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重姫駆動  作者: 樹下繪本
PR
14/15

014

アルカディア

飛行実験用浮遊プラットフォーム

ヘル視点

俺は夢でも見ているのか?

目の前に戦闘機がある。

アルカディアの技術で作られたものだ。

なぜ俺は、当たり前のことを言っているんだ?

問題はそこだ!

異世界転移でもない。

バミューダから迷い込んで飛んできたわけでもない。

俺の目の前にあるのは、見覚えのある……

黄橙色で、虹彩のような光沢を持つ……

F-16V?!

しかもデカい。

いや、ちょっと待て。

こ、これは……等倍拡大なのか?

…………

ソフィアが俺の後ろから歩いてきて言った。

「見た目はかなり似てるけど、実際のサイズは重姫を基準にしてるから、言ってしまえば等倍拡大版のF-16Vだよ」

「つまり、ただ見た目が似ている別の戦闘機?」

俺が呆然としながら言う。

ソフィアは舌を出して言った。

「外観と空力レイアウトは全部F-16Vだよ? ただ、素材も、コックピットも、制御システムも、エンジンも、全部アルカディア仕様だけどね~」

「それって、外観と空力レイアウト以外は全部別物じゃないか?」

ツッコんでも仕方ない。

俺は聞くことにした。

「どうして突然こんな戦闘機が出てきたんだ?」

ソフィアが笑いながら言った。

「君の報告書を開発科の人たちが見たんだよ」

「君の報告書には、ものすご~~く親切に、いろんな角度から撮った写真まで付いてたからね。そしたら、みんな作りたくなっちゃって」

「費用は材料費って名目で経理部に処理してもらったけど、開発科は当然、こっぴどく怒られたよ。でも、いつものことだから全然気にしてないけどね」

「手を出したくなった開発科は誰にも止められない。それがアルカディアの日常ってことで」

本当に自由で、放縦なアルカディアの日常だ。

「次の報告書には、こっそり面白い写真を何枚か入れておこうかな?」

というか、俺が報告書を渡してから一週間も経ってないぞ……。

それで重姫規格のF-16Vを一機、再現してしまう。

これは開発能力だけじゃない。

製造速度まで、もう無茶苦茶だ……。

今日は俺とソフィアで、開発科専用の浮遊プラットフォームまで来ている。

今回はセフィとベローナは来ていない。

セフィは、以前額に軽くキスされたことの刺激が強すぎて休んでいる。

ベローナは家を守っている。

実際のところ、まだ俺を避けているんじゃないか?

セフィの時はバイクの「跳躍者」。

ベローナの時は水上ビークル、水上バイクの「水精霊」。

最後の機体パートナー実験として、飛行担当のソフィアの表情は微妙だった。

もともと彼女が選んでいた飛行ビークルは、開発科の暴走によって急遽、アルカディア版F-16Vになってしまった。

ソフィアは、今まで操縦したことのない空中ビークルを使って実験するつもりだった。

それを利用して、新しい技術も学べるはずだった。

ところが来たのは、次にいつ乗れるかも分からない再現版F-16V。

仮に操縦を覚えたとしても、実際に使う機会があるかどうかも分からない。

完全に計算外だった。

……笑。

待て。

というか、俺が報告書にF-16Vの詳しい資料なんて載せなければ、こうはならなかったんじゃないか?

……うん。

これはなかったことにしよう。

俺はソフィアに持ち上げてもらいながら、手で直接、再現版F-16Vに触れていた。

触る。

何しろ、これは完全に別物だ。

いつもの感覚をそのまま当てはめるわけにはいかない。

しかも、ものすごくデカい。

頭の中でモデルを作るには、時間が必要だった。

「それで、本当に額だけだったの? それ以上はなかった?」

ソフィアが言った。

俺は驚いて、頭の中で作っていたモデルを魔改造しそうになった。

俺は冷静に答えた。

「分からないからな。どんな影響があるかも分からない。そういうリスクは、先に調べてからにしたほうがいいだろ……」

ソフィアが笑って言った。

「そういうリスク? そういうことをしたら、何かリスクがあるってこと?」

俺を引っ掛けるつもりか?

