後継者
月日が流れ、大宇宙・オム二バースは銀河連合を中心に復興を遂げた。
外宇宙に隣接する、ボーデ銀河のボーデア星、銀河連合に属する地球時間と同じ惑星に、夢見る少女がいた。
彼女の名はユア。一心に、星に願いごとをしていた。
ユアは、元軍人の父親から、先の戦いの話をよく聞かされていた。
伝説のヒーローの活躍によって大宇宙が救われた、デッドとの戦い。
そのヒーローの名は北山ケンジ。ユアは密かにヒーローに憧れ、心惹かれていた。
伝説のヒーローには同じ年の息子がいると知った彼女は、小宇宙・ユニバースの住人である、その少年と結婚する、シンデレラストーリーを夢見ていたのだった。
一人っ子のユアは、なんでも好きな物を与えられていたせいか、わがままに育った。
そんな彼女が、「私の一生に一度のお願い」と言って、科学者の祖父に何度も小宇宙に行く異次元メガネを作ってくれとせがんでいた。
祖父は可愛い孫娘を喜ばすために、誕生日のサプライズとして異次元メガネを用意する。
「わぁ~、これ、欲しかったメガネだわ。お爺ちゃん、ありがとう。今までで最高のプレゼントよ、本当にありがとう。これで地球に、憧れのヒーローの住む地球に行けるのね。このアイテムで、将来のダンナさんに会えるのよね、お爺ちゃん」
「まあ、将来の旦那さんかどうかは分からんがのう。一個しかないが、相手に触れたり手を握ったり、同じ空間に一緒にいるだけでも異次元の吸引力によって異世界に行くことが出来るんじゃ。確実なのは抱き付くといいんじゃが、そんな大胆なことをすると嫌われるからね。女の子はおしとやかに、それが男の子に好かれる条件だから気を付けるんじゃぞ。それと、そのメガネには通信機能が備わっているから、危険な目に遭ったら直ぐに連絡するんだよ」
憧れのヒーローの後継者を自宅に連れて来て接待し、彼のハートを射止めるんだとユアは意気込んだ。
そして、友達に彼氏だと紹介し、自慢するつもり。ほんの悪ふざけのつもりだったのだが……。
穏やかな気候、地球は異世界の訪問者・ユアを優しく迎え入れた。
「ここが、地球かぁ、憧れのヒーローはこの星で暮らしているんだぁ」
異次元メガネに異常はなく、正確にヒーローの住む町にユアを送り届ける。
「すうぅーーっ」
ヒーローと一緒な空間を共有したくて、ユアは思いっ切り空気を吸った。
街並みを見回すと、小学校までの通学路を通って児童が列をなして一緒に登校していた。
――どうやら、地球は休日じゃなかったのね……。まあ、いっか、今すぐに会いたいし、せっかく、張り切っておめかしして来たのに、出直すなんて無理。と、他人の迷惑を顧みない自己中心な性格のユア。
私のこと気に入ってくれるかな、とドキドキ胸を高鳴らせ、集団登校する生徒の一人一人を確認していたユアが、
あっ、いたいた! 髪の色が私とおんなじ銀色、それに、周りの人達と雰囲気が違う。アリオト人とのハーフだから一目で違いが分かるわ。
小宇宙に遣って来たことで、ユアの勘が冴えていた。
急いで駆け寄ったユアがその少年に声を掛けた。
「ねえ、君! 君、ちょっと」
スラッとした背の高い少年が振り向く。
まあ、素敵――。
絵に書いたような美男子、理想通りの後継者だった。
「君が、北山ユウマ君ね」
ユアが尋ねると、
「ユウマは、僕だよ」
後ろから声がした。
振り返ると、そこには冴えない容姿の、自分と同じくらいの身長の男子がいた。
「ユウマは僕だよ、あっちはヒロちゃん。加藤ヒロトって名の、いっこ上の親戚なんだぁ」
