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オムニバースの英雄 ~ゲーマーがゲームの腕で異世界を救う物語~  作者: 西一
最終章 セカンド ワールドウォー
35/44

初恋

 ウィリスの葬儀も滞りなく終えると、エマだけがやることが無くなった。

 邪魔になるからと、ビレイから街の観光でもしていなさいと言い付けられていたエマ。

 それは、なんでも出来ることが災いして、何事にも無関心だった彼女に、何かしらの興味、刺激を持ってもらいたかったためでもあった。


 メシエ銀河連邦の首都星、エルナトの玄関口である銀河ステーションの、巨大ターミナルのプラットホームで、不安そうに辺りを見回していたエマのもとに、一人の少年が近寄って来た。

「エマ様ですよね」

 その少年が声を掛けた。

「そうだけど、あなたは誰?」

「ワタシは、エマ様の案内役を仰せつかった者で、名はリアムと言います」

「そう、リアムって言うの。あなたの年齢は?」

 サラサラとした綺麗な銀髪に、くっきりとした、透き通った大きな瞳。小顔で女性的な顔立ち、まるで絵に描いたような美少年だった。

「ワタシの住む星と地球時間とは同じだから、恐らく、エマ様と同じ年かと」

「そう、同い年なんだ。じゃあ、様はやめて、あなたと同じ年なんだから。私は私よ、なんにも偉くはないんだから」

「じゃあ、エマさん、で良いですか」

「呼び捨てでいいよ」

「いいえ、それは出来ません。エマさん、ワタシはずーっとあなたに憧れていたんです。お供が出来て光栄です」

 そう言いながらリアムが見詰めた。

 エマの胸が何故かドキドキ。私、どうしてしまったんだろう……、初めての感覚に戸惑うエマ。

 それは一目惚れ、自分が恋をしたことにエマは気付いていなかった。


「ワタシが、外の世界を案内しますよ」

 リアムの後に付いて行くと、そこはメシエ銀河外行きのプラットホーム。

「こっちは銀河系外の路線じゃ……銀河内での案内じゃないの?」

「はい、外の、別の銀河を案内せよと」

「そう……。そんなに遠くに行っても大丈夫なのかしら……」

 不安に思いながらも、エマは案内役のリアムに付いて行く。


 細長いリニアモーターカーのような丸みを帯びた乗物に乗り込んだ二人。

 この船に他の乗客の姿は無く、二人は向き合う形で座った。

「これ、貸し切りなんです」

「えっ! 私一人のために貸し切り船を用意したの? もったいないじゃない、ちょっとした観光なのに」

「エマさんは超有名人なので、プライベートを守るためにチャーターしたんです」

「そ、そう。じゃあ、お願いするわね」


 飛行船が発車すると、あっという間にエルナト星を含む太陽系の惑星が見えた。

「さすがは進んだ文明ね、星が建物のように動いて行くわ。まるで高速鉄道の車窓を見ているみたい」

 瞳を輝かせながらエマが言うと、

「このワームホールは観光用だから、外が見えるんです。ゆっくりと旅を楽しむために、エアーライン(航空路)やエアーレーン(空中輸送路)より遅いのですが、その分、景観を楽しめるのが特徴です。こうし綺麗に見える星々も、見えないワームホールが人間の血管のように張り巡らされているんですよ」

 リアムが嬉しそうに言いながら詳しく説明した。

「まるで宇宙旅行しているみたいね、あっ、実際にしているのよね」

 クスッとエマが笑い、リアムが笑顔を見せた。

 男の人との初めてのデートを満喫しているエマ、向かい合った座席で、気付かれぬようチラッとリアムの方を見る。

 これが、見惚(みと)れるってことなのね。いつまでも彼を見ていたい、でも――。

 リアムと目が合って、

「何か?」

 とリアムが聞く。

「いえ、何も……」

 慌てて窓に目を向けると、そこにはあまたの星が密集するメシエ銀河が見えていた。

「もうこんな所まで飛んで来たのね。でも、銀河って綺麗、あんなにハッキリと見えるんだ。ずっと見ていても飽きないわ。まさに、神様が描いた芸術作品ね」

 なんだろう、この感覚――これが恋というものなのかしら……。生まれて初めて人を好きになって動揺するエマ、呼吸が乱れて平常心が保てない。そんな心の乱れをリアムに見透かされてはいけないと、体が硬くなり更に動揺する。