お、俺は……。

「そんなの、引っ掛かるわけないだろ!」

俺は答えた。

「君も試してみたい?」

そう思いながら、どう返してくるか見てみる。

ソフィアは驚かなかった。

むしろ少し考えてから言った。

「確かにちょっと興味はあるけど、これから実験なんだよ? 何かあったら困るから、実験が終わってから体験してみようかな~」

「くそっ!」

こいつ、本気だ!

俺はすぐに答えた。

「本気にするなよ?! というか、そういうDeath flagを立てるな! 俺もこれから一緒に乗るんだからな!」

ソフィアは移動しながら、俺を次に触る場所へと移動させて言った。

「私はいつだって本気だよ。ヘルとは話も合うし、男性の重姫みたいな傲慢さもない。それに、生物として見ても悪くないし」

「一番大事なのは……金銭管理の相性かな。笑」

「金銭感覚?」

俺にはそう聞こえた。

俺はソフィアに聞く。

「最後のやつはどういうことだ? 俺から見ると、君はかなり稼いでるだろ。そんな心配、いらないんじゃないか?」

ソフィアは少し考えてから言った。

「厳密に言うと~、お金持ちなのは私の家族なんだよ。私はその関係を利用して、そこから自分のお金を稼いでるだけ」

「何かあった時には、きれいに切り離せるしね……」

「それに、あんな酷い男性重姫なんかと組まされることもないし」

「うぇ……」

「その点、ヘルは受動的な収入は全部家に入れて、自分自身の純粋な収入だけを使ってるでしょ?」

「そこは結構、魅力的なんだよね」

「もし結婚したら、収入が一つ増えるだけじゃなくて、複雑な資金の流れも私が管理してあげられるよ~」

……まずい。

最後のやつは、確かに俺にも魅力的だった。

俺の頭の中に浮かんだのは……

保険。

老後。

保険料。

税金。

そんな現実的で恐ろしい計算式。

こんな面倒なものに、

Say goodbye……

……落ち着け。

落ち着け。

落ち着け。

落ち着け!

危なかった!

もう少しで引っ掛かるところだった!

しかも、よだれまで……?!

そんな感じで俺が心の中で葛藤していると、

俺はF-16Vには存在しない装置に触れた。

いや……違う。

そもそも、これはF-16Vじゃない。

元々の設計ではF-16Vのコンフォーマル・フューエル・タンク(CFT)にあたる部分。

そこには燃料ではなく、

「プラズマ砲」と呼ばれる砲台が左右それぞれ二基ずつ取り付けられていた。

アルカディアでは一般的な兵器らしい。

うん……

……なんだか腰に圧力を感じる。

そりゃそうだ。

今、俺はソフィアに持ち上げてもらっているんだから……。

だって今、俺はソフィアに持ち上げてもらっているんだから……。

俺は振り返ってソフィアに言った。

「ごめん、さっきは……」

ソフィアは俺が言い終わる前に言った。

「仕事なんだから仕方ないよ。でも、私の提案は忘れないでね」

「まったく、そんなにDeath flagを立て続けないでよ」

俺はもう一度、頭の中でモデルを作り直す。

魔改造されたノズル。

エネルギーバッテリーを交換できるように改造された燃料タンク口。

一つ一つ、F-16Vに似ているようで、どこか違う装置を触っていく……。

準備を終え、俺はソフィアと一緒に再現版F-16Vへ乗り込んだ。

コックピットはアルカディア仕様。

座席式ではなく、騎乗式の操縦席になっている。

これは事前に俺たちで話し合った結果だった。

座席式の操縦席では、俺が入るスペースがない。

パートナーとして搭乗できなければ、今回の実験に意味がない。

だから、珍しい騎乗式の操縦席に変更された。

それだけじゃない。

ここにはヘルメットやマスクのような呼吸器もない。

説明によれば、すでに優秀なアクティブ循環システムが搭載されているらしい。

さらに、元々は飛行機のキャノピーだった部分の内側まで、曲面型のリング状スクリーンになっていた。

ヘルメットに表示するはずだった各種データを、こちらで表示するためらしい。

ここまで来ると、F-16Vという印象はすっかり消えていた。

……そういえば。

ソフィアの綺麗な長い髪が、相変わらず少し邪魔だった。

なんで結ばないんだ?

