平和の使者
戦争は終わった。
チーム・オメガは解散し、それぞれの故郷に帰還した。
アメリカのサンディエゴに帰ったマイクとビレイ。
求人募集をしている企業からの、採用通知の返信を期待して、マイクはパソコンと睨めっこする日々が続く。一方のビレイは、CBS系列のテレビ局のキャスターとして働き、家族を養っていた。
そんな二人は、夜な夜な徘徊する癖のある父親・ケビンが、ボケきているのかと心配していた。
秘密の浜でサーフィンの練習をするマイク。沖に岩礁があるため、波は穏やかで初心者向けの場所、誰にも知られず練習が出来た。
「なんでそんな簡単なことが出来ないかなぁ~」
溜息交じりの声でビレイが言った。
ビレイの指導の下で練習をしていたマイクだが、彼女に良いところを見せたい一心で頑張るも、なかなか上達しない。
足がぎりぎりに届くポイントに着いて、サーフボードに横ばいになったマイクを、来る波に合わせてビレイに押してもらう。
「次の波で行くわよ」
ビレイに押されたボードが波に乗って勢い良く前進するも、ヘッピリ腰のマイクが立ち上がろうとすると、その直前に乗っているボードからマイクが落ちる。
立つどころか身動きも取れずにバランスを崩して転倒。失敗するたびに口や鼻に海水が入った。
「重心を意識して、立つ時は素早く、目線は常に前。波を恐れていちゃ、上達しないわよ」
ビレイのアドバイスをもらい、次こそはと思うのだが、波に流されてはスタート地点に戻ることを繰り返し、実に情けない姿を晒してしていた。
地球に戻ると超人的な力は無くなり、ごく平凡な人間に戻る。何より一年間のブランクがあり、そのギャップに当然戸惑う。それはヒーローとして、避けては通れない宿命であった。
「もうこんな時間だわ。ご免、昼から仕事が入っているの」
ビレイが申し訳なさそうに言うと、
「そうだった。悪いな、忙しいのに付き合ってもらって」
弱々しい声でマイクが返事した。
「ううん、私の方こそ、休みが取れなくてご免ね」
サーフボードを小さな洞穴に仕舞い、二人は水着の上からパーカーという着こなしで家路を急ぐ。
ビレイの後をトボトボと歩くマイク、その足が止まった。
ビレイが振り返ると、しゃがみ込んだマイクが呟くように言った。
「俺、俺何やっても駄目だ、駄目人間なんだ……」
「マイク……」
この時ビレイは、マイクがどん底の状態で苦しんでいるのを知った。
自分が出来過ぎるばかりにマイクを追い詰めていたのだと、この時初めて気付いたのだった。
「ご免ね、私、あなたがこんなに悩んでいるなんて知らなかったの。妻として失格よね……。いいのよ、無理しなくても。向こうで、エルナト星で暮らせばいいじゃない、お父さんも連れて行けばいいじゃないの。男だからって無理しなくても、泣いてもいいのよ。誰もいないんだし、思いっ切り泣けばスッキリするわよ」
無理に笑顔を作ったビレイがマイクを抱き締めると、その胸の中でマイクは泣いた。
ビレイは泣き崩れるマイクの頭を優しく撫でた。鳴き声は波の音に掻き消された。
「……もう大丈夫、思いっ切り泣けたからスーッとしたよ。波の音と、ビレイの鼓動を聞いて思ったんだ。胎児が羊水の中にいて守られているように、俺も、あの広大な海や、ビレイに守られているんだと。特に、ビレイは男勝りでしっかりしているから、頼り甲斐があるよ」
「男勝りって、それ、どういう意味よ」
口を尖らせながらビレイが言う。
「ビレイが、情けない俺を見限って離れて行くんじゃないかと、ずーっと心配していたんだ」
「見損なわないでよ。そりゃ、マイクよりカッコ良くて頼り甲斐のある男性はいるけど、その、あのぉ……あれっ、何言ってるんだろう、私……」
「ア、ハハハー、それ、慰めになってないぞ」
マイクに笑顔が戻った。
「マイクに泣き顔は似合わない。笑っている顔が一番、笑っているマイクが私は好きだから」
「でも、以外だな~、美人でもするんだな。朝飯食ってなかったからか、グルグルって、お腹が鳴っていたぞ」
「やだ、私ったら、恥ずかしい。ご免ね、こんなシリアスな場面で、はしたないことして」
「嘘、冗談だよ、冗談……ん? 怒らないか」
冗談を言うのはマイクの口癖、でも、こんな大事な場面で言うと必ずビレイは怒り出す。
