ファーストステージ
ケンジの特徴は見極めの凄さだった。敵の攻撃を僅かにかわし、ブレない。だから標的を正確にとらえることが出来る。
並外れた集中力に動物的な直感、更に、様々な攻撃パターンを織り交ぜ敵を翻弄する。
集中力・テクニック・戦術の三つの武器が驚異的な強さとなって、誰よりも強く、誰よりも奥に分け入った。
それらは小さい頃からゲームに慣れ親しみ培ったテクニックであり、自然と体に染み付いた能力だった。
雷撃の命中率を高めるには目標艦にギリギリまで近付くことが必要で、それ故、容赦ない対空砲火を浴びせられる。そんな過酷な状況の中でケンジは、瞬時に弱点を見抜き攻撃を仕掛けた。
母艦には対空シールドが張られ、攻撃が一切利かない。
強行突破でバリアを破ったアレスに強い衝撃。シールドを突き破ってアレスは母艦に急接近した。
アレスの腹部にある異次元格納庫からドリル型魚雷を出し、至近距離で発射した。
「行っけーー!」
声を発し念を込めた。
うなりを上げて回転するドリル型魚雷は母艦の装甲を貫き、無数の隔壁を突き破った。
そして航空魚雷は、高エネルギーで動く機関部で自爆した。
『ガガガー、ズドーン』
母艦の動きが止まった。
か弱き一匹の兎が猛獣を仕留めたのである。
勢いに乗ったケンジの攻撃を誰も止めるこが出来ない。
「凄い……」
ケンジの素早い動きにアカリは見とれ、胸がキューンと熱くなった。
当の本人も驚いた。俺ってこんなに凄かったっけ? 何か体の奥からみなぎる力が湧いてくる。信じられない、まるで勢いを得たゲーム中のように思い通りに動いている。
自分でも酔いしれるほどの戦果を上げた。
「良い腕をしている。アカリが認めただけのことはあるな。全く、驚きの強さだ」
歴戦のリックも目を輝かせ驚いた。
アカリは目頭を熱くしながら、後方でケンジの戦いぶりを見守った。
自分がスカウトした人物が救世主だったんだと改めて思い、生まれて初めての恋をした。その愛情は抑え切れないほど激しくなり、アカリを衝き動かして行く。
ケンジの乗る伝説の英雄機を見て、勇気付けられたアリオト軍の指揮は高まった。
ベテランパイロットでも母艦を撃沈するのは稀なこと。身を犠牲に、パイロットの命と引き換え撃沈するのがやっとであったが、ケンジは母艦二隻を破損、走行不能にし、戦闘機、二十機を撃墜した。
それは常に劣勢を強いられていたアリオト軍にとって驚くべき戦果である。
メシエ銀河方面軍は完膚なきまでの損害をこうむった。
雨のように降り注ぐ砲撃に、アレスは被弾するが、『アームキャリーは生きている』とアカリが言った言葉通り、自己修復能力を持つアレスは再生し、すぐさま前線へと向かう。
が、待ったが掛かった。全軍の脱出が成功したのである。
「いつもそうだ。集中すると全体が見えなくなる。もう一人、勘の良い奴がいてくれれば最強になるんだがな~。でも、なんだろう、この異常な脱力感は? まるで力を吸い取られるような疲れは。ゲームなら一日中やっていても疲れなんて感じないのに、実戦だからかな、異常に体力を消耗する。これじゃ精々、二時間ぐらいしか持たないや」
ケンジの活躍で、メシエ銀河方面軍の包囲網を破ったリック隊。その隙間を縫うようにアリオト軍が脱出した。
全軍が無事に脱出するのを見届けた指揮官が撤退命令を出した。
大活躍のケンジは、現実に起こっていることが、まるでゲームの一場面と重なり有頂天になっていた。
そんなケンジに感謝の通信が入った。
「本当にたいした奴だ。この戦闘で、君が救世主だと誰もが認めたはず」
リックがねぎらいの言葉を掛ける。
「俺が、この俺が救世主? ほんと、夢のような世界に来ちゃったんだな……」
「夢なんかじゃないよ。北山君がいてくれるだけで希望が、未来が開けてくるのよ」
アカリの感謝の言葉に舞い上がったケンジは、通信機のスイッチを切り忘れ、入れたまま帰還していることに気付いていなかった。
デッドに、アリオト軍の足跡を残したまま……。
戦闘を終えた兵士達が続々とアリオト星に帰還した。
汗を流そうと隊員達がシャワーを浴びる。
ケンジもまたシャワーを浴びていると、体の一部と化しているメガネを掛けていることを思い出し、このメガネ、水にぬれても平気なんだな、そう思っていると、
「邪魔するね」
そう言ってアカリが入って来た。しかも裸。
「地球人がどんなのか興味があったけれど、何も変らないのね」
ケンジがハッとして下を見ると、自分も裸であることに気付き、
「ご免なさ~い!」
慌ててケンジが出て行った。
一人、シャワールームに取り残されたアカリ。
壁の向こうからリックが声を掛けた。
「どうやら刺激が強すぎたようだな。戦場で勇敢に戦った救世主だが、女には弱く、あっちの方も弱いとみえる。俺なら迷うことなく抱いていただろう。あいつは、お前に気があると思っていたんだが……そもそも、拒むことも出来たはず。俺は、『あいつは恋に関して相当鈍そうだから、積極的に行った方がいいぞ』と言っただけだが、人一倍恥ずかしがり屋なお前が、まさかこんな大胆な行為に出るとはな……。お前は好きなんだろう、あいつのことが。見ていて分かる」
「……」
アカリは言い返さない。
上官のリックは、アカリの気持ちを見抜いていた。
一方のケンジは……。
「……雪のような白い肌に、マシュマロのように柔らかそうな胸。そして……。この星の人間は、恥ずかしくないのかな~」
と、アカリの裸を見て動揺していたケンジが独り言を言った。
アカリがそっと近付き、ケンジの横に座った。更に動揺するケンジ。
アカリの顔を見て、今の動揺した心を見抜かれないように慌てて顔を逸らす。
「大丈夫、この世界では人の心は読めないの。それに、北山君が心をのぞかないで、って言ったから、もう二度と心を読まないと決めたの」
素直な良い子だな。ひょっとして俺、好きになったかも。ガラにもなくケンジが頬を赤らませた。
「さっきはご免ね。隊長が、リック隊長が……私と一緒になって、北山君に残って欲しかったの……」
「そうか、リックさんに命じられたのか」
「……」
嘘は付けず困り顔のアカリ、何も言えず黙ったまま。
「鉄のオキテには逆らえないからな~。単なる任務と同じ……ということは、アカリと一緒になるってこと……でも、アカリはどうなんだよ、好きでもない俺なんかと一緒になって、幸せなのか? 俺に残って欲しいのか?」
「私は、私は…」『敵機襲来! 敵機襲来!』
アカリの言葉を掻き消すように、場内に緊急警報のサイレンが響き渡った。
「デッド軍の大艦隊が、一直線にこのアリオト星に向かっている! 何故この場所が発見されたんだ。今まで隠し通してきたのに……一体何故?」
幹部の一人が声を震わせながら言うと、基地内に衝撃が走った。
ケンジが通信を切り忘れていたことで、危機が迫った。
これまで隠し通していた秘密基地の所在が探知されたのである。
皮肉にも、メシエ方面軍に大打撃を与えたケンジの驚異的な攻撃力がデッドを恐れさせた。
デッドがメシエの反抗勢力を壊滅せんと総攻撃に及んだのだった。