「じゃ、撃墜王の異名を持つ、リック総隊長の息子さんね。カッコ良いわ。て、ことは、君がユウマ君ね」
想像していたヒーローと違っていて少しガッカリ、思わず表情に出る。
「まあ、地球じゃパッとしないかも知れないけど、宇宙に行けば見違えるのよね」
本人の前で遠慮なく言うユア。
そばにいたヒロトが思わず笑った。
「よくそんな話を知っているね。ここ(地球)じゃ、一部の人しか知らない情報なんだけど。君は一体、何者なんだい?」
謎の少女の正体が知りたくて、ヒロトが聞くと、
「私はユア、別世界のボーデア星から遣って来たの。憧れのヒーローに会うためにね」
「じゃあ、今掛けているそのメガネは、異次元メガネ」
ヒロトが興味の眼差しで異次元メガネを見詰める。
「そう、このメガネを掛けることで、地球に来ることが出来るのよ」
「メガネが何? ……ヒーローって誰? そんな人、どこにもいないんだけど……」
辺りをキョロキョロしながらユウマが尋ねた。
「君だよ、ユウマ君。正確には、ヒーローは君のお父さんなんだけれど、ユウマ君は、その後継者ってとこかなぁ」
「実は俺もその話、知ってる。ユウマがもう少し大きくなってからって、両親に口止めされていたんだけど、とうとう話す時がきたんだな。彼女の言う通り、ユウマのお父さんは伝説のヒーローなんだ」
「二人して僕をだましているんじゃ……そんなこと、急に言われても、信じられるはずないじゃないか」
騙されていると思い、ヒロトとユアを交互に見ながらユウマが言うと、
「正真正銘、君のお父さんはヒーローなのよ。私達の教科書に載るぐらい超有名なんだから、信じてよ。あのぉ、ヒロトさんはアベンジャーのある場所って知っているんですか?」
「確か、万博記念公園って言ってたよな」
「じゃユウマ君、そこに案内して。とにかく、君に見せたいものがあるのよ」
ユウマの手を握り、強引に連れて行こうとするユア。
思わず足を踏ん張ってその場に立ち止まったユウマが、ユアの手を放すと、ヒロトのそばに寄った。
「まさか、誘拐?」
救いを求めるようにヒロトを見ると、
「そんなバカな、子供の誘拐なんて聞いたことないよ。彼女、向こうの世界から、わざわざ来たんだ。きっと、何か重要な用事があるんだろう。とにかくあの子、怒らせると怖そうだから逆らうんじゃないぞ、ユウマ」
ヒロトがユアに聞こえないように小声で言った。
「でもぉ、学校が、ズル休みしたら、先生に怒られちゃうよ」
「お前はマジメ過ぎるからな。たまには学校をさぼるのも良いんじゃないのか」
「……うん、分かった。みんなが心配するといけないから、お母さんにだけは、必ず連絡しておいてね」
「おう。丁度、明日は土曜日だし、彼女がお前を指名したんだ、初めてのデートを楽しんで来いよ」
笑いながら言ったヒロトが、笑顔でユウマを見送った。
ユウマはユアを連れて万博公園に向かって歩いて行く。意味も分からずに……。
巨大な太陽の塔以外、何も無い広場。
謎の少女、ユアが言った。
「スモークが掛かっているわね。解除するには、確か、所有者が指を鳴らすと解除出来るって聞いたけど。試しにユウマ君、指を鳴らしてよ」
ヒロちゃんが逆らうなって言ったから、ここは素直に従おうか。と、ユウマが指を鳴らす。
すると、信じられない光景が目の前に映った。
「どう、これで信じたでしょう」
目の前の大きなロボットが動かぬ証拠。
彼女の言った通り、自分は地球人とアリオト人とのハーフだと知った。
アレスが手を差し伸べ、ユウマとユアをコックピット内へと迎え入れた。