「もう、怒ったりしないわよ。だって私、今が一番幸せなんだから。私にとってマイクはヒーロー。それを独り占め出来るんだから、嬉しいに決まってるじゃない」
「ヒーローか~、まだ俺をそんな風に見ているんだな……ありがたいよ」
ビレイの『今が幸せ』と言った言葉に救われ、張り詰めていた気持ちが楽になった。
「私にも悩みごとがあって、言うべきか悩んでいたの。私ね、ニューヨークの本社に行かないかって誘われているの。給料は何倍も高いし、住まいの面倒まで見ると言ってくれているのよ。何より、休みが多いから、あなたと一緒にいられる……」
「そんなことで悩んでいたのかよ。迷うことないだろ。俺にとってもニューヨークの方が仕事も多いし、向こうにだってロングアイランドっていうサーフィンが出来るビーチがあるんだ。ニュージャージー州にあるガニソンビーチは全裸で泳げる場所、親父にとってパラダイスだろう。そもそも、ニューヨークは世界で一番華やかな街、故郷のエルナトに似ていると思うんだけどな~。家族なんだし、俺や親父に遠慮することなんてないんだぞ」
「うん、分かった、ありがとう。今度、お父さんに相談してみるわ」
断崖の迫った細長い海岸線を歩いていた二人が、開けた浜辺に出て来た。
休日とあって大勢のサーファーがいる。
二人は朝食と昼食を兼ねた、名物のハンバーガーを食べながら歩いた。
「いつ食べても美味しいわね。どうやったらこんな味が出せるのかしら」
どんな食材を使っているのか、ソースの成分はなんなのかを分析するようにビレイはハンバーグを味わった。
完璧なビレイにも苦手なものがある。それは料理。いつも周りの者が用意してくれていたから、一度もキッチンに立つことが無かった。料理とは食材と調味料との組み合わせに加え、味覚のセンスが必要で、料理経験の無いビレイには、それが頭の中で組み立てられないのである。
彼女とは反対に、マメなマイクは料理が得意。マイクの妻として、彼に美味しい料理を作ってあげたいという思いから、ビレイは密かに料理教室に通っていて、日々、創作料理の勉強中だった。
サーファー達が楽しそうに波乗りしているのを横目で見ながら、
「いつになったら、デビュー出来るんだろう」
と羨ましそうにマイクが言った。
「そのうち出来るようになるわよ。そんな簡単だったのか、って思える日が来るわ」
「いつのことやら……」
がっくりと肩を落としながらマイクが言う。
そんな彼の手をビレイが強く握り締め、二人は家路を急いだ。
家の前でケビンと鉢合わせになり、気まずそうにケビンが紙袋を隠した。
「何隠したんだよ、酒か、酒だろう。やめたんじゃなかったのか? 見せろよ!」
二人が紙袋を奪い合ううち、困惑するビレイの足元に紙袋が落ち中身があらわになる。
それは赤ちゃん用の玩具だった。
「いや~、早く初孫が見たくてのぉ。女の子が生れるんじゃないかと思って買って来たんじゃ。もうそろそろなんじゃろう?」
ガラにもなくケビンが照れながら言った。
「……ご免なさい、まだ兆候は無いんです。初めて会った時、子供を連れて来ます、って偉そうに言っておきながら、本当にご免なさい、お父さん」
申し訳なさそうにビレイが言って深々と頭を下げる。
「別に謝らんでも。あんたがいてくれるだけでこの家も明るくなり、こいつもまっとうな人間になったんじゃ。ビレイさんには感謝しているよ」
ケビンの言葉でビレイは目頭を熱くした。
何より、ケビンに認められたことがビレイは嬉しかった。
「今日も仕事だって! じゃ、いつ休むんじゃ? 少しは休めばいいじゃろ。ずっと働きっぱなしじゃないのか。朝から晩まで、そのうち体を壊すぞ。夫婦なんだから二人一緒、たまにはマイクに頼ればいいじゃないか、って、今のこいつには頼れないか」
「それを言うなよ、親父。余計に落ち込むだろう」
「マイクには、返しても返し切れないほどの恩があるから。今度は私が報いる番です」
「あっちへ行っとった時の話か。そこで何があったのかワシは知らんが、こいつがやりたいことをやっただけのこと、人間として成長させてくれたんじゃ。そもそも、恩なんて思わんでくれ。そう力んでいちゃ長続きはせん。人生、これからが長いんじゃ、もっとゆっくりすればいいんじゃないのか。ワシらを育てた、静かで大きな海のようにな」