 でも、幸せな気分。宇宙空間に流れる時間は、余りにもゆっくりとした流れなのに、彼と一緒にいる時間が貴重に思えてくる。きっと、亡き祖父・ウィリスが彼を合わせてくれたんだ。彼が運命の人なんだとエマはそう思い、そうあって欲しいと願った。


「これを、エマさん、これを首に掛けて下さい」

「あっ、街中でよく見掛ける社員証みたい。これ、一種のパスポートなのよね」

 手渡されたネックストラップをエマは首に掛ける。

「それ、見られると大騒ぎになるかもしれないので、胸の中に隠しておいた方がいいですよ、エマさんは人気者ですから」

 そう言ったリアムが胸元にぶら下がっているカードを取ると、服の襟もとを僅かに引っ張り、エマの胸の中に仕舞った。

 わぁ! と、大胆なリアムの行動に、思わず心の叫びが出そうになった。


 客船が猛スピードで進んで行くと、銀河が集まった銀河団、更に進んで行くと銀河団が集まった、超銀河団の全容が見渡せた。

「あれが、エニフを盟主とするラニアケア超銀河団です」

「宇宙って凄く広いものなのね。大きいって思っていた銀河があんなに、超が付くほど一杯あるんだね」

 余りにもスケールの大きな光景にエマは息をのむ。

「ここからは先はボイドと呼ばれる、何も存在しない空間です。次のシャープレー超銀河団までは時間が掛かりますよ、一息付きましょう。良かったら、これ、飲みますか?」

 リアムがそう言って、持って来ていた飲み物を手渡した。

 紅茶のような甘い飲物。エマが一口飲むと、急に眠気が襲った。

 そして、そのままエマは意識を失った――。



「よく来てくれた、我がオシリスの、要塞基地に」

「ここは……」

 目を覚ましたエマの前には、軍人らしき人物が取り囲んでいた。

「オシリス……」

 初めて聞く星の名前、エマが呟く。

 惑星ではない、人工の建物の中にいるようで、とんでもない所に来てしまった、とエマは思った。

「オシリスは、シャープレー連邦の中心、首都星を成す惑星なのだ。我らは、最大勢力を誇るパーシアス連邦と手を組んだ。銀河連合の中枢を成す、エニフ・エルナトのラニアケア連邦に対抗するためにな。お前は、この世界の指導者にふさわしい」

「指導者って……」

 彼の言っている真意がエマには分からない。

「そう、ウィリスが死んで混迷する世界に、人々は、新たな指導者を欲しているのだ」

「それが、私ってこと? まさかぁ、私はまだ一五歳よ」

「家柄に血筋、申し分ない。我らの陣営に立てば、皆が従う、世の中を思い通りに動かせるのだ」

「ところで、リアムは、リアムはどこへ……」

 周りを見渡してもリアムの姿はどこにも無かった。

「あいつは、お前をこの場に連れて来るための道具。さては、色男に恋でもしたか? 無理もない。英雄の娘とはいっても、色恋してもおかしくはない年齢だからな。だが、残念だったな。何故なら、あいつにはその気がないからだ。奴は罪人の息子、ただ自由になりたくて、この任務を自ら志願したのだからな」

