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オムニバースの英雄 ~ゲーマーがゲームの腕で異世界を救う物語~  作者: 西一
最終章 セカンド ワールドウォー
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訃報

 エマはケビンに育てられたせいか、すっかりお爺ちゃん子になっていた。

 だからケビンの言うことは素直に聞き、しつけの厳しいビレイには反発する。

 可愛い孫のエマは、大宇宙からの贈り物だと常々感謝の気持ちで一杯のケビンは、エマを大宇宙に返したいと常々思っていた。それはエマの幸せを願ってのことで、地球より豊かな大宇宙で暮らした方が、きっと幸せになるんじゃないかと思っていたのだ。


 ライアン一家が、アッパー・イーストサイドの高級住宅街に引っ越しして間もない頃、居間でケビンとマイクがくつろいでテレビを観ていると、

『速報です。ロシアが核兵器廃絶条約に違反し、密かに核兵器を保有していたことが判明しました。各国首脳は、時代の逆行、地球市民の平和への願いに逆らっていると憤っています。今後ロシアは、国際社会からの避難は必死、経済制裁強化でますます孤立しそうです』

 キャスターのビレイが速報を伝えた。


 ビレイは、CBS放送の放送局で売れっ子キャスターとして名を馳せていて、歯に衣着せぬ物言いをするビレイは、聞いていて気持良いと視聴者の信頼も厚い。何より容姿端麗の彼女の放送に、視聴者はテレビの前で釘付けとなった。

「まだあんな無用の長物を持っていたのかよ、よっぽど追い詰められていたんだな。ロシアも大変だな、いつまでも超大国だったソ連時代の栄光を引きずっているんだから」

 自国の優越心を満たそうとするロシアの核兵器保有は、核廃絶への歴史に逆行する愚行であり、核兵器の無い世界を願う国際世論に冷水を浴びせた。

 この地上に、テミスと言うアームキャリーが出現したことで、これまでのパワーバランスを狂わせた。テミスの脅威に窮地に立たされ、焦りを感じ始めたロシアが暴挙に出たのだった。


「おーい、母さんが映っているぞ、エマもこっちに来いよ」

 マイクに誘われ、エマが渋々居間に入って、テレビの前のソファーに座った。

 母親ビレイのストレートな髪質と違って、ウェーブの掛かった髪質がエマは嫌いで、無意識のうちに髪をまっすぐに伸ばそうと触る癖がある。

 癖毛の髪を撫ぜながらエマはテレビを観た。

『では、次のニュースです。三年前に火星を発して地球を目指していた、有人火星探査機が、往復六年を掛けて無事に地球に帰還しました。人類初の快挙に、集まった市民が沸き立っています。関係者の一人は、これで異星人と技術的に肩を並べられたと、自慢げに話していました。また、火星探査の折、クルーの一人が、人工物らしき落書きのような物を発見したそうですが、恐らく、酸欠で幻覚を見たのだろうとのことです』

「あれ、きっとケンジさん達の仕業だろう。それにしても、人類初の快挙だなんて大げさな。異星人と肩を並べただなんてビレイに言わせるなよ、嘘を言っているようなもんだからな。キャスターとして、そこは問題だろ」

