秘密基地
月に似た、太陽に照らされた白く輝く衛星。
その衛星の山脈の頂上にアレス、レイアが降り立つと,そこからは大小さまざまな衝突クレーターが見えた。
その一番大きなクレーター内に、サヤカは人の気配を感じた。
底の見えない暗黒の巨大クレーターの中をのぞいていると、サヤカの乗るレイアが足を滑らせた。
態勢を立て直そうと試みるも、蟻地獄のように大量の土砂が機体を覆って脱出出来ない。
吸い込まれ飲み込まれて行くサヤカ。
「きゃーー!」
と叫び声を残して通信が途絶えた。
「サヤカー!」
ケンジが声を掛けるが応答は無い。
崩れ落ちる土砂に乗ってアレスが下って行った。
しばらく応答が無かったが、
「あたしは大丈夫、でもここはどこ? 真っ暗で何にも見えないんだけど」
返事が返ってきた。
「赤外線のような暗視装置が働くから、しばらくすると見えてくるよ。今直に助けに行くから、その場でジッと待っているんだぞ」
ケンジの言った通り、次第に辺りが見えてきた。
遠くまで通路のように続く洞窟。しかも、巨大な通路は迷路のように入り組んでいる。明らかに人工物であるのが分かった。
偶然にもサヤカは、空調用の排気ダクトから内部に入り込んだのだった。
「助けるって言っても、どうやって? 土砂で覆い尽くされているのよ」
「ミサイルで、母艦を貫くドリルミサイルなら簡単さ。威力が凄く危ないから、ちょっと、その場から離れていろよ」
目の前の、土砂に覆われた断崖に向かって航空魚雷を発射する。
鋭利な魚雷は崖を貫通し自爆、大きな衝撃によって穴が開いた。
中に入ってみると、巨大な空洞が一直線に伸びていて、まるで工場のように広々としていた。
サヤカが睨んだ通り、この場所はクレーターでカモフラージュされた艦隊発着所、秘密基地だった。
「やっぱり、ここが秘密基地だったんだ」
そう確信したケンジは、すぐさま母艦で待機しているリックに報告。
偵察部隊の情報を待っていたリックが全機に出撃を命じた。
ケンジの放った爆撃に反応して警報が鳴り、敵が続々と入って来た。
暗闇の広い通路でバトルが始まる。
デットとは違う同じアームキャリー同士のバトル。
ケンジは力をセーブして犠牲者を出さないように務めた。それほど超人となったケンジとの力の差は歴然としていたのである。
敵の光線を盾で異次元へと逃がし、的確な射撃で攻撃部隊を仕留めていくケンジ。
……いくらやっても同じこと、早くここを通してくれないかなぁ。
余裕だったケンジだが、後ろからも敵が迫って来た。サヤカを守りながらの戦闘には限界がある。
サヤカも見様見真似でビームライフルを構え、敵を迎え撃つ。
が、天井に当たった。
「どこ狙って撃ってるんだよ!」
思わずケンジが声を荒げる。
「何もかも初めてなんだから、しょうがないでしょ!」
思い通りにいかずイライラが募るサヤカ。
「お前の武器は、心眼だろ。目で敵を追うんじゃなく、敵の動きを読むんだよ」
「分かってるわよ! そんなこと」
思わず反発するも、ケンジのアドバイスを受けてサヤカが実行、敵の動きを読み、その到達点を目掛けて撃った。
切れ味鋭いサヤカの心眼は、正確に敵の弱点を貫く。
『援軍が駆け付けるから、交戦を避け、先を急げ』
リックからの指令と共に、精細な地図も送られてきた。
援軍が駆け付けると、ケンジとサヤカは地図を頼りに、要人達を拘束している場所を目指し進む。
そんな二人の前に、不気味な物体が立ち塞がった。
「何か、怖そうなのが出て来たよ」
サヤカが警戒、ケンジに注意を促す。
また指令が来た。
敵アームキャリーの情報だった。
『名はライガー。四足歩行の突進型アームキャリー。四人乗り故、四方からの攻撃に対応出来る万能タイプ。ライオンのようなたてがみはシールドの役目をしていて、一切の攻撃が利かない。頭部にある角には高電流が流れていて、一突きで相手を仕留める。一撃必殺の突進が最大の武器』とある。
どうやらこれが敵の秘密兵器、切り札らしい。
『この場は援軍に任せて、先を急げ』
リックの指示通りに先に進もうとした。
だが、ライガーが援軍に襲い掛かり、次々と仕留めていった。
