小さなヒーロー
追っ手の追撃から逃れることが出来たものの、二人には危険な闇夜が待っていた。
「お腹すいたなぁ」
ユウマが愚痴をこぼす。
「ご免、こんなことになるなんて思わなかったから、何も持ってきてないの」
「そんなぁー」
ひもじい思いと孤独さで、弱気になったユウマがついに泣き出した。
「お母さぁ~ん! お父さぁ~ん! どこにいるの、早く助けてよぉー!」
大声でわめくユウマ。
恐怖に比例して泣き声も大きくなった。
「うるさぁーーい! 男の子が、ぴぃぴぃ泣くなぁ!」
たまらずユアが声を上げる。
「だって、夜はいつも両親と一緒だもの……」
『ガサガサ』
突然、森の奥から物音がした。
「ぎゃー!」
とっさにユウマがユアに抱き付く。
『バシッ!』
即座にユアがユウマの頭を叩いた。
「何するのよ! どさくさにまぎれて。ヒーローじゃない君なんかに抱かれたくないわよ。わざとでしょ、全く、油断も隙もないんだから」
「わざとじゃないよ。お願いだから僕を信じて。そんな大胆な勇気があれば、こんな状況にはならなかったんでしょう」
「それも、そうね……じゃあ、君はそれ以下の人間なわけ。どこまで、私の理想のヒーロー像を壊せば気がすむのよぉ」
諦めにも似た溜息を付いた。
「怖いよぉー。僕、暗い所が苦手なんだ」
「君は暗闇の宇宙で活躍するヒーローなんだから、暗がりを恐れてどうするのよ。改めて思うわ、君はヒーローの素質ゼロだってね」
「だから、さっきから何度も言っているじゃないか」
「待って、暗いのが苦手なんでしょう、今から私が火を点けてあげる」
身近にある物を拾って来たユアが、それらを使って手際良く火を起こす。
枯れ葉に煙が上がって火が点くと、枝木に火が燃え移る。
次第に大きな炎へと成長し、辺りが明るくなってきた。
「コツをつかんだら、火を点けるのは意外と簡単よ。お父さんは元軍人で、よくキャンプに連れて行ってくれるからサバイバルはお手のもの。この星で、一人でも生きていく自信はあるわよ」
「なんだか、心強いなぁ~」
感心して見ているユウマにユアが言った。
「あのね、か弱い女の子に頼ってどうするのよ。男としてのプライドは無いの、呆れるわね」
「そんなもの、今生きるのに精一杯だよ。ユアさんは、しっかり者のお母さんに似ているから安心するんだぁ」
「お母さんがしっかり者? どんな家庭なのよ、全く。でも、どうやら落ち着いたみたいね。あのままずっと泣かれたら、どうしょうかと思ったわ」
焚き火を囲んで二人は一息付いた。
本当にメガネが壊れてしまったのかしら……もしかして、アレスがわざと敵に会わせたんじゃ……でも、いくら人工知能搭載機といっても、そこまでは無理よね。
思わずユアがアレスを見上げる。
もちろん、アレスは何も答えてはくれない。
プログラムの範囲内でしか機能しないと思っていた人工知能だが、人間と同じように成長していることをユアは知らない。
そもそも、アレスは量産型と違って人を選ぶはずなのに、なんで子供のユウマ君が操縦出来たんだろう。私? いや違う、彼よ。きっと私の知らない能力があるんだわ。要はきっかけ、きっかけが必要なんだわ。それは一体? 愛なのかな。確か、お父さんが言っていたわ、愛する人を救う時に爆発的な力が発揮されるんだって。
「ねえ、私が死にそうになったら、助けてくれる?」
期待を込めてユウマに聞くが、
「こんな状況の中、自分が一番先に助かりたいに決まっているじゃないか。僕、こんな所で死にたくないよ」
情けない、これがヒーローの言葉なの。信じられない……。ユアは自分の耳を疑った。
ヒーローの弱音なんて聞きたくはなかった。
「……なんで怒んないのよ。全部私のせいなんだから、怒ってくれたほうがせいせいするわ」
「だって、お父さんがよく言っていたんだ。なんでも人のせいにしちゃいけないって。そもそも、原因は自分にあるんだって」
まあ、素敵な言葉。やっぱり、ヒーローの言うことは違うなぁ。と感心するユア。
