004
ファーンのせいで、昨日は本当に疲れ切っていた。
女王重姫が手配したホテルを、じっくり味わう気分なんてまったくなかった。
でも、食事が前に食べた、豆腐とプリンを混ぜたような軍用食より、ずっと美味しかったことは覚えている。
見た目が精巧なだけじゃない。
食感まで、本物の肉によく似ていた。
……待て。
この馴染みのある感じ……
まさか、培養肉か?
俺、食べても大丈夫なのか?
まあいい。
気にしない。
それより驚いたのは、ここには野菜まであることだった。
すべての生物——重姫も含めて——を対象に設計された食用植物らしい。
俺にどんな影響があるのかは分からないけど、せっかく野菜が食べられるんだ。
俺は迷わず何口か取った。
そのうちの一種類は、新鮮なレタスか葉野菜みたいな味がして、ほんのり甘みもあった。
これ、いいな。
やっぱり軍用食ばかり長く食べていると、こういうさっぱりしたものが特に食べたくなる。
食卓にはビールもあった。
でも俺は普段からあまり酒を飲まないので、やっぱりお茶を選んだ。
ベローナはまったく逆だった。
かなり飲んだというより。
直接、何樽も空けていた。
どうやら彼女は、仕事が終わった途端に酒が手放せなくなるタイプらしい。
でも……
飲みすぎじゃないか?
今日は何か嬉しいことでもあったのか?
ソフィアも少し飲んでいた。
でもかなり節度があって、ほんの少し酔っている程度だった。
うん……
ちょっと Sexy。
セフィはというと……
一杯飲んだだけで、そのまま眠ってしまった。
鼻から泡まで出ている。
俺の予想通りだった。
部屋については……
前に泊まっていた隔離室とは、完全に別物だった。
当たり前だ。
笑。
隔離室みたいに、あらゆる物を自動で収納するわけではないけど……
待て。
やっぱりあるみたいだ。
ただ、勝手に何でも収納するわけじゃない。
部屋の設備が宿泊者に合わせて、自動的に大きさと配置を調整し、異なる種族の体格に対応するらしい。
なるほど。
実はホテルに着いた時から、重姫以外にもかなり多くの種族が泊まっていることには気づいていた。
ただ、その時はじっくり観察していなかっただけだ。
部屋そのものは、今も重姫が使うサイズのままだった。
たぶん。
ここが高級ホテルだから、全体の空間もさらに広く取られているんだと思う。
俺の部屋だけでも……
重姫が十人くらい入りそうだ。
俺一人で住むには、贅沢すぎないか?
まあいい。
気持ちよければそれでいい。
そう思ってはいたけど……
なんだか妙な感じがする。
ファーンが引きずり出されてから、ずっとたくさんの視線を感じている。
……まさか、目をつけられたわけじゃないよな?
まあいい。
本当に疲れた。
まずは、この信じられないほど大きなベッドを楽しもう。
ZZZ……
俺が気持ちよく眠りすぎたのか?
この状況……
普通じゃないよな?
俺はベッドのど真ん中で寝ている。
これは合理的だ。
なにしろ、俺は昔から寝相が悪くない。
でも……
俺の周りの光景は、まったく合理的じゃない。
セフィ、ソフィア、ベローナ。
全員、俺の周りで寝ている。
しかも三人だけじゃない。
探査チームのメンバー全員が、この部屋に押しかけている。
床にまで、熟睡している重姫たちがびっしり横たわっていた。
待て。
みんなが俺の部屋で寝ているというより……
むしろ。
全員が俺の部屋に寝に来ている。
What?
Why?
まだ状況が理解できずにいると、耳元から突然、小さな声が聞こえてきた。
「あなたのせいでしょ……」
「この放火魔。」
俺は左を向いた。
ソフィアだった。
目を閉じたまま。
明らかにまだ寝続けたいらしく、目を開けることすら面倒そうに、小さな声で続けた。
「あなたはアルカディア最大の問題人物——ファーンを制裁したのよ。」
「あいつのせいで、どれだけ多くの人が苦労したか分かってる?」
「中には……何百年も耐えてきた人だっている。」
「それなのに、あなたが来た途端、あいつに思いっきり痛い目を見せた。」
彼女は少し間を置いた。
「これでもう大変。」
「今まであいつにいじめられてきた女性重姫が、どれだけあなたに感謝して、さらには……好意を持つか分からないわ。」
「それにファーン本人の地位、政治的立場、背後の一族まで加わる……」
「たぶん、これからかなり長い間、アルカディアはこの件でひっくり返るでしょうね。」
俺は少し固まった。
「でも……」
「それと、みんなが俺の部屋に寝に来ることに、何の関係があるんだ?」
ソフィアは相変わらず目を閉じたまま答えた。
「一部はあなたを守るため。」
「一部はあなたが好きだから。」
「一部はあなたに感謝するため。」
「それから……」
「あなた、鍵をかけてなかったでしょ。」
「だからあなたにも責任がある。」
「あ……」
そうだった。
そこでようやく思い出した。
昨日、部屋を見て回った後、そのまま倒れるように寝てしまって、鍵をかけるのを完全に忘れていた。
ソフィアは言い終わると、寝返りを打って、そのまままた眠ってしまった。
目の前のこの状況を見ていると、みんなを起こすのも気が引ける。
まあいい。
諦めよう。
俺は反対側を向いた。
セフィの顔が、もう少しで俺の顔にくっつきそうだった。
「近すぎるだろ……」
まあいい。
もう少し寝るか。
Zzz……
ここが重姫たちの言っていた……
女王重姫の官邸。
たぶん俺は、この場所に慣れるまでかなり長い時間がかかると思う。
まず、重姫たちの体格については、もう少しずつ慣れてきた。
でも……
建物はまったく別の話だ。
これはもう、少し大きくしたなんてものじゃない。
幾何級数的に巨大化している。
俺は疑い始めていた。
室内で地平線が見えたりしないだろうな?
それとも……
実はこの世界では、俺の比率が小さすぎるのか?
