チーム・オメガ始動
一触即発の様相を呈していた大宇宙で、ついに戦争が始まった。
デッドの復活により、銀河連合を凌ぐ戦力を得た同盟軍は、連合圏内への侵攻を画策。
対する連合軍は、同盟軍との軍事境界線、戦略的防衛線に幾つもの要塞を築いた。その最前線の要塞基地にヒロト、ユウマ、マイク、ユア、サラが召集された。
彼らは連合軍の切り札であり、次世代のヒーローだった。
レイアに搭乗するユアとサラは、前線に出ないことを条件に参加が許されている。二人はヒロトやユウマのことが心配で、少しでも力になりたいと必死だった。
運動神経の良いユアは、アームキャリーの操縦技術は上級者なみで、気の合う勘の良いサラとコンビを組むことで戦闘力が高くなる。
エルナト星の、若きエリート大佐が要塞司令官に就任。『青を継ぐ者』として銀河連合の期待を一身に集める人物が、青色のアームキャリーに乗って遣って来た。
F(戦闘機)‐Ⅴ(第五世代)型・マスタング。その名を『テミス』と言う。
「青い雷撃? 僕とおんなじ機体の色だね」
ユウマが言うと、
「ユウマの雷撃機・アベンジャーとは違う。あれは特殊戦闘機、一回り小さいが、空中戦に特化したアームキャリーだ」
ヒロトが答えた。
原色は腕の良いパイロットにしか許されない機体。更に青色は英雄機。どんな人物が操縦しているのだろうか、と誰もが注目した。
だが、みんなの目が点になる。その人物は女性だった。
男っぽい短髪だが、手足の長いスレンダーボディーでキュッと引き締まったウエスト。キメ細かな色白の美肌で容姿端麗、まさに絶世の美女。彼女の名前はビレイ、二十一歳。初めて会った地球人に目を輝かせた。
「戦力の増強は私達の急務であるため、また地球人の力を借りることになったの。あなたが伝説のヒーローのご子息、ユウマ君ね」
「そう、僕が北山ユウマだよ」
「――僕?」
大宇宙を駆け巡ったヒーローの息子。さぞ荒々しい人物だと思っていたが違っていた。
「こいつ、怒りがないとスイッチが入らないんだ。でも、滅多に怒ることが無いから期待しない方がいいよ。活躍したのはお父さんであって、その息子が活躍出来るってことはないんだから」
そうヒロトが説明すると、ビレイが頷いた。
私とおんなじ境遇。親の七光りなんて言われて、さぞ辛い思いをしてきたんでしょう、お気の毒に。似たもの同士、仲良く出来そうね。そう思ったビレイが、まだ幼さの残るユウマにウインクすると、彼女の美貌に嫉妬し警戒していたユアが、思わず睨み付けた。
「私の父はウィリス、みんなも知っているでしょう。宜しくね」
ビレイは要塞基地の司令官であると共に、ヒロト・ユウマ・マイク・ユア・サラの五人で組織された最強チーム『オメガ』をまとめる責任者も担っていた。
才色兼備の美人上官で、スラッとした、まさにモデルのような細身のスタイル。マイクが一瞬で恋に堕ちた。一目惚れだった。
そんなビレイの気を引こうと、一人、メンバーの前に出たマイクが声を掛ける。
「オホン、俺が有名なマイク様だ。自慢のカオスが敵をなぎ倒す。俺が見方だと、心強いだろう」
「冗談じゃないわ! あんなポンコツ。第三世代の、しかも初期型じゃない。もうこの世に数機しか残っていない骨董品よ。うぬぼれるのもいい加減にしなさい!」
「そ、そうなのか。操縦し易いから、てっきり最新型だと思ってた」
「当り前でしょ、いつ裏切るか分からないあんたに、最新鋭機なんて預けられない。案の定、裏切ったじゃない。よくあんなものに乗っていて死ななかったわね。さぞ、逃げ足だけは得意なんでしょ」
とビレイに侮辱され、つい、
「女の司令官だなんて、上層部は状況が分かってないんじゃないのか? 頼りない上官に、俺達の命を預けられるかよ、全く」
マイクが思わず言い返す。
場内がザワついた。
ツカツカとマイクに歩み寄ったビレイが、思いっ切りマイクの頬を引っ叩いた。
「痛てぇなー、何すんだよ!」
『鉄の掟』と恐れられた厳しい軍律、マイクは知らない。
居合わせた誰もが凍り付いた。
「上官に対して、どうやら口の利き方を知らないようね。あんたのせいで、掛け替えのない同胞が死んだかも知れないのよ。その手には、洗っても落ちない血がこびり付いているんでしょうね」
そう嫌味を言うと、ビレイは出て行った。
