再会
格闘ゲームの祭典が開幕。
世界各国の格闘ゲーマーがアメリカ・ラスベガスの会場に集結し、世界最強の座を争うエボの大会が始まった。
会場は熱気に包まれていて、マイクは日本行きの資金を稼ぐため、また、ライアン家にとって、待望の自家用車を手に入れるための資金を得ようと力が入った。
「無理しなくてもいいから」
と言うビレイの言葉とは裏腹に、マイクへの期待度は否応なく高まっている。
観客席は超満員、トッププレイヤーの試合を観戦するために大勢の海外ファンが足を運び盛り上げてくれる。試合の様子はテレビ中継された。
参加選手が多いため、予選は同時並行で行われる。観戦は自由なのでビレイとケビンはマイクの近くに寄った。
声援を送るビレイに対して、だかがゲームごときでこんなに盛り上がるのかと、ケビンは信じられない様子で熱気に包まれた会場を不思議そうに見渡していた。
エボの大会は、三日間に渡って各国の強豪選手と熱戦が繰り広げられる。
会場は大いに熱狂し、スポーツ観戦となんら変わらない熱気と感動を味わう接戦、歓声が上がり、会場が一体となって試合を見守った。
三日間に渡るトーナメントを経て、世界チャンピオンを決定する。
圧倒的な強さで、マイクはベストフォー進出。準決勝でマイクの前に立ち塞がったのは、三人衆の一人、ルークだった。
前大会の準優勝者。実力はある。
手加減なしの本気勝負。マイクの目付きが変わった。
ルーク得意の素早い連続攻撃に、防戦一方のマイク。
だが、それがマイクのプレイスタイル。反撃に出たマイクがヒットの連打を浴びせてルークをK・O、見事に勝利した。
決勝は前回優勝者のジョン・ルイス。抜群の判断力を武器にワンセットも落とさず、完全試合でトーナメントを勝ち上がり、早々とグランドファイナル進出を決めていた。
ライバル達をねじ伏せ巡って来た決勝戦。
「上司だからって、手加減はしないよ」
とマイクが言うと、
「手加減されるほど、俺は弱くはない。全力で来い!」
とジョンがあおった。
『レディー、ゴオ!』
今大会注目の対戦が始まった。
国籍も関係なく純粋にゲームを楽しみ声援を送る観客。海外のフアンから寄せられる両選手への熱い声援。
息詰まる大会会場。観客は固唾を飲んで勝敗の行方を見守った。
優勝がかかる緊張する場面、互角の戦いを繰り広げていた二人。
ジョンの必殺技を交わし猛攻を耐え凌ぐ。
やはり、マイクは強かった――。
接戦に持ち込んだマイクは、その全ての攻撃を受け流した後、連続技を決めて勝利を収めた。
マイクの優勝が決まると、観客は総立ちになって拍手と声援を送った。
試合後に握手する両選手。熱戦の末に勝利を収めたマイクを素直に祝福するジョン。
当然、ケビンとビレイは大喜びで抱き合った。
優勝賞金を手に、マイク達はその足で中古車販売店へと直行した。
お買い得車両がズラリと並ぶ駐車場に入って、興奮気味のマイクが嬉しそうに展示してある車を見て回った。
マイクは見た目がカッコ良いクーペタイプの車を狙っていて、真っ黒なシボレーコルベットコンバーチブルに釘付けになった。
「これに乗って海岸線を爆走すると、気分爽快だろうなぁ」
マイクが言うと、
「これ、良いわね。二人きりのデートが盛り上がりそう」
ビレイが嬉しそうに言った。
二人が楽しいドライブを想像しながら見ていると、
「そんな室内の狭い車、使い勝手が悪いじゃろ」
とケビンが一蹴。
「そ、そうですよね」
ビレイが慌ててケビンに合わせて言う。
仕方なく諦めたマイクが、今度はセダンタイプのキャディラックに見入った。
「そんなごっつい車、見るからに燃費が悪いじゃろ」
また却下された。
「なら、EV車か、最近はイカしたデザインの車もあるからなぁ」
「電気自動車なんて、ありゃ、車じゃないないじゃろ。エンジン音と震動が無けりゃ、ワシは認めん」
その場を勝手に仕切るケビンに、
「そ、そうですよね」
