008
アルカディア
住居ヘル視点私はスマホの振動で目を覚ました。現在は朝だ。地球の時間の概念で簡単に表すなら、だいたい6時ちょうど。このとんでもなく巨大なベッドで寝ているのは私だけじゃない。もう慣れた。隣で寝ているセフィが抱えているのは……ぬいぐるみ?
まさか、私の姿か?
絶対に気のせいだ。
無心。余計なことは考えない。
心空無物、妄念自滅。(呪文)そういえば、私のベッドにセフィがこっそり置いていくぬいぐるみも、どんどん増えている。
これは侵略というやつなのか?
もう一度。
心空無物、妄念自滅。(呪文)私はベッドから降り、浴室で身体を洗ってから、もう慣れてきた朝食を食べにキッチンへ向かった。
小型種族専用の薄味の軽食。
ただ、先に言っておくと、この星の小型種族であっても私よりずっと大きいので、標準的な必要量を維持するためには、やはり量を調整しなければならない。まだ自由に外を出歩くことができないので、私は家の中のリビングでジョギングを始めた。
そう、家の中のリビングでジョギングだ。知ってるか? リビングを一周するのにどれくらいかかると思う?
約60秒だ。
間違ってない。60秒。
便利だろ? リビングでもジョギングを楽しめる環境なんだ。約1時間ジョギングした後、また浴室で身体を洗う。地球だったら、実はかなり面倒だ。
でも、ここではかなり楽だ。
全方位から高密度のナノレベルの気泡シャワーが噴き出して洗い流してくれる。地球ではまず体験する機会がない。重要なのは、とにかく速いことだ。二、三回もすれば綺麗になる。たぶん私の身体が小さいからだろう。重姫と比べたら、ほとんど時間がかからない。
洗い終わった後、私はお茶を一杯淹れて自分の仕事机へ向かい、いつもの日課を始める。翻訳器を装着した状態で朝のニュースや雑学を見る。その後、翻訳器を外してもう一度見る。アルカディアの文字を自分自身で理解する力を強化するためだ。
こういう生活スタイルは、私の記憶にある地球での自分と、ほとんど同じと言っていい。そりゃ世界中を飛び回れるわけだ。このままのペースなら、地球時間で半年くらいあれば、アルカディアの日常会話くらいは理解できるようになるだろう。
まあ、急ぐ必要もない。
今のペースで続けていこう。
地球時間でだいたい8時になると、セフィとベローナが先に起きて、ソフィアは30分ほど遅れて起きてくる。セフィは眠そうな目のまま先に朝食を食べてから身支度をし、ベローナは先に身支度をしてから朝食を食べる。二人のペースはちょうど逆になる。
ソフィアは二人の後に身支度をしてから朝食を食べる。その後、私たちはリビングに集まり、ソフィアが組んだ予定や報告を聞く。例えば、私の状態や実験結果、それから今後の予定など……今日は重姫の運動センターへ行き、三人が身体を動かす日だ。
まあ、そうだな。
私を護衛している間は、身体を動かすのも難しい。
だから私も一緒についていく。
いいじゃないか。
私も見てみたい。
重姫の運動センターへやって来た。私はスマホでここについての紹介を確認し、運動センターの建物の広さを少し換算してみる。うーん、地球で言えば、ニューヨーク・グランド・セントラル駅のメインコンコース20個分くらいの大きさか。
これでも、ここで最大の建物とは言えない。更新され続ける私の空間感覚も、もう麻痺してきた。ちなみに今の私は、新しく手に入れた空調付きの外骨格ぬいぐるみスーツを着ている。重姫女王から、あまり姿を晒しすぎないようにと言われているからな。
厳密に言えば、現在の私はいわゆる獣族を演じていることになる。
体格も人間より少し大きい。
同じ猫の姿だ。
一応、多少は手を加えてあるから、見た目は……いや、やっぱりちょっと奇妙だ。獣族に不気味の谷現象を感じさせなければいいが。
笑。
私は運動センター内を見回す。
運動器具も地球のジムと大して変わらないだろ?見ればすぐに分かるランニングマシンやウェイトトレーニングの装置。他にも、私には名前の分からないトレーニング器具が色々とある。それから、SF映画によく出てくるような医療カプセルまである。
ただ、中に入っている重姫は医療目的ではないようだ。私は上にある説明をよく見てみる。高気圧酸素、低温冷凍、赤外線など。これ、地球の超高級ジムといい勝負なんじゃないか?