見方が被害を受け、彼らをほっておいては行けない。
「どうやら無視して行けそうもないな。損害を出さないために、今封じておかないと。サヤカ、危険だから下がっていろよ」
……いざという時、やっぱりあんたカッコ良いよ。そうサヤカが思い、アレスの後ろ姿を見詰めた。
たてがみの強力なシールドによって銃が封じられた。
接近戦となり、ケンジはビームサーベルに持ち替える。
『ジジジー』
ビームサーベルがうなりを上げる。
「いつ聞いても良い音。聞きたかったんだよな、この音」
浮上したライガーは直前に急降下して攻撃して来る。
ライガーを懐近くに引き寄せビームサーベルを振り抜いた。
『バ、バーバー』
確かな手応え、仕留めたと思った。
が、ビームサーベルの威力が弱いため、僅かな損傷を与えただけだった。
ケンジの一撃でライガーは警戒し、ある程度の距離を保ちつつ攻撃を仕掛けて来る。
変幻自在、目の前で移動しながら突進して来るライガーの攻撃にケンジはかわすのがやっとだった。
接近戦に持ち込みたいケンジに対し、ライガーは空中で止まったままアレスと距離をとって攻撃を仕掛けて来る。
見兼ねたサヤカがケンジの前に出た。
彼女の持つ心眼の能力を高め、飛来するコースを読んで待ち構えた。
ライガーの飛行して来る場所を予測していたサヤカだったが、鬼気迫るライガーを間近に見て、その迫力に呑まれたサヤカが思わず、
「きゃーー!」
と叫び目を閉じた。
『バリバリバリ~』
ライガーが放電したように光り輝いた。
サヤカが悲鳴を上げてレイアがしゃがみ込んだ時、ビームサーベルがライガーの喉元を貫いた。
逃げ腰が功を奏し、レイアはライガーの急所を見事に貫いたのだった。
機体から高エネルギーが放出し、力尽き崩れるように動かなくなくなったライガーを見限り、四人の操縦士が慌てて逃げ出した。
「良くやった! 凄いぞ、サヤカ。一体、どんな裏技を使ったんだよ」
強敵を一撃で仕留めたサヤカに驚かされるケンジに、
「ま、まあ、あたしにかかれば、こんなもんよ」
と言って、マグレにもかかわらずドヤ顔でケンジを見下した。
敵の攻撃部隊を撃破した二人は、要人達を拘束しているらしい施設の前に来た。
「ここからが厄介なんだ。何せ、人質がいるから手が出せない。さて、どうしたらいいものか……」
『手を出さずに要人達を救出しろ』
新たな指令。
「リックさんも無茶言うよな。俺がマジシャンのように、なんでも出来ると思っているんじゃないのか」
「いつもの観光の時みたいに、消えて行けばいいじゃない」
サヤカが策を授けた。
「科学技術の遅れた地球ならともかく、消えただけなら一発で見抜かれるよ。ましてや、この機体にステルス機能は備わってないんだから、すでに警戒しているんじゃないか。ゲームでは無かった展開……、この場は、脅しが一番なんだけどなぁ」
そうこう考えているうち、
「あっ! ご免」
サヤカの乗るレイアが扉のセンサーに触れ、ゆっくりと巨大なゲートが開き出した。
暗闇の広い通路に室内の明かりが差し込み、アレス、レイアの姿があらわになった。
施設内には要人達を拘束している大勢の敵がいて、彼らの視線が一斉に二人に向けられる。
「敵だ、敵襲!」「我らの切り札、秘密兵器のライガーが敗れたのか!」
叫び声が一帯に響き渡った。
「万事休す……」――。
諦めに似た言葉がケンジの口から出た。
ケンジの弱気な言葉にサヤカも抵抗を諦め、ゆっくりと武器を置いた。
人質を盾に、激しい反撃が予想されたのだが……。
二人を追い詰めた反乱軍。彼らの目の前には青色のアベンジャーがいた。
「あの青い機体は、まさか……奴だ、青い雷撃! 小宇宙に帰ったんじゃなかったのか? 『神』を倒した男だぞ、人間の我らで勝てる筈がない。もう、おしまいだ……」
このクーデターは、小宇宙・ユニバースに帰ったケンジが、大宇宙にはもう戻って来ないだろうと計画されたものである。二度と現れない筈の青い雷撃・アレスが目の前にいる。
反乱軍はアレスを見ただけで戦意喪失し、抵抗を諦め降伏した。
デッドを倒した救世主の噂が、彼らを震撼させたのだった。
「あんたって、超有名じゃん。次期、大統領ね」