「私が、私がリアムのことを好きだなんて……会ったばかりなのに好きになったりはしません。彼が街の案内をするからと……でも、罪人の息子って……」

 口を濁らせながら言ったエマは思った。私、騙されたのよね、私に言い寄って来たのは、任務を遂行するため……。


 誘拐の目的が、世界を手に入れんがために自分を擁立しょうとしているのだと知った。

「私の体にはアリオト人の血が流れているの。だから、それと敵対しているあなた達に力は貸せません」

「気の強い小娘だ。だが、そう意気がっていられるのも今のうちだ。その強い意志があっても、それを覆せる技術はいくらでもあるのだぞ」

「まさか、洗脳?」

「そうだと、言ったら」

「そんな、そんなことまでして私を……」

 懐中電灯のような小さな装置をエマに向けると、光線が発せられ、光がエマを包み込む。

「これで、欲しかったお前の全てのデータが手に入った。動かなかった秘密兵器のアームキャリーも、思い通りに動く筈だ」

「秘密兵器のアームキャリー? 私はぜぇーったいに,あなた達の思い通りにはならないわよ」

 気丈にエマは振舞うも、

「素直になるまで、しばらく小娘を閉じ込めておけ」

 僅かな抵抗もむなしく、エマは質素な部屋に拘束された。



「心配はいらぬ。お前は地球人だろう。この世界の住人は、地球人には寛大なのだ。大人しくしていれば、そのうち解放してくれるだろう」

 看守の一人が怯えているエマに優しく言ってくれた。


 その気になっていた私が馬鹿だったわ……。そうよね、私なんかが好かれる理由、無いもんね。私はパパやママの娘ってだけで、ただ、利用されただけなのよね……。でも、自由になれて良かったね、リアム。

 自分を陥れたリアムを悪く言うことなく、彼の身を案じるエマ。ふと、胸に仕舞ってあったカードを取り出すと、リアムのことを想ってペンダントを握り締めた。 

 すると、天井に地図らしき物が映った。

 ――あれは! この要塞の詳細な地図じゃないかしら……。薄い証明書のカードは、プロジェクタのように画像を拡大して投影する装置だった。

 あの真ん中にある赤い点滅しているのは何かしら? エマはピンときた。リアムは、私にあそこに行くように指示しているんじゃないのかと。そのためにこのカードを私に託したのだとそう思った。


 リアムが自由になれたんだと安心していたエマの耳に、部屋の外で監視している人達の声が聞こえた。

「可哀想だな、あの坊主。自由になれるために自ら志願したというのに、情報を知っているというだけで、処刑はないよな」

 ――処刑? 

「仕方ない、奴ら、ラニアケア陣営に警戒されれば、今までの計画が台無しになるからな。我らを裏切った罪人の息子、奴は秘密情報を知り過ぎ、今後の災いとなりかねん。あの小僧は、死ぬ運命だったんだよ」


 監視人が言った死刑という言葉に動揺したエマが、行動を起こす。

「ねえ、ねえ! 聞いています? おトイレ、トイレにいきたいんですけどぉー!」

 とエマが大声で呼び掛けるが、

「簡易のトイレがあるだろ! 誰も見ていないんだし、早く済ませろよ!」

 とつれない返事。

「私は女、レディなのよ! もっと優しくしてくれてもいいでしょ!」

 渋々、監視人がドアを開けた瞬間、エマが素早く逃げた。

「小娘を逃がすな!」

 あれは! 走って逃げるエマの目に映った物は、キックスケーターに似た乗物だった。

 操作方法も知らぬまま無我夢中でキックスケーターに乗ったエマは、両手で持ったハンドルを手前に引いた。

 すると、キックスケーターは思った通り、猛スピードで走り出す。


 エマの速さに、追って来た警備人は追い付けない。

 追い付けないと思った警備人が銃を構えるが、

「大事な人質だ、撃つな! 生け捕りにしろ!」

 と上官の指示。

 便利な乗り物ね、滑っている感覚、波の上を走るサーフィンをしているみたい……。不思議なことに、目の前の閉まっているドアにエマが近付くとロックが解除され自動的に扉が開く。

