ベストフレンド
任務を終えただろうアカリ。
サヤカにとって、もう一つの危機が去ろうとしていたのだが……。
「アカリを宜しく頼む。まあ、結婚式には呼んでくれよ」
そうリックがケンジに言ったのだが、
「結婚?」
ケンジには、リックの言った意味が分からなかった。
「ハハッ、余計なことを言うと、気の強いお譲ちゃんに睨まれるな。俺達はいつまでも、二人を見守っているよ」
意味深な言葉を残して、リック隊は大宇宙・オム二バースへと帰って行った。
地上に降り立った三人。
何故かアカリも付いて来た。
「君も、リックさんと一緒に帰らないのかい?」
そうケンジが聞くと、アカリが嬉しそうに言った。
「私ね、こっちで暮らすことになったのよ」
「エー!」「うそー!」
ケンジとサヤカが同時に声を上げて驚いた。
「そうか、それでメガネを掛けてないんだ。こっちの住人になったんだな」
「だから、住む所が無いので、その~あの~……」
アカリが言い難そうに、甘えた口調で言ってケンジを見た。
「狭い部屋だけど、一人ぐらいならなんとかなるよ。特に、アカリとならな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌てて二人の話に入ったサヤカが、
「それって同棲じゃない。何、平気な顔して言うのよ、冗談じゃないわ! 二人一緒だなんて、何が起こるか分からないじゃない。まだ、未成年だし、問題があっちゃー」
不満をあらわにして言った。
「問題って、なんだよ?」
「そりゃ……男と女の……その……そんなの、言えないわよ!」
「さっきから、何カリカリしているんだよ。アカリが戻って来て、嬉しくないのか?」
「そりゃ、嬉しいわよ。だって、親友ですもの。全く、もう……はぁ~」
とサヤカが一呼吸置いて、
「あたしん家でどう? あたしん家、姉ちゃんが就職して部屋が空いているし、女の服だって一杯あるもの。それに、お母さんが寂しがっていたから、丁度良いわ。それなら、なんの問題もないでしょう」
そう言って二人を見た。
「宜しくお願いします、サヤカさん」
アカリに深々と頭を下げられ、調子の狂うサヤカだった。
「ところで、あのミサイルはどうなるの? 星を消滅させるほどの威力のあるミサイルでしょう。軌道を変えただけでいつまでも飛行しているんじゃ、危なっかしいわよね」
サヤカが聞くと、
「あんな巨体、この世界にいつまでもいられない。異空間に戻って、やがて消滅するでしょうね」
そうアカリが答えた。
「ふ~ん、そう、消えて無くなるんだ。今思えばあたし達、複雑な世界にいたんだよね……にしても、あれも邪魔になるわね、目立ち過ぎ。なんとかならないの?」
巨体を晒したアレスとレイアのアームキャリー。
だが、アカリが指をパチンと鳴らした途端、レイアが消えた。
「『スモーク』って言う作用で、単に見えなくなっただけなんだけどね」
試しにケンジも指を鳴らした。
すると、レイアと同じようにアレスが一瞬で消えた。
「凄いな! まるで忍者だよ。あんな巨大な二足歩行ロボット、持っている奴は世界中にいやしない。高性能のゲーム機やアトラクションなんかより凄いぞ。しかも、タダで操縦出来るんだ。アカリに感謝しなくっちゃな」
「北山君が喜んでくれて、良かったわ」
サヤカの複雑な思いも知らず、ケンジが満面の笑みでアカリを迎え入れた。
『キーンコーンカーンコーン』
授業開始のチャイムが鳴った。
「え~、この度……。という訳で、アカリさんはこっちで暮らすことになった。みんな、宜しく頼んだぞ」
学校で、改めてアカリが紹介され、
『ヒューウ、ヒューウ』
クラスの男子生徒が一斉に喜んだ。
メガネを外したアカリは芸能人のように輝いて見え、男子生徒にモテた。
アカリがケンジの横の席に座ると、困惑しながら小声で言った。
「下駄箱の中に、手紙が一杯入っていたの。どうしたらいいのかしら?」
「アカリはモテるからなぁ~。虫が付かないように、こうするか」
ケンジが机を寄せ、アカリと肩を組みクラスメイトに見せ付けた。
「チキショー! やっぱりお前達、そんな関係だったのか」
――「あ痛っ!」