ちょっと使ってみたい。
……いや、待て。
ここは重姫サイズの規模で使う場所だろ?
あ、あった。
「中型サイズ以下の種族は使用禁止」
遊園地のジェットコースターに書いてある、何センチ以下は乗車禁止という注意書きを思い出す……
見つけてよかった。
危うく楽しんだ瞬間に、この星を離れて異世界へ行くところだった……そんなことを残念に思っていると、ちょうど隣を二人の重姫が通り過ぎた。その二人の会話が、この外骨格スーツの広域集音機能を通して聞こえてくる。
彼女たちは言った。
「こんなに小さい獣族、初めて見た。子供かな?」
「さあ? 普通の獣族とは違うね。姿だけじゃ判別しにくい。」
「でも、小さくて可愛いけど、顔はなんていうか……微妙。」
「ははは、こういうのも味があっていいんじゃない? 獣族には混血種とかもよくいるし、たぶんそういうタイプなんだろ。」
どうやら、この外骨格ぬいぐるみスーツは、ある意味では評価が悪くないらしい。他の重姫から見れば、地球でいうチワワとかハバ犬みたいなものなのかもしれない。
私は猫なんだけどな。
まあ、目立たないならいいか。
そういうことにしておこう。
「ヘル、一緒にランニングマシン走ろ~」
セフィが嬉しそうに歩いてきて、私をランニングマシンに誘ってくる。
普通なら、私は断るべきだ。
目測で5~8トン、全長6~7メートルはありそうなランニングマシン。正直、速度調整を間違えたら、短距離走レベルを超えた超高速のチキン逃走ランニングになるんじゃないか?そのまま走行面の内部に巻き込まれて、逆方向のロードキルになる。
「いいよ、一緒に走ろう。」
結局、私は承諾した。
うん、セフィを甘やかしたわけじゃない。今日は新しい外骨格ぬいぐるみスーツを着ている。当然、実際に試してみるのも悪くない。単純な人間の走る速度よりは速いはずだろ?結果としては、私の予想通りだった。
外骨格ぬいぐるみスーツのおかげで、走る速度は確かにかなり上がった。詳しく言えば、最高速度なら重姫のジョギング程度の速度についていける。
最高速度で、だけどな。
ただ、見た目は昔のアニメみたいになる。脚の動きが速すぎて残像が出る。自分自身がまるでアニメキャラみたいになっている。外骨格を着ているから楽だと思ったら、それは間違いだ。
トルクは十分。
だが、回転数が足りない。
簡単に言えば、こういうことになる。
力は十分にある。
でも、身体の速度がどれだけ高くても、外骨格のおかげで速度そのものが上がるわけじゃない。30分もあれば、私はもうへたり込んでしまった。私は地面に寝転がって息を切らす。外骨格ぬいぐるみスーツの空調のおかげで、スーツ内部の温度はかなり快適だ。
運動後の汗もすぐに排出される。ただ、高速で空回りしているような感覚のせいで、身体が酸欠になったようなだるさがある。ベローナが超小型の水筒を持ってきて、私のぬいぐるみスーツの口元にそのまま突っ込んだ。
好意なのは分かってるけど、もう少し優しくしてくれないか?それでも私は言わなければならない。
「あり……が……と……な……」
ベローナは笑いながら言った。
「無理して喋らなくていいよ。その高回転による疲労と、力を使った疲労は別物だからね。私たちのペースに無理してついてこないほうがいい。」
私はそれを聞いて笑いながら言った。
「み……身を……もって……体験……した……」
「こんな……疲労……初めて……だ……」
「というか……体験する機会……なんて……なかった……」
ベローナの後ろからソフィアの声が聞こえてきた。
「そりゃ私たちが一歩走るたびに、あなたは最低でも4歩以上走らないといけないからね。だから回転数で補うしかない。」
「でも、十分すごいよ。」
ソフィアが後ろからお腹を押さえながら歩いてくる。さっき笑っていたような気がする。私は目を細めてソフィアを見る。
「さっき笑ってなかったか?」
ソフィアの口元が引きつり、それから言った。
「仕方ないでしょ? 現実で本当にアニメキャラみたいに走っている姿が出てきたんだから。脚なんて残像になってたよ。」
ソフィアはそう言いながらスマホを取り出し、さっき撮った動画を私に見せる。
うん。
一人の猫型獣族が、頭をできるだけ安定させている。両手は脚の回転数についていけないため、腰の上でそのままL字になっている。下半身はすでに一塊の螺旋みたいな絵になっている……確かに、現実版のカートゥーンキャラが疾走している。
待て。
あれは、まさか再生回数か?
