アドベンチャー
大宇宙・オム二バースに遣って来たケンジとサヤカ。
異次元メガネに仕組まれているデーターに導かれ、目的地が見えた。
目の前には地球? が、目的地のアリオト星はどこにも無かった。
――「あれは地球か? 俺達は異世界に来たじゃなかったのか……」
分厚い雲の中を通り過ぎると、眼下に真新しい街並みが見えた。
明らかに地球とは違う異世界の惑星。でも、どことなく見覚えのある景色。そう、ここは地球とそっくりな惑星だった。
アレス、レイアの二機のアームキャリーは、地上から発せられた誘導電波に導かれ、海上に築かれた人工島に吸い寄せられた。そこは、天にも届きそうな超高速ビルが連なる摩天楼。
ケンジとサヤカは見知らぬ都市に降り立った。
「ここは一体、どこだ?」「高度な文明、地球じゃないのは、確かよね」
二人が周りを見渡していると、子供達が駆け寄って来た。
彼らは以前、ケンジと会った孤児達である。あの時とは違って、みんな明るく笑顔だった。
「わ~、ヒーローがうわきしてるぅ~。アカリお姉ちゃんが、かわいそうだよぉ」「サヤカお姉ちゃんは、リックたいちょうと、つきあっていたんじゃないのぉ?」
子供達の突拍子な言葉にケンジとサヤカが笑った。
「俺達、アカリを救うために来たんだ。彼女、病気なんだよ」
「そう、アカリお姉ちゃん、びょうきなんだ。でも、なおるんだよね」
「もちろん、そのために俺達は来たんだから」
子供達の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。
「やっぱり来てくれたんだな、アカリのために」
そう言いながらリックが近付いて来た。
久しぶりに会ったリックに、サヤカは何故か胸がドキドキ、慌ててケンジの後ろに隠れる。
「異次元メガネを、この星に来るように調節してあった。どうだ、新しい惑星・エルナトは。見ての通り、君達の星をお手本にしたんだ。この星の一年は、ちょうど三六五日。数多くある惑星の中で、君達の時間と共有したくてこのエルナト星を首都星に選んだんだよ」
「……そうまでして、俺達の地球に合わせたんですか」
「この星の人々は君に感謝しているんだよ。その証拠に、ほら」
リックの指差す広場には、二体の巨大な像が並んで建っていた。
一つは英雄・プレイスト、もう一つは、もちろんケンジである。
ケンジは頭を掻いて、ただ笑うばかりだった。
政治の中枢である執務室に案内された二人は、リックから説明を受けた。
「リーダーのウィリスさんが、正式に最高指導者に選ばれたよ。いわば大統領にね。そのウィリスさんが君を気に入って、是非とも、と言って引き寄せたんだ。実は、この銀河連合内で反乱が起きた。政権の中枢から締め出された外宇宙の指導者達。その中の強硬派が、デッドを崇拝する反乱分子・ネオデッドと手を組み、宇宙革命軍を組織して我らに対抗意識を燃やした。このままでは独立戦争に発展しかねない。銀河連合に分裂の危機が迫っているんだ。
連合軍が本腰になって制圧に乗り出したが、奴らは銀河連合の幹部達を人質に取って、エリダヌス銀河のミザールと言う惑星に立て籠もっている。人質を取られては、我らは手も足も出ない。そこで君を選んだんだ。この先、こういった反乱は起きる。力によって物事を解決しょうとする勢力が現れるだろう。全く、デッドは厄介な置き土産を残して行ったものだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! それとアカリの病気と、なんの関係があるんですか?」
「話は最後まで聞くもんだぞ、ケンジ君」
そうリックが熱くなったケンジを落ち着かせると、続けて言った。
「もちろん、危険な戦闘は避け、二人には要人の救出をしてもらいたい。その要人の一人が、アカリの病気を治す薬を持っているんだ」
「そ! そうなんですか。俺、つい熱くなってしまって。分かりました。その要人を救い出したらいいんですね。それで、アカリの命が助かるんですね」
