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カオティック・ダイアリー  作者: 相良徹生
第三章 赤毛はお人好し

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一時間ほどでそれは見えてきた

 一時間ほどでそれは見えてきた。

 巨大な建物は遺跡みたいなデザインの柱はそこらじゅうに取り付けられ照明で光り輝いている。俺のあっけに取られた表情を見て、クロタエは鼻で笑った。

「言っただろう。パーティーだって。自分の子供に信頼されない事ほど心が痛む事はないね」

 クロタエは堂々と車を降りると俺に向かって肩をすくめた。

 もしかして俺を紹介して回る気か?

 俺は数秒固まった後、大人しく続いた。

 どうにでもなれ。これはクロタエの選択であって、俺のではない。

 これは正真正銘のパーティーだった。

 頭上では巨大なシャンデリアが嘘臭い程の輝きを放ち、どこもかしこも着飾った女と軍服姿の男で埋め尽くされていた。

 立ち込めている料理と香水と葉巻の匂いは覚えがある。

 スラムの娼館だ。俺は一人でにやついた。

「なにを笑っている? ここにいる紳士淑女をか?」

「行儀よくしてるから安心しろって。一言もしゃべらないよ」

 クロタエが驚いて目を見開いた。

「行儀よくするって? 冗談だろう。いつの間にチャームスクールに通ったんだ?」

「あんたも、たいがい性格が悪いな。その脳細胞を国のために使えよ」

「はん。軍事強国も考え物だな。子供ですらこの口の利き方だ。紹介したい人間がいる」

 クロタエは俺を促すように進んだ。

 途中何人もの人間が俺に気付いて怪訝そうな表情を浮かべたが、誰も俺の事をクロタエに訪ねはしなかった。

「あんたはずいぶん嫌われているようだね」

 俺は囁いた。

「おっとわたしがそんな事を気にすると思ったか? まわりの連中がお前の事を話題にしないのは、あんなクソ女でも少しは常識って物を適用してわたしがお前を紹介するまで待っていようと考えているからさ。せいぜい噂話をさせてやろう」

 クロタエはニヤリとした。

「ただし不愉快な事があったらすぐに言え。復讐大作戦を決行してやるから」

「スラム暮らしとあんたとの生活で、ずいぶん『不愉快』に対する基準が下がっているんだ。自分が復讐大作戦とやらをやらかしたいからって俺に口実を作らせるんじゃねぇよ」

「しっ、いた」

 クロタエが囁いた。

 俺は幾分緊張をして、クロタエの視線の先を追った。

 四人の軍服姿の男が皆一様にクロタエの横にいる俺をぽかんと見つめている。

 クロタエは笑みを浮かべて俺の肩に手を置いた。普段のクロタエからは想像できないほど、魅力的だ。

 少なくとも美女に見える。

「ごきげんよう。アウリーノ」

 クロタエが軽い抑揚をつけて歌うように言うと、周りの人間が一斉に挨拶しては散っていき一人の軍人が残った。

 こいつが、アウリーノか?

 背が高く、赤毛の混じったチョコレート色の髪をした中年の軍人だった。

 日に焼けた肌に、鳶色の瞳が良く似合っている。

 アウリーノは俺とクロタエを交互に見つめ、ぽかんと口を開け、閉じて、開けて、閉じて、最後に眉をしかめた。

「スノーマ博士」

 やっとひねり出したにしては落ち着いた声だった。

 アウリーノは俺を一瞥すると眉間のしわをいくらか和らげた。子供の前で罰当たりな言葉を飲み込んだ表情だ。

「こちらの少年を紹介してもらえますか?」

「わたしの息子だ」

 アウリーノはむせたように咳き込んだ。

「なんだって?」

「わたしの息子」

 クロタエはすまして繰り返した。

 俺はどうしていいのかわからず、成り行きを見守っていた。

 まぁ口を利かない方がいいだろう。

「初耳だよ」

「先月正式の養子申請が許可されたよ」

 アウリーノは俺を胡散臭そうに見つめていたが、ため息をついて諦めたような笑みを浮かべた。目元の笑い皺と共に浮かび上がったえくぼに俺は妙にそわそわとした。

 こんな親密な笑顔を向けられるのは初めてだったのだ。

「わかった、その少年をわたしに紹介してくれるね」

「もちろん、アイだ」

 クロタエは俺の背中を押しやった。

「アイ、こちらはルカ・アウリーノだ。挨拶しなさい」

「アイ・スノーマ。あー、その……よろしく」

 俺はなるべく上品なアクセントでつぶやいた。

 俺を見るアウリーノの視線は完璧に礼儀正しかった。少なくとも俺の名前にも一瞬目を細めただけだ。

「よろしく、ルカ・アウリーノだ。君の母上とは大学時代からの付き合いだ」

 俺は差し出された手を軽く握った。

 なるほど、この男は正真正銘のエリートだ。シュゼのように最高にお行儀のいいしゃべり方をする。

「ルカ、今日のわたしの服はどうかな? 今は無き国際数学賞物だと思うけど」

「そうだね。よく計算されている」

 アウリーノはため息をついて呆れたように肩をすくめたが、目は愉快そうに輝いていた。

 うわぉ、この男はクロタエに惚れている。少なくとも好意を持っている。

「俺は、向こうの飲み物を試してきていいかな?」

 クロタエは眉を上げたが、素っ気なく頷いた。

「遠くに行かないように」

 続けてクロタエがぼそりとつぶやいた。

「それに、問題を起こさないように」

 それはこっちの台詞だ。

 俺はアウリーノに行儀のいい笑みを浮かべて一礼すると、そそくさと逃げ出した。

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