まさか、共有までしてるのか?!上のタイトルにはこう書いてある。
「謎のミニ猫型獣族撮影日誌?!」
私は慌てて小声でソフィアに言った。
「重姫女王は秘密を維持しろって言ってなかったか?」
ソフィアは笑いながら小声で言った。
「だからこそ、逆にこうしてるんだよ。」
「小型の獣族が存在することを先に広めておけば、みんなも不思議に思わなくなるでしょ。」
「逆に言えば、世間の注目する方向を逸らすための煙幕でもある。」
「これを情報操作っていうの。」
「それに、再生回数だけじゃなくて広告収益も入ってるんだよ。」
「その時は収入を一緒に山分けしようね。」
私が反射的に反論しようとした時、ふと、いくつかのスーパーヒーロー映画も似たような二重身份を利用していたような気がした。
うん……まあ、いいか。
少なくとも、眼鏡をかけただけで周囲の人間が顔を認識できなくなるよりは、ずっと信頼できる。ベローナがセフィのほうを向き、手を上げて親指で後ろを指す。その先には、運動センター内に設置されたリングがある。
「ウォーミングアップはこのくらいでいいよね。始めよう。」
ウォーミングアップ?!
私はもう脱水寸前なんだが……
まあいい。
ベローナが言ったように、彼女たちのペースに無理してついていかないことにしよう。そういえば、ベローナはセフィとリングに上がるのか?重姫同士の格闘って、MACP(軍事近接格闘術)の訓練みたいなものなのか?
それともMMA?
あるいはWWE?
でもベローナがいるから、CQB(銃器を使った近距離屋内戦闘)か?ちなみに、私の記憶では地球にいた頃、どれをやってもかなり不利だった。思い出すのは、柔らかいマットと地面の汗の臭いだけだ。
私はパイロットだぞ。
私の格闘能力に期待するな。
結果として、私が見たのは大乱闘だった。セフィはその身軽な身体と柔軟性を使い、ベローナのパンチや蹴り、それに模擬銃の攻撃まで回避している。おいおい、もうほとんど密着してるじゃないか。
セフィは重姫の中では小さいほうで、身長は6メートルくらいしかない。それなのに、あの速度と柔軟性、それにあの恐ろしい弾力は一体なんなんだ?角度さえあれば、どれだけ大きく身体を傾けても、セフィはベローナに攻撃を当てている。
ただし、手加減はしている。
あくまで触れる程度の打撃だ。
それでも十分怖いけどな。
ベローナも一方的にやられているわけではない。銃床やグリップを使って反撃したり、攻撃を受けた瞬間に合わせて反撃したり、受け流したりしている。ただ、セフィのほうが速いので、有効性はそれほど高くないだろう。これ、無料で見ていいものなのか?