マイクが両手を見詰め、思い悩んだように一言も喋らなくなった。
「……気にすることないよ。やらなければ、こっちがやられるんだから」
そう言ってヒロトはかばうが、意外な言葉が返ってきた。
「俺、決めた。彼女のハートを射止めるんだ」
「ハア? ビレイさんのあの態度を見ただろう、無理だよ。悪いことは言わないから、諦めるんだな」
「なあ、俺達、仲の良い兄弟だろう。力になってくれよ」
「他ならぬマイクさんの頼みだけど、こればっかりはなぁ、マイクさんが傷付くだけだぞ。ビレイさんって、相当気が強そうだから、マイクさんの手に負えないって」
「あーー、どうしたら彼女がこっちを向いてくれるんだろう?」
「この世界の住人は、ヒーローに憧れているんだ。普段はパッとしないケンジ叔父さんが、美人のアカリさんと結婚出来たんだからさ」
「ヒーローかぁ、俺に、数パーセントでも可能性があるんだろうか……」
落ち込むマイクに、
「何言ってるんだよ。俺が見る限り、この世界でマイクさんにかなう相手はいないんだ。そこは自信を持っていいんだぞ」
とヒロトが勇気付けた。
気を良くしたマイクが果敢にビレイを口説くも、その度に返り討ちに遭う。
「もう! 私に構わないでよ! あんたが地球人じゃなかったら、とっくに追放しているのよ。大恩人だから我慢しているのに、ツケ上がらないでよ!」
冷たい態度でビレイはマイクを突き放す。
「マイクさんとビレイさん、相性が最悪じゃない」
遠くから二人の様子をうかがっていたユアが心配そうに言うと、
「そうかしら、私、お似合いだと思うんだけど」
自信ありげにサラが答える。
「どこがだよ、何度も注意しているのに、あんな軽いノリで言い寄っていちゃ、振り向いてくれないばかりか、益々嫌われるよ。仮に付き合うとしても、相手は司令官、立場的にマズイだろう」
そう言ってヒロトが溜息を付いた。
ビレイにとって、チャラチャラとまとわり付くマイクは最も嫌いなタイプ。サラ以外の誰もが、結ばれることは無いだろうと、そう思っていたが、サラには見えていた。彼女ではない。サラの心の奥に潜む何かが語り掛けていたのだった。
「裏切り者のあんたなんか信じない。きっとまた裏切るんでしょ。それに、あんたの力なんて必要としない。私はあんたに負けないくらい強いから」
チーム・オメガの責任者として、何かに付けて反目するマイクを力で従わせる必要があった。一方のマイクも、自分の実力を見せたかった。それはビレイに認められたい一心からだった。
「なら、勝負だ。言っても分からないんなら、俺の力を分らせてやる」
お互い引くに引けない状況になり、ビレイとマイクが勝負を挑む。
カオスは第三世代機、しかも前期型の雷撃機。対するテミスはエルナト星の誇りであり、最新の第五世代機、戦闘に特化した戦闘機である。
「旧型と最新型じゃ勝負にならないよ。このままじゃ、本当にマイクさんが追放されちゃうよ……」
親しくなったマイクの身を案じて、心配そうにユウマが言うが、
「さあ、どうかな、マイクさんの強さは底無しだから。一度戦ったことのある俺には分かるんだ。圧倒的な強さは無いものの、相手より僅かに強くなれる。どんな強敵だろうと、その僅か上を行く。陸上競技で例えるなら長距離走かな。俺とユウマの短距離走とは違う、別のタイプの人間なんだ。性能では劣るが、そこはテクニックでカバーするだろう」
マイクが勝つだろうとヒロトはみていた。
突然、マイクが逃げるように飛び去った。
「卑怯な! この期におよんで逃げるなんて、どこまで卑怯者なの!」
ビレイが猛スピードで逃げるマイクを追った。
「マイクさんが逃げた。やっぱり負けるから?」
ユアがマイクに失望する。
「きっと何かある。マイクさんはああ見えても、卑怯な人間じゃないよ」
ヒロトがマイク達を追う。
ユウマもユアもあとに続いた。
「ここまで来ればいいだろう」
そう言ったマイクがスピードを緩めて振り返り、追って来たビレイに言った。
「ここなら誰も見てないから、負けても恥じをかくことはないぞ」
マイクの言葉にビレイがキレた。
「どこまで私を馬鹿にすれば気がすむの! 私があんたなんかに負ける筈ない、負けるなんて、あり得ない!」