ヒーロー愛に火が付いた。
「ねえ、ユウマ君の、家族の話してくれない。ヒーローのファンとしては、すごく興味があるの」
「お父さんとお母さんはすっごく仲が良くて、ケンカしたところを見たことが無いんだ。僕にだって、一度も怒られたことが無いんだよ」
「ふぅ~ん、甘やかされてきたから、そんな弱々しいんだ」
自分のことを棚に上げユアが非難する。
「私の星の女の子は、ヒーローと結婚した女戦士・アカリさん、つまり、君のお母さんのようなシンデレラストーリーに憧れているのよ」
「ということは、僕と一緒になるってことだよね」
ユウマが顔を赤らませながら言うと、
「ちょっとぉ、何調子に乗って赤くなっているのよ。君となんかじゃ、ぜぇ~ったいに無いから。どう考えたって、つり合わないでしょう」
即座に言い返す。
「……本当は、嬉しいんだぁ。僕、いつも女の子にバカにされているから、こうして女の子と話すのは初めて。だから嬉しくて。それに引き換え、ヒロちゃんはモテるし人気者」
「ヒロちゃん? ああ、あの美男子のヒロトさんね、いとこなのよね。でも無理ないわ、ヒロトさんと君とじゃ……あっ、ご免、言い過ぎたね」
「自分でも分かっているんだ。だから、成績だけは負けたくないから必死で勉強しているんだけど、お父さんは、なぜかゲームをしろって言うし、変っているだろう、僕の家庭」
「それは、将来の、アレスを乗る、いわば後継者を育てるためでしょう」
「後継者? そんなもの……ユアさんも見ていて分かるだろう、僕にヒーローになる素質が無いってことぐらい……」
「もう、そんな弱音ばっかり言って。君、それでよくイジメられないわね」
「もちろん、ヒロちゃんが守ってくれるから」
即答で答えるユウマに呆れながら、
「恵まれた家庭なのに、苦労しているのね。同情するわ。でも、人に頼っていちゃ、いつまでたっても成長しないわよ。逃げてはダメ、誰も助けてはくれないんだから。君は伝説のヒーローの子供なんだから、もっと自分を信じなさい」
とユアが言ってユウマをジッと見詰めた。
「何? 僕の顔に何か付いているの」
「そんなんじゃないけど、さっきまで泣いていたのに、元気になったじゃない」
「思いっ切り泣けたから、なんだかスッキリしたんだぁ。夜は真っ暗で怖いものだと思っていたけど、星々の輝きって綺麗なものなんだね。ずっと見ていても飽きないよ。ねえ、ユアさん、どこから来たの?」
ユウマが星空を見上げながら言うと、
「バカね、君の住んでいる星は別の世界にあるから、ここからじゃ見えないのよ」
ユアも星空を見ながら言った。
「違うよ、ユアさんの住んでいる星だよ」
「そうね、この場所がどこだか分からないから、見当が付かなわ。でも、案外近くにいるのかもしれないな」
もしかして、彼の本能を呼び覚ませば、眠っているヒーローのスイッチが入るんじゃ……あんな真面目そうな顔しているけど、案外ムッツリじゃないかしら。英雄は色を好むって聞いたけど、ここは試してみる価値があるわね。
「君がヒーローになれるんだったら、私を好きにしてもいい。抱き締めたって構わないわよ」
ユアが色仕掛けでユウマを刺激した。
「別に……僕、そんなの興味無いから」
き、興味無いって――私のどこが気に入らないのよ。一瞬でも期待した私がバカだったわ。
知恵を絞ったユアの策も不発に終わった。
「じゃ、お休み。僕、眠たくなったから先に寝るね」
先に寝るって、本当に私に興味無いのね。失礼しちゃうわ……。
万策尽き、途方に暮れるユアを無視するかのように、ユウマが眠りに着いた。
寝るの、はやっ――ひょっとして、寝るのが特技じゃないかしら。でも、よくそんな格好で寝れるわね。
両膝を抱え込むように、体育座りの格好で器用に眠るユウマに感心する。
まあ、無邪気に眠っちゃって、呑気なものね。今がどういう状況か分かっているのかしら、明日、殺されるかも知れないというのに……ある意味、君は大物よ。