 と一人で突っ込みを入れるマイク。

「ビレイさんは、いつ見ても若々しくて綺麗じゃな。十三年連続で、キャスター人気投票一位なんだから、凄いのぉ」

 ケビンが言うと、

「当たり前だろ、俺の嫁だから」

 マイクが誇らしく言った。

 二人のやりとりをよそに、エマはビレイに冷たい視線を送っていた。

 仕事一筋の母の姿に誇らしい気持ちがある一方で、子供の頃から構ってくれなかった冷たさが、心の傷となっていた。


 そんなエマも、中学三年生になった。彼女の隣には、幼なじみであるノア・ルイスがいつもいた。

 ノアは思春期の真っただ中の反抗期。いつしか不良と呼ばれる存在となっていて、同級生の誰もが彼を恐れて近付こうとはしない。

 それは異性を気にして、目立とうとする行為であり、ヒーローに成り損ねた父親、ジョンに失望していたからでもあった。

 怖いもの知らずのノアだが、幼馴染のエマだけには頭が上がらず、素直になれた。


 エマの座席の前にある机の上に座ったノアが、自慢の金髪をクシでときながら、憧れのロック歌手のようにリーゼントスタールでバッチリ決める。が、

「ちょっと、どこに座っているのよ、相変わらず、行儀が悪いんだから。周りの迷惑でしょう」

 とエマが嫌そうに言って構ってくれない。

「いいだろ、俺に文句言う奴いないし」

「そんなんだから、友達が一人も出来ないんでしょう」

「じゃあ、友達ってやつは、ピンチの時に助けてくれるのかよ」

「それはあなた次第でしょう。どうでもいいけれど、何よ、その頭、変な髪形して」

「似合わないか? じゃあ、どんな髪型が良いんだよ」

 と髪をぐしゃぐしゃにしながら言ったノアが、エマに聞いた。

「お前、好きな歌手やアーチストとかはいないのか? その髪型を真似るからさぁ」

「なんで私に意見を聞くのよ?」

「それは、お前の……」

「他の人の迷惑にならなければ、自分の好きな髪形にすればいいでしょう」

「俺の好きな髪形にすれば、変とか言うし……そんなことよりエマ、お前、将来なんになるんだ? なりたい職業とかは、あるのかよ」

「そうね、私は子供が大好きだから、保母さんかな」

「保母? もったいない、ズバ抜けた学力があるのに……」

 意外な言葉が返って来て、呆れ顔のノア。

「そっちはどうなの、何かやりたいこととか、なりたい職種とか。まあ、不動産王の息子だから、好き物はなんでも手に入るんでしょうね」

 エマが皮肉っぽく言うと、

「それは爺ちゃんの代だろ、親父の代になって半分ぐらいの規模になったらしい。親父には商売の才能が無いからな」

「そんなことないよ。事業が半分になったからって、お金持ちには変わりないでしょう」

「金はあっても、手に入らないものがあんだよ、人の気持ち、とか……」

「人の気持ち? 何それ」

「なんでもないよ、鈍いお前に言っても分かんないし。俺はゲーム関連会社とか、行けたらいいんだけどな。で、お前、高校決まったのか?」

「私が決めた訳じゃないけれど、ママが、進学校のA高校に行けって言うから、なんとなくそこにしようかなって」

「A高校だと! 超名門の進学校じゃないか!」

 高校の名前に、自然と大きな声が出た。

「あなたは、どこに行くの?」

「じゃあ、オレも、オレもA高校だよ」

「じゃ俺もって、私に合わせなくても」

「前前から決めていたんだよ。お前を一人にしちゃ、悪い虫が付くだろうが」

「嘘! ゲームばっかりしているあなたが、行ける訳ないじゃない」

「ヌ……勉強が出来なくったって、生きていけんだよぉ」

「あなたはお金持ちだから、そんな呑気なことが言えるのよ。親に何でもしてもらっているくせに、よくもまあ、偉そうに言えるわね」

「ウッ……。この際、高校なんてどうでもいいんだよ! オレを必要とし、迎えに来てくれるスカウトマンを待っているんだ。その時のために備えて、地味で泥臭い練習を続けてきたんだぞ」

「ずいぶん立派な物言いだけれど、それ、ゲームの話でしょう。徹夜で勉強しているんなら、胸を張って自慢出来そうなものだけれど、ゲームじやぁーねぇ。あなたの場合、ゲームが生活の中心じゃない。先が思いやられるわね」

「昔と違って、ゲームだけで食っていける時代なんだぞ。でも、オレのこと心配してくれるのか? ひょっとして、俺のこと……」

「幼馴染として、私が恥をかくのが嫌なだけよ。大宇宙からスカウトマンが迎えに来るだなんて、まだ、そんな夢みたいなこと言っているのね、呆れるわ。向こうの世界は平和になったって聞いたから、スカウトなんて来ないわよ。何より、人に頼られるような存在にならなければ、必要されないわよ」

「…………」

 エマのダメ出しに言い返すことが出来ず黙ったまま、未だにヒーローを夢見るノアだった。

 その時、

「大変、ライアンさん、至急、おうちに帰って。お爺さんが亡くなられたそうよ」

 担任の先生がエマに訃報を知らせた。

 ――そんな! 出掛ける前はあんなに元気だったのに……お爺ちゃん……。


 慌ててエマが家に帰ると、亡くなったのはケビンではなく、もう一人の祖父、ウィリスだった。

 エルナト星からの使者がワームホールを通って、あらかじめ指定された場所で宇宙船が待っていてくれた。



 ウィリスの葬儀のため、大宇宙・オム二バースに遣って来たマイク達。

 エルナト星はエマが幼い頃、よく連れて来てもらった記憶があるが、もう昔のこと。祖父の顔すら覚えていない。すっかり地球人として育ったエマには、まるで別世界に来ているようだった。