 ――この胸の中に仕舞ってあるカードのお陰だわ。


 エマは地図に記された目的の場所にたどり着いた。

 そこは格納庫。テミスに似た多くのロボットが整然と並んで立っていて、その中に、ひと際目立つ黄金色のロボットがあった。

 追手が迫る。

 格納庫に追い詰められ、もうエマには逃げ場が無くなった。

「何故この場所が分かった? 我らの本当の目的を知っているのか。まさか、あのガキ、小娘に情報を知らせたのか……」

「本当の目的? そのために私を誘拐したのね」

「ウィリスが亡くなった今こそ、我らの好機。我らは、エニフ・エルナト両星に侵攻し、一気に政権を奪取するのだ」

「それって、クーデターじゃない……」

「クーデターではない、昔の時代に戻すだけ、本来の姿に戻すだけだ」

「この世界に来て、私は見たの、幸せそうな人々の姿を。だから、今攻め込んだら、平和が崩されるでしょう。私は、どんなことをしても阻止して見せるわ」

「やはり、あのアリストを狙っていたんだな」

「アリスト?」

 あのロボット、アリストって言うの。他のロボットに比べて存在感が半端ないわ。

「アリストを奪うつもりだったのだろうが、残念だったな、そいつは動かない。完全に壊れているからな。あのアリストは、生体認証システム搭載機。使用者でない限りロック解除出来ない仕組みになっている。その使用者とは、お前だ、エマ・ライアン」

「私が、使用者……」

 まさか! リアムは、私に、このロボットと会わせるために……。

 ならばと、エマはアリストに向かって叫んだ。

「動いて、私を乗せてよぉー」

 だが、アリストは動かない。

「さっき試したが、アリストは壊れているのだ。宇宙船の中でお前に当てた照射光は、一瞬で特徴を捉え、全てのお前のデータを吸収する装置。それで試したがアリストは動かなかった。あれは、未完成品なのだ。全く、ゼビルの奴め、こんな厄介なシステムを組み込みよって。戦闘機の性能で、ラニアケア陣営より優位に立てるというのに、いまいましい奴」

「何故動かないのよ、このポンコツ! 私は、彼を、リアムを守りたいのよ!」

 ひょっとして、このカード、私の声の認識を妨害しているんじゃ、だから動かないって言ってたんだ。あの時、とっさにリアムがカードを胸元に仕舞ったのは、彼らに知られたくなかったからなのね。だったら、今の私の声は、あのロボットに必ず届く筈……。


 妨害電波を超える声でエマは叫ぶ。

 アリストの目が光った――。

 エマの必死の叫びが、今まで動こうとしなかったアリストを目覚めさせた。

 アリストの胸部が光り、エマが吸い込まれる。

 不思議なことに体がすり抜け、機体内のコックピットにエマは入った。

 そこは全体がガラス張りのように外の景色が見え、その中に自分が浮かんでいる。従来のコックピットとは違っていて、操縦席が無い。まるで羊水の中にいて守られているような、生命体の中にいるみたい。見えない血管のような触手がエマの身体に繋がっている。そんな不思議な感覚、未知なるロボットと一体になった気がした。