彼女たちの歩調に合わせるため。
俺は早歩きしないと、彼女たちがゆっくり散歩するペースにどうにかついていけない。
天井が高いのはまだいい。
問題は、それすら重姫のサイズに合わせて設計されていることだ。
具体的にどんな建材を使っているのかは、俺には分からない。
でも、ここの照明設計にはかなり感心した。
空間が巨大すぎるせいで、光が足りなくなることもない。
室内全体は相変わらずとても明るく、採光もいい。
建築様式はシンプル寄り。
白を大量に使い、打ち放しコンクリートに似た構造も多い。
大胆ではない。
でも、とても実用的だ。
なにしろ、こういうスタイルなら季節でもイベントでも、簡単に模様替えできる。
全体的な印象は……
巨大化した現代美術館に近い。
俺が周囲を観察しながら、建物の規模に感心していると。
突然、廊下の両側からざわざわと話し声が聞こえてきた。
「これが人間?」
「ファーンをあんな目に遭わせたのって……」
「すごく小さい。」
「ちょっと獣人族に似てるけど、毛がないね。」
「どうして装甲を着てないの?」
俺は少し固まった。
待て。
俺の記憶では……
これは非公開の会談じゃなかったか?
本来なら、女王重姫専用の小型会談室へ直接向かうはずだった。
ところが。
廊下の両側には、すでにいろいろな重姫がびっしり立っていた。
好奇心いっぱいの顔をしている者。
満面の笑みを浮かべている者。
少しだけ不機嫌そうな表情を見せている者もいた。
どうせほとんどは、野次馬だろう。
俺は別に気にしない。
むしろソフィアとベローナのほうが、同時に困ったような苦笑を浮かべていた。
ソフィアが小声で言った。
「情報統制がまったく間に合わなかった。」
「今さら非公開の場だと言っても、もうほとんど意味がないわ。」
ベローナが続けた。
「だって、こんな面白いことは滅多に起きないからな。」
「メディアと広報部が直接押しかけてこないだけ、ありがたいと思わないと。」
セフィは周囲を見回した。
突然、心配そうな顔で言った。
「私はヘルが蹴られないかのほうが心配。」
「こんなことなら、隔離室ごと押してくればよかった。」
「それとも……」
「ヘル、私の肩に乗る?」
「遠慮しなくていいよ。」
俺は苦笑しながら首を振った。
心の中で静かに思った。
セフィさん……
やめてくれ。
一応、大物に会いに行く場なんだからさ。
女王重姫の会談室。
女王重姫はすでに中に座って待っていた。
普通なら、身分が高い者ほど少し遅れて入場する。
でも。
今の状況では、そんなことをしている場合ではない。
私の読み違いだったのか?
厳密に言えば……
そうだ。
もともと用意していた流れは、すでに編曲を終えた一曲のようなものだった。
そこへ突然、誰かが飛び込んできて、まったく予測できない即興演奏を始めた。
私はもともとファーンを利用して、この人間への注目を下げるつもりだった。
ところが、結果は完全に逆。
むしろ騒ぎはさらに大きくなった。
私はさまざまな指示を出すことに追われた。
できる限り、情報拡散の速度を遅らせる。
少なくとも……
あの人間が引き起こした特殊現象だけは、先に封鎖しなければならない。
なにしろ。
今はまだ、未知の要素が多すぎる。
重姫を制御できる生物……
人間。
互いに同意した状況だけなら、まだいい。
しかし。
あの試合では。
マエラもファーンも。
心では抵抗していた。
それでも制御された。
もしこの件が広まれば……
おそらくアルカディア全体が混乱に陥る。
最悪なのは……
もし。
地球人全員が、この能力を持っていたら?
そうなれば、本当に厄介だ。
幸い。
今のところはヘル一人だけ。
それに。
彼と重姫たちの接し方を見る限り。
少なくとも、話し合いのできる人間だ。
私は深く息を吸った。
自分の感情を整える。
そして、心の準備もした。
未知の世界から来た、この人間を迎えるために。
……
重姫を制御できる生物。
人間。
もし俺が統治者なら。
たぶん、ずっと同じ問題を考えるだろう。
「もし地球上の人間が、全員こんなことをできたら、どうする?」
いやはや。
本当にご苦労さまだ。
でも……
そういえば。
最初にファーンを寄こしたのは、あんたじゃないか。
そうじゃなければ。
こんなことにはなってなかっただろ?
あんたがもともと用意していた計画。
俺がめちゃくちゃにしてしまった。
会談室の扉の前に立ちながら。
俺は思わず、これから会う女王重姫の立場になって少し考えてみた。
今の彼女は……
たぶん、こんな気分なんだろうな。
笑。
人間……
映像で見るより、さらに小さい。
まるで私たち男性重姫を、そのまま同じ比率で縮小したように見える。
ただ、皮膚は私たちとまったく違う。
とても柔らかそうだ。
身体にも装甲を着けず、布地を中心に身につけている。
放熱は本当に大丈夫なのだろうか?
私が彼を観察していると。
彼は姿勢を正し、片膝をついた。
「女王陛下、初めまして。」
「私はヘルと申します。」
「この地にお招きいただけたことを、光栄に思います。」
「私は地球から来た一人の操縦士にすぎず、礼儀に関する言葉には不慣れです。もし失礼がありましたら、どうかご容赦ください。」
片膝をつく……
それに、この話し方。
まさか、これが地球の礼儀なのだろうか?
上層部と会うたびに、まず跪く……
あまり効率がよくない気がする。
しかし、本人は礼儀が苦手だと言っているものの、私には十分よくできているように思えた。
なにしろ、地域ごと、文明ごとに異なる礼儀文化がある。
そして今、私が本当に必要としているのは。
情報と交流。
礼儀ではない。
そこで私は微笑みながら言った。
「初めまして、ヘルさん。」
「礼儀については心配しなくていい。」
「ここは公開の場ではない。」
「お互い自然に、互いの情報を交換して、ゆっくり交流しましょう。」
そう言ってから、私は彼に着席を促した。
しかし。
次の瞬間。
セフィはあまりにも自然に、ヘルを丸ごと抱き上げた。
自分が席に座ってから、ヘルを自分の膝の上に置いた。
……
まあ。
双方の体格差を考えれば、この高さのほうが確かに合理的ではある。
でも……
セフィ。
ヘルも「もういい、諦めた」という顔をしている。
まあいい。
さっき私自身が言った通り。
どうせ、ここは公開の場ではない。
セフィの動きがあまりにも自然すぎたせいで。
俺は状況を理解する間もなく、すでに彼女の太ももの上に座っていた。
……
せめて少しくらい、ツッコむ時間をくれないか?