「やっぱりそうか。マイクさん、そこまで考えて行動を起こしたんだ。上官が部下に負けたんじゃ、面目を失うからな」
追い着いたヒロトが言うと、
「じゃ、マイクさんが勝つのね」
マイクに失望していたユアが聞いた。
「ああ、そもそもマイクさんとビレイさんとじゃ、次元が違うんだ」
ビレイが怒りに任せてマイクに襲い掛かった。
二人のプライドを掛けた真剣勝負が始まる。
鋭い眼光のビレイが一気に距離を詰めて左右の連打を浴びせる。デミスの軽量な機体から生み出す驚異的な格闘性能でカオスを圧倒する。
「強い……だが、それだけだ」
ビレイの素早い突きをマイクは僅かにかわす。研ぎ澄まされた集中力を一気に開放し、攻撃のギアを上げた。
攻勢に転じ、反撃に出たカオスのビームサーベルが、テミスの右腕を斬り落とした。
ビームサーベルを持つテミスの右腕が宙を舞い、勝負は一瞬で決した。
だが、ビレイは諦めない。
「私が、この私が……血のにじむような努力をしてきたのに……なんの努力もしないで、生まれ持った才能だけで……」
「いい加減にしろよ! 右腕を失ったままで勝てる筈ないだろう。自慢のアームキャリーとやらが可哀想だ。生きているんだろう、それ」
「同情なんてよしてよ! 右腕がなくなったからって、それが何よ! 左腕があるでしょ」
宙に浮いた右腕の持つビームサーベルを取ると、なおも襲い掛かった。
――まずい! そう思ったヒロトが二人を止めようと動いた。
「チッ、なんて分からず屋なんだ」
唇を噛み締めたマイクが行動を起こす。
無益な対戦を諦めさせようと、マイクがハッチを開けて宇宙空間に飛び出した。
「――なっ、なんて危険なことするのよ! 戦闘中に宇宙空間に飛び出すなんて、あんた正気なの?」
まるで降参するかのように両手を上げたマイクが宇宙空間に漂う。それは命懸けの危険な行為だった。
「こうするしか、こうするしかビレイさんを止められないだろう。俺は、大好きなビレイさんをこれ以上傷付けたくないんだ。惚れた女のためなら命懸け、それがモテない男の、愛を射止める捨て身の戦法なのさ」
宇宙空間にフアフア浮いたマイクが命懸けで訴えた。
「俺を止めるのなんて簡単だろ。そのテミスの大きな左手で握り潰せばいい。俺が嫌いなんだろう。なら構わないぜ、死んでも恨んだりしない。好きになった人のためなら、死んだって構わないんだよ!」
「…………」
命懸けの訴えがビレイの動きを止めた。
マイクの純粋で真っ直ぐな気持ちに心を打たれたビレイ。今まで言い寄ってきた男達はいたが、命懸けで愛を伝えた男はいなかった。マイクの命懸けの行動は、頑なに拒み閉ざしてきた異性への扉をこじ開けたのだった。
マイクの本気の愛を肌身に感じ取ったビレイだが、素直になれない。
「……好きって、好きって気安く言わないでよ! 愛なんて、自由を奪う麻薬のようなもの、人を狂わすものでしょ! 私は自分の意思で生きたいの、誰の指図もされずに生きたいのよ。そもそも戦闘の最中でしょ、何考えているのよ、あんたは」
ビレイの怒りは自分の弱さへの怒り。負けを素直に認められない自身への怒りだった。
大きく深呼吸をしたビレイが静かに言った。
「……分かったわよ、私の負け。あんたを認める、エース級パイロットとして認めるわ。ただし、仲間として認めた訳じゃないから。何が好きよ、気安く言わないで。そもそも、私とあんたは上司と部下、ちゃんとわきまえてもらわないと、地球に送還するから。覚悟しておくことね」
相変わらず強気な発言のビレイ。
それでも、自分を認めてくれたことで、少しだけ彼女に近付けたんだとマイクは喜んだ。
デッドの能力によって同盟軍の勢力は、体内に侵入したウイルスのように急速に増殖、巨大なパワーは連合軍をのみ込んでいく。
だが、連合軍の防衛の拠点であり、難攻不落の砦と化した要塞基地を同盟軍は攻めあぐねた。
同盟軍は、要塞基地を孤立させるべく、隣接する周辺の要塞を押さえる包囲網を敷いた。
要塞が強襲され、通信が途絶えた。
チーム・オメガ始動。
マイク、ヒロト、ユウマ、ビレイのオメガ率いる駐留艦隊が、同盟軍強襲部隊に挑む。
戦闘が始まり、彼らの目の前で主力部隊のアームキャリーが次々と撃ち落とされた。
「確か、ビームライフルの光線は、盾で、ある程度防げるんじゃなかったのか?」
