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オムニバースの英雄 ~ゲーマーがゲームの腕で異世界を救う物語~  作者: 西一
最終章 セカンド ワールドウォー
36/44

三代目

 北山ユウマとユアの間に生まれた長女・サクラは、大阪の女子高校の弓道部に所属していた。

 スラッとした長身で銀髪のショートヘアが似合う。そんな彼女も高校二年生になり、部活動に励んでいた。

 弓道は、一つの的(まと)に全神経を集中させて矢を射る、シンプルながら奥の深い競技である。サクラは、全国高等学校弓道大会の個人戦優勝者として、二年生ながら絶対的なエースとして期待されていた。

 設備の充実している道場。サクラが弓を構えると、静寂と緊張感が道場を包んだ。凛としたたたずまい、部員の誰もが彼女に見入ってしまう。

『ビシュッ!』

 弓から放たれた矢が『パーン』と的に刺さった。

 集中して的と向き合う。射込みの練習でもサクラは手を抜かなかった。


「聞いた、サクラ先輩、A校の山崎君に告白されたみたいなんだけれど、断ったみたい」

 下級生が小声で話し出した。

「えぇー、あの人気者の山崎君を振ったの。サクラ先輩って、男子には興味無いんじゃ~」

 憧れのサクラに何故彼氏がいないのか、後輩達の疑問だった。

「もったいないな~、そうだとしても、先輩となら私、付き合っても良いかも」

 男子にも女子生徒にもモテるサクラだった。


 そんなサクラが三年生の主将のもとに赴(おもむ)き、

「あのぉ、今日は大事な用事があるので、これで失礼します」

「ああ、そうだったわね。海外に留学している、弟さんが帰って来るのよね」

「はい、家族そろって食事に行く約束をしているんです」

 そう言って、サクラは足早に道場をあとにした。

 とっても嬉しそうにしているサクラ。それもその筈、日本から遠く離れたボーデア星で暮らしていた長男・ユウトが帰って来るのである。

 でも、それだけではない、弟ユウトに特別な感情を抱いていたのだった。

 

 家に帰ると、サクラの部屋にユウトがいた。

「ご免、勝手に入って」

「いいよ、姉に遠慮なんかしないで」

「ずいぶん、変わったな、この部屋。女子らしい部屋じゃないか」

 部屋の隅々を見回しながらユウトが言うと、

「何よ、いやらしい目で見ないでくれる」

 サクラが不満そうに言った。

「そ、そんなつもりじゃ……」

「分かっているわよ、ユウトにそんな気は無いってことぐらい。でも、しばらく会わない間に、私より、背が高くなったんじゃないの。それに、男らしくなったっていうか、カッコ良くなったじゃない。すっかり銀髪が似合うようになったわね。日本人じゃないみたい」

「そりゃあそうさ、今はボーデア人なんだから。何より、姉さんに認められるように、男を磨いていたからね」

「まあ、すっかりませちゃって。よく泣いていたあなたが、ずいぶん立派なこと言うようになったわね」

 成長しても姉には頭が上がらず、ユウトが苦笑い。

「そこ、ベッドに座って。向こうでの話、聞かせてよ」

 二人はベッドに腰掛けた。


「爺ちゃんも、すっごく優しく接してくれるし、こっちと違ってボーデア星は文明が発達していて、不自由無い暮らししているから、心配しないでよ」

「そう、良かった。……でも、これだけは信じて。ユウトを見捨てた訳じゃないから。お父さんやお母さん、いつもユウトのことを気に掛けているよ」

「分かってるよ、そんなこと。で、ミナトは」

 二男のミナトは中学一年生、弟が気になっていた。

「ミナトは塾に行ってる。ミナトは、あなたと違って真面目で、勉強が出来るのよ」

「久し振りに会ったというのに、相変わらずキツイなぁ、姉さん。……姉さん……」

「ん? 何……」

 ユウトがサクラを見詰めながら、

「会いたかった、俺、姉さんに会いたかったんだ」

 と言ったユウトがサクラを抱き締める。

「ちょ、ちょっと……」

 サクラが拒むも、姉を想う気持ちが体を支配した。

 勢いで二人はベッドに倒れた。

 抵抗すると思っていたサクラだったが、なすがまま。きっと、無理やり親から引く離されたことを気に掛け、その罪悪感から無理しているのだろうとユウトは思い、ゆっくりとサクラから離れた。

「ご免、姉さん、俺…」

「なんで、なんで姉弟(きょうだい)なんだろうね。そうでなかったら、こんなに悩むことはないのに……」

「じゃあ、姉さんも」

 コクリとサクラが小さく頷いた。


 生まれて来る子を譲ってもらうという家族間の約束。二人目の男の子が生まれたら、その子を養子として譲ってもらうという約束事があった。だが、二男のハルトが生まれると、ユアはハルトを溺愛する。