色々考え過ぎ、頭が冴えて眠れない。
闇夜の中、一人取り残されたユアは、救いを求めるように無邪気に眠るユウマを見詰めていた。
「おはよう」
ユウマの声でユアが目を覚ました。
底冷えのする朝だったが、ユウマが火を絶やさないよう薪をくべていたのだろう、焚き火の火はまだ燃えていて暖かかった。
また、服も掛けられてある。それはケンジの着る大きなGスーツ。
ユウマがわざわざコックピットまで行って取りに行ったもので、保温性のある宇宙服のお陰で、一定の体温に保たれていた。
「僕、朝早いから一帯を散歩していたんだ。美味しそうな果実の実がなっていたから摘んできたよ」
キョトンとした顔でユアが見詰めると、
「毒なんか無いよ、さっき食べたけど、なんともないから。お腹空いているんでしょう」
ユウマが優しく声を掛けた。
ヒーローにならなくてもいい、このままのユウマ君でいいんだ。
ユウマの優しさに触れ、ユアの胸がキュンと熱くなる。彼の優しさに心動かされるユアだった。
「私に服を掛けてくれたのはありがたいんだけど、君、私の寝顔、見たでしょう」
「心配ないよ、イビキなんか掻いてなかったから。でも、口が少し開いていて、スースーって小さな音が聞こえていたけどね」
「やっぱり見たのね。しかも、しっかりと。無防備な寝顔見られたなんて、私、お嫁に行けないじゃない」
「なんで? 僕と結婚するんでじゃなかったの」
とぼけたようにユウマが言うと、
「またバカにして。もう、怒ったわ!」
ユアが口を尖らせながら言った。
「ご免よ、つい」
慌ててユウマが謝るが、
「もう、『つい』じゃなぁーい!」
そう言ってユアが拳を振り上げる。
ユアに叩かれまいとユウマが走って逃げた。
逃げるユウマをユアが追う。
まるで鬼ごっこをしているように、二人は笑っている。
楽しいひと時だった。
ユアが草に足をとられてつまずいた。
『キャー』
ユアの叫びにユウマが振り返り、二人は一緒に倒れた。
二人は間近に顔を合わせ見詰め合う。
ユアが瞳を閉じた。その時――。
『バリ、バリバリィーー』
森がざわついた。
「敵が来たわ! 戻らなきゃ」
焚き火の煙が狼煙のように目立っていた。
それを目印に追跡部隊が接近。
「馬鹿め、バレバレなんだよ」
煙の辺りをズームしていく。
「子供? 子供じゃねぇか。でも、あんなガキがアームキャリーを操縦するなんて。しかも操縦の難しい伝説の機体。あのガキは一体、何者なんだ?」「まあ、正体が子供だと分かったんだ、恐れることはない。俺達の名を上げるチャンスだ。可哀そうだが、子供だろうと容赦しない」
無数の攻撃機がアレスを強襲した。
「早く! ここから脱出しなくちゃ」
二人は急いでアレスに乗り込むと、全速力で惑星から脱出した。
攻撃機がアレスのスピードに付いて来れずに逃げ切れたと思ったが、前方に、大海原の支配者・ポセイドンが立ち塞がる。
前に後ろに敵が、もう逃げ切るこが出来ない危機的な状況に追い込まれた。
「ご免なさい、私がわがまま言ったばかりに、危険な目に遭わせて……なんて言って謝ればいいか……お父さん、お母さん、お爺ちゃん、ご免なさい。やっとヒーローに、ヒーローじゃなくてもいい、せっかく会えたのに……これからなのに、死にたくない、死にたくないよぉー!」
強がってはいたものの、やはり女の子。死への恐怖が彼女を襲い、大粒の涙が頬を伝った。
初めて見るユアの涙を見て、ユウマは今までに経験したことの無い怒りが込み上げてきた。
「……大人が、子供をいじめるなんて許せないよ。ユアさんが泣いているじゃないか。どうして、どうしてこんな悪いことをするんだよ……よくも、よくも、ユアさんを……」
ユウマがブツブツと独り言を言っている。
幸せな家庭に、自分を良く見せようと知らず知らずのうちに殻に閉じ籠っていたユウマ。
怒りによってその封印が解け、潜在能力が開放された。
「大丈夫、僕が守ってあげるから」