敵の新兵器の威力にマイクが驚く。
「光線が渦のように回転し、威力が増しているから装甲をブチ破るんだ。まるで戦艦の副砲級の威力がある。だが、そのせいで連射出来ない。そこが弱点だな」
ヒロトの頭脳が一瞬で分析し、皆に注意を促した。
「飛び道具なんて反則だろ。全く、同盟の連中は新兵器を開発するのが好きなんだな」
「怖いなら、下がっていなさい! 足手まといになるだけよ」
マイクを好きだと素直に言えないビレイ。
そんな彼女に、異様な形の二機のアームキャリーが襲い掛かる。
『V‐Ⅱ型ハデス級』同盟軍最新鋭機。ハデスのDNAを移植した完成形。試作機とは違って、パイロットと一体になることで、制御されたハデスは強さを増す。
V‐Ⅱ型ハデス級は、性能テストを待たずに実戦に投入されたため、戦闘力は未知数。更に、操縦するパイロットは、同盟の選ばれたエースパイロット。ハデスは、対ヒーロー級封じのための、言わば、同盟軍の切り札だった。
「ウッ、強い! こいつ、ただのロボットじゃない。無理だ! ビレイさんのかなう相手じゃない、逃げるんだ!」
「何よ! 偉そうに、私に指図しないで! こんな奴、私が仕留めて見せるわ!」
ムキになったビレイが果敢にハデスに挑むが、ハデスのパワーの前にテミスが傷付く。
傷付いたテミスに、もう一機のハデスが背後から迫った。
「ビレイさーん!」
とどめを刺す一撃を、マイクのカオスが身を挺して防いだ。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
破壊力のあるハデスの一撃は、装甲の弱い旧型のカオスを真っ二つに切り裂き、煙に包まれたカプセル状のコックピットが勢い良く宇宙空間に放り出された。
ヒロトとユウマの目の前で、カオスが破壊され、
「マイクさんが、優しかったマイクさんが死んだ……。なんで、なんでだよぉー!」
突然、ユウマが叫んだ。
ヒロトが死んだと思い込んだユウマのスイッチが入る。
敵を求めて飛び去った二機のハデスを、アレスが猛スピードで追い掛けた。
ヒロトがアレスに追い着くと、そこにはハデスの残骸が漂っていた。
――パイロットが脱出しきれていない。何が起こったのか気付かないぐらい、一瞬の出来事だったんだ。欠陥? 故障か何かで自爆したのか……。
一方のアレスは無傷。
いや、ユウマが仕留めたんだ。
そのユウマは気を失っていた。
まだ能力をコントロール出来ないユウマは、その凄まじいエネルギーの解放による衝撃に耐え切れず、意識を失っていたのだ。
危機が去ったかに見えたが、すぐさま第二波が襲った。
ヒロトに、要塞基地の危機を知らせる通信が入る。
「――どうしたんだ! 何があった?」
「ユアだけど、サラちゃん怯えていて話が出来ないから私が話するね。敵の移動要塞が突然、目の前に現れたと思ったら、体当たりして来て、続々と敵のアームキャリーが侵入しているの。ヒロトさん、早く、早く帰って来てぇー!」
「ここからじゃ間に合わない!」
ヒロトが唇を噛み締めながら悔しがる。
密かにワームホールを建設していたのか……。要塞ごと体当たりだなんて、無茶苦茶だ。人の命なんてなんとも思っていない。だとしたら、二人が危険だ。
「要塞司令室は、最も頑丈な作りになっているから、その場にとどまるのが最善だ。通信はそのままに、状況を詳しく教えてくれ」
サラ達を落ち着かせようとヒロトが的確な指示を出す。
要塞への襲撃は、防衛のかなめである要塞基地の駐留艦隊を引き付けるための罠だった。
捨て駒扱いの元連合軍兵士が要塞基地内に進入、同士討ちが始まる。
孤立無援の要塞基地が絶体絶命に陥り、迫りくる死の恐怖に、
「やめてぇーー!」
サラが叫んだあと、意識を無くしてその場に倒れ込んだ。
と同時に、侵入して来た同盟軍兵士の動きが止まる。
サラの意識が無くなると、彼女の体の中で眠っていた何かが目覚めた。
慌てて起こそうとするユアに語り掛ける。
『私はメラー、貴方達が恐れるデッド、いいえ、レボスの分身なの。私は姿形の無い意思。その意思は人間が創り出したものだけれど、人の手を離れて育っていく。私はレボスの暴走を阻止するために生れてきたの。人類の頭脳を越える能力は世界を狂わす。そんな危険なレボスは、有力者に取り憑き全てを支配する。今はネオデッドの指導者・リンに取り憑き、同盟軍を事実上コントロールしているわ』