と、頭が上がらないビレイはうなずくばかり。
つくづく親父を連れて来るんじゃなかったとマイクは後悔する。
「あれじゃ、あの大きなやつ、ワシゃ前々から、あれに乗りたかったんじゃ」
ケビンの指した方を見ると、フルサイズバンの真っ白なシボレー・エクスプレスだった。
「あれこそ、燃費が悪いだろ」
呆れながらマイクが言うが,
「これじゃ、これにしょう」
と勝手に決めた。
親父が乗るんじゃないだろうに、とふて腐れ、思い描いていた車とずいぶん変わってしまってマイクは意気消沈した。
アメリカの自動車販売は、購入したその場で即時納車なので、その日のうちに乗って帰ることが出来る。
買ったばかりの新たな相棒、シボレー・エクスプレスに乗り込み、その足で日本旅行の買い物に出掛けた。
「このスペースなら不自由ないじゃろ」
後部座席に座っているケビンが、運転するマイクに言った。
「不自由?」
「常々、物足りないって言ってたじゃろう、あの声はビレイさんじゃないのか」
「そうか! そのために、こんな大きなバンを選んだんだな。親父に遠慮なく、存分にあれが出来るってってもんだ」
「あれって、何?」
ビレイがマイクに聞くと、耳元でマイクが囁くように言った。
「カ、カーセッ……そんなこと、私は……それに、物足りないって……」
喜ぶマイクとは違って、今まで築き上げてきた良妻としての地位が一気に崩れ、ビレイが固まった。
「洗濯をしていて思ったんじゃが、もっと派手な下着を穿いたらどうじゃ。こいつも今以上に燃えてくれるんじゃないか?」
「親父,たまには良いこと言うな。ビレイにはそういう良い気遣いがないんだよな。だからムードが出なくって」
「すいません、お父さん、家事の一切を任せっ切りで」
とビレイが申し訳なさそうに言うも、
「親父も楽しんでやっているんだから、気にすることないよ」
マイクは、ケビンが家族の役に立っていることを喜んでいると言ったのだが、
「楽しみ? はぁ……。私ので喜んでくれるのなら、遠慮なくお洗濯も頼みます」
「喜んで? はて、なんのことやら……」
もちろん、ケビンには意味が分からず、親子そろって性癖があるのだと、相変らずのビレイの勘違いが続いていた。
「お父さん、実は私達、ニューヨークに住むことに決めたんです」
後部座席に座っているケビンに振り向きながら、改まってビレイが言うと、
「それは良かった。これでお前達も、楽しい夫婦生活が出来るじゃろう」
ケビンが安心した表情で二人を交互に見やった。
「いえ、お父さんも一緒に来て欲しいんです」
「ワシもか? 前にも言ったが、ワシなんかがいると生活し難いじゃろう。ビレイさんのお陰で、麻痺して動かなかった体も全開になったんじゃ、一人で十分暮らしていけるよ」
「あのぉ、お父さんには、子供の世話を頼みたいので……」
ケビンを引き留めようと、思わず『子供』という言葉を口にした。
「そうか! 子供が出来たんじゃな。それじゃ遠慮なくワシもニューヨークに行こう。一度、セレブの街に住みたかったんじゃ」
「いえ…」
と言い掛けたビレイをマイクが引き留める。
「なんだかんだ言っても、俺がヒーローになれたのは、パイロットとしての親父のテクニックを受け継いだからなんだよな~。これで親孝行が出来るってもんだ」
「そうかそうか、ワシの孫が……」
喜ぶケビンをよそに、ビレイの気持ちは沈んだ。
アメリカ・ロサンゼルス発、関西国際空港の直行便の乗り込んだライアン一家。
大阪に到着すると、ヒロト達が迎えに来てくれていた。
ヒロトに会っていきなり、
「もう、やったのか?」
マイク嬉しそうに聞くと、
「開口一番、いきなりそれかよ。ああ、やった、やったよ、数えきれないぐらいにな」
ヒロトが笑いながら答える。
間に挟まれているサラが真っ赤な顔をしてうつむいた。
「もぉ~、サラちゃんが困っているじゃないの」
ビレイが間に入ってサラをかばうが、