 その愛情が悲劇を生んだ。

 いつまでもハルトを手放そうとはせず、結果としてユウトをユアの実家に預けることになった。

 それ以来、ユウトは心を閉ざしてしまった。

 サクラも負い目を感じ、その負い目がねじ曲がった感情となって、いつしか、姉弟であるのも関わらず、好きという禁断の感情が芽生えたのである。


 お互いの気持ちが分かり合え、嬉しい反面、重い気持ちになった。

 このままじゃいけない、姉弟同士で愛し合ってはいけないのだと。

 その時、

「ご飯が出来たわよ!」

 と階下から母親、ユアの声がして、慌てて二人は遠く離れた。

「母さんが心配するから、このことは内緒だよ」

 ユウトが声を掛けると、

「と、と、当然でしょ!」

 いつもクールなサクラが慌てて言ったことに、

「姉さんも、動揺することがあるんだ、以外だなぁ」

「当たり前でしょう、私はユウトが思っている以上に、頼りないんだからね」

「じゃあ、じゃあさ、もう一度、抱き締めてもいいかな」

 甘えた口調でユウトが言うと、

「だ・め・よ~っ、弟のくせに、三年早いわよ」

 意地悪っぽく言ったサクラが、ユウトのおでこにキスをした。

「姉さん?」

 驚いた顔をしながら、キスされたおでこに手を当てたユウトがサクラを見詰める。

 恥ずかしくなったサクラが、慌ててユウマの手を引っ張ると、何も言わずに、一階で待つ母親のもとに向かった。

 二人には秘密が出来た。姉弟同士、好きになってしまった誰にも言えない秘密。だが、二人でその秘密を共有出来ることが、何故か嬉しかった。


 一方、加藤ヒロトとサラの間に生まれた一人息子のハルトは、リック、ヒロトと受け継がれたイケメンは健在で、子供の頃から常に女の子に囲まれるほどの、相変わらずのモテモテぶりだった。

 休日、東京からお忍びで大阪に遣って来たアイドルが、ハルトに会いに来た。

 その彼女と楽しいデートの筈だったが、何故か煮え切らない。

 デート中の彼女の足が止まった。

「……私達、別れよっか」

「え!」

 思いもかけない言葉にハルトは思わず声を上げる。

「だってハル君、私といても楽しそうにないし、無理して付き合っているが分かるの。きっと好きな子がいるんだろうなぁって」

「いないよ、そんな子は」

 慌てて弁解するも、彼女の気持ちは変わらなかった。

 離れて行く彼女を呼び止める声が出ない。今、彼女を引き留めれば別れることはないだろう。けれど、彼女が離れて行くのを黙って見ているだけだった。


 気の優しい母親、サラの影響を受けたのか、おっとりした性格に育ったハルト。

 結局、ハルトは彼女と別れた。

「何やっているんだろ、俺は……」

 そう呟きながら、ハルトは頭を抱えてうなだれた。

『ハルト、ハルト』

 ――まただ……。声が聞こえるが誰もいない。

 心に響く声、優しそうな女性の声だった。

「誰? 君は誰なんだ。何故、俺の名前を知っている。誰なんだよ。答えてくれぇー!」 

 声の主は誰なのか? その声にハルトは悩まされていたのだった。



 アメリカ・ニューヨーク。平穏に暮らすライアン一家のもとに、使者が訪れた。

 その使者は、マイクに驚くべきことを告げる。パーシアス超銀河団のアルゴル星、シャープレー超銀河団のオシリス星の二公が銀河連合を離脱し、宣戦布告をしたと。

 間もなく、大宇宙・オム二バースで戦争が始まる。使者は、次世代のヒーローを招集しに来たのだった。


「エマをスカウトに来ただと! こいつじゃないのか? 何故マイクじゃないんじゃ、ゲーム界のチャンピョンじゃぞ」

 ケビンが声を上げる。

「生き物の持つ生体適合性、つまり、『順応』が問題なんだ」

「生体適合性? 順応? なんじゃ、そりゃ」

 首を傾げるケビンにマイクが分かり易く説明する。

「バランスを保とうとする『順応』は、本来優れた機能。人間は順応性の高い生き物、それは生物にとっては優れた能力なんだろうけど、それが厄介なんだ。俺は向こうの世界に一年以上もいたから、すっかり順応していて、昔のような力が発揮出来ない。以前、ウィリスさんの葬儀の時、身を持って実感したんだ。だから、向こうの世界で活躍するには、代替わりが必要なんだよ。そうやってヒーローは、ケンジさんから俺、そしてエマへと受け継がれていく。それは選ばれし者の定め。だから、俺じゃ、駄目なんだ。次世代のヒーロー達が、大宇宙の危機を救う。つまり、三代目のヒーローが必要とされているんだよ。分ってくれよ、親父」