俺は改めて女王重姫を見る。
彼女の身長はベローナと同じくらい。
装甲は珍しい白金色。
髪は銀白色に近い。
体つきは健康的で均整の取れた美乳型。
そこに、どこか空気のような透明感を持つ美貌が合わさっている。
一目見ただけで、強く印象に残る。
続いて。
俺は自分が知っているすべてを、隠すことなく女王に報告した。
俺の来歴。
地球がどんな場所なのか。
俺が何者なのか。
現在の記憶回復の状況。
そして、未知の宇宙船に関する情報。
もちろん。
その中には、ソフィアたちが道中でどれだけ活躍したかも含まれている。
女王も、さらに踏み込んだ質問をかなりしてきた。
たとえば地球の政治。
戦争。
植民方式。
そういった、統治者なら興味を持ちそうな話題。
俺も、自分が知っている範囲ですべて答えた。
まあ……
俺にとって、政治みたいな話題は正直かなり退屈なんだけど。
笑。
ヘルという名の、この人間。
基本的に、聞けば何でも答える。
その間、翻訳機にも異常反応は一切なかった。
つまり彼の言っていることは、すべて真実。
彼の性格はかなり率直だ。
隠さない。
避けない。
それどころか、自分から補足までした。
人間の善悪や貪欲さの程度は、人によって違うと彼は考えている。
私から見れば。
実際、私たちとそれほど大きな違いはない。
もしかすると……
これは単に、進化の程度の違いなのかもしれない。
もし人間の寿命も私たちと同じくらい長ければ、最後には私たちと非常によく似た存在になるのかもしれない。
ただ。
私はもう一つのことにも気づいた。
ヘルは政治方面の話題に、あまり興味がないらしい。
それなら。
直接、本題に入ろう。
私は試してみたい。
この人間を。
「一つ疑問がある。」
「ファーンの行動が、確かにかなり無礼だったことは認める。」
「しかし……」
「本当に彼を強制的に制御し、危険な状態にまで追い込み、最後には昏倒させる必要があったのか?」
「もし目的が、自分には重姫を制御する能力があると証明することだけなら。」
「実際、試合が始まった時点で、すでに証明できていたのではないか?」
やっぱり。
女王は、俺が予想していた通りの質問をしてきた。
翻訳機には嘘発見機能がある。
曖昧なことを言ったり、わざと避けるような答えをすることもできない。
でも。
正直なところ。
最初からそんなつもりはなかった。
だから、俺は直接答えた。
「必要でした。」
ヘルは当然のように言い切ると、そのまま説明を続けた。
「マエラさんの件で、俺はすでに相手の意思を無視して、重姫を強制的に制御できることを知っていました。」
「でも、この能力の限界がどこにあるのかは分かっていませんでした。」
「ちょうど。」
「ファーンは最高のサンプルにできた。」
「なにしろ。」
「彼は必ず全力で抵抗する。」
「それに。」
「彼が知りたいと言うなら。」
「俺がどこまでできるのか、知ってもらえばいい。」
「もし。」
「見終わった後に、『それだけ?』と一言言われたら。」
「俺には、自分を証明する二度目の機会はありませんから。」
俺は自分の目的を話した。
でも。
ここまでしか言わないなら。
俺自身も気分が悪い。
だから、さらに付け加えた。
「もちろん。」
「それも目的の一つにすぎません。」
「もう一部は……」
「みんなの鬱憤を晴らしたかった。」
「たぶん九割くらい。」
彼は笑った。
「俺たちの地球には、一つ言葉があります。」
「目には目を。」
「俺はこれが好きです。」
「その後には、もう一つあります。」
「十倍返し。」
「ただ。」
「そこは一応、抑えました。」
「もしこの件で俺に責任を取れと言うなら、あるいは賠償を求めるなら。」
「異論はありません。」
「でも。」
「謝罪はしません。」
「それが俺の一線です。」
「責任を取る?」
女王は俺を見つめたまま、相変わらず穏やかな口調で言った。
「どうやって責任を取るつもり?」
「あなたには、ここで後ろ盾がない。」
「あなたを保証する国家もない。」
「それどころか、身分も財産もない。」
「口で言うだけでは、駄目よ。」
……
なるほど。
もう一歩、踏み込むつもりか。
圧力をかけられた時、俺がいったいどんな反応をするのか見たいらしい。
少し意地が悪い。
でも。
彼女を責める気にはならない。
なにしろ、この国の指導者だ。
彼女の立場なら、こうするのはごく普通だ。
……
俺は心の中で苦笑した。
いやあ。
本当に痛いところを突く。
確かに。
今の俺は、ここでは無一文。
どの国家を代表することもできない。
地球を代表したいとも思わない。
笑。
でも。
こういう場面は、俺も初めてじゃない。
お前は……
俺がどうして、いろいろな機械を運転しながら、地球中を走り回れたと思ってるんだ?
俺は少し考えを整理した。
そして口を開いた。
「俺は、自分にはかなりの価値があると思っています。」
「地球の情報はひとまず置いておくとして。」
「俺が知っていることなら、すべて提供できます。」
「でも。」
「俺が思うに。」
「あなたたちが本当に興味を持っているのは、そういうものじゃない。」
「俺がなぜ……」
「重姫を制御できるのか。」
「あるいは。」
「操作できるのか。」
「その能力でしょう。」
「俺自身が実際に使った。」
「だから当然、その長所、短所、そして使い方を知っている。」
「これこそ。」
「あなたたちが本当に欲しい情報じゃないですか?」
俺は笑った。
自分を指差す。
「唯一無二の地球人。」
「これだけの価値……」
「本当に必要ありませんか?」
……
自分自身の価値を交換材料にするのか?
認めざるを得ない。
確かに、とても魅力的だ。
人間についても。
地球についても。
私は知りたいことがたくさんある。
特に……
重姫を制御する能力。
できることなら。
私たちも、その対抗手段を見つけなければならない。
さらに重要なのは。
絶対にクロノスに、この能力を先に掌握させてはならない。
結局のところ。
ヘルを自由に行動させること自体が、アルカディアにとって一つのリスクだ。
ある程度、彼の動向を把握しなければならない。
それが現実。
そして、統治者として下さなければならない判断でもある。
まさか。
彼は問題をこちらに投げ返しただけでなく。
逆に私に選択を迫ってきた。
もしかすると……
私は幸運だったと思うべきなのかもしれない。
私たちが出会ったのが、まだ善良なほうの人間だったことを。
後ろで。
ベローナが小声でソフィアに聞いた。
「結局……」
「二人の話は、どうなってるんだ?」
ソフィアは驚いた顔で彼女を見る。
「あなた、最初から最後まで聞いてなかったの?」
ベローナは笑った。
「最初からよく分からなかった。」
「後半はもっと分からない。」
ソフィアは呆れたようにため息をついた。
「もういい。」
「終わった後で、簡単にまとめて説明してあげる。」
「助かる。」
ベローナはほっとした。
「ついでにセフィにも説明してやってくれ。」
「ほら。」
ソフィアはベローナの視線を追った。
前に座っているセフィの顔には、はっきりと書かれていた。
「二人はいったい何を話してるの?」
完全に話についていけていない顔だった。
ソフィアは思わず額を押さえた。
静かにため息をつく。
……
一連の複雑な交渉を経て。
最終的に。
俺はひとまず、アルカディアの人類代表になった。
将来、地球との連絡が取れた場合。
俺が地球との連絡と交渉を担当する。
それまでは。
俺は正式にソフィアのチームへ編入される。
その一員になる。
給料あり。
研究を受ける時には補助金も出る。
身分証や関連書類も、すぐに手続きが始まる。
普段は。
ソフィアたちと一緒に暮らし、一緒に任務を行う。
なにしろ。
今のところ、お互いに一番よく知っているメンバーだからだ。
簡単に言えば……
だいたい、こんな感じか。
これは……
面接に受かったってことか?