ケンジが何度もリックに確認した。
「先の戦いのアンドロイドと違って、今度の相手は生身の人間だ。だが、ビームライフルとサーベルの威力を弱めるといい。そうすれば命を奪うことなく、動きだけを封じられるよ。あそこに見える母艦のクルー達が、今か今かと君達の来るのを待っている。さあ、出発だ!」
窓の外を見ると、銀河連合の盟主・エニフ星の、最新鋭の中型ステルス航空母艦が待機している。
リックに促されたケンジとサヤカが急いで執務室を出て行くと、それを見計らっていたように指導者・ウィリスが入って来た。
「私がいては気を遣うだろうと席を外していたんだが、本当にいいのか、あんなことを言って……」
気まずそうにウィリスが尋ねると、
「仕方ないです。仲間を救う気持ちが、彼らをより強くするのですから。彼らならやります、きっと我らの期待に応えるでしょう」
リックが力強く答えた。
何やら、ケンジとサヤカには言えない事情がありそうだった。
消息を絶った幹部達を救い出すため、外宇宙のエリダヌス銀河を目指して中型母艦が密かに向かう。
遥かに離れた外宇宙の銀河だが、エアーライン(航空路)やエアーレーン(空中輸送路)が回復し、労せずに目的地、エリダヌス銀河に着いた。
決死の人質救出作戦が敢行され、すぐさまミザール惑星に偵察部隊が向かう。
アレス、レイアの二機のアベンジャー(雷撃機)もミザール星に乗り込んだ。もちろん、ケンジはサヤカとペアを組んで行動をする。
「うん、何か感じるよ」
怪しい気配をサヤカは感じ取った。
「やっぱり、この星に秘密基地があるんだ。サヤカの勘は外れたことがないからな」
ケンジとサヤカは、アドベンチャーのステージに、テクニックと勘で戦いに挑む。
地上に降りる直前、敵が現れた。
「早くも敵が! やっぱり、ここに秘密基地があるんだ」
「ちょっと待って! あれ、ドラゴンじゃない?」
近付くと、敵の正体が明らかになる。
「あれは翼竜だよ。恐竜の一種なんだ。でも凄いよな、本でしか見たことのない翼竜と一緒に飛んでいるんだから。さすがは空の支配者、間近で見る翼竜は迫力があるなぁ~」
しばらく一緒に飛んでいたが、翼竜の体は大きく重いゆえ、鳥のように羽ばたいて自ら飛び立つことが出来ない。
グライダーと同じく、上昇気流が消えると同時に地上に降りて行った。
だがそこは、木々が密集するジャングル、ケンジは無事に着陸出来たのだが……。
『ガガガ、ガガーー』
木々をなぎ倒す音がした。
「痛ったぁ~い! あたしは初心者なのよ。なんでこんな足場の無い場所選ぶかな、全く」
「悪りぃ、ご免な。つい翼竜に目を奪われて。でも無事で良かったじゃないか。初めてにしては上出来、お前、操縦のセンスあるよ」
ジャングルの真ん中に降り立った二人。秘密基地がありそうな気配がプンプンしていた。
気温は三十二度。大気の成分は窒素七十八%、酸素二十一%と,地球のアマゾンと同じ環境だった。
ふとサヤカが見上げる。
巨木の隙間から、うっすらと白く見える月。そこにサヤカは何かを感じていた。
「何しているんだよ、早く行くぞ!」
「うん、あ、ちょっと待ってよ、ほっとかないでよぉー」
「だったら、早くしろよ」
いつになくケンジがせかす。
異世界の環境は異常なまでに体力を奪う。
早く解決したくてケンジは焦っていた。
「こんな不気味な森の中で、そんなにせかさないでよぉ!」
見上げるばかりの巨木が光を遮る。
昼間でも暗い森の中、不気味な環境にサヤカが怖がった。
森の中には様々な種の生物がいて、多種多様な生き物の宝庫だった。
「何あれ? 可愛い。パンダみたいなのがいるよ」
見覚えのある動物をサヤカが発見。
「可愛いからって、外に出て行っちゃ駄目だぞ」
サヤカに注意するが返事が返ってこない。
次の瞬間、コックピットの視界からサヤカが走って行く姿が見えた。
ここは弱肉強食の世界、死と隣り合わせの危険な場所。