「そ、そうか? じゃ、こっちで住もうかな……」
有頂天のケンジ。
大事なことを忘れていた。
「あ! そうそう、薬の持ち主を探さなくちゃ。今でも、アカリが苦しんでいるんだから」
要人達の中に入って行ったケンジが声を掛けた。
「この中に、マリヨさんはいますか? 俺、会いに来たんです」
それらしい科学者が人並みを掻き分けながらケンジの前に出た。
「あの、薬、ウイルスを完治させる薬のことなんですが。どこにあるんですか?」
「薬? なんのことを言っているのか、私にはサッパリ?」
そう言ってマリヨは首を振った。
アカリがウイルスに感染したというのはリックの方便だった。
ウイルスを口実に、ケンジを引き入れようとしたリックの思惑通り、外宇宙の反乱を最小限の犠牲で鎮圧出来たのだった。
「ハハッ、騙して悪かった。でも、そうでもしない限り来てくれないからな。アカリの症状は疲れからくる単なるアレルギー症状なんだ。アカリは頑張り屋だからな、地球の住人になったからと言っても、まだ体が順応していないんだろう。休めば直るよ、心配は無い」
そう言ったリックがケンジに近付いて、何か耳打ちした。
――嫌な予感。勘の鋭いサヤカが警戒する。
その時、指導者ウィリスが側近達を引き連れ姿を現した。
「また、君達に救われたね。感謝の言葉が無い。お礼がしたいのだが……おっと、失礼、必要無かったね」
そう言って、ウィリスが二人の労をねぎらった。
「あのう、一つだけあるんですが……。アレスと分かれたくないんです」
「もちろん、あれは君にしか乗れない代物、誰にも乗れない君だけのものだからね。地球の平和のために、いや、一機で天の川銀河とやらもまかなえるよ」
ケンジが正式に所有者として認められ、アレスを譲り受けた。
それだけではない。
「あと、レイア。あれも地球に持ち帰ってもらわなければならないな。レイアも特殊戦闘機、アカリしか乗れないものだから」
リックが付け加えて言った。
「アカリのアベンジャーは量産型じゃないんですか? じゃ何故、素人のサヤカが拒否されずに操縦出来たんです?」
ケンジが不思議そうにリックに尋ねると、
「レイアが、お譲ちゃんを気に入ったってことだよ。その証拠に、見事に乗りこなせていたじゃないか。女戦士の誕生って訳だ」
リックがサヤカをからかいながらも、その働きぶりを称賛した。
ケンジの持つテクニックと違って、サヤカの強みは考える力である。先の戦闘で間近にケンジの操縦を、戦術を見ていたサヤカは、その行動の全てを記憶していた。それに加えて、頭脳明晰なサヤカは、その様々な行動パターンを瞬時に選択し対応する力もあった。
特殊能力の心眼に加え、彼女の優れた知能がケンジにも劣らない戦士を育てたのである。
「そういえは、最初に見たレイアとは随分変っていたなぁ。て、ことは、レイアもエボリューションだったんだ。凄いよ、凄いことなんだぞ、サヤカ」
その言葉にサヤカは嬉しくなった。
自分を認めてくれたレイアを、まるでペットのように可愛く思えてくるのである。
いよいよアカリの待つ地球に帰る時がきた。
「あのう……また、来て下さいね」
もう会えないと思ったサヤカがケンジの前に出て、勇気を出してリックに言った。
「今度は、お譲ちゃんのために駆け付けるよ」
リックとサヤカが見詰め合う。
ただならぬ二人の関係。
居合わせた幹部達がリックとサヤカを交互に見た。
アレス・レイアの待つ格納庫へと向かう通路の中で、ケンジがサヤカに聞いた。
「リックさんと、何かあったのか?」
見詰め合っていた二人の関係が気になっていた。
「ああ、さっきの。つい、リックさんの瞳に吸い込まれちゃった。あの人と会うと、何故か胸の辺りがドキドキして……息苦しくなるのよね」
「お前、それってまさか……風邪だろ。俺、仕事があるから、風邪うつさないでくれよな」
「風邪? じゃないと思うんだけど……こんな経験、過去に一度あった気がするわ。きっと疲れからくるものなのかも。私も一応、戦士だからね、休養が必要なのかも知れないわ」
新たな恋が芽生えようとしていた。
こうしてハラハラ・ドキドキの、ケンジとサヤカの冒険は終わった。