まさかいつか。
現場仕事をしていて。
宇宙の別の星まで来ることになるとは。
……
結果から言えば。
かなりいい会談だった。
少なくとも。
私はすでにヘルの一線を把握できた。
そして、彼の性格も。
会談の途中。
私は何度も意図的に圧力をかけた。
彼の本性を引き出そうとした。
さらには、彼のペースを崩そうともした。
しかし。
彼は最後まで、まったく動揺しなかった。
あるいは。
こういう場面には、すでに慣れているようだった。
彼自身が言った通り。
地球で。
彼は操縦の仕事に関する、さまざまな面接を経験してきた。
だから。
今日のこの面接のような会話は。
彼にとって。
おそらく大したことではなかったのだろう。
それでも。
ファーンという話題のおかげで。
私はようやく。
彼の本当の性質を少しだけ覗くことができた。
「目には目を。」
この点は。
獣人族と少し似ている。
ただ。
彼が守る対象は。
自分ではない。
彼自身が認めた者だ。
それから。
彼はある程度、身分の高い者を尊敬する。
しかし、それは完全に服従するという意味ではない。
彼には彼自身の原則がある。
自分で決めた規則も守る。
たった一度の会談で。
これだけ多くの情報を把握できた。
十分な収穫と言える。
もし機会があるなら……
次は。
何の身分も立場もない状況で。
彼とゆっくり話してみたい。
俺は死体みたいにぐったりしていた。
いや。
むしろ、ぬいぐるみに近い。
そのままセフィに胸の前で抱かれ、ずっと運ばれていた。
これについては、俺に何の不満もない。
なぜなら……
正直。
疲れた。
しかも精神的に。
仕事の関係で、面接を受けた回数は絶対に少なくない。
昔、まだ実際の経験がほとんどなかった頃。
手元に大量の免許があっても、機械の所有者が高価な設備を、見知らぬ人間に気軽に任せてくれるわけじゃない。
あの頃の面接は。
今日より怖いことさえあった。
時には、大量の免責同意書に署名しなければならなかった。
保険の問題まで、一緒に処理しなければならないこともあった。
そんな記憶が。
さっきの会談中、まるで潮のように一気に押し寄せてきた。
おかげで俺の精神力は、一気にゼロ。
もしこの世界にも AR インターフェースがあるなら。
今の俺には、たぶん一列全部の状態異常がついている。
精神力枯渇。
負の感情。
虚脱。
ぐったり。
Debuff。
……
「へへ~」
セフィは楽しそうに鼻歌を歌っている。
俺を抱いて歩く足取りも、さらに軽くなっているようだった。
後ろでは。
ベローナとソフィアが並んで歩いている。
ベローナが口を開いた。
「それで。」
「ヘルは今、私たちの仲間ってことか?」
「それとも保護対象?」
ソフィアが答えた。
「両方。」
「今日から、私たち四人は一緒に暮らすことになる。」
「女王様は住居とすべての手続きを、私に任せたわ。」
ベローナは少し困ったような顔をした。
「私はこういう任務、あまり得意じゃないんだ。」
「保護対象と同僚が一緒になると……」
「なんだか、やりにくい。」
ソフィアは笑った。
「あなたはただ、公私を一緒にするのが苦手なだけよ。」
「公私を分けるのは、もちろんいいこと。」
「でも。」
「極端すぎると、かえって自分が苦しくなることもあるわ。」
彼女たちの会話を聞きながら。
俺も多少は何か言ったほうがいいと思った。
まあ……
今もまだ、ぐったりしているけど。
俺は力なく口を開いた。
「そんなに……はっきり分けなくていい……」
「俺たち……知り合ったばかりでもないし……」
「中間くらいにして……」
「俺を相棒だと思ってくれ……」
「そうすれば。」
「仕事でも、プライベートでも。」
「一緒に行動する必要がある時でも。」
「そう呼べる。」
「操縦士より……」
「相棒のほうが……ずっと響きがいい。」
「正直……」
「俺はああいう言葉を……」
「お前たちに使うのが……あまり好きじゃない……」
言い終わった瞬間。
セフィはすぐに俺をさらに強く抱きしめた。
それどころか、頬を何度も俺に擦りつけてくる。
ソフィアとベローナは互いに顔を見合わせた。
そして笑いながら頷いた。
どうやら二人とも、俺の提案に賛成らしい。
「あの……」
「セフィ。」
「これ以上そんなふうに抱いたら……」
「さすがにセクハラだからな。」
王宮を出た後。
俺たちは探査隊のメンバー一人一人に別れを告げた。
「うわああああ──!」
探査隊の泣き声が、あちこちから響く。
なにしろ。
もともとこれは、一時的に集められたチームだった。
任務が終われば、当然それぞれ解散する時が来る。
でも。
見れば分かる。
みんな、とても情が深い。
重姫たちが集まって、泣きじゃくっている。
正直……
かなり可愛い。
ん?
待て。
まさか、俺のせいで泣いてるのか?