可愛いと思って近寄って行ったサヤカだったが、子供のパンダを襲う猛獣が背後に潜んでいた。
突然、猛獣が牙を剥き出しサヤカに襲って来た。
「キャーー!」サヤカの悲鳴がこだまする。
と同時に、サヤカを守るようにアレスの大きな手が遮った。
猛獣は、巨大なアレスに驚いて何処かへ逃げ去り、サヤカは命拾いした。
安全を確かめケンジが降りて来ると、泣きべそのサヤカに言った。
「ここは安全な動物園じゃないんだから、レイアの外に出ちゃ危険だぞ」
「うん、ごん免……」
落ち込むサヤカに子パンダが寄って来た。
サヤカが子パンダを抱きかかえると、フワフワした柔らかい毛並みでスリスリしてきた。
「超可愛い~、連れて帰りたいなぁ~」
サヤカのわがまま病に火が点いた。
「きっと、さっきの猛獣に親が食べられたのよ。可哀想だから引き取ってあげようよ」
サヤカが都合の良いように解釈しケンジに迫る。
だが、この場は引けない。
「駄目に決まってるだろ。確か、ワシントン条約だったか、禁止されているんだから」
「それって地球の話でしょ、一匹ぐらいいいじゃないの。ほら、こんなになついてるし、ほんと、人間を恐れないのね」
「そもそも、この星には人間がいないんじゃ、人類はまだ誕生していないんだろう」
――まてよ、人間を恐れていないということは、この星に基地は無いのか? そんな筈はない。きっとどこかにある筈だ。
ケンジの脳裏に一抹の不安がよぎった。
「飼うったって、何を食べるのか分からないし、仲間だって一匹もいないんだぞ。それこそ、可哀想だとは思わないのか?」
ケンジがサヤカを諭すも、ふくれっ面のサヤカ。
抱えるパンダの視線が森の方に向けられた。
そこには母親らしきパンダが心配そうに見ていた。
――「あっ!」
子パンダがサヤカの手から放れ、母親の元に走って行く。
だが、サヤカにはどうすることも出来ない。
ケンジの言った通り、子パンダにはこの場所にいるのが一番良いんだと思った。
うっすら涙を浮かべるサヤカにケンジが声を掛ける。
「生き物は駄目だけど、花ならいいじゃないか? あれを見ろよ。花、綺麗な花が咲いているだろう。アカリのために持って帰ろうと思うんだ。アカリも未知の病気と闘っている。俺達に出来ることと言ったら、花を贈るぐらいだからな」
光の差し込む林の中に、見たことのない色鮮やかな花が咲いていた。
「へぇ~、あんたも女の子の気持ちが分かるようになったのね」
落ち込むサヤカの気が晴れた。
「インスタ映えする綺麗な花ね、地球には絶対咲いてないわ。アカリさん、きっと喜ぶわよ」
二人は、病気で寝込んでいるアカリのために、何本かの花を摘んだ。
「よし! この花が枯れないうちに、事件を解決するぞ!」
改めてケンジは気合を入れ、捜索を再開する。
そんなケンジ達の前に、突然、巨大な大蛇が威嚇して来た。
「ぎゃー! 蛇、蛇がいるじゃない。私、爬虫類が苦手なのよ。あのギラギラした皮膚を見ただけで蕁麻疹が出てきそう」
サヤカが悲鳴にも似た声で言った。
大蛇は鎌首をもたげてコブラのように首を広げた。
とっさにケンジが身を守ろうと銃を構える。
「待って!」
サヤカが制した。
足元には大蛇の子供らしい蛇がいる。
「どうやら、この場所は大蛇の巣のようね。子供を必死で守っているんだわ。なんだか可哀想」
大蛇は子供を守ろうと、身を挺して救おうとした威嚇だった。
「撃っちゃ駄目よ、絶対に。この星では私達が侵入者なんだから。ご免なさいね、蛇さん」
子蛇は、動きを止めたアレスとレイアの足元を縫うように親元に歩み寄る。
大蛇は威嚇するのを止め、子蛇を連れて森の中へと消えて行った。
森の奥まで来ると、二人の進路を塞ぐように巨大な山が立ちはだかった。
耳を澄ませば川の流れる音が聞こえて来る。絶壁の山は生物達の進入を許さず、まさに秘境と呼べる場所だった。
「見ろよ、あれ、滝じゃないのか」
見上げるほどの高い山の頂から水が流れ落ちて、その滝の水が麓へと流れている。