『大丈夫』は母親アカリの口癖、ユウマが同じ言葉を言った。
えっ――。
ユアが横を向くと,ユウマの雰囲気が、顔付きが変わっていた。
ユアが目をこすり、何度もユウマを見た。
さっきまでオドオドしていた気弱い彼とは別人の、迷いの無いスッキリした表情、覚醒したユウマがいた。
「まずは後ろの、うるさいハエからだ」
アレスのスピードを緩め、操縦桿を力一杯引いた。
「動きが早くなったんじゃ……」
攻撃機のパイロットが驚いたと同時に、目の前にいたアレスが一瞬にして視界から消えた。
「後ろだ!」
「しまった! 後ろを取られた。なんだ、こいつ、急に俊敏になったぞ!」
アレスが敵の背後にピタリと付いた。
ユウマは正確な射撃で次々に敵機を撃ち落す。
「やられた! 脱出だ」
撃墜されたファントムから次々と戦闘員が脱出する。
彼らの目が青い機体のアレスに向けられ、伝説が本当だったのだと思い知った。
父親ケンジのテクニックと母親アカリの行動力、その二人のDNAを受け継ぐユウマは、ヒーローの真の後継者として誕生したのだった。
「今度は、あのバカでかいクジラだぁ」
アレスが正面の母艦・ポセイドンに接近。
「来るぞ! シールドを張れ」
首領が声を荒げた。
「キャプテン、敵はたった一機、しかも子供なんですよ。シールドは消費電力が大きく、電気を食うから……」
「いいから早くしろ! 何か危険な香りがするんだ」
首領の勘は冴えていた。
だが、アレスの爆発的な攻撃力は首領の勘を凌駕する。
「ゲームでは確か、秘密兵器があったんだ、母艦を沈めるやつ。ドリルミサイルだったかな」
アレスがシールドを強引に突き破って母艦に接近、船体を一周し弱点を見付けた。
……これがヒーローの実力? 凄い、凄過ぎる、想像以上だわ。まだ子供なのに、やっぱりユウマ君がヒーローだったのね。
間近で見るユウマの操縦技術に驚かされ、ユアは震えが出るほどの衝撃を受けた。
「いっけぇーー!」
ユウマが声を上げる。
必殺武器のドリル型魚雷が勢い良く発射され、母艦の心臓部である機関室を破損させた。
機関部を破壊された母艦・ポセイドンは、翼を取られた鳥のように動けず、成す術も無い。
「超高度な機関室を修理する技術はワシらには無い。太古文明の傑作船だが、宇宙に漂う見世物に成り下がり二度と動くことはないだろう……。今更ながら思う、ワシ等は、目覚めさせてはならないものを目覚ましてしまったんだと」
首領が後悔しても後の祭り、海賊業の廃業を余儀なくされた。
意気揚々と旗揚げした彼らだったが、その威勢は驚くほどの短命に終わった。
「何か、スッキリした。これがゲームの時に味わうソウ快感なんだろうなぁ。僕、病みつきになっちゃいそう。あっ、でも、悪い人達だったけど、死んじゃいないだろうね? 心配になってきたよ……」
「大丈夫だよ。攻撃力を落としていたみたいだから、みんな脱出していたし、母艦に至っては動けなくなっただけだから。後は、連合警察が捕まえてくれるはずよ。でも、あんな奴、死んでも文句は言えないでしょうね。それにしても、ユウマ君、やれば出来るじゃない。見直したわ」
「ユアさんを守るために必死だったから。でも、凄く疲れて、実は何も覚えていないんだぁ」
「あっ、メガネ!」
思い出したようにユアが声を上げる。
「メガネがどうしたの? ビックリするじゃないか」
「メガネを付けると、地球に行けるんだった。あんな危険な目に遭わなくてもすんだのに」
「それを早く言ってよぉ、僕達、死に掛けたんだから」
ユウマが呆れたように言いつつ、
「でも、良かった。そのお陰で、ユアさんと仲良くなれたんだよね。昨日、ユアさんのこと興味無いって言ったけど、あれは嘘。ユアさんが無理して言っているのが分かったから、興味無いって嘘付いたんだ。本当はずっとユアさんと一緒にいたい。そのメガネがあれば、いつでも会えるんだよね。ユアさんがいたから、こんな僕でも少しは成長出来たんだと思うんだ。お願いだから、これからもまた会ってよね」