まあいい。
俺にとっても、探査隊のみんなには道中ずっと世話になった。
それに……
うっかり彼女たちの裸まで見てしまった。
本当にうっかりだ。
俺は何も知らなかったんだ。
とにかく。
一人ずつ抱きしめよう。
「うん。」
「今まで世話になったな。」
次。
「うんうん……」
「ちょっときつい。」
「でも、ありがとう。」
次。
「待て!」
「そんなに強く抱くな!」
「うう……」
「ありがとう……世話に……」
次。
「待て!」
「抱く位置、おかしくないか?」
「しかも俺の尻をつねっただろ!」
「これでどうやって感謝しろっていうんだ?」
次。
「あ。」
「最初に宇宙船を操縦してた操縦士。」
「本当にありがとう。」
「待って……」
「違う!」
「うわあ──!」
「そんなところ揉むな!」
「変な性癖を開発するな!」
「俺の感謝が、もう悲鳴になりそうだ!」
次。
「セフィ!」
「お前は混ざるな!」
……
探査チームは正式に解散した。
みんなと別れた後。
ベローナは大きく伸びをした。
「今は。」
「もう仕事終わりってことでいいよな?」
ソフィアは笑って答えた。
「ヘルを相棒として考えるなら。」
「今のところはね。」
ベローナはすぐに嬉しそうな顔をした。
「よし!」
「やっとゆっくりできる!」
「まず一杯飲みに行こう!」
ソフィアは少し考えた。
そして頷いた。
「どうせ。」
「住居はまだ手続き中。」
「もう少し時間がかかる。」
「先に行っても問題ないわ。」
「ちょうどいい。」
「ヘルの歓迎会ということにしましょう。」
セフィは嬉しそうに両手を上げた。
「後輩ができた!」
「私、新人卒業!」
ソフィアとベローナは互いに顔を見合わせた。
それから。
ベローナが口を開いた。
「それは別の話だ。」
ソフィアも笑いながら付け加えた。
「厳密に言えば、ヘルのほうが。」
「階級はあなたより少し上よ。」
「だって。」
「今の彼は人類代表。」
「同時に実験体。」
「それに私たちの同僚でもある。」
セフィは固まった。
「ええ──?」
酒場に来た。
というか……
食堂?
すみません。
俺はまだ、ここの店の分類がよく分からない。
海外に行くたび、こういう感じになる。
逆にナイトクラブは、世界中どこでも分かりやすい気がする。
いったいどういうことだ?
まあいい。
俺はいつも通り、何の植物を淹れたのか分からないお茶を一杯頼んだ。
飲むと冷たくて、茶の香りがする。
ミントと茶葉を混ぜたような味に少し似ている。
香り。
涼しさ。
でも刺激は強くない。
さっき「面接の嵐」を経験したばかりの、俺の弱った心を意外と癒してくれた。
セフィが頼んだのは……
見た感じ、ケーキとミルクティー?
俺はそう思う。
実際に何なのかは、自分で食べてみるまで断定できない。
まあ、彼女が楽しそうに食べているならそれでいい。
ソフィアは、カフェラテによく似たお茶を飲んでいる。
とても優雅に見える。
……
いや。
実際には、まだ仕事をしている。
目の前の投影インターフェースを、ずっと操作している。
あの画面……
なんだか見覚えがあるような?
あ。
待て。
投影されてるの……
俺のスマホの分解図じゃないか?!
おい!
俺のスマホ、大丈夫だよな?
ベローナはというと……
もう何杯飲んだのか分からない。
どうやら彼女は、仕事が終わった瞬間に完全解放されて、冷蔵庫にはいつも酒瓶が詰まっているタイプらしい。
横にはナッツの皿まで置いてある。
あれ、ナッツだよな?
なんでリンゴくらい大きいんだ……
そういえば。
歓迎会じゃなかったのか?
これ、ただお前たちが酒を飲みたいだけの口実だろ。
……
社会人になったばかりの頃を思い出す。
みんな仕事が終わった後、たまに一緒に集まることもあった。
名目上は食事会。
付き合い。
でも、みんな疲れ切っていた。
最後には、それぞれ自分のことをしていた。
わざわざ話題を出す人もいない。
今の状況と少し似ている。
それとも……
さっき精神力がゼロになった俺を気遣って、わざと休ませてくれているのか?
俺はお茶を飲みながら。
周囲を見回した。
今、自分がいる世界をゆっくり感じる。
店の中は、だいたい七割が重姫。
残り三割は他の種族。
全身が毛で覆われた獣人族。
耳の特徴がかなり分かりやすい。
犬耳。
狐耳。
兎耳。
……
うわ。
あっちには猫耳までいる!
俺は猫派だ。
でも、これはあくまで俺から見た呼び方。
実際に彼らが互いをどう呼んでいるのかは分からない。
身長は重姫の半分くらい。
というか……
あれは裸なのか?
他にも、肌が滑らかで、ビキニのような服だけを着ている種族がいる。
身長は重姫に近い。
でも体つきはかなり細い。
よく見ると。
最大の特徴は尻尾じゃない。
鼻がないことだ。
首の両側には、魚のエラに似た構造がある。
たぶん、あそこで呼吸しているんだろう。
今のところ、人間に似た種族はまだ見ていない。
まあ、当然と言えば当然だけど。
でも……
やっぱり少し残念だ。
人類は……
いったいいつになったら、ここへ来られるんだろう?
「ヘル、あーん。」
俺が周囲を見ながらぼんやりしていると。
セフィが突然、ケーキを小さく切って、フォークで俺の前に差し出した。
口を開けろってことか?
え?
食べてみろってこと?
まあ、別にいいけど。
俺はそのまま口でケーキを受け取った。
うん……
確かにケーキっぽい。
ほんのりイチゴの香りがする。
悪くない。
俺が食べたのを見ると、セフィはすぐに満足そうな笑顔を浮かべた。
そして、さっきのフォークを使って、またケーキを一切れ口に入れた。
見た感じ……
なんだか、さらに嬉しそうだ。
待て。
ここにも「間接キス」の習慣があるのか?
うん……
まあいい。
彼女が嬉しいならそれでいい。
笑。
ソフィアが突然、口を開いた。
「さっき、何か悲しいことを考えてた?」
「セフィは周囲の雰囲気に敏感なの。」
「残念ながら、原因を推測するのはあまり得意じゃないけど。」
「だから……」
「故郷のことを考えてたの?」
なんだ。
世界中をあちこち走り回っていた俺でも、ホームシックになるのか?
俺は笑って答えた。
「はは。」
「まだ早いよ。」
「さっき考えてたのは。」
「俺以外の人類が、いったいいつになったらここへ来られるのかってことだ。」
ベローナは酒の入ったグラスを揺らした。
「今は、お前の星系がどこにあるのかすら分からない。」
「具体的な特徴があったとしても。」
「いつまで絞り込めばいいのか分からないな。」
ソフィアも頷いた。
「たとえ見つかったとしても……」
「ヘルの時間が……」
彼女は途中まで言って。
突然、止まった。
視線が静かにセフィへ向く。
セフィは少し固まった。
下を向く。
黙って残りのケーキを食べ始めた。
まるで聞こえなかったふりをしたいように。
あるいは……
その言葉の本当の意味を理解したくないように。
確かに。
俺も、彼女にはこの話を聞き続けさせないほうがいいと思った。
だから俺は笑いながら、体を後ろに預けた。
セフィにもたれかかる。
「そんなことより。」
「まずは目の前のことを悩むほうが現実的だ。」
「たとえば、限られた給料をどう振り分けるか。」
「俺はお前たちと同居するだけじゃない。」
「ここの生活にも、少しずつ慣れないといけない。」
「これから忙しくなることは、山ほどあるんだからな。」
なるほど。
さっき行ったあの店は、せいぜい地球で言うカフェみたいなものだったらしい。
……たぶん。
酒まであるから、俺もどう分類すればいいのかよく分からない。
休憩した後。
俺たちはソフィアがみんなのために手配したアパートへやって来た。
アパートとは言っても……
セキュリティシステムはかなりしっかりしているように見える。
アパートの入口には、すでに巨大な荷物箱が大量に整然と並べられていた。
……スーツケースってことでいいのか?