周囲で見物している重姫たちも、かなり楽しそうに見ている。
そういえば……
私はソフィアを見る。
ソフィアはすぐに首を横に振って言った。
「私をあの二人と一緒にしないでよ。おかしいのはあの二人であって、私じゃない。」
「まだ何も言ってないんだけど。」
笑。
私は笑いながら答えた。
「そうか? 残念だな。」
「まあ、私も分かるけどな。専門じゃないのに、最低限対処できる手段は必要だからって、無理やり覚えさせられた技術ってのもないわけじゃない。」
ソフィアはリングを見ながら言った。
「ベローナみたいな刺激を求める戦闘狂はともかく、セフィは特殊個体の体質によって生まれたタイプだからね。」
私は言った。
「特殊個体? 重姫にもそんなチート級の存在がいるのか……」
ソフィアが聞いた。
「そっちの地球にも、そういう特殊な人はいるの?」
私は少し考えてから言った。
「地球には、いわゆるリアリティ番組とか、タレントショーっていうものがある。」
「そういう特殊な人たちをステージに上げて、自分の特殊技能とかを披露してもらう番組があるんだ。だから、まあ、見慣れてると言えば見慣れてるかな。」
ソフィアは私を見て笑いながら言った。
「あなたもその一人だと思うけどね。」
「んなわけあるか。私は普通だぞ?」
そして私は、セフィが初めて夜に私の部屋へ来ようとした時、自分には肉球があると言っていたことを思い出した。まさか、あれが彼女の特殊個体ってやつなのか?
やっぱり聞かないでおこう。
女性に別の女性のプライバシーについて聞くのは、たぶんよくない。ソフィア視点昼になり、私たちは外で昼食を済ませてから家に戻って休憩する。
これは便利だ。
なにしろ私たちのチームでは、ヘルだけが掃除好きだから。残念ながら、体格の比率的に彼にはできないので、食後の片付けは私たち三人でやることになる。でも、私たちは面倒くさがりだ。
自動清掃に任せればいい。
外ならもっと便利だ。
片付ける必要すらない。
話が逸れた。
なぜか、ヘルは昼食後になると、しばらく休眠状態に入る。
本人は昼寝と言っていた。
たぶん、人類の習性なんだろう。しかもヘルは一度休眠すると、完全に反応がなくなる。ほら、セフィが彼を胸元に抱いているのに、まだ寝ている。だから、これはチャンスでもある。
私たちの報告には、「ヘルが知っていても問題ないこと」と「ヘルに知られてはいけないこと」があるからだ。だから私は、これから彼が昼に休眠状態に入っている時に、状況を報告するつもりだ。私はベローナとセフィを見て、口を開いた。
「まずは、以前のパートナー状態での実験で判明したことについて。」
「科学的には、どちらが機体を操縦していたのかを判別できなかった。」
「ヘルの心拍数と脳波は予測値を下回っていた。唯一、正常だったのは後半の戦区シミュレーション区間。」
「機体には一切損傷がなく、消費量も異常に少なかった。操縦技術については、絶対的な差があると判断している。」
「最後に、私たちがヘルとパートナーになった後に発生する性反応の副作用について。今回の実験でも、発生しなかったわけではない。」
「その代わりに、ドーパミンの爆発的な分泌と交感神経の興奮、この二つが確認された。」
「現時点では、機体が存在する状態では副作用が異なり、あまり恥ずかしい状態にはならない可能性があると判断している。」
「なので、次回の機体実験における観察項目の一つにできると思う。」
「以上が、ヘルにはまだ知らせる必要のない情報。分かった?」
ベローナとセフィが小声で言った。
「分かった。」
ヘルが休眠中なので、二人とも小声だ。
さて、今のうちに。
ベローナとセフィが互いに知っておくべき情報や、共有しておくべき情報がないか確認しておこう。ベローナ視点このタイミングでは、あまり適切じゃない。でも、聞かないわけにもいかない。
私はソフィアに聞いた。
「前に私とヘルがパートナーになった時に倒した敵から、何か情報は出てきた?」
