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オムニバースの英雄 ~ゲーマーがゲームの腕で異世界を救う物語~  作者: 西一
第二章 恋はアドベンチャー
12/44

再び

 平和が訪れた大宇宙・オム二バースに、再び争乱の兆しが見え始めた。

 それは『デッド』ではなく、人間の手によるものだった。


 あれからも北山ケンジと加藤サヤカ、アカリの三人は会った。

 三人は親友として、それ以上の進展は無かったが……。

 

 サヤカは大学生として、花のキャンパスライフを満喫、大阪の名門大学の医学部で勉学に励み、自身の立てた将来の目標に向かって邁進中。

 街中でスカウトされたアカリは、雑誌の表紙を飾るほどの売れっ子モデルとして活躍、地元のイベントなどに出演して人気を得ていた。高校の卒業と同時にサヤカの家を出て、事務所所有のマンションで女性マネージャーと二人暮らし。残業、休日出勤の多いケンジとは、たまにしか会えない辛い日々が続く。


 一方、乗る機会の少なくなった二機のアベンジャーだが、そこは意思のある人工知能搭載機、頭脳を開放してあるアレスとレイアは、搭乗者がいなくても飛んで行ける。スモークがきいているから、人の目を気にせず自由に飛び回ることが出来た。       

 アレスとレイアにとっても地球の環境は心安らぐもので、二機のアベンジャーは小動物のように自由に飛びまわった。

 


 久しぶりにケンジ・サヤカ・アカリの三人が居酒屋に集まった。

 アットホームで落ち着きのある雰囲気がアカリは好きで、居酒屋は三人の近況を話す場としてよく利用している。

 未成年の三人はジュースで乾杯。唯一、お金のあるアカリのおごりで。


「お前、髪染めたのか?」

 黒髪のショートが似合っていたサヤカだったが、少し茶色に染め、肩まで伸びた髪が大人っぽい雰囲気を醸し出している。

「呆れたぁ、今頃気付いたの」

 と呆れ顔のサヤカ。

「似合っているよ、それ、女らしくなったじゃないか。アカリに一歩、近付いたな」

 モデルの仕事で伸ばしているのか、背中まで届く銀髪がアカリの色っぽさを増し、ついケンジは見とれてしまう。


 芸能人張りのオーラが出ているアカリの横にいると、見劣りするのはサヤカも分かっている。だからこそ、自分をアピールしようと、苦手なメイクをして張り切って来たのに、ケンジは気付いてはくれない。


「俺、航空自衛隊に入るんだ、って公言しといて、諦めるの、早かったよね」

 サヤカが嫌味たらしく言った。

「だって、しょうがないだろ。航空自衛隊はエリート集団で、厳しい大学を卒業しなきゃならないんだから。でも、小さいけど、ゲーム制作会社に入れて良かったよ。ゲーセンでの俺の活躍が社長の耳に入って、オマケで採用されたけどな。今は研修期間で、給料はスズメの涙だけど」

「でも、好きなゲームに関われて良かったじゃない」

「あのな、仕事は別。よくスポーツ選手が言っているだろ、いくら好きなことでも、仕事になると好きにはなれないって。それに俺は、ゲームをするんじゃなく、ゲームを開発する方なんだぞ。業績不振に喘いでいる会社だから、みんなピリピリしているんだ。唯一、高卒だから肩身が狭くて、毎日が憂鬱だよ。ほんと、気楽な学生生活が羨ましいよ」

「何よ、私が呑気に暮らしているみたいに言って。私だって勉学に忙しいんだからね。アカリさんはどうなの? モデルの仕事って……アカリさん?」

 アカリの様子がおかしかった。


 顔色の悪いアカリを気にして、ケンジがアカリに声を掛けた。

「具合が悪いのか? 無理して来たんじゃ」

「大丈夫、みんなと会うことで、元気をもらえるから……」

 そう答えるものの、無理しているのがケンジとサヤカには分かった。


 異変は突然訪れた――。 

 アカリの体から火照った熱が伝わってくる。腕には青い発心、息が荒く苦しそうだった。

「あたしは二人のため、二人を守るために医療の道に進んだんだけど、どう見てもこれ、ヤバくない。未知のウイルスじゃ……。急いで救急車呼ばなくちゃ!」

 と言ったサヤカの手をアカリが握り、

「お願い、救急車は呼ばないで、休めば直るから。二人とも、心配しないで」

 そう頼んだ。


 アカリを気遣って店を出た。

 意識はあるものの、支えがないと自力では立っていられないぐらいアカリは弱っていて、二人はアカリを抱えてタクシーに乗り込むと、彼女の住むマンションに向かった。


 