「まるで、エンジェルフォールね」
サヤカが南米・ベネズエラにある、落差千メートルの滝を例えて言った。
空から降って来る水は、余りの落差から水蒸気となり鮮やかな虹を作り出す。
息を呑むような絶景。神秘的な雰囲気が漂っていた。
絶壁には、唯一、飛行能力のある翼竜の住みかがあり、こちらを警戒している。だが、巨大な二機のアベンジャーに警戒し襲って来る気配はなかった。
「サヤカ、ちょっと泳がないか? ここは暑いから汗かいちゃって、泳ぎたい気分なんだ」
「綺麗な川を見て私もそう思ったんだけど、泳ぐったって、水着なんか持って来てないわよ」
「誰も見てないんだし、てか、二人しかいないんだから水着なんていらないだろ」
「男のあんたはいいかも知れないけど、あたしは一応、女なんだからね。いくら幼なじみだからって、あんたがいるのに裸で、なんて無理に決まってるじゃない。そりゃあ、あたし達、付き合うって言うんなら、見られても、別に構わないんだけどぉ……」
「誰が裸って言ったんだよ。それはさすがに俺でも恥かしいよ。下着、下着姿で十分だろ。俺、我慢出来ないから先に行って待っているぞ」
そう言ってケンジが川に飛び込んだ。
「ヒヤ~、気持ち良いぞぉ! サヤカ」
手を振ってサヤカを誘う。
気持ち良さそうに泳ぐケンジの姿を見て、さすがのサヤカも我慢しきれず、川に飛び込んだ。
透き通った川は底まで見え、火照っていた体が冷やされ爽快な気持ちになる。
「このメガネ、水をはじくのね。まるで水中メガネだわ」
「そりゃ異次元メガネだからな、周りの空間が反発しているんだろう。なあサヤカ、滝の方に行ってみないか」
当然、滝壺がどうなっているのか知りたくなり、行って見たくなる。
「うん。でもあたし、泳ぎが苦手なのよね」
「なら、俺の肩につかまっていろよ、連れて行ってやるから」
泳ぎの苦手なサヤカは、平泳ぎのケンジの両肩にしがみ付き足をバタバタさせ、二人は緩やかな川の流れに逆らって滝の方へと泳いで行った。
ケンジが滝の前の岩によじ登り、サヤカに手を差し延べた。が、
ケンジが赤い顔をしながら視線を逸らす。
「何?」
サヤカが不思議に思う。
「いや、そのぉ……やっぱり、透けてるな~って」
「馬鹿! どこ見てんのよ、エッチ!」
そう言いながら、慌てて透けている下着を手で隠す。
「見ない! 絶対に見ないから我慢してくれよ。言っとくけど、狙っていた訳じゃないからな」
「当然でしょ! アカリさんが大変な時に、淫らなことを考えていたんなら、絶交だからね!」
大人に生長したサヤカのなまめかしい下着姿に一瞬本能が突き動かされたが、彼女に一喝され、ただただ、苦笑いのケンジだった。
二人は滝の近くに歩み寄った。
滝の真下から見上げると、霧状の水が豪快に落ちてきている。まるで暴風雨のようで、肝心の滝壺は落ちる水が霧になっているせいか、想像していたより浅かった。
二人はその場に腰を下ろして、神秘的な滝壺をしばらく眺めた。
男と女の二人きりの世界、まるでエデンの園だとケンジは思う。
「マイナスイオンを全身に感じられて、何か疲れがとれるわね。色々と気を遣ってくれて、ありがとう」
ケンジが休息を取ったのは、サヤカを思ってのことだった。
異世界でのアームキャリーの操縦は、予想以上に体力を消耗する。ましてやサヤカは初心者、マイナスイオンの感じる滝で十分な休養がとれ、二人はリフレッシュ出来た。
「ケンジの言った通り、汗が引いてサッパリしたよ。おまけにこの風で下着も乾いたから、もう、こっち向いても構わないわよ。どう、あたしも女らしく成長したでしょう。スタイル抜群のアカリさんとじゃ、見劣りするだろうけどね」
サヤカがさりげなく自分のアピールをしつつ、
「この星で人間はあんたとあたしだけ、まるでアダムとイブじゃない。そう思っていたんじゃないの」
ケンジの心を見透かしたように言うと、ケンジが咳き込む。
この世界では、サヤカはなんでもお見通し。
「そ、そろそろ、行こうか……」
