新学期
「メイド体験、どうだった?」
大広場でリリィとディータと別れた帰り道、ジェダイトが聞いてきた。
「ん? 大変だったよ。も~毎日へろへろ。自分の体力のなさを痛感したわ。すっごいかわいい人たちばかりなのにあの力と体力はどこから湧いてくるのかしら?」
体験で思ったアレコレが口を突いて出てくる。
「ローズさんなんて、あ、ローズさんていうのは私のお世話をしてくれた先輩なんだけどね、私とそんなに歳も変わらないしとっても華奢なのにテキパキと仕事をこなしちゃって!! も~、尊敬しちゃうわ!!」
さらに言い募るルビーに、
「ははは。メイドさんたちはそれが仕事なんだし、毎日してることだから要領もあるんだろ」
目を細め、楽しそうに笑うジェダイト。
「ああ、それもそうね。メイドさんたちが私みたいに毎日毎日クッタクタだったら持たないわよね」
クスクスと笑いがこぼれる。
「そうだろ? ああ、でも実際に見れてよかったな」
「うん、そうだね」
少し会話に間がおとずれたかと思ったその時。
「オレさ、やっぱ騎士になろうと思うんだ」
ポツリとジェダイトが言った。
「へえ! そうなんだ。うん。いいんじゃない? きっと向いてるよ。ジェダに」
本当は友達伝いで知っていたけれども、敢えて初めて聞いたような振りをしたルビー。
眼を見開いて驚きの演技も抜かりなし。
「そうか? どこが?」
真面目な顔で聞いてくるジェダイトに、
「剣が得意な所でしょ? 腕っぷしも強いでしょ? 体力もあるし、運動神経もいいし、どれをとっても騎士様向きだよ」
指折り数え、ニッコリと笑みを向けた。
「そうか?」
それだけいいところを並べたてられたからか、ほんのり顔を赤くし、柔らかい笑顔になるジェダイトだったが、次のルビーの一言に固まってしまった。
「うん、そうだよ。あ~でもジル兄ちゃんには敵わないかなぁ。うんうん」
一人納得した様にしきりにうなずいているルビー。
それを固まったまま見下ろすジェダイト。さっきまでの柔らかな微笑みは何処へ、みるみる仏頂面に変化させた。
「なんでだよ」
「だって、ジル兄ちゃん、シャルル陛下やサファイル団長に勝つ日も近いみたいよ!」
まるで我がことのように胸を張るルビーだが、
「はあ? 誰がそんなこと言ってたんだよ?」
仏頂面をを通り越して呆れ顔になるジェダイト。
「アメシスさん」
にこっと笑うルビー。
「はあ? アメシスさんて誰?」
「知らないの? じゃあナイショ」
「なんだよ!」
ふふ~ん、と鼻歌を歌いしらばっくれる。
「まあまあ、拗ねないの。ああ、でもジェダはいいなぁ。進路も決まったし、彼女もできたし、残すは卒業のみだね。うらやましいよ。まったく」
「はあ? 彼女???」
きょとんとなるジェダイト。そんなジェダイトお構いなしなルビー。
「あ、うちに着いたね! ありがとうジェダ、迎えに来てくれて! 彼女さんにはナイショにしておくね! おやすみ!」
「って、おい!」
何か言いたげなジェダイトを置いてきぼりにして、ルビーは満面の笑みを向けると、ひらひらと手を振ってから家へと入って行った。
冬休みはあっという間に明け、もはや卒業まで残すところ2ヶ月を切った。
冬休み中に進路を決めたものも多く、行先不安を抱えているのはかなり少数派になっていた。
新学期初登校を終えて、そんな周囲の状況を知ったルビー。
まーすーまーすーあーせーるーーー!!!
そんな行先不安の一人にルビーは入っている。
先だってのメイド体験を踏まえても、まだ決めかねている自分がいたのだ。
頭を抱えて悶えるルビー。
下校する生徒の中で、そのおかしな行動はちょっと(いやかなり)目立っていた。
「どうしたー? ルビー」
からかうような声音が後ろから聞こえてきた。
「はへ?」
未だ頭を抱えたまま、その声に反応して振り返ると、同じクラスのクリスが立っていた。
「頭抱えてどうした? お前、かなり目立ってるぞ」
口元に手をやり、クスクス笑いながら言う彼。
黒縁の眼鏡をかけた彼は成績も優秀、見目も整っているのでかなりモテる部類の男子。彼の頭脳ならば王城の事務官も夢じゃない、と、情報通の友達が話していた。
「えええ!! うそっ!! 恥ずかしい……」
真っ赤になり、あわあわするルビー。
それがかなりおかしいのか、クリスはますます笑みを深くしながら、
「いや、かわいいって。ほら、突っ立ってるとさらに目立つぞ? 帰ろう」
と、さり気なくエスコートしてくれる。
むむぅ。モテる男はエスコートもスマートですなぁ。
大人しくエスコートに従い歩を進めつつも感心する。
こんなに間近で見ることがなかったが、かなり整った顔だ。ルビーよりも頭一つ大きな彼の横顔を見ながらぼんやりと思った。
奇行を見られた恥ずかしさと、モテ男くんと一緒にいると嫉妬の視線が痛いので、この場をさっさと立ち去るためにも早足になっているルビー。そそくさと学校の正門をくぐり、帰路を急ぐ。
「そんなに急いで帰らなくてもいいでしょ。まあ、こうやって一緒になるのも奇遇なんだし、ゆっくり話でもしながら帰ろうよ」
まだおかしな行動を続けるルビーにくすくす笑いながら提案してくる彼の眼は、もはや軽く涙がたまっていた。
うう。涙出るほど笑われてるし……
ますます真っ赤になるルビー。
はぁ、とため息をつきながら熱くなった頬を両手で包む。ひんやりした掌が気持ちよかった。
「ルビーは進路決まった?」
二人並んで歩きながら、さり気なくクリスが聞いてきた。
「ううん。まだなの。そういうクリスくんは決まったの?」
曖昧な微笑みで答え、別にクリスの進路に興味などなかったのだが、社交辞令で訊ね返す。聞いたところでどうでもいいのだが。
「ああ。僕んち商家なんだけど、その仕事を手伝おうかなぁと。外国との取引をしているから、よその国にも行けるしね」
ニッコリ笑いながら得意気に言うクリス。
「ふうん、そうなんだ。面白そうな仕事だね?」
外国にもまだあまり興味もないルビーは、適当に答える。棒読みになるのは許してほしいところ。
自分の進路もまだ決めてないのに、友達でもない人の進路まで興味なんて持ってられないというのが本音。
……ちょっとうざいかも……
二人並んで歩きながらも、一人はニコニコと満面の笑みで片方を見つめ、一人は愛想笑いを顔に張り付けて、やや下向きな目線を上げようともしない。
傍目には不思議なカップルに見えただろう。
ルビー的にはちょっとつらい時間を過ごしていたのだが、ようやく噴水大広場に着いた。
ここからはクリスと帰宅路が違うから、彼からの解放を意味している。
「じゃ、また明日ね?」
ここに来て今日一の笑顔で別れの挨拶を言うルビー。
その笑顔に一瞬驚きの表情をしたクリスだったが、ルビーに負けないくらいの笑顔になると、
「もうちょっと話がしたいんだけど、いい?」
そう言って、ルビーの手を握ってきた。
今日もありがとうございました!(^^)