スピーカーから、メラーの声がヒロトに伝わった。
声からして女性か? メラーって言ってたな。どうやら敵ではなさそうだ、彼女に救われたんだから……。
サラが叫んだと同時に、洗脳されていた兵士達が正気に戻った。
サラに憑依しているメラーには、デッドの暴走を阻止する能力が秘めているのだとヒロトは思った。
「凄いな、ユウマ。初めて見たよ、本当の力を。一体、どんな裏ワザを使ったんだ」
「どんな技? そんなんじゃないよ。ただ、相手の動きが止まったように見えるんだよ」
「動きが止まって見える、か。それって、無敵じゃないか。時間の流れを止めるなんて人間業じゃない。まさに究極の動体視力だな」
「でも、悲惨な出来事の後にしか力が発揮出来ないから、僕、悔しいよ……」
そう言って、二人はベッドで眠っているマイクを心配そうに見詰めた。
要塞基地に収容されたマイク。集中治療室で緊急手術が行われ、チームメイトは祈る気持ちでマイクを見守った。
手術は成功、だが意識が戻らない。あれからもう、三日間も眠り続けている。傍らにはビレイが付きっ切りで看病していた。
「ずうっとそうやって、何日も寝ていないんだろう。無理し過ぎだよ、少しは休んだら」
落ち込むビレイを気遣ってマイクが言った。
「私のせいでこうなったから……でも、こうしていると、いつものようにチャラチャラと話し掛けてくる気がして……」
「ビレイさんのせいじゃないよ、あいつは、ハデスの強さは別格だから」
「もう! いつになったら目を覚ますのよ。早く起きなさい。起きろ! 起きてよぉ、お願いだから……目を覚ましてよ。私の命令を聞かずに死んじゃ、許さないから!」
そう叫びながらマイクの体を揺すると、微かにマイクが動いた。
「動いた! 今、微かに動いたわ。マイク、起きてよ!」
「ウ、ウーン……うるさいな~、ゆっくり寝ていられやしない。ん、ここはどこだ? ビレイさん、泣いているのか? ひょっとして、俺のために泣いているんじゃ」
目覚めたマイクが驚いたように言った。
「と、当然でしょ、同じチームメイトなんだから。それに、私のせいで死んだんじゃ、後味が悪いじゃない」
マイクは死の淵から生還を果した。
ヒロトが、マイクとビレイを二人きりにさせたくて、ユア達と一緒に部屋を出た。
「俺のカオスはどうなったんだ? やっぱり、破壊されたんだろうな……もう、俺の出番が、活躍出来ないんだな……」
そう呟き落ち込むマイク。
「大丈夫よ、頭脳に損傷が無かったから元通りに修理出来るわ。そんなことより、ねえ、私にして欲しいことはない? なんでもするから。私、覚悟は出来ているのよ。少しぐらいなら体の自由が利くんでしょう、私がリードしてあげるから」
満面の笑顔でビレイが言った。
「俺に、して欲しいこと? ん! 我慢出来ない!」
ハッとしたマイクが思わず言った。
「まあ、我慢出来ないって……ストレートに言うのね。でも、我慢することないわよ。男と女の二人きりなんだから、やることは決まっているでしょう」
「でもなぁ~」
「何? 私に何がして欲しいの? もう、男なんだからハッキリ言いなさいよ。あれ、女の私に言わせる訳」
そうビレイが意地悪く言って、照れるマイクの顔を覗き込む。
「ショ……」
「しょ?」
不明な言葉にビレイが首を傾げる。
「ショ、ション便がしたいんだよ」
「しょ、しょん……勝手にしてろ!」
今まで見せたことの無い怒りをあらわにしてビレイが部屋を出て行った。
すると、ビレイと入れ替わって、ヒロト達が慌ててマイクの部屋に入って来た。
「一体、何があったんだよ。ビレイさん、すごい剣幕で部屋から出て来たけど」
「俺にだって分かんねえよ。俺にして欲しいことを言えって言うから、素直に言ったのに……」
「あの場面で、そんなこと言ったのか。マイクさん、デリカシーが無いなぁ」
ヒロトが呆れ、ユアとサラがプッと噴き出した。
「頼むヒロト、もう限界だ。俺をトイレに連れて行ってくれぇ。こんなベッドの上で、ちっちゃな伝説なんか作りたくないんだよぉ」
部屋にいた誰もが、マイクがヒーローではなく、情けない男にしか見えなかった。