ソフィアは困ったような顔をして言った。
「そう聞いてくると思ってた。だから、私が知っている範囲だけ話すね。」
「まず、現場には支援部隊と私たちを含めて、クロノスの敵を10人逮捕した。」
「そして指揮者は、あなたが探しているあの重姫。」
「消えた。」
「過去の情報も資料も、全部偽物だった。」
「でも、収穫がなかったわけじゃない。」
「あなたたちが倒した、自称『老身』の男性重姫の自白によれば、彼らはクロノスの上層部、多洛斯派閥らしい。」
「これはかなり大きな収穫だよ。」
ソフィアはそう言った後、ため息をついて続けた。
「これ以上は私たちの範囲を超える。」
「それでも、まだ追い続ける?」
私は思った。
昔の私なら、きっと追い続けたいと思っただろう。
でも、今は……
私は言った。
「もういい。」
「私はここまでにする。」
「相手が敵だと分かっていれば、それで十分だ。」
「それに、あの時ヘルがいなかったら、たとえ私は人質になったふりをしていた敵を倒せたとしても、その後にやって来た、自称『老身』の男性重姫にはたぶん勝てなかった。」
「あの重装備は、明らかに私を狙ったものだった。」
「今さら、相手に全部見透かされた状態で戦うなんて、私はもう御免だ。」
私の告白を聞いたソフィアは、かなり安心したようだった。
まあ、そうだろう。
ソフィアの事前の配置とセフィの連携、それにヘルのあの悪戯みたいな戦術。それが相手の仕掛けた罠を突破する鍵だった。
まったく……
私はもう、このチームから離れられないな……セフィ視点
よかった。
ベローナはもう大丈夫。
私はヘルを抱えながら、報告を聞いていた。少し注意がヘルのほうに向いていたけど、ちゃんと報告は最後まで聞いたよ。でも、このことはヘルに知られても大丈夫だよね?
起きたら教えてあげようかな?
でも、ヘルならたぶん、
「おう、そうなのか。」
くらいだろう。
嫌でもないし、嬉しくもない。
なんとも不思議な感じ。
ヘルはたまに質問する。
でも、人のことについては、逆に聞こうとしないし、詮索もしない。本人が自分から話さない限りは。確か、本人はこれを個人のプライバシーを尊重することだと言っていた。
それが彼なりの礼儀なのかな?
でも、それだと誰にも興味がないみたいにも感じる。
だけど、実際はそうでもない。
興味が湧いた時や、機会がある時には、ちゃんと私たちに悪戯をしてくる。どこまでが彼の境界線なのか、さっぱり分からない。それに、私は一つ気づいたことがある。私はソフィアとベローナに言った。
「なんとなく感じるんだけど……」
「ヘルって、生と死の境界に対して麻痺してるんじゃないかな?」
「私たちが出会ってから今まで、危険なことも少なくなかった。」
「ヘル自身も、何度も生死の境目を経験している。」
「なのに今まで、本当の意味で死を拒絶するような反応が出たことがない。」
「まるで、昔の英雄たちみたいに、本当の死に直面した時ほど、逆に素直に受け入れるみたいな。」
「それが、ちょっと怖い。」
ソフィアは私の報告を聞いた後、しばらく考えてから言った。
「私もそう感じる。」
「その点は、一部の高位の軍人に似ている。」
「でも、ヘルは自分は軍人ではないとも明確に言っていた……」
ベローナは言った。
「私が知ってる変人たちみたいに、逆に楽しんでるタイプだったりして?」
私とソフィアは同時に言った。
「あなたみたいなのとは違うよ。」
ソフィアは私が抱いているヘルを見る。
私は思った。
ん?
「抱っこはさせないよ。」
ソフィアはため息をついてから言った。
「まあ、今の私たちは一応、彼の護衛だから。」
「少なくとも、彼の安全は私たちが守っている。」
「生死の問題については、そうそう起きないと思う。」
「セフィ、あなたはそのまま観察を続けて。」
「本当におかしいと思ったら、私に教えて。」
私は頷いて、小声で言った。
「問題ないよ。任せて。」
ヘル視点
なんか変だな……
どうして私は昼寝すると、いつも別の場所に移動しているんだ?