「そうはいかないんだって。ビレイがいなけりゃ、会社が回らないんだってさ」
「ワシにはさっぱり分からん。あんたも物好きじゃな、こんな田舎暮らしじゃ苦労するじゃろう。あっちに帰ったらどうなんだ。あっちの世界じゃ、あんた、王女様のような身分だったんじゃろ、何不自由ない暮らしが出来るのに、もったいない。ワシゃ、一人でも困らんぞ。二人のお荷物になる方が、よっぽど辛いわい」
「何言ってんだよ、俺達のために頑張って働いているんだろ。二人無職なんだし、ビレイの口から帰りたいって言えないだろ」
「あの~そのぉ~、私、働くのが好きなんです、生きがいなんです」
と言ったビレイをマイクとケビンが見詰める。
見え透いた嘘に、気まずくなったビレイが、
「今から着替えるので、シャワー浴びてきます」
そう言って浴室へ向かった。
そのビレイの後ろ姿をマイクとケビンが更に見詰める。二人の視線は、Tバックに近いビキニの、食い込んだお尻に向けられた。
「あの、お尻のハート模様がたまらん。それに、益々美人になっとるな。初めて会った時は色白で、髪は短かったんじゃが……元々色白だから小麦色とは言えんが、すっかり海の女に染まったな」
ケビンがしみじみと言った。
「益々俺好み」「ワシもじゃ」
二人が顔を見合せ、
「親父もか? 駄目だぞ、俺の嫁なんだから」
マイクが言うと、即座にケビンが言い返す。
「分かっとるわい、誰が息子の嫁に手を出すか。ただ、支えてやりたいだけじゃ。何事も一生懸命のビレイさんを見ていると気持ちが良い、実に無駄のない生き方をしておるわい」
マイクも同感し、大きく頷いた。
パソコンにメールが入っていた――。
「ヒロト君から、結婚式の案内が来てるわよ」
浴室から出てスーツを着たビレイが、長い髪を後ろに結びながら言った。
「結婚式の案内だって! ついにあいつらも結婚か。もちろん、行くに決まってんだろ」
「ユウマ君も、名門大学に入ったって。驚いたことに、ユアちゃんも一緒だそうよ。ユアちゃん、勉強が苦手だって言ってたけど、ユウマ君と一緒にいたい一心で猛烈に勉強したみたいね」
「一緒にいたい? か。どうかな、大学っていう所は綺麗な女の子がいるから、ユウマの浮気が心配だったんじゃないのか」
「ユウマ君はそんな子じゃないわ。それはあなたが一番よく知っているんじゃないの」
「ああ、分かってるよ。でも、すっかり取り残されたな~。ヒロトは結婚、ユウマも勉学に励んでいるそうだし、俺も頑張って仕事を見付けないと、兄貴として恥ずかしいからな」
「日本に行くたって、肝心な金が無いじゃろう。国内旅行じゃないんだぞ、全く呑気な奴だ」
計画性の無いマイクに呆れながらケビンが言った。
「お金ならあります。車が欲しいってマイクが言っていたから、喜ばそうと貯金していたんです」
「俺のために、か、泣かせるな~。でも、俺に任せろよ。近々、エボの大会があるんだ。優勝賞金は毎年上がっているからな。こっちの世界じゃゲームだけは誰にも負けない得意分野、実戦で経験しているから、尚更負ける気がしない。まあ、ケンジさんが出場するんなら話は別だけどな」
「伝説のヒーローと言っても、もう年なんだし、マイクが勝つに決まっているわ」
「あのな、こういうのは経験がものをいうんだよ。ちょうど良い機会だ、三人まとめて面倒みるよ。ついでに日本観光しょう。確かオオサカは、タコヤキやクシカツが美味しいって言ってたから、楽しみだな~。時間があれば、ケンジさんと対戦ゲームをやりたいな」
マイクが、憧れのケンジとの新旧ヒーロー対決を楽しみにした。
「……三人って、ワシも行くのか?」
驚いたようにケビンが聞く。
「他に誰がいるんだよ。快復祝いだよ。ビレイとは新婚旅行だしな」
「偉そうに言いおって。そんな大会を当てにせんと、早く仕事を見付けろよ」
ケビンのダメ出し。
「まあ、そう言うなって。暇な時間にサーフィンの練習が出来るんだ。ビレイが空いた時間にサーフィンを教えてくれるから、憧れのサーファーに一歩近付けるんだぞ。彼女、運動神経がズバ抜けているからな、すでにプロ級。物珍しさに教えてやったのに、今じゃ俺のコーチだぜ。美人でスタイル抜群だから、直ぐに人だかりが出来るんだけど、全く出来ない俺を気遣って秘密の場所で特訓してるんだ。親父が教えてくれた、あの秘密の場所は良いぞ。家は狭いからな、開放感のある砂浜は、実に爽快で気持ち良いんだ」