 大宇宙は悲しみに包まれていた。誰もがウィリスの死に喪に服していた。

 銀河連合の中心人物として強い指導力を発揮していたウィリスが逝去し、幼いながらもエマは、ウィリスの死を切っ掛けに世界が危険な方向へと向かっていると肌身に感じた。

 エマのただならぬ悪い予感は的中していた。ウォリス亡き大宇宙の主導権争い。目に見えないし烈な攻防がすでに始まっていたのだ。


 かつて、銀河連合は三公と呼ばれる、三つの巨大な勢力によって政治的統合を遂げていた。

 パーシアス(連邦)超銀河団のアルゴル星、シャープレー(連邦)超銀河団のオシリス星、ラニアケア(連邦)超銀河団のエニフ星の三公。

 アルゴル星は、銀河連合随一の最大版図を有し、エニフ星は経済力、オシリス星は科学技術力と、あまたの銀河を凌(しの)ぐ勢力を有していた。

 これら三公によって三頭政治が行われていたのだが、デッドの出現によって、その威勢は急速に低下し、勢力図は大きく変わった。

 エニフ・エルナト両星による主導による新たな銀河連合。

 それを不服としたアルゴル、オシリスの二強が現体制を覆そうと手を組んだのである。

 歯車が狂い出す。

 信じる身勝手な大義がそれぞれの胸にある。ウィリスの死によって、かつての栄光を取り戻さんとするアルゴル、オシリスの、銀河連合の主導権争いが水面下で始まっていた……。

 

 

 エルナト星の若き指導者・スィニが出迎えてくれた。

 ウィリスのそばにいて実務をこなしていたスィニは、まだ人民を引っ張って行くようなタイプではなく、政治の経験も無い。ウィリスの早過ぎる死は、エルナトの、銀河連合の後継者の育成に問題を抱えていたのだった。

 後継者の才能も重要だが、一番重要なのは政治体制。銀河連合の体制が未完成のままウィリスから引き継いだスィニにとって、彼が若いが故に付け入る隙を与えてしまったのだった。


 そんな彼が、ウィリス夫人・ソフィアを紹介すと、  

「こりゃ、どうも。ワシは、いや、私がマイクの父親のケビンと言います」

「まあまあ、遠路遥々来て下さったのに、形苦しいあいさつは抜きにしましょう」

 そう笑顔で挨拶した。

 ビレイに似て綺麗で、まるで姉妹のように見える。つい、ケビンの見入ってしまった。

「駄目だぞ、親父、俺に恥をかかせるなよ」

 マイクが小声で言ってケビンに釘を差す。

「分かっとるわい、ワシの妻は今でもエミリーだけじゃ」

 とケビンも小声で言い返した。

「ご免なさい、お父さんが重い病気になっていたなんて知らなかったから。でも、どうしてお父さんが病気であることを知らせてくれなかったの」

 ビレイが母、ソフィアに言った。

「あなたは、もう地球人なのよ。だから、ウィリスに口止めされていたの。家族を大事にして欲しいと願い、知らせないでくれと念を押されていたの。あの人は、重い病気だった。だから前線に出ないで後方で指揮に専念していたのよ。延命処置をすれば長く生きられたのだけれど、彼はそれを拒んだ。でも、ウィリスは死ぬ直前、笑って言った。兄、プレイストとまた冒険が出来るんだと」

「お父さん……私、勝手なことばかりして……」

 歯を食いしばって悲しみを堪えるビレイ。

「強がらずに、泣けばいいんだぞ。ウィルスさんの、一人娘じゃないか」

 マイクの言葉に、今まで堪えていた悲しみが一気に噴出し、その場に崩れるようにしゃがんだビレイが大泣きした。

 マイクとケビンがビレイの悲しみを受け止める。エマも一緒に涙を流した。



 ウィリスの遺体は、祈りの場所、教会のような建物の中に安置して、お別れを告げる一般の人々に開放された。

 粛々と葬儀が行われ、柩に入った遺体と最後の別れを告げる儀礼が行われた。


 葬儀の後、ウィリスの遺体は、英雄の丘と呼ばれる、街を見渡せる丘の上、師・プレイストの眠る墓の横に埋葬された。

 ウィリス愛用のGスーツや、思い出の品々を乗せたカプセル船が飛んで行く。常に平和な世界を願い続けていたウィリスの魂は、生まれ育った故郷のアリオト母星跡へと旅立った。


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