! そもそも、こんな巨大戦争に、一人の人間に何が出来るというんだ、なんでも一人でしょい込むんじゃねえよ!」
ノアの言葉に、エマは顔をゆがめて首を横に振った。
私のせいなんだと、堰を切ったように大泣きする。
「ノアさんの言う通りですよ、エマさん。そんなに自分を責めないで下さい」
いたたまれずにリアムも言った。
いつになく辛そうな表情のエマ。だが、幼少の頃から彼女のことを知っているノアが、「泣かせてやれ、思いっ切りな」
そう言って制止した。
心の奥に消えない傷が残ったエマ。
もうエマを泣かせない。そうチームメイトは思い、誰もが強く決心したのだった。