「輝かしい時代の中で、暗黒の時代が訪れた。それを救ってくれたのが、あなたのお父さん。このアレスに乗って戦ってくれたの。だから、私にとって、いいえ、私の住む世界の人々にとって、あなたのお父さんはヒーローなのよ」
「へぇ~、あのお父さんがね、そんなに凄かったなんて思えないなぁ~」
父親の顔を思い浮かべ、不思議顔のユウマ、納得がいかない様子。
「このメガネを外すと、私達の住む世界に行けるわよ」
ユアがいきなりユウマの手を握り、メガネを外した。
途端、世界が変る。
アレスは異世界へと吸い込まれた。
一方、大宇宙の片隅で、海賊として旗揚げした一団があった。その数、一隻。
たった一隻だが、その力は大宇宙を混乱に陥れる力があった。
その船の名は『ポセイドン』。太古兵器の艦隊旗艦であるポセイドンは、大宇宙最強の軍艦なのである。
「見るからに不気味な船体、まさに悪の権化だ。今のワシらとお似合い、嫌われ者同士、気が合いそうだな」
と海賊の首領が言った。
「親分」
部下が呼ぶと、
「馬鹿野郎! キャプテンと言え、何度言ったら分かるんだ」
首領が機嫌良く部下を叱り、自らが言ったキャプテンと言う言葉の余韻に慕っていた。
航空母艦の艦橋の中、首領は操舵輪を愛情を込めて撫でながら、
「戦後の復興で鉱物資源の需要が多くなったのは良いが、最下層のワシらは、せっかく掘り当てた貴重な鉱石を安い値で叩かれ、貧しい日々が続いた。だが、世の中に嫌気が差していたところに幸運が舞い込んできた。ワシ等は運が良い。小惑星鉱山で働く日雇いのワシ等が、漂う小惑星の中に眠っていた、手付かずの航空母艦を見付けたんだからな。『デッド』の兵器は全て銀河連合によって廃棄処分され、一隻も無い。宇宙で存在するのは、この一隻のみ。おまけに、格納庫には無傷のファントム(セミ型・スズメバチ型戦闘機)が動く状態で残っていた。母艦が故障していたことが幸いし,デッドの影響を受けることなく眠っていられたんだ。まさに奇跡、神の恵みだ。苦労したが、長い時間を掛けて思い通り動くようになった。ワシらは神の力を手に入れたんだ、無敵の力をな。この巨大な母艦がある限り、宇宙の全てはワシ等のものだ」
声高々に、航空母艦・ポセイドンの軍事力を部下達に自慢した。
――故郷に戻って来たとばかり思っていたユアだったが、見知らぬ宇宙領域に来ていた。
「もう、お爺ちゃん、このメガネ壊れているじゃない。ここはどこなの……それにしても……」
アレスの機体が安定せずフワフワと揺れていた。
視線が定まらず、ユウマの下手な操縦にイライラが募るユア。
「何やっているのよ、自動操縦にしなきゃ。最初は誰だって無理なんだから」
「何度かゲームでやったことがあるし、操縦は同じなんだね。そのうち慣れるから、もう少し我慢して。ねえユアさん、あれ何? なんか大きな、まるでクジラ、いや違う、巨大なタンカーがこっちに近付いているんだけど……不気味な姿の船、僕、怖いよぉ~」
人一倍怖がりのユウマが超ド級の軍艦に怯え、ユアにすがった。
――航空母艦・ポセイドンの艦橋で余韻に慕っていた首領。
「ワシ等は神の力を手に入れたんだ。こいつを倒すことが出来るのは唯一、『青い雷撃』だけだろう。だが、あれから十数年、目撃例は無いそうだ。もう二度と現れることはないだろうよ」
「あれはなんだ! あの青い物体は? まさか――」
部下の一人が、前方に光輝く物体を指差して言った。
それは、彼らが最も恐れる青い雷撃、アレスだった。
「言っているそばからから現れやがった、回避しろ!」
首領が顔色を変えてその場から逃げるよう指示をする。が、