 マンションに着く頃にはアカリの意識は無く、出迎えていたマネージャーの向井と一緒にマンション内に入った。

 そして、寝室に入ってアカリをベッドに寝かせると、向井は必死でアカリを看病する。

 

 初めて入るアカリの部屋には、沢山のファンレターが山のように積み重なっていて、人気の高さを物語っていた。

 アカリはその手紙の一つ一つに目を通して夜遅くまで返事を書いているのだと、こんな下向きさがファンの心を掴み人気に拍車を掛けているのだと向井は言った。


「何故か、アカリは病院に行きたがらないのよね、風邪を引いても怪我をしても。そんなに病院が嫌いなのかしら」

 と向井が愚痴を言うと、ケンジとサヤカが顔を見合わせる。

「病院に行けば、精密検査で地球人でないのが分かるから……地球にいられなくなると思って拒んでいるのよ、きっと」

 向井に聞かれないよう、サヤカが小声で言った。 

 本棚には、三人で旅行した写真が大事に飾ってある。

 どこへ行くのも三人一緒、アカリを失いたくないと強く思った。

 

 意識の無いアカリが片言のように、

「北山君……北山君……」

 とケンジの名前を呼んだ。

「俺はここにいるから。どこへも行かない、アカリのそばを離れないよ」

 そうケンジが言いながら、アカリの手を強く握る。

 サヤカはその光景が痛々しく見ていられなくなり、思わず部屋を出た。


 サヤカが出て行き、ケンジと二人だけになるのを待っていた向井がケンジに尋ねた。

「前々から聞こうと思っていたんだけど、アカリと君とはどんな関係? まさか恋人同士なじゃないでしょうね。語学堪能のアカリなら海外を目指せるのに、頑なに大阪にこだわっている。私はあなたが関係していると睨んでいるんだけれど,どうなの? 本当のことを言ってくれる」