 最新鋭のアームキャリーがエマの手に入ったことで状況が一変した。

 優位に立ったエマが言い放つ。

「リアムを、彼を解放してあげて、でないと」

 そう言った途端、アリストが勝手に動き、腹部にある格納庫から武器であるビームライフルを出して構えた。

 ――何、これっ、私の思った通りに動いてる。まるで一心同体、このロボットは私そのものなんじゃ……。最新鋭のアームキャリーの性能の驚くエマ。


 エマの脳波に反応し、操縦動作は不要、考えた通りに動く最新型のアームキャリー、アリスト。

 宇宙空間に浮かぶ要塞内で、強力なアームキャリーが暴れられたら一大事とばかりに、慌ててリアムを連れて来るが、彼のこめかみ辺りに銃らしきものが当てられている。

「言うことを聞かないと、こいつの命はないぞ!」

 形勢が逆転――。

 彼を見殺しには出来ない。

 そう思うも、これ、どうやってここか出るの? ドアらしきものが無いのに……入る時は確か、すり抜けて来たんだけれど……。

 一瞬、エマの脳裏に、格納庫の壁を破れば混乱するかも、と思うと同時に、アリストの構えたビームライフルの先端が光り、高出力の光線が格納庫の壁を突き破る。

 壁の破損した場所から空気が漏れ出し、エマの思惑通り格納庫内は大混乱した。


 やっぱり、このロボット、私の思った通りに動くんだわ。

 この混乱に乗じてリアムを救い出す。

 吸い寄せられたリアムがアリストのボデーをすり抜け、コックピット内に入った。

「どうして、ワタシを助けたんですか? ワタシはエマさんを騙したというのに、何故」

 だって、好きになってしまったもん。とは言えなかった。

 こういうのは言葉で直接言わないと伝わらないもの。そう分ってはいるが、リアムに見詰められると、好きという言葉が出ない。ただ、頬を赤らめるしかエマには出来なかった。

「でも、凄い行動力ですね、エマさんは」

 驚きながらリアム言うと、

「運動神経の良さは、ママ譲りなのかなぁ、頭の良いのはママのお陰、感謝しなくっちゃね。あと、この場にたどり着くまでのスリル感を、もう一人の私がいて、楽しんでいるようにも思えた。そこは、ゲーム好きのパパの血が流れているのよね、きっと」

「偉大な二人の人物の良いとこ取り、だからエマさんを狙っていたんです。このアリストは、工学エンジニアである、ワタシの父が、開発チームと一緒に造ったものです。オシリス星の得意とする科学力と、開発チームの技術力を融合して、どこにも無い最終形態、言わばアームキャリーの完成形を開発したんです。戦うたびに進化するエボリューション・アームキャリーですが、アリストはその最終形態なんです」

「ロボットの最終形態? それって、これ以上進化出来ないくらい強いってとだよね」

「まあ、理論上の話なんですけどね。強さを決めるのは、やはり操縦者のテクニックです。アリストは、実戦経験の豊富なラニアケア陣営に対抗するための、言わば秘密兵器として開発されたんです」

「だからかぁ、最終形態と言うだけあって、見た目がカッコ良い。でも、それだけじゃないわ。機能性にも優れているから、強く感じられる。横に並んで立っていたロボットと比べると、大人と子供みたいな違いだったもの」

「この世に一台しかない高性能のアームキャリー・アリストは、操縦士の動きを、操縦という操作をかえさずに直接伝えることが出来るんです。だから、エマさんが思った通り一瞬で、タイムラグが一秒も無く動くんですよ」

「そう、それは凄いロボットね。パパが乗っていたテミスも、動きが鈍いって愚痴っていたのに、さすがは最新鋭機、俊敏な動きが出来るのね」

「彼らが言っていたゼビルとは、私の父なんです。私の父は、成人になったエマさんが、この世界を救ってくれると信じて、このアリストを造ったんです」

「どうして私のことを、一度も会ったことが無いのに……」

「地球からはこちらの世界には行けないけれど、エンジニアである父は、簡単に地球に行けるんですよ。何度も会って、成長していくエマさんを近くで見守っていたと言っていました。その時の特徴を、アリストに詰め込んだんです。そのことを父からよく聞かされていたので、私はエマさんがどんな人なのか想像していたのですが、初めて会ったエマさんは想像以上に素敵でした」

「ほんと! リアムにそう言ってもらうと、凄く嬉しいわ」

 エマが再び頬を赤らませた。


「かつて、伝説のヒーローが、英雄機・アレスと会ったことで危機的状況を一変させてくれた。エマさんに、アリストを会わせれば、この状況が変わるんじゃないかという思いで、ワタシは危険を冒してエマさんに会ったんです。私の父は犯罪者、でも、決して悪いことはしていません。エマさん、それだけは、信じて下さい」

「リアムのお父さんでしょう、事件に巻き込まれただけ、私は信じているわ。そう、あなたのお父さんは技術者なのよね。で、今、どこにいるの?」

「私の父は……もう」

 リアムの言い難そうな表情を見て、察したエマが言った。

「そう、引退したの。だからさっき、もう造ることが出来なくて、この世に一台しかないって言ったのね」

「え……」

「引退の理由は言わなくてもいいよ。今、そんなこと言っている場合じゃないわね。一刻も早くこの場所から逃げるのが先決、ここから脱出するのが先よね。ねえ、このロボットの操縦方法を教えて、あなたのお父さんが造ったものなのなら、少しぐらいは分かるんじゃないの」

「このアリストに、操縦なんて必要ないです。何故なら、思った通りに動くんですから。感じるまま、思うままに動くんですよ。何せこのアリストは、エマさんそのものなんですから」