フワフワして安定していない飛行に、首領の勘がうずいた。
「いや、待て! 何か様子がおかしいぞ……試してみるか。お前達、行け!」
「行けったって、勝てっこないですよ。相手は伝説の青い雷撃ですよ。瞬殺、返り討ちに遭いますぜ」
「あの動きを見ろ、まるで素人だ。伝説はあくまで伝説。その伝説が一人歩きしたんだろう、たいしたことはない」
青い雷撃の実力を試すため、首領が攻撃機を出撃させた。
「あれ、見たことがあるわ。なんだっけ……そうだ、思い出した。乗り物図鑑で見た、デッドの軍艦、航空母艦だわ。でも何故? 確か、全て廃棄処分されたはずじゃ……」
ユアが呟く。
「じゃ、なんで?」
「そんなの分かんないわよ。なぜ私達がここにいるのかも」
攻撃機ファントムが急接近。
突然、攻撃して来た――。
「わーー! なっ、なんで撃って来るの?」
「分かんない、逃げて! 早くこの場から逃げて。相手は本気よ、撃ち落されるわ。もう、早くって言っているでしょ! 何よ、子供と言ったって、ヒーローの後継者でしょ。地球じゃどうかだか知らないけど、こっちの世界じゃ無敵、超人的な力を発揮するんじゃないの。なぜ反撃しないのよ。第一、真っ直ぐ飛んでないじゃない、動きがヨロヨロじゃないの!」
イライラが爆発したユアがユウマに八つ当たり。
「だって、しょうがないだろう、初めての飛行なんだから」
「だったら撃ち落されないように逃げてよ。全く、話が違うじゃない。これじゃ、ただの弱虫じゃないの。私をガッカリさせないでよね」
必死で逃げるが、不慣れなユウマの操縦では追っ手の追撃から逃れることが出来ない。
「生け捕りにしろ! 名を高める絶好の獲物だからな」
母艦にいる首領からの指令が届くも、
「ちょこまかと、すばしっこい奴め。エーイ、構うことはない、撃墜してやる」
『ババ、バババーー』
命令を無視して、攻撃を仕掛けた。
「わぁーー!」
アレスの機体が大きく揺れ、ユウマが悲鳴を上げる。
破壊力のあるビーム光線がアレスの翼を貫き、一瞬、操縦不能に陥った。
「あそこ! あの惑星に逃げ込んで」
ユアが視界に映った惑星を指差して言った。
吸い込まれるように惑星内に突入したアレスを、攻撃機は執拗に追って来る。
だが、幸運にもそこは真っ暗な夜。
アレスは無事に森の中に紛れ込み、二人は敵機が去って行くまで息を殺して待った。
経験の無いユウマと同じで、海賊達も戦闘の訓練を受けてはいない素人である。
しばらく上空で旋回していたものの、真っ暗な中でアレスを探すのは危険だと判断した攻撃機は、捜索を諦め航空母艦へと戻って行った。
攻撃機の放つ光が彼方へ消えて行くのを確認した二人は、大きく深呼吸をした。
「さっきのは何? 本当に撃って来たけど。死ぬかと思った」
「私だって何がなんだか分からないわよ! 君は伝説のヒーローの後継者なんだから、パッパッパーと片付けちゃいなさいよ」
「パッパッパーと片付けちゃえって、もし、相手が大怪我でもしたら、僕達、警察に逮捕されてしまうよ」
「あの場合は正当防衛って言って、攻撃してもいいの! むしろ、反撃するべきなのよ。それなのに、何にもしないで逃げ出して、ヒーローが聞いて呆れるわ」
「だから言っているだろう、それはお父さんだって。僕はゲームが苦手で、人一倍怖がりなんだから」
「もう、さっきから言い訳ばかりして……」
……あの船は、宇宙を暗黒の世界に陥れた太古の兵器。全て処分したはずなのに、なぜ、目の前にいたのよ……それに、攻撃して来た。絶対、私達の命を狙って来たわ……。
ユアの不安は募る一方だった。