「あのな、結婚するんだぞ、二人。そんなことで、いちいち固まっていちゃ、先が思いやられるだろ」
「デリカシーの無い、あ・な・た・とは違うのよ」
ビレイの突っ込み。
「で、ユウマの方はどうなんだよ、その後、ユアちゃんとは何か進展があったのか?」
「僕、僕ね、ユアさんの……」
興奮気味にユウマが言うから、その先が聞きたくなり、
「お、おう、そうか、お前もユアちゃんと、とうとう……」
「ユアさんの胸、触わったんだぁー」
「そうか! それで」
「それでって、ユアさんが触らせてくれたんだよぉ」
「……そ、そうか……、とうとう、お前も大人の仲間入りになったんだな」
一瞬の間が空き、複雑なマイクをよそに、
「うん」
とユウマ嬉しそうに返事した。
マイクが視線をユアに向けると、ユアが良からぬ話なのかと不安そうにこちらを見ていた。サラちゃんより積極的なのに、先を行かれて可哀想だな……心の中でマイクは同情する。
「それはそうと、もう、そろそろなんだろう? 二世の誕生は」
ヒロトが声を掛けるが、
「それが……」
そう言ってマイクがビレイを見た。
愛し合っている二人に、未だに子供の生まれる兆候がない。ビレイにとっては深刻な悩みだった。
不妊の原因は自分にあるのだと責任を感じ、彼が自分から離れて行くのではないかと案じるビレイは、マイクには内緒で不妊治療を受けていたのだった。
「俺達、妊活の真っ最中なんだけど……妊娠を望むも、このまま生まれないのかもな」
ビレイをかばって、半ば諦めたように言うと、
「心配ないわ、私もそうだった、と言うより、みんなよ。相性が悪いみたい、地球人とは。あ、そうそう、南に行った所に、子宝と安産に御利益のある子授け、子宝に恵まれる住吉大社があるから、そこに行ってみると良いわ。私達も、お参りした直後に妊娠したんだから」
二人の間に入った、小柄な医者のサヤカが言った。
そんなサヤカの医学的な話にビレイが興味深く聞き入る。
「何を言っているのか、俺にはサッパリ?」
英語が通じないケンジには彼らの会話についていけない。
アカリが小声で通訳する。
「医者の私が言えることは、適したタイミングで子作りすること、より妊娠しやすい体にするための生活改善を行うことかな。あと、酢の物や甘い物を取ると良いよ。妊娠する確立が高くなるそうよ。あまり深刻に考えないで、悩むことが一番体に悪いから。いつも通りにしていれば、そのうちポンポンと生まれて来るわよ」
「ポンポンって、お前なぁ、ニワトリの卵じゃあるまいし、そんな簡単に生まれる訳ないだろう」
ケンジが呆れながら言うと、すかさずサヤカが言い返した。
「それが良いのよ、深刻に考えるのが悪循環、気楽にいるのが一番良ことなのよ」
「俺は英語が出来ないけど、雰囲気だけでも、案外伝わるものなんだな」
二人のやり取りはまるで漫才師のようなボケとツッコミ。
成長したユウマが恥ずかしがりながらも、二人のやり取りに、昔の懐かしい光景を思い起こして思わず笑った。
「お父さんはF‐14に乗っていたんですよね」
リックがそう言ってケビンに近付いた。
「あんたも、英語が出来るんじゃな。あんた、F‐14を知っているのか?」
「艦上戦闘機ですよね。陸上機に比べ、常に動いている空母の、限られた甲板上のスペースに着艦する操縦技術には頭が下がりますよ。自分は航空自衛隊員で、かつてF‐15に乗っていたことがあるんです。あの芸術品のように整然と並べられたアナログの計器。何より、洗練されたフォルム、実にカッコ良い機体ですね」
「そうじゃろ、分かる人には分かるんじゃな。何がアーム・キ…なんじゃったか、あんなロボットなんかより、ずぅーっとカッコ良いわい。あんたとは、気が合いそうじゃな」
元パイロット同士、ケビンとリックとは馬が合うようだ。
「今晩、泊まるホテルとかはあるんですか?」
不意にリックが尋ねると、ケビンがマイクの愚痴をこぼす。