 

 突き破られた壁から真空の宇宙空間に飛び出たアリストは、人型から戦闘機へと変わった。

「これ、飛行機に代わるんだ」

 驚くエマに、

「これが本来の姿なんですよ」

 とリアムが説明する。

「小さい時に、よくパパに乗せてもらったテミスと同じ。でも、ずいぶんと操縦席の構造が違うわね」

「見ての通り、操縦席という物が無いんです。このアリストは、エマさん自身が頭脳となって、思い通りに動く構造なんですよ」

「そっか、それで私の考える通りに動いてくれるんだね」

「そのネックストラップのカードには救助信号が発せられているので、間もなくエルナトの救助隊が駆け付けると思います。それまでの間、耐えて下さい。ちなみに、このカードは私が作ったものなんですけどね」

「へぇ~、リアムって、凄いじゃない。物知りさんなのね、心強いわ」


 運良く、ワームホールに入って、逃げ切れたとホッとしたのも束の間、オシリス側の発せられるエネルギーが強制的に遮断されたため、運航システムが停止し、アリストが宇宙空間に放り出された。


 追手が迫る一方で、前方からも一機の新手のアームキャリーが迫った。

 万事休す――。エマ達は絶体絶命の窮地に陥った。 

 だがそれは、エマの危機に駆け付けたアームキャリー。目の前に真っ黒な機体が進路を塞ぐ。

「カオス!」

 追手が悲鳴にも似た声を上げた。


 それは、先の大戦で連合軍を勝利に導いた、もう一つの英雄機だった。

「エマ? エマが操縦しているのか!」

「――パパ!」

 マイクの声を聞いた途端、今までの辛かったことが一気に噴出した。

「怖かった、私、怖かったんだからぁー!」

 エマが泣き出した。

「カオスじゃねーよ、レンタルだよ。だが、俺が乗ると、強いぞ」

 操縦者のマイク・ライアンが脅しを掛け、更に続けて言った。

「エマはまだ中学生、そんな年端もいかない子供を政治の利用にするとは、許せん!」

「子供だからこそ、手名付けられる。我々にとって好都合、最も利用価値があるのだ」

 マイクの脅しに臆さずに言い返すが、

「さっきから黙って聞いていれば、勝手なこと言いおって! ワシの可愛い孫娘に傷一つでも付けようものなら、ただでは済まさんぞ!」

 同乗するケビンの罵声。

 マイクの父親であるケビンの啖呵に追手の操縦士が尻込みする。

「……どうあがこうと、この流れは誰にも止められぬ。世界は大きく変わって行くんだ」

「またエマを誘拐しようというのなら、俺は全力で阻止するからな」

 マイクも言った。

「ククク、言わしておけば……今のラニアケア連邦に戦いを挑むには、まだ早い……」

 唇を噛み締め堪え、そして声に出さず、

 だが、小娘のデータは手に入った。我らの長年の夢が叶う時がきたんだ。そう心の中で言って、不敵な笑みを浮かべる。

 追手の追撃部隊は踵を返すと、猛スピードで引き返した。

 それを見て、ウィリスさんの葬儀も済んでまだ日も浅いというのに、とマイクは呟いた。


 エルナト星に、無事に戻ったエマが、

「あっ、これ、このロボットを返さなくっちゃ」

 慌てて言うと、

「馬鹿言え、お前は誘拐されたんだぞ、返す必要なんてないよ」

 即座にマイクが言い返す。

「でもぉ……。苦労して造ったって言っていたし」

「いいんだよ。子供が心配することじゃない。そもそも、エマにしか操縦出来ないんだろう。にしても、金色の機体なんて、派手すぎるだろ、名前は、なんていうんだ」

 マイクが聞くと、

「アリスちゃん」

 エマが答える。

「アリス、か、エマらしい名前だな」 

 本当はアリストなんですけど、と、英雄であるマイクに対して恐れ多くて、リアムは本当のことが言えなかった。

「私が未来の指導者だって、あのおじさん達、頭おかしいんじゃないの。未来が見える訳でもないにね」

 そう言ってリアムを見たが、彼は頷かなかった。

 その時、彼らの後ろから声がした。 