「俺達、そんなやましい関係じゃないです。アカリとは単なる友達ですよ」

 嘘ではない。ケンジは正直に言った。

「そ、そうよね、どう見たって、君とアカリとじゃ、つり合わないわよね」

 とにかく、思ったことはズケズケ言うマネージャー。これからという時にスキャンダルが発覚したら、せっかくの人気も台無しになる。

 真相を確かめられて向井はホッとした。


 玄関前の共用外廊下から、サヤカが夜空を見詰めた。

「いつでも助けに来るって言ったじゃない……このままじゃ、アカリさんが死んでしまうよ……助けて、助けてあげて!」

 天に向かってアカリが心の中で叫んだ。

 サヤカは異世界にいるリックに救いを求めた。 


 ――「あれは?」

 壁の手すりに、二つの光るものがあった。

 手に取って見ると、それは異次元メガネだった。


 急いでサヤカが部屋に戻り、ケンジに異次元メガネを見せた。

「これって、異世界に来いってことかな? そうだ、きっと向こうには病気を治せる薬があるんだ!」

 微かな希望が見え、ケンジが語気を強めて言った。

「じゃ何故? 直接会って渡せばいいじゃない」

 とサヤカが不満に思も、

「会えない事情が、俺達が向こうの世界に行かなきゃならない理由があるんだよ」

 ケンジがなだめる。

「じゃ、早く行こうよ! こうしている間にもアカリさんが弱っていくんだから」

「でもな~……」

 何故か煮え切らないケンジ。

 小さい会社に勤めるケンジは、簡単に休みが取れない。


「田舎の爺ちゃんが危篤で、と言って休みを取っても、急に言ったんじゃ信じてくれなれないだろうな……。このままじゃ、首になるかも」

「あんた、会社とアカリさん、どっちが大事なのよ」

「も、もちろん! アカリに決まってるだろ。でも、小さい会社だけど、気に入っていたんだよなぁ……」

 煮え切らないケンジに、サヤカが知恵を授けた。

「ゲーム会社に勤めているんだから、面白いゲームソフトを開発すればいいのよね。だったら、飛行中のアレスを映した映像をそのままゲームに取り入れればいいんじゃないの。ロボットゲームの実写版。ゲーム好きなら、その映像だけで喜んでもらえると思うの。ビデオカメラはデジタルだから、パソコンに取り込んで、チョイチョイと加工して編集出来るでしょ。そもそも、巨大なロボットが実在するなんて誰も思わないんだし、精密なCGとしか思わないわよ、きっと」

「それだ! やっぱりサヤカは頭が良い、考えが三六〇度違うなぁ~」

 そうケンジが感心するも、

「ん? 三六〇度……、それじゃ同じでしょ。相変わらず、あんたはネジが一本抜けてるんだから」

 サヤカのダメ出し。


「でも、誰が映すんだ?」

 ふと、ケンジが疑問に思う。

「そりゃ……そうね、アレスに一緒に乗っていたら映せないものね」

「そうだ、サヤカがレイアに乗ればいいんだよ」

「無理、無理、絶対無理だよ。だってあたし、メカ音痴だもん」

 大きく首を振りながらサヤカが言う。

「人工知能があるから補助的なことで十分なんだ。なんたってシンプル、マニュアルの車の運転より簡単だぞ。確か、アカリのレイアは、俺のアレスと違って量産型。拒否されない筈だ」

 不安がるサヤカを説得し、二人はアレスとレイアの別々のアベンジャーで異世界に行くことになった。



 レイアに乗ったサヤカが目を輝かせた。

 アレスとは違う明るい内装のコックピット。女性専用仕様にサヤカが気に入った。

 試しに操作レバーを動かすと、非常に軽く操縦し易そうだった。

「確かアカリさんが、地球の情報機器と互換性があるって言っていたけど……」

 ケンジに内緒で音楽データーを持ってきていたサヤカ。

 アカリの言っていた場所にメディアをかざすと青く光り、データーを読み込み始めた。

 もちろん、操作ボタンは無く、思考の脳波に反応するらしい。

 演奏が始まり、音量を意識してコントロールする。大好きな東野ナナが、目の前で歌っているような臨場感溢れる音。地球には無い優れた音響システムにサヤカは驚かされた。

 自家用車のようにレイアを自分仕様にしたサヤカは、まるでドライブにでも出掛ける気分でいた。

 

 吸い込まれるように音楽を聴いていると、

「お~い、サヤカ、準備は出来たのか? ……なんか、雑音がするんだけど」

 ケンジが声を掛けてきた。

「な、なんでもないから、ほんと、気にしないで。今から、カッコ良く映してあげるからね」 

 掌サイズのデジタルビデオカメラを、正面のダッシュボードらしき場所に固定し、スタートボタンを押した。

「じゃ、行こうか、アリオト星に。レッツゴォー!」

 気分は映画監督。録画が、オープニングが始まる。

 ケンジのために、アドベンチャーのゲームを作成するサヤカ。

 ここまでは順調だったのだが……。

 

「ぎゃーー! 目が回るよぉ~!」

 初めての操縦に悪戦苦闘のサヤカ。

「言っただろ、頭脳を開放すれば勝手に動いてくれるって。レバーを引いたり戻したりして、少しずつ頭脳をコントロールするんだ。慣れてくれば頭脳を支配して、レイアを自分のものにするといい。俺も最初は出来なかったんだから」

 従軍記者のようにケンジの後ろに付いて、克明に記録・録画した。

 二人は未知のウイルスに侵(おか)されたアカリのために、完治する治療薬を求めて、再び異世界へと旅立った。


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