まあいい。
寝ぼけているんだろう。
私は今、報告書を書いている。
内容は、前回セフィとパートナーになった時の状況について。
誰に書けと言われた?
誰にも。
自分で書きたいからだ。
なぜ?
地球にいた時、何かを操縦するたびに、その時の感想や操縦した機体の状態、それから注意すべきことなどを書き残して、一度整理していたのを覚えている。
そうすることで、その機体の操作感覚を自分の中で最適化して、次に操縦する時により早く感覚を掴めるようにする。だから、ここでも同じ生活態度を維持するつもりだ。確か、あのバイクは「ジャンパー」って名前だった……
なんだか既視感があるな?
まさか、サンタクロースのトナカイから名前を取ったとかじゃないだろうな。私はツッコミを入れながら、詳しい状況を書き込んでいく。
当時、どう書いたっけ?
まずは自分の状態から書こう。
まず、自分から心拍数と思考を最低限まで落とした状態に調整する。そして手のひらから、受け取れるすべての情報を感じ取る……
そうだ。
私のやり方は日本の弓道に似ていると言われたことがあったな。
でも、違うと思う。
なにしろ私が握っているのは弓じゃない。
矢もない。
その後、戦区シミュレーションに入ってから、ようやく心拍数と思考の頻度を少し上げる。過去にやったバイクのスタントパフォーマンスを応用して、いくつか即興の技を繰り出した。私は手元の報告書を書き終えると、一部をソフィアに送った。
少しして。
ドンドンドンドン!
慌ただしくドアを叩く音が聞こえてきた。
誰なのかはだいたい分かる。
「どうぞ~。鍵は開いてるよ~」
ソフィアが入ってくると、さっき私が送った報告書を取り出して言った。
「あなた……あなたは何を知ってるの……?」
「何を言ってるんだ? 私が知ってることは全部、報告書に書いたぞ。」
ソフィアは呆然とした顔で報告書を見てから言った。
「じゃあ……これ、あなたは前から知ってたの?」
私は疑問に思って言った。
「前から知ってたって、何が? セフィとパートナーになってバイクに乗った時に初めて分かったことだぞ……」
ソフィアは状況が分からないという顔で固まっている。
まあ、面白いけどな。
それでも、私は彼女の状況を整理してあげることにした。
私は言った。
「ソフィア、落ち着いて~Relax。」
「私が目を覚ましてから何をしたのか、ゆっくり話すから~」
私が報告書を書いた経緯と、なぜ書いたのかを話し終えると、彼女はしゃがみ込み……頭を抱えた。
「だから、いったいどうしたんだ? あなたたち重姫って、時々変だよな……」
さすがに適当に慰めるのもよくない。私はソフィアの肩をぽんぽんと叩いて言った。
「どこで話が混ざったのかは知らないけど、整理する必要があるなら説明するぞ。」
ソフィアはそのまま床にあぐらをかいて座り、言った。
「いくつかのことは、あなたには言えないの。上からそう言われてるから。」
「それなのに、あなたが自分から送ってきた報告書が、絶妙にその空白を埋めちゃったの。」
「それで頭が痛いんだよ。どう報告すればいいのか、本当に頭を悩ませてるの~」
「え? そんなこと?」
私は言った。
「何が問題なんだ?」
「そういうことなら、そのまま上に報告すればいいじゃないか。『ヘル本人が自分で状況報告書を補完しました』って。それで、あとは放っておけばいい。」
「嘘をついたわけでもないし、サボったわけでもない。それならいいだろ。」
「それに、情報を共有できない状況なのも理解できる。」
「例えば、あるパイロットに爆弾処理の専門家を安全に乗せて、超大型爆弾の処理現場まで運ばせるとする。そのパイロットに、爆弾のことまで知らせる必要があると思うか?」
「同じような話だろ~」
「まあ、ちょっと極端すぎる例だけどな。こんな例えはやめよう。」
ソフィアはそれを聞いて笑いながら言った。
「あなたの実体験?」
私もこう返すしかなかった。
「知らんがな~。私、記憶が完全じゃないっていう設定だからな~」