「あの馬鹿、無計画に来たもんじゃから、安いホテルが無くて困っておるんじゃ。どこか、格安で泊まれる所はないもんかの」
「畳敷きの布団に寝ることになるんですが、それでも良ければ家に来て下さい」
「和室かぁ、初めての経験、外国に来たんだと実感出来るぞ」「新鮮で良いわね」
マイクとビレイが喜ぶも、
「ワシゃ、ベッドでなきゃ寝れないんじゃが……」
ケビンが小さな声で呟いた。
ケンジとマイクが対戦ゲームを行うために、最近流行のeスポーツカフエに足を運んだ。
店内に入ると、「お! 世界チャンピョンだ!」と声が上がった。
すぐさまマイクの周りに客が集まって来る。
世界チャンピョン直々のお出ましとあって、店のオーナーが「お金はいいです」と、料理まで運んで来てくれた。
あとでサインを、と言いつつ、試合の様子は動画配信させてもらいますんで、と店の宣伝も怠らない。
ビック待遇の扱いに、当のマイクは鼻が高い。
「で、誰が世界チャンピョンの相手をするんだ?」
と客が首を傾げるも、対戦相手は無名のケンジ。
「誰?」との問いに、元ヒーロー、と声には出さず心の中でケンジは答える。
大宇宙の覇者二人の頂上対決、居合わせた誰もが新旧ヒーロー対決が行なわれているとは知らない。
世紀の対戦、宇宙最強の称号を掛けた戦いが、熱く、そして静かに行われた。
実力伯仲――お互いに譲らない一進一退の試合。
タイムオーバーまでもつれるも、体力ゲージはマイクの方が僅かに長かった。
「一地方のゲーマーと世界チャンピオンじゃ、勝てないよなぁ」
とケンジが強がって言っているものの、余裕の無い苦笑い。
「俺は格闘一本だけど、ケンジさんは全てのゲームに精通しているから、その差が出たんだろう」
とマイクは謙遜するも、憧れのケンジに勝てたことが嬉しく、表情がにじみ出ている。
ユウマが笑い、ユアとアカリが少しガッカリしていた。
ライアン一行は、しばし大阪観光。
なにわのシンボルタワー・通天閣と共に、新世界は大阪観光では外せない。
通天閣に登った後は、ふもとに並ぶ串カツ屋でおやつ代わりの一口をつまむ。下町情緒が今なお色濃く残るノスタルジックな空間、ディープな世界を楽しんだ。
その後、難波・道頓堀でお好み焼き、たこ焼きを食べた。
お好み焼きの焦げたソースの匂いが食欲をそそる。たこ焼きを一気に口に含んだケビンは火傷するも、カリッ、トロ~、プリッ、大阪のソールフードを存分に味わい、粉物の料理だけで満腹になった。
マイク達にとって、道頓堀の街はロサンゼルスにも似ていて、エンターテイメントを提供してくれる。そのせいもあってか、すれ違う通行人も外国人観光客が多い。
ド派手な看板、南の街を彩る個性とりどりの巨大看板たち。戎橋からグリコのランナーと一緒に記念撮影するなどして、大阪観光を存分に満喫したのだった。
翌朝の天気は快晴、ヒロトとユアの新たな門出を祝ってくれているかのように青く晴れ渡っていた。
大阪万博公園内での結婚式。緑豊かな自然に囲まれたチャペルで永遠の愛を誓うヒロトとサラ。
姿こそ見えないが、マルスにアレス、レイアのアームキャリーも、二人の結婚を祝福していた。
挙式の後に行われるブーケトス。サラが後ろ向きになってウエディングブーケを投げた。
投げたブーケを受け取ることが出来れば、次に幸せになれるという言い伝えがあるとあって、ユアは真剣そのもの、殺気立ったユアが周りの者を押しのけ、投げられたブーケを見事にキャッチした。
ゲストに新郎新婦をお披露目する場である、レセプションホールでの披露宴は大いに盛り上がった。
ヒロトの人柄の良さに多くのゲストが詰め掛けていて、出席者の中には、俳優としてスカウトしようと芸能人関係者もいる。
食事やお酒でおもてなしを受け、余興や演出で盛り上がった披露宴。
華やかなヒロトとサラの結婚式を祝ったライアン一家は、住吉大社の守りを携えて帰国の途に就いたのだった。