「マイクったら! お父さんの前でなんてこと言うのよ」
ビレイが真っ赤な顔になりながらマイクを睨む。
「夜の営みはいつしているんだと気に掛けていたじゃが、そこでしているのか? マンネリを防ぐにはもってこいの場所じゃな。ビレイさんも真面目な顔して、やることはやるんじゃの。やはり、美人ほど性欲は強いんじゃな」
「当り前だろう、俺達、愛し合っている夫婦なんだから」
「たまにですよ、ほんと、たまに……すみません」
ビレイが申し訳なさそうに小声で言った。
ケビンの、良き娘になろうと努力していたのが台無しに。隠し事の出来ないマイクの性格は、ビレイにとって唯一の嫌な部分だった。
「別にいいじゃないか、お盛んなことは仲が良いってことじゃろ。ワシゃ、二人を気遣って夜に出掛けるようにしとるんじゃが、そうか、そうだったのか」
そう言いながらケビンがニヤニヤと笑みを浮かべた。
「じゃ、夜な夜なの徘徊は、ボケたからじゃなかったんだな。それならそうと早く言ってくれればいいのに。俺達心配していたんだぞ。でも、それなら日にちを決めようぜ、その時だけ親父が外に出て行ってくれればいい」
「日にちって?」
ビレイにはなんのことだか分らない。
「そりゃ、あれ、あれする日だよ。ビレイが物足りないって愚痴っていたから、これで心置きなく激しいのが出来き、満足させられるってもんだ」
「も、物足りないって、そんなこといちいちお父さんに報告しなくても……それに、散歩から帰って来たお父さんに、どんな顔をして接すればいいのよ、恥ずかしくて何も言えないじゃない。それこそ、それこそ夫婦だけの秘密でしょ」
ビレイが口を尖らしながら不満そうな顔をするも、ケビンの前では怒れない。
「ガ、ハッハーッ。あの大らかな海のせいかも知れんが、こいつは隠し事をしない性格での。つくづく思う、こんな奴のどこが良いんだか。若い二人が、ワシと薄い壁一枚で仕切っただけの狭い家に一緒に住んでいたんじゃ、プライベートもあったもんじゃないじゃろう」
「まあ、愛し合っている俺達には、ベッド一つさえあれば良いんだよな」
二人が見合わせ頷いたのを見て、幸せ感が伝わってきたケビンが納得した。
「じゃ私、行ってきます。なるべく早く帰って来ますから」
そうケビンに言った後、マイクとキスを交わしたビレイが慌ただしく出て行った。
その彼女が突然、玄関先で悲鳴を上げる。
「あんた達、何故ここに!」
ビレイの悲鳴に、
「どうしたんだ! ビレイ」「何があったんじゃ! ビレイさん」
慌てて二人が出てみると、ジョン、ルーク、ホセの三人衆がいた。
「全く、しつこいなぁ、お前達。また俺の命を狙って来たのか?」
呆れながらマイクが言うと、
「あの時はすまなかった。お前のせいで夢が消えたから、腹いせにやっただけ。でも、デッドとかいう奴に操られていたんだ、本当にすまない」
そうジョンが言ってマイクに詫び、更に続けた。
「実は、お前と一緒に仕事がしたいんだ。俺達の仕事を手伝ってくれないか? 頼むよ」
「駄目よ、マイク、悪いことに関わっちゃ」
悪いことだと決め付けたビレイが心配そうに言って、三人衆を睨む。
「こう見えても俺達、公務員だぜ。連邦緊急事態管理庁(FEMA)のレスキュー隊員として雇われたんだ。お前、今でもあの馬鹿デカイ、ロボットに乗っているんだろう。そこに幹部達が目を付けて、災害救助にロボットを利用するという条件で俺達を雇うんだって。俺、親に勘当されて無一文になったんだ。食うに事欠く生活が続いてよ、だから、お前の協力が必要なんだ。お願いだ、この通り。なあ、いいだろう、兄弟。いや、社長」
「社長? 随分俺を持ち上げるな。それに、いつから兄弟になったんだよ、全く……」
三人衆が深々とマイクに頭を下げた。
決め兼ねたマイクがビレイを見やると、
「ふぅーん、人助けなら良いんじゃないの。これであなたも無職じゃなくなるね。私も、夫が無職じゃ肩身が狭かったんだから」
チラッとビレイが本音を漏らした。
「おまえ、空飛ぶロボットに乗っているのか? なら乗せてくれ、久しぶりに空が見たいんじゃ」