中には、ソフィア、ベローナ、セフィが元の住居で使っていた私物が入っている。
自分で戻って運ぶ必要はまったくない。
サービスが行き届きすぎだろ。
待て……
個人のプライバシーは、まったく心配しなくていいのか?
そう考えた瞬間。
俺は突然、地球にいる自分のことが心配になってきた。
俺のハードディスク……
頼むから、セキュリティ機能を発揮してくれ。
パスワードをガチガチにロックしておいてくれ。
できれば。
一生、開かれないでくれ。
それから……
俺が集めたバイクと車。
一応、事前に相続書類には署名してある。
最後にスクラップにならないことを願う。
せめて……
本当に車を愛するコレクターの手に渡ってくれ。
俺の愛する DMC……
ポンティアック……
ハーレー……
I love you.
Goodbye.
……
アジアの一部地域では。
土地の価格は、まさに天文学的だ。
それに俺は長年、世界中を走り回っていた。
だから地球にいた頃は、ずっと賃貸暮らしだった。
でも……
こういう海の真ん中にある、モジュール式の浮島都市。
家賃はいったいどう計算するんだ?
目の前のこのアパート。
五部屋。
リビングとダイニングが二つ。
バスルームも二つ。
しかもメゾネット式。
さらに。
全部、重姫のサイズで作られている。
もう完全に、どう換算すればいいのか分からない。
幸い。
ソフィアはアルカディアが外交関係者に提供する賃貸補助を利用して、ここを申請してくれた。
……
神だ。
そこで。
俺は両手を合わせた。
真剣な顔でソフィアを拝む。
「ソフィア女神様のご加護に感謝します。」
「ええっ?!」
ソフィアは一瞬で慌てた。
まさか。
隣のベローナまで両手を合わせた。
「本当に。」
「私だったら。」
「どこに住めばいいのか、まったく分からない。」
続いて。
セフィまで真似して拝み始めた。
「私も。」
ソフィアは完全に呆れた。
「違うから!」
彼女はすぐに、入口にある大量の荷物を指差した。
「ベローナ。」
「あなたは武器を集めすぎなの。」
「よく今まで捕まらなかったわね。」
「それからセフィ。」
「あなたはぬいぐるみと運動器具が多すぎる。」
「部屋が見つからないわけじゃないの。」
なるほど。
つまり……
この二人の倉庫も兼ねてるのか?
俺は突然、別のことを思いついた。
「そういえば……」
「俺の部屋は、どんな感じなんだ?」
Holy shit……
俺の部屋。
広すぎて……
The 75710 タイタン級のダンプトラックが、ちょうど二台入りそうだ。
部屋の家具はシンプル。
棚とベッドしかない。
もちろん。
全部、重姫サイズ。
当然のように。
この巨大な比率が、また俺の空間感覚を完全に狂わせる。
俺……
本当にここに住むのか?
まさか、うっかり奴隷契約みたいなものに署名してないよな?
俺はあの隔離室が恋しくなってきた。
少なくとも。
「部屋」という俺の認識を壊すほど広くはなかった。
室内にいるはずなのに。
まるで屋外にいるような開放感がある。
俺は静かに、上着とズボンを脱ぐ考えを諦めた。
こんな環境で。
パンツ一枚で歩き回る勇気なんて、俺にはない。
残念だ。
……
自分の部屋にずっといるのも、さすがに退屈すぎる。
そこで俺は、他の三人が部屋を整理している様子を見に行くことにした。
ついでに、何か手伝えることがないかも見る。
もちろん。
無理のない範囲で。
まず。
俺が一番興味を持ったのは……
ベローナの部屋。
まだ入口に着いていないのに。
すでにドアの外には、かなり頑丈そうな箱が大量に積まれていた。
でも。
箱が頑丈かどうかなんて、まったく重要じゃない。
なぜなら……
中身がもう見えている。
残念ながら。
見えているのは下着でもない。
彼女のビキニ装甲でもない。
それは……
銃。
砲。
弾薬。
それに、弾丸が丸ごと一箱。
……
大丈夫なのか?
待て。
手榴弾みたいな球状の物が一個、転がり出てきたんだけど……
もう一度言う。
本当に大丈夫なのか?
自分の安全を考えると。
ベローナの部屋のドアには、一枚貼っておくべきだと思う。
「火気厳禁。」
命の安全のため。
見なかったことにしよう。
Pass。
次。
ソフィア。
彼女なら、もう少し普通だろ?
ドアは閉まっていない。
たぶん、まだ整理中。
ところが。
中を覗いてみると。
整理どころか。
部屋全体の配置は、とっくに完成していた。
大型コンピューター設備。
超大型モニター。
それに、3D プリンターによく似た装置。
待て。
あのプリンター……
タブレットを印刷してるのか?
違う。
あれは……
重姫サイズのスマホケース?
これ、本当に著作権的に問題ないのか?
ソフィアは俺が入ってきたことに、まったく気づいていない。
画面の拡大映像を見ながら。
机の上の物を集中して分解している。
うん……
あれは俺のスマホだ。
ディスプレイモジュールどころか。
チップまで外されている。
というか。
お前たち、あんなに大きな体なのに。
よくスマホをここまで綺麗に分解できるな。
もう感心するしかない。
知的財産権。
リバースエンジニアリング。
どっちからツッコめばいいのか分からない。
まあいい。
続けてくれ。
俺は静かに足音を抑えた。
部屋を出ようとする。
俺が入口まで来た時。
ソフィアは振り返りもせずに言った。
「ついでにドア閉めて。」
「ありがとう。」
……
なんだよ。
俺が入ってきたの、知ってたのか。
次。
セフィ。
セフィの部屋に来た。
なるほど。
王道の少女風だ。
部屋全体はピンク系が中心。
彼女の性格によく合っている。
というか……
いったいどうやって色を塗ったんだ?