「オシリス星のリアムだな! 要人の誘拐で逮捕する」

 突然、連邦警察の警官がリアムを取り囲んだ。

「誰だ? あんたらは」

 ケビンが聞くが、反対に、

「お前こそ、誰だ」

 と聞き返す。

「俺の親父だよ」

 と言ったマイクに、

「マイク閣下の、お父上だったのですか、これは、失礼致しました」

 警官が慌てて無礼を謝った。

「お前、閣下って呼ばれているのか?」

 小声でケビンが聞いた。

「まあ、こっちの世界じゃあ、全軍を指揮するリーダーだったからな」

「全軍の指揮って、お前、それって大統領と同じ権限じやろ。ゲームの腕だけで成り上がる、まるでハリウッド映画のサクセスストーリーを地で行ったんじゃな」

 唖然とするケビン。

「ちょっと、パパもお爺ちゃんも、何、呑気(のんき)なこと言っているのよ。彼が、リアムが連れて行かれようとしているのよ。リアムは私を守ろうと、命懸けで助けてくれたの、逮捕なんて、あんまりだわ」

 エマがリアムを庇(かば)おうとするが、マイクが引き留める。

「彼は祖国を追われた身、命を狙われる恐れがあるんだ。警官にかくまってもらっていた方が、より安全だろう」

「そう、そうよね、パパの言う通りかも。どこにいても狙われるんだったら、警察にいたほうがリアムのためだものね」

「……お前達、いつの間にそんな関係に? ノアの奴がヤキモチ焼くんじゃないのか」

 マイクが笑みを浮かべながら茶化すと、

「ノアが? なんでヤキモチ焼くのよ」

 意味が分からず、エマが思わず頬を膨らます。

「まあ、恋愛は自由だからな」

 マイクが言ってエマとノアを交互に見た後、警官に向かって言った。

「悪いが、二人にさせてやってくれないか、別れのあいさつぐらい、いいだろう」

「はい! 閣下の仰せとあらば、その通りに致します」

 恐縮した警官が、マイクの指示通りにエマとリアムの二人にさせた。


 急に二人切りになり、緊張気味のエマだが、勇気を出してリアムに想いを告げる。

「こういうのは、きちんと言葉にして言わないと相手には伝わらないのよね」

 とまるで自分に言っているようなエマが、続けて言った。

「だから私、勇気を出してあなたに言うわ。私ね、リアムが好きなの、好きになってしまったの。これって、一目惚れって言うのよね。恋愛なんてしたことが無かったから、最初はなんだか分らず、どうしたんだろうって思ったんだけれど、それが恋だって分かったの。ご免ね、勝手に好きになって。でも、言わないで後悔するより、言って、現実を受け止めた方が良いと思ったの。何か、心のモヤモヤが晴れてスッキリしたわ、諦めが付いたから」

「ワタシも、ワタシもエマさんのことが好きです」

 力強くリアムが答える。

「ほんと! 無理して言ってないわよね」

「本当です、ワタシはずっとエマさんに憧れていたんですから」

「じゃあ、また会ってくれるよね。こっちからは行けないんだから。今度は、私が地球を案内するわよ」

 とリアムを覗き込むようにエマが言うと、

「はい、必ず会いに行きます」

「ぜぇーったいに会いに来てよ、約束だからね」

 リアムにそう約束して、二人は別れた。

 すぐ、リアムに会える、そうエマ思っていたのだが……。



 中学校の教室で、エマの姿があった。

 何もやる気が出ず、授業中にもかかわらず、教室の窓から見える外の景色をボーっと眺めていた。

 必ず行くって約束したのに……何故、来てくれないの? 私の方から会いに行けないのよ、こうしてずっと待っているというのに……会いたい、リアムとまた楽しいおしゃべりがしたい……。


 美青年のリアムのことが忘れられない。それは一種の恋患いだった。

 初めて経験する失恋に、エマは酷く落ち込んでいた。

 ボーッと外を眺めるエマを、複雑な思いでノアが見詰めていた。


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