気まずくなったケンジが先を急いだ。
森を抜けると、目の前には大海原が開けていた。
「まさか、海の中に入る気?」
「もちろん、秘密基地は海の中と相場は決まっているんだよ」
「でも、大丈夫? 水漏れしないかな」
不安がるサヤカにケンジが言った。
「あのな、アベンジャーはそんな柔じゃないよ。第一、俺達は真空の宇宙から来たんだぞ。水漏れするぐらいなら、コックピットから空気が抜けて、すでに死んでいるよ」
海に潜ると様々な古代魚がいた。
まだ進化の途中である珍しい魚や、海底を彩るサンゴが生息している。
フワフワと浮いているクラゲはシャンデリア、お花畑のように一面に広がるサンゴは絨毯、まるで宮殿の中の大広間にでも迷い込んだような錯覚に陥った。
まさに、海の中の楽園と呼べる場所だった。
人懐っこいリードシクティス(首長竜)が近寄って来て、愛くるしい顔で覗き込んで来る。
アレスとレイアに付いてしばらく一緒に泳いでいたが、何かに怯えたように引き返した。
更に沖へと進んで行くと、シロナガスクジラのような巨大な魚が近付いて来た。
それは大人しいクジラなどではなく、凶暴な巨大ザメ・メガドロン。リードシクティスは、海の王者であるメガトロンの気配を感じて逃げたのだ。
突然、メガロドンが大きく口を開けて襲って来た。
アレスとレイアはスピードを上げ、メガロドンを振り切る。
「あんなおおぐちの巨大魚に飲み込まれたら、一巻の終わりだな」
メガロドンに危うく丸呑みにされるところ、
「あれ、何?」
ホッとしたサヤカが奇妙なものを発見。
それは巨大なタコで、海底をニョロニョロとはっていた。
「見たことの無い巨大ダコね。ダイオーイカの親戚かしら?」
「海の魔物、クラーケンじゃないのか。あれ、寿司にしたら何人前出来るんだろう。でも、見るからにマズそうだな、ハッハハ、ハー」
笑っていたケンジの前に巨大ダコが近付き、スミを吐いて何処かへ去って行った。
ケンジ自慢のアレスが、スミで真っ黒になり、
「今のあんたに、お似合いじゃない」
とサヤカが腹を抱えて笑った。
一帯をくまなく探したが、海中に基地は無かった。
海から出て陸に上がると、そこは見渡す限りの草原。
ここにも基地らしい人工物は無かった。偵察部隊からの連絡は未だに無い。
秘密基地の捜索は難航を極めた。
遠くを見渡すと、小さな山が動いているように見えた。
ズームしていくと、山に見えたものは巨大草食恐竜・スーパーサウルスの群れだった。
スーパーサウルスは食べる草を求めて移動していたのである。この星はまさに恐竜ワールドだった。
スーパーサウルスの群れは、アレスを恐れず進路を変えようとしない。一直線に餌場を求めて近付いて来る。
「凄く大きいわね、恐竜って。でも、あんなに大きかったかしら? まるで怪獣じゃない」
「地球とは環境が違うからだろう。この星の生き物はなんでも大きいんだよ、サメにしてもタコにしても、驚くぐらい大きい。にしても……最も危険な人間の気配が感じられない。この星に基地は無いんじゃ……。サヤカの勘も、外れることがあるんだな」
「あたしはあっち、あっちの月みたいな所に行きたかったのに、あんたがせかして勝手に来たんでしょうが」
「じゃ、あの月がそうなのか?」
白く見える月を見上げながらケンジが言った。
その時、何かが襲って来た。
地響きを上げて襲って来る。
――「ゴジラ! ゴジラが襲ってきたわ!」
とサヤカの悲鳴。
それは映画とかで見た恐竜・ティラノザウルスだった。
猛烈な勢いでアレスに突進、アベンジャーを凌ぐパワー。
肉食恐竜最強、対、宇宙最強の縄張り争い? ケンジが踏ん張り恐竜と力勝負。まるで相撲をとっているように見えた。
「何やってんのよ! こんな遠い所まで来て」
と呆れながら言ったサヤカ。
「サヤカの言う通りだな。残念、力比べ勝負はお預けだ」
執拗に追い掛けて来るティラノザウルスと別れを告げ、ケンジとサヤカは一気に月へと向かった。