「エマはまだ高校生じゃろ! 大学進学の重要な時期じゃないか。お前は、自分の娘が危ない目に遭おうというに、なんとも思わんのか?」

「そんな訳ないだろ!」

「ワシは常日頃、エマに、文明の進んだ世界で暮らすことを願っていたが、それはエマに幸せになって欲しい思いからじゃ。じゃが、今は違うじゃろ、何せ戦争状態なんじゃからな。可愛い孫を、そんな危険な場所には行かせない、絶対に行かせるもんか! ワシは認めん、絶対に認めんからな! そもそも、おかしいじゃろ。エマがゲームしているところを、ワシは一度も見たことがないぞ」

「エマには特別な力があるんだろう。ウィリスさんが言っていたんだ。あの人は、人を見る目があったからな。そうでなきゃ、エマが誘拐される筈がない。エマには秘めたる力が宿っている。それがどんな力なのか分からないが、向こうの世界に行けば、きっと眠っている能力を開花させられるんだ」

「いくら秘めたる力があるとは言っても、エマ一人の力じゃ、どうにもならんじゃろ。地球規模のちっぽけな世界じゃないんじゃぞ」

「エマ一人が行くんじゃない。こんな日が来るんじゃないかと、優秀な人材を俺がスカウトしていたんだよ。心配はいらん。エマを守るために、すでに目は付けている」

 心当たりのある人物にエマはピンときた。

「それって、ノアのことだよね」

「ああ、あいつは強い、俺の愛弟子だからな。ズバ抜けた才能こそないが、誰よりもゲーム愛が強いんだ。親の汚名を晴らすために、日々、訓練にいそしんでいる努力家だからな」

「日々の訓練って、ゲームのことでしょう。調子狂うんだからぁ」

「お前、ふざけているのか? 娘の一大事に」

「あっちの世界じゃ、ゲームの腕が戦闘力に繋がるのさ。だから、こんな俺でもヒーローになれたんだぜ。不思議な世界だろ。でもな、肝心のノアが、どこにいるんだか? ジョンさんに聞いても知らないって言うんだよ。親子で、ずっとギクシャクしていたからな」

「そうなのよ、何も言わずに家出したみたい。何か悩みごととかあったのかしら。なんでも話し合う間柄だったのに、せめて一言言ってくれればいいのになぁ」

「そんな頼りない奴にエマを任せられるのか?」

「心配するなよ、親父。いざとなったら緊急脱出で、アッという間に地球に戻れるから。高エネルギーに満ち溢れた、密度の大きい大宇宙の世界は、こっち側からは行けないけど、こっち側から向こうに行った人間は、常にゴムによって引っ張れられている状態だから、それを外せばその反動で戻れる。いくら戦争であっても、危険な目に遭ったら、直ぐに地球に戻ってこれるんだよ」

「ふぅ~ん、そうなのか……ちょっと待て、肝心なことを忘れとらんか?」

「肝心なこと?」

「ビレイさんじゃよ、仕事に行って留守にしているビレイさん。こういう重要なことは、ビレイさんに聞くのが筋じゃろ。ビレイさんは絶対に反対する。何せ、自分のお腹を痛めた可愛い娘じゃからな」

 エマを行かせたくないケビンが、留守にしているビレイにすがる。

「ビレイは、すでに覚悟が出来ているよ。彼女は、こんな日が来るのは分かっていた筈だ。そのために、強い覚悟でエマにキツく接していたんだから」

「ママ……」

 母親の愛情を知ったエマが呟く。

 そんなエマにマイクが語り掛けた。

「エマ、今まで黙っていたんだが、その子を譲ってくれないだろうか、とウィリスさんに言われたことがあってな。ウィリスさんは冗談だよ、と笑ってはいたものの、本心では、お前を欲していたに違いない。不安定な銀河連合を統率する、自身の後継者を欲していたんだろう。しかし、エマ、お前の幸せを第一に考え、諦めざるを得なかったんだ」

「ウィリスのお爺さん……。私の出来る限りの力で、お爺さんに恩返しがしたい。お爺ちゃん、私を思ってくれるのは嬉しい。でも、私は行くわ。みんなの笑顔を守るために」

「エマ……ワシの可愛い孫娘、エマ、必ず、生きて帰って来るんじゃぞ」

「うん!」

 エマは決意し、危険な状態に直面している大宇宙・オム二バースへと向かった。


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