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カオティック・ダイアリー  作者: 相良徹生
ルアン・ノート

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ルアンは息を吐いた

 ルアンは息を吐いた。

 どこをどう伝って、この男には情報が与えられるのだろう。

「ドッグウットホテルにいる」

 ルアンを探るように見つめるシュゼの瞳は愉快げにきらめいている。

 ちくしょう。この男の涼しげな笑顔をぶちのめしたい。

 ルアンはゆっくり息を吸った。

「ええ、知っているわ」

 だが、空だった。

 ルアン達捜査官がホテルにたどり着いた時には部屋には誰もいなかった。

 だがロッソが宿泊した部屋には誰かが激しく争った形跡があった。そして殺人事件も。

 ロッソの部屋で殺された男の血液が見つかったことで事件がややこしくなったのだ。地元警察との徹底的な調査の末に、ロッソの毛髪が発見され、しばらく滞在したのが伺えた。

「アル以外の人間がいた形跡はあったか?」

 ルアンはこの二日間の疲れがじっとりと体を満たしていくのを感じた。そして悔しさも。私達が寝ずに捜査をしている中、この男は涼しい顔をしてすべてを知っているように話している。

 しかも、母のビスケットを食べながら。

 シュゼは手を上げた。

「言っておくが僕はあいつが誰と一緒にいるかなんて知らないよ」

 どうだか。

 ルアンは鼻を鳴らしたくなるのを堪えた。

 確かにロッソの部屋には妙な形跡があったのだ。二人分の洗っていない食器、タオル、大量の食料……ロッソは誰かと生活を共にしていたらしい。 

 ルアンは答える代わりにシュゼを睨んだ。視線に光学的熱量があればシュゼを焼き殺せただろう。

 シュゼが困った声で言った。

「イズリントン博士から報告書を読んだし、君のところでもアルの検査をしただろう? あいつは自白剤――仰々しい名前をつけるなぁ……ただの麻薬だ――ともかくそいつを投与されている。ホープ生化研究所で一時実験が始まったばかりの新薬だ。アルが記憶障害になっていると知っているか?」

 どうもすべての情報が漏れているらしい。もしかして、それ以上のものを持っているのかも。

「君たちの考えは?」

「私達の考えはあなたに必要ないのでは?」

 ルアンは無性にビールが飲みたくなった。

「アルに自白剤を使用した人間に心当たりは? 軍部、研究機関、製薬会社、捜査官、つまり関係者だ。捜査範囲は絞られているはずだ」

 シュゼはビールを飲み干した。

 この男は私が答えるとでも思ってるのだろうか? 

「捜査の指示をしているのは、ルカ・アウリーノって本当かな?」

 ルアンはシュゼの様子を伺った。

 アウリーノを知っているのか? 彼はルアンの上官の上官、つまり局長であり、随時この事件の情報を報告するように言われている。

「二度会ったことがある。と、言っても十五年前の話だけど。彼はクロタエと親しかったから。あいつも出世したな」

 シュゼは言葉を切って頭を振った。

「目星が付いているんじゃないか?」

 ルアンはじっとシュゼを見た。

「あなたがそこまでロッソを気にするのはなぜ?」

 シュゼは肩をすくめた。

「十五年前からあなたとロッソは監視対象になっているけど、一度も接触はなかったはずよ」

「それで?」

「ロッソの失踪が、あなたがダース単位の法を破る原動力になるとは思えないわ」

 シュゼは空になったビール瓶を軽くゆらした。

「うーん、僕は自分の自意識と羞恥心を一時的に慰めようとする時は、少々法の解釈に柔軟性を持たせるべきだと思っている。僕はロッソにちょっとした借りがあってね。それを返そうと抜け出したんだけど、状況が変わってきたな。記憶喪失が人為的に起されたことだと知ってたら……」

 シュゼは瓶を床に置いてフィセをじっと見つめた。

「僕に望まれている事は多くないかもしれないけど、僕のちょっとした反社会的行為が君たちの飯の種になっているって事も思い出してほしいな」

 冗談じゃない。

「あなたがなにかするたびに私は一つ植木を枯らすのよ」

「しまった。これは少々まずいことになった」

 シュゼは面白そうに笑い、シュゼはフィセの猛烈な視線を無視して新しいビールを開けた。

「ついでに僕の名推理によると、ロッソとその連れは自分の家に向かっていると思う。あいつの家はバックランクメイトの馬鹿でかい屋敷だろ?」

 ルアンはうめき声を押し殺し、注意深くシュゼを見た。

 ホテルを出てからのロッソの足取りは以前不明のままだったのだ。

「あいつはカードでランクメイト行き鉄道のチケットを二枚買った」

 ありえない。ルアンは首を振りそうになるのを堪えた。彼のなくなったクレジットカードはすべて監視対象に入ってる。

「違うね、君たちが見落としているものがある。戦中に作られた国外の信託口座だよ。君たちの記録にも残っていないのかな。僕がクロタエの金で口座を作ったんだ。十五年以上前にね。一度も使われていなかったけど、最近になって存在を思い出したらしい」

「まさか」

「調べてみるんだな」

 シュゼはルアンの悪態を聞きながら財布をあさって紙幣を何枚か取り出した。

「そうそう、ソテツなら君でも育てやすいと思うよ。ビールごちそうさま。お母さんにはビスケットは絶品だったと伝えておいて欲しい」

 逃亡犯が私の家でビスケット食べてそんな事を言っていたと伝えたら母は気を失うわ。

「それじゃ」

 シュゼはビール一ケースと毛布を差し出した。

「人道的拘束用具としてそのチューブでの十時間以上の拘束は法律で禁じられている。十五時間たったら接着面がゆるむだろうから、抜け出してくれ」

「このチューブを開発したのもあなたなの?」

 シュゼはにっと笑った。

「君の家のセキュリティは一時的に解除させてもらったけど、出ていく時に元に戻すし、二度と悪用しないと誓うから安心してくれ。申し訳なかった。じゃあね」

 シュゼはさっと出ていった。

 同時にドアが自動的にロックされ。三つの鍵に緑色のランプがつく。

 取り残されたルアンは毛布に包まって、目の前に置かれたビールをじっと見つめた。

 通信端末には絶対に手が届かない。仕事は明日の午後からだ。尋ねてくる友人恋人はなし。ついでにありがたい事にトイレの心配はしなくていい。

 ルアンは罰当たりな言葉を思いっきりつぶやいて、ビールを蹴飛ばした。

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