ここに来て、まだ一日も経ってない。
まさか何かボタンがあって、押すだけで部屋の色を直接変えられるのか?
部屋の周囲には、いろいろなぬいぐるみが並んでいる。
横にはダンベルやトレーニング器具もかなり置いてある。
なるほど。
だからセフィは、あんなに体力があるのか。
俺はセフィに言った。
「俺も手伝うよ。」
彼女が答える前に。
俺はもう、ドアの外に置かれていたぬいぐるみを、一つずつ部屋へ運び始めていた。
……
待て。
なんで突然、地球にある、犬が飼い主のためにおもちゃを部屋へ運ぶ、あの心温まる短い動画を思い出したんだ?
ただ物を運ぶのを手伝ってるだけだ。
たぶん……
違うよな?
俺はぬいぐるみを抱えて、セフィに渡した。
セフィは嬉しそうに受け取る。
「ありがとう。」
そう言って。
ついでのように俺の頭を撫でた。
……
やめてくれ。
余計にひどくなった。
まあいい。
自分の精神衛生のため。
なかったことにしよう。
……
数が本当に多い。
俺は行ったり来たり、たぶん五十回以上は往復した。
一度に抱えられるのは、多くても二体。
正直。
このぬいぐるみのサイズは、全部地球の XXL 級だ。
中には、そのままベッドとして寝られそうなものまである。
全部運び終わった後。
俺は息を整えた。
ついでにお茶を手に取り、一口飲む。
そして部屋全体を見回した。
運動器具は、実際それほどでもない。
本当に空間を埋め尽くしているのは。
やっぱり、いろいろなぬいぐるみ。
俺がゆっくり眺めていると。
「ブッ——!」
口の中のお茶を全部吹き出しそうになった。
待て。
一体……
ものすごく見覚えがある。
違う。
見覚えがあるんじゃない。
まったく同じだ。
あのぬいぐるみの山の中に。
まさか、あの定番の大きな頭、大きな目、灰色の肌……
グレイ。
俺は驚いて、そのぬいぐるみを指差した。
「セフィ。」
「あの灰色の……」
「まさか、あれが宇宙人なのか?」
セフィは俺が指差した方向を一度見る。
まったく何もおかしいと思っていないようだった。
「グレイのこと?」
「彼らは本当に宇宙人だよ。」
「昔、私たちも彼らと国交を結んだことがあるんだよ~」
……
What the fuck?
俺が予想していた答えではなかった。
でも、一瞬で俺の好奇心を引き出すには十分だった。
セフィは続けた。
「彼らは観光が大好きな宇宙人なの。」
「あちこち旅行して。」
「あちこち探検して。」
「お腹が空いたら。」
「現地の家畜を捕まえて、ピクニック料理をするの。」
……
彼女の説明を聞き終えた瞬間。
俺の頭は全速力で回り始めた。
宇宙版キャンププレイヤー?
それに現地調理?
お前たちは旅行してるのか。
それともグルメ番組を撮ってるのか?
セフィは、俺の妄想がすでに暴走していることにまったく気づかない。
そのまま説明を続けた。
「でも。」
「彼ら、すぐ迷子になるの。」
「話によると。」
「宇宙のほとんど全部に、彼らの痕跡があるんだって。」
「私たちが自分から連絡しようとしても。」
「彼らの母星がどこにあるのか、ずっと見つけられないの。」
……
Holy——
もしかすると、これで説明できる。
なぜ地球にも、彼らの都市伝説が伝わっているのか。
でも……
さすがにひどすぎるだろ?
自分の母星まで見失ったのか?
いったい何なんだよ!
情報が途切れたんじゃない。
……
そのままどこかへ行ってしまった!
Shit!
セフィは呆然とした顔の俺を見た。
「もしかして……」
「彼ら、ヘルの地球にも行ったことがあるの?」
俺は乾いた笑いを二度漏らした。
自分が知っているグレイの情報を、大まかにセフィへ話した。
なにしろ。
俺はこの方面の熱狂的な研究者じゃない。
自分が聞いたこと、見たことがある話をしただけだ。
セフィは聞き終えると頷いた。
「やっぱりグレイだね。」
「ヘルの地球にも行ってたんだ。」
「もし今後、また彼らに会う機会があったら。」
「私が代わりに聞いてみるね。」
「でも。」
「彼らの集団はものすごく広く分散してるの。」
「情報も必ず共有されてるとは限らない。」
「だからヘル、あまり期待しすぎないでね。」
「ははは……」
俺は乾いた笑いを浮かべながら、頷くしかなかった。
正直。
宇宙のバックパッカー集団が、何か信頼できる情報を提供してくれるなんて、まったく期待していない。
ちなみに。
アルカディアの人類代表として。
もし本当にいつか彼らに会ったら。
まず一言、注意しておきたい。
「牛は畜産業の資産であり、野生動物ではありません。」
「現地で合法的な手続きを通じて購入してください。」
「ご協力ありがとうございます。」
(CMナレーション風。)
……
グレイの衝撃があまりにも大きすぎた。
そのせいで俺はぼんやりしながら、セフィの部屋整理を手伝い続けた。
部屋のぬいぐるみは、本当にいろいろな種類がある。
さっきのグレイ以外にも。
定番の多脚宇宙人。
それに、前に見た獣人や水棲族など。
どうやら。
可愛ければ。
彼女は集めたくなるらしい。
だいたい整理が終わった後。
俺はセフィのベッドを見た。
ベッド全体が、もう少しでぬいぐるみに埋め尽くされそうだった。
……
これ、本当に寝られるのか?