「何よ、急に、恥かしいじゃない」
頬を赤らませながらユアが言った。
「あの時、なぜユアさんは目を閉じたの? 僕は女の子の気持ちが分からないから……まさか、僕のことが嫌いなんじゃ?」
「嫌いだなんて、生死を共にしたんだから、嫌いな訳ないでしょう」
「じゃ、僕のこと、す…」
言い掛けたユウマの言葉を遮るように、
「待って、その先は秘密よ。何より先に、君のご両親に気に入られなきゃ」
とユアが言った。
「それは心配ないよ。だって僕一人っ子で、次は女の子が欲しいっていつも言っていたから」
「そ、そうよね。私みたいな可愛い子、嫌いになるなんてありえないよね」
いつも前向き、自信過剰なユア。
それは不安の裏返しだった。
「みんな心配しているだろうから、早く地球に帰らなきゃ」
「僕のことより、ユアさんの家族が心配しているんじゃないの? 女の子なんだからさぁ」
「たぶん、心配なんかしてないわよ、いつものことだから。でも、このメガネ、通信装置にもなっているから後で連絡しておくわ、もうしばらく帰らないって」
「なんか、ワイルドな家族だね。ユアさんがたくましく育つのも分かる気がするよ」
「何よ、たくましいって。そこは、おしとやかに育ったって言ってくれなきゃ」
ユウマが頭を掻いて笑い、ユアはホッと胸を撫で下ろした。
地球に戻った二人は、ユウマの家を目指して歩いて行く。
「これで終わったんだね。でも、お父さんに初めて叱られるかも……」
「悪いのは私なんだから、一緒に謝ってあげるわよ。でも、やっと憧れのヒーローさんに会えるのね」
「お母さんならともかく、お父さんに会ってもガッカリするだけだよ」
「そんなことない、絶対にない。だって、君のお父さんだもの」
いつしか二人の小さい手はしっかり握られていた。
とうに日が沈み、辺りが急に暗くなってきた。
「もう遅いから、今日は僕ん家に泊まっていきなよ」
「えぇー! いきなり、大胆なこと言うのね。でも、それはさすがにマズイんじゃ……」
「マズイって、何が? そんなに驚かなくても、僕と寝るんじゃないんだし、お母さんと寝るんでしょう」
「そうなの? そうよね、当然でしょう、子供なんだから」
「子供? そうだ、みんなでゲームしょうよ、四人で出来るゲームがあるから。お父さん、ゲームすると機嫌が良いから、きっと怒らないだろうし、ユアさん、夜が強そうだから、僕も遅くまで付き合うよ」
「夜遅くまでって、ユウマ君、私達、少し前まで寝ていたでしょう」
「あ、そっか、じゃあ、遅くまで起きていられるね。お父さん、ゲームで負けたことがないって、いつも自慢ばかりしているから、二人協力して、お父さんをやっつけちゃおうよ」
「みんなでゲームかぁ~、楽しそうね。でも……迷惑じゃないかしら。急に押し掛けて、ずうずうしいって思われないかしら」
「急にどうしたの、いつもの強気は?」
「強気だなんて失礼な、これが私の本当の姿、か弱い乙女なのよ。だから、ユウマ君が守ってくれないとね」
「うん……」
照れたユウマが再び頭を掻いた。
二人がユウマの家の前まで来ると、
『カレー作ったんだけど、あの子達の口に合うかしら?』
『君の作ったものは全て美味しいから、心配ないよ。それにしても、子供とばかり思っていたけど、彼女を連れて来るなんて』
家の中から声が聞こえた。
それはまぎれもないヒーロー・ケンジの声、ユアの緊張は頂点に達した。
「ユアさん、そんなに硬くならなくていいよ、僕が付いているから」
「そ、そうよね。ユウマ君が守ってくれるものね」
ユウマが玄関のドアを開けて中に入ると、ユアも後に続いて一緒に中に入った。
そして、ユウマの前に出ると、勇気を振り絞って言った。
「は、初めまして、わ、私、ユアと言います」
やっと、会えた。ヒーローさんに……。
彼女の目の前には、長年憧れていたヒーローが、理想通りの姿でいた。