ケビンは元海軍パイロット、未だに空への情熱があり目を輝かせる。
「俺のカオスは消滅してビレイのテミスしかないが、姿を消しているから、その辺りを飛び回っているんじゃないのか。親父が乗ったら、余りの速さに腰を抜かすぞ」
「馬鹿言え、ワシが乗っとったF‐14の方が断然早いわい。音速を超えるんじゃぞ」
「音速越えだって? こっちは光の速さよりも早いんだぞ。そもそも、次元が違うんだよ」
「そんなに、凄いのか?」
テミスの速さが想像出来ないケビン。
「乗ったら分かるよ。やたら速いのにGが感じられない優れもの。だから、子供でも乗れるんだ。テミスだと、どこへでも行けるんだけど、パスポートが無いと密航者になるからって、法律違反は絶対駄目! ってビレイが厳しく言うんだ」
「あっ、もうこんな時間。それじゃ行ってきます、お父さん」
とビレイが言って勢い良く出て行った。
「ワシも仕事をしようと思って、なじみの海軍に寄ったんじゃが、愚痴とったぞ。異星人のせいで世界中の軍事力が無力になったから、縮小され無職になるんだって。置き土産のお陰で、めっきり争い事が無くなったからな。人工知能とやらを搭載しているから、攻撃を感じたらすぐさま反撃するんじゃろ。宇宙から地上に、常に睨みを利かせているから、みんな反撃を恐れて争いが無くなったそうじゃ」
「自分達が神と崇める衛星が、実際に空の上で見守っているんだ、悪い事なんて出来やしない。その相乗効果で犯罪も減ったしな。たった四機の衛星、争いの火種を感じると行動を起こす人工知能が、平和の番人となって監視しているんだから」
迎撃システムが抑止力となって、それまで頻発していた紛争や戦争が無くなった。
「良いことだろう、それ。軍事に使われる莫大な金は、人殺しや、争うために使うんじゃなく、もっと他に使うべきだ。穏やかな日常を、笑って暮らせるためにその金を使うべきなんだ。もう、狭い地球内での痴話喧嘩は沢山、あんたらも見てきただろう、大宇宙の星々には国境や人種という壁が無かったことを。もう、国を隔てる国境を無くし、地球人として一つになる時が来たんじゃないのか。そのきっかけを与えてくれる平和の使者が訪れたんだ。俺達にとって歓迎すべきことなんだぞ」
「本当にそうじゃな、そうなるべきじゃ。ビレイさんのお陰で、地球は一つにまとまろうとしている。争い殺し合うのは、ゲームの中で十分じゃ。マイク、実に良い嫁を貰ったな、ワシの自慢の娘じゃ」
晴れ晴れとした顔でケビンが言った。
彼らが平和の使者と呼ぶ異星人・ビレイ、バス停へと駆けて行く彼女の後ろ姿を見詰めた。
異星人とのコンタクトが、飽きずに争いを繰り返していた世界に激変をもたらす。後進星とされた小宇宙の地球が、大宇宙の仲間入りを果そうとしていたのだった。
この年、アメリカにEF‐5の最大最強の竜巻が発生した。
竜巻はその勢力を強めながら猛スピードで移動、予測不能の竜巻が町を襲う。大木をなぎ倒し、車や家々を吹き飛ばし襲って来る。逃げ遅れた住人は逃げ場を失った。
突如、巨大竜巻は小学校を襲った。小学校にはシェルターは無く、安全な場所などどこにも無かった。
竜巻が目の前に迫った校内には、子供達の泣き叫ぶ声が響き渡る。生徒達は机の下にしゃがみ、体を丸めてうずくまり本を使って頭を守った。
校舎の壁が崩れ出し、誰もが諦め掛けたその時、
竜巻に向かって一筋の閃光が走った。
巨大竜巻は回転力を失い消滅、雲の隙間から青空が見えた。
生徒達が校庭に目を向けると、そこには青色に輝く巨体のテミスいた。
『テミスだ!』『テミスが来てくれたんだ!』『テミスが助けてくれたんだ!』
生徒達が一斉に叫んだ。
「フーーッ、間に合ったぁ。いつも出動要請が遅いし、地球だと、こいつ、動きが鈍くて困るよな」
テミスのハッチを開け、マイクが生徒達を見渡と、
「あんたが助けてくれたのか? 名は、名はなんと言うんだい」
テミスを知らない、年老いた一人の先生が言った。
「俺? 俺はマイク。困っている人を助ける、ヒーローさ!」
嘘のように晴れ渡った青空に、彼の笑顔が映えていた。
次週から最終章になります。残り十三話の予定ですので、最後まで、飽きずに読んでくれると嬉しいです。