有頂天のケンジの頭に消しゴムが飛んで来た。
ケンジが振り返ると、サヤカがアッカンベーをしていた。
学校からの帰り道、サヤカのわがまま病が始まった。
「ねえ、今度の休みはパリに行かない? アレスだと、ひとっ飛びでしょう。アカリさんの世界じゃ銀河間を自由に行き来していたんだから、ちっぽけな地球の中ならアッという間でしょ」
「また勝手なことを言って。本来なら、国外に出るにはパスポートがいるんだぞ」
珍しくケンジがサヤカを注意するも、
「あたし達は地球を救ったのよ、それぐらいのわがまま聞いてくれてもいいんじゃないの。憧れのブランド物は高価だから見ているだけなんだけど、女の子は夢を見ていたいのよねぇ」
と聞く耳を持たない。
「先月、そう言ってニューヨークに行ったじゃないか。いくらアレスが見えなくなるといっても、置く場所に困るんだよ。たまたまセントラルパークって言う広場があったから良かったものの、挙句に、自由女神の横に並んで記念撮影だなんて言って。こっちの身にもなってくれよ。巨体のアレスが見付かったら、UFOどころの騒ぎじゃすまないんだぞ。今度は、そうだなぁ、地球を飛び越えて火星にでも行くか。ピクニック、ピクニックだよ」
「なんだか面白そう。じゃ私、お弁当作るね」
ケンジの提案にアカリが飛び付いた。
「アカリが作る弁当は、誰かさんのより美味しいからな。きっと、良いお嫁さんになるよ」
「むっ! あんな砂漠のような所でピクニックだなんて。第一、空気が薄くなかったっけ?」
「じゃ、探検、探検しょう。火星に生命がいるかどうか、白黒付けるんだ」
「何それ! 男のロマンてやつ? なんでそんなものに付き合わされなきゃならないのよ、全く!」
サヤカが突然怒り出す。
「ずっと『女の夢』とかに付き合わされたんだぞ、少しぐらい付き合ってくれても……。仕方ないな。じゃ、二人で行くか」
「むっむむ、行くわよ! 行きますよ。二人にしておくと、何をしでかすか分からないもの」
「何がだよ、ハッキリ言えよ」
鈍いケンジには分からず、開き直ったサヤカが、
「もう! セックスよ!」
と真っ赤な顔をして言った。
「プッ、優等生のお前が、よく言うな。恥かしくないのか?」
「だって……そうなったら、そんな関係になったら、もう、会ってくれないと思ったから……」
思いをぶちまけたサヤカ。
学校の教室でケンジを激しく抱き締めていた光景が脳裏に焼き付いて離れない。このままじゃ、大好きなケンジをアカリに持って行かれる。恥も外聞もなく、サヤカは必死だった。
真っ赤な顔をしたままうつむいているサヤカにケンジが声を掛けた。
「まだ学生なんだし、そんなことしないよ。そりゃ、アカリのこと好きだけど、サヤカのことだって、昔っから好きだったんだぞ。だから、二人きりで勉強している時、お前のことが気になって集中出来なかったんだ。成績が上がらないのは、そのせいかもな。今はどっちか決められないけど、なんて言うのかな、大事な、素晴らしい友達、英語でなんて言ったっけ?」
「ベストフレンドよ」
アカリが即答。
「そう、それ。ベストフレンドだろ、俺達。あと、アレスとレイアも素晴らしい友達さ」
……ベストフレンドかぁ、何やっているんだろ、あたし。一人で悩んでいた自分が情けないわ。
思わぬ形でケンジから告白され、サヤカの気持ちが晴れた。
「でも、俺と違って二人は良いよな。サヤカは優等生だから、きっと大きな会社に入って贅沢な暮らしが出来るだろうし、アカリは語学堪能で通訳が出来、モデルの仕事だって出来る。それに引き換え俺は、なんの役にも立たないゲームしか取り得がない。将来、生活に困るだろうなぁ~」
「何言っているのよ、その時はあたしが…」
――「二人で」
サヤカの言葉を遮るように、
「二人で、サヤカさんと二人で、北山君を守ってあげる、ね」
そう言ったアカリが微笑みながらサヤカの方を見た。
『二人で』と言った言葉に、サヤカは安心する。
アカリさんって、こんな嬉しそうな表情が出来るんだ……。ずっと友達として、その笑顔を見ていたい。
掛け替えのない笑顔を守り支えていかなくちゃ、とサヤカは思った。