でも、よく考えてみると。
別に無理でもない気がする。
地球にも、たくさんのぬいぐるみに囲まれて寝るのが好きな女の子はいたはずだ。
俺がそんなことを考えていると。
セフィは自分のベッドを見た。
突然、両手を広げる。
「バフッ!」
そのまま全身でベッドに倒れ込んだ。
満足そうな笑顔を浮かべる。
あまりにも自然な動きだったせいで。
彼女は俺がまだ横に立っていることを、完全に忘れているようだった。
……
まあいい。
どうでもいい。
もう片づけも終わった。
俺も自分の部屋に戻ろう。
俺が振り返って出ていこうとした時。
「ヘル。」
セフィが小さく俺を呼んだ。
その声は……
いつもと少し違っていた。
俺は足を止めた。
振り返って彼女を見る。
セフィはゆっくり言った。
「今日……」
「カフェで。」
「あなたとソフィアが話してたこと。」
「本当は……」
「私、全部分かってた。」
彼女は少し間を置いた。
「ただ……」
「あまり分かろうとしたくなかった。」
「なんだか……すごく嫌な感じがする。」
彼女はぬいぐるみを一体抱きしめた。
下を向いたまま、続ける。
「ちゃんと分かってる。」
「私たち重姫の寿命に対する考え方は、他の種族と大きく違う。」
「昔は。」
「ずっと思ってた。」
「ただ種族が違うだけだって。」
「全部、普通のことだって。」
「でも……」
「今は。」
「もう、そう思えなくなった。」
「それどころか……」
「このことが嫌いになり始めた。」
「考えたくない。」
俺は彼女の話を遮らなかった。
ただ静かにその場に立ったまま、彼女が話し終えるのを待った。
セフィはしばらく黙っていた。
それから、もう一度口を開いた。
「結局。」
「私はまだ、あの……」
「あなたと出会う前のセフィのまま。」
……
俺は少し考えを整理した。
なんて言えばいいんだろう。
本当に、素直すぎる子だ。
正直。
大人だって、彼女みたいに自分の気持ちを何も隠さず話せる人間は、そう多くない。
でも。
正直なところ。
俺も偉そうなことを言うのに向いている人間じゃない。
自分の人生だって、似たようなものだ。
それなら。
似たような人間なりの答えを返そう。
俺はセフィのベッドによじ登った。
彼女の横まで歩いていき、座る。
彼女を見ながら言った。
「何が悪い?」
「今の俺を見ても分からないだろうけど。」
「俺は逃げるのが得意なんだ。」
「嫌なことは。」
「逃げられるなら、逃げる。」
俺は笑った。
「お前自身、経験しただろ?」
「俺たちが最初。」
「俺たちを引っ張っていった未知の宇宙船から、どうやって逃げ出したか。」
セフィは固まった。
俺は続けた。
「俺たち二人だけで。」
「俺たちを引っ張っていった未知の宇宙船を。」
「それにクロノスも。」
「一路、めちゃくちゃに引っかき回して。」
「最後は逃げながら。」
「命からがら脱出した。」
「結果。」
「俺たちは喜劇で終わっただろ?」
俺は笑った。
「逃げることの何が悪い?」
「向き合いたくない。」
「それだって、何も悪くない。」
「それはただ。」
「自分の能力を評価した後で。」
「選んだ対処方法だ。」
「逃げて、もうこれ以上逃げられなくなった時。」
「もしかしたら。」
「新しい方法を思いつくかもしれない。」
「逆に。」
「自分を無理やり押して、向き合いたくない問題にぶつかっていっても。」
「たいてい、ろくな結果にはならない。」
俺はセフィを見る。
少しゆっくりした口調で言った。
「それに。」
「あれこれ余計なことを考え続けるより。」
「目の前の今を楽しむほうが。」
「ずっと価値がある。」
……
言い終えた後。
俺は手を伸ばした。
セフィの頭を軽く撫でる。
……
恥ずかしい。
結局。
俺だって、ずいぶんいろいろ言ってしまった。
まるで説教みたいな、くだらない話を。
目の前のこの子が。
本当に理解できたのかどうかも分からない。
セフィは瞬きをした。
目の中に、ほんの少し光が灯ったように見えた。
そして笑顔を浮かべる。
「簡単に言うと。」
「問題は未来の自分に投げればいいってことだね。」
俺は少し固まった。
その理解の仕方は、俺が本来伝えたかったこととは少し違う。
でも……
結果としては、間違ってない気もする。
俺は黙って親指を立てた。
笑いながら言う。
「だいたいそんな感じだ!」
セフィは下を向いた。
また少し考える。
その後、笑顔を浮かべた。
「じゃあ、未来の私に悩んでもらおう。」
言い終わった瞬間。
彼女は突然、両手を伸ばした。
俺をそっと自分の胸元へ抱き寄せる。
「おい、何するんだ?」
「俺はお前のぬいぐるみの一つじゃないぞ。」
セフィは答えなかった。
ただ、少しだけ強く抱きしめた。
……
まあいい。
さっきのあの話の後だ。
俺も抵抗する気がなくなった。
好きなだけ抱かせておこう。
俺は静かに、彼女の体温を感じた。
重姫の身体に温度がないわけじゃない。
ただ、俺たち人間より少し低いだけ。
体が大きいからか?
身体も想像していたほど硬くない。
むしろ、革のような柔らかさと弾力が少しある。
……
ん?
誰かが体臭について聞いた気がするんだけど?
どこの変態だ。
……
分かったよ。
嗅いでみる。
ほんのり甘い香りがする。
……
満足したか?
変態ども。
俺は自分を完璧な紳士だと思っている。
女性が抱きしめたいというなら。
俺は当然、
Bring it on!かかってこい!
という信念を貫く。
……
どれくらいセフィに抱かれていたのか分からない。
さっき大量の物を運んだせいで。
それに、お茶もかなり飲んだ。
俺がそろそろ恥ずかしくなって、この温かい雰囲気を壊そうと思い始めた時。
セフィを見る。
……
Oh no.
寝てる。
問題はそこじゃない。
それより……
俺は、自分があまりにも強く抱きしめられていることに気づいた。
本当に強すぎる。
俺……
俺、抜け出せない──!
その瞬間。
突然、地球のある映画を思い出した。
『127 Hours』。
幸い。
両手はまだ自由だ。
服とズボンを脱げば。
たぶん抜け出せるはずだ。
誤解するな。
俺の脳が考えているんじゃない。
俺の下半身が猛烈に抗議している。
……
膀胱のことだ。
今、チャンスがあるなら。
もうやるしかない!
俺はまず、ゆっくり上着を脱いだ。
続いて、慎重にズボンを下ろしていく。
全身を蛇のようにして。
少しずつ外へ抜け出す。
あと半身で脱出できそうになった、その時。
「何してるの?」
後ろから突然、声が聞こえた。
……
違う。
二人の声だ。
振り返らなくても分かる。
あの二人しかいない。
ソフィア。
それにベローナ。
……
俺は最初、説明しようと思った。
でも、よく考えてみる。
あんな定番のコメディ展開を繰り返すなんて、絶対に嫌だ。
もう説明するのも面倒だ。
直接、本題に入る。
俺は心から真剣な顔で彼女たちを見る。
両手を合わせる。
「トイレに行かせてください。」
「Please。」
……
俺の百パーセント真剣な願いを聞いて。
ソフィアとベローナは、一瞬で事情のすべてを理解した。
……
頭のいい人と話すのは。
本当に楽だ。
Thank God.