俺がそう思っていると……

ソフィアが言った。

「何してるの? 私の髪に触れていいのは私以外では君だけなんだから、髪をまとめてお団子にしてよ」

まったく。

俺は手を動かしながら言った。

「思い出すな……」

ソフィアが続けて言った。

「私たちが初めてパートナーになった時も、君が私の髪をお団子にまとめてくれたよね。あれが、私の髪を異性に触られた初めてだったんだよ……」

俺は冷や汗をかきながら、髪をまとめて答えた。

「それは……俺の……光栄? それとも、申し訳ない?」

ソフィアが笑って言った。

「私が許したんだよ。そう思ってくれていいよ~」

「それはまあ……」

「驚かせないでくれよ……」

髪をお団子にまとめ終える。

俺はソフィアの接続装置も握った。

パートナーになった時特有の感覚が伝わってくる。

燃料エンジンにあるような、燃焼の鋭さ。

炎が燃え上がるような音。

それらはない。

代わりにあるのは、穏やかでありながら安定感のある共鳴。

どうやらこれは、電磁プラズマ動力エンジンによる感覚らしい……。

確かに、普通じゃない。

まるで、静かな怪物が力を蓄えているようだった。

俺とソフィアは、ゆっくりと推力を上げていく。

「再現版……はぁ……面倒くさい!」

「もうF-16VSでいいだろ!」

F-16VSを短時間だけ加速させる。

飛行滑走路はかなり短い。

だが――

問題ない。

F-16VSは単純な直線推力ではない。

プラズマの流れを制御して、推力の方向そのものを変えられる。

分かりにくいか?

なら、こう考えればいい。

今までの固定された方向にしか風を送れないドライヤーに、もう一本、手に持ったドライヤーが増えたようなものだ。

吹きたい方向に吹ける。

離陸距離は、ほとんどその場から飛び立てるほど短い。

激しい轟音はない。

あるのは、低く、収束した唸り声だけ。

地面を離れ、機首を上げて空へ飛び上がる。

F-16Vより大きな機体とは思えないほどの力。

いや……

過剰すぎる。

余裕がありすぎる。

離陸に最も必要な推力ですら、

出力は十分の一にも届いていない。

無事に離陸できたなら、普通の流れでは……

地球の場合、このような試験機は通常、すぐに戻って一連の点検を受ける。

デバッグ。

あるいは、さまざまな調整。

次の飛行は一週間後か、一か月後。

一歩ずつ、飛行機の動きを上げていく。

完全な正式飛行ができるようになるまでには、一年。

あるいは五年以上かかることもある。

そしてようやく解禁されて、正式な限界操作を行う。

……。

でも、ここはアルカディア。

俺の常識から完全に外れた星だ。

「帰らなくていいの?」

操縦を始める前に開発科から説明を受けた。

俺たちに操縦を任せる前に、基礎試験はすでに自律機にやらせていたらしい。

各方面の調整もすでに終わっている。

あとは実機を重姫に渡して、実際のデータを取るだけ。

まあいい。

ここの専門家がそこまで言うなら、思い切って操縦させてもらおう。

いくつかの基礎飛行。

旋回。

そしてロールなどの基本操作。

読み取れるフィードバックは、どれもかなり気持ちがいい。

F-16VSにとっては、まったく負担がない。

だが、俺は……。

なんとなく、軽すぎるような感覚があった。

そう。

まるで服を全部脱いだような解放感。

何かがかなり軽くなっているような感覚だ。

これはおかしい。

F-16Vよりもかなり大きな機体なのに、なぜこんなに軽く感じる?

ソフィアは俺の疑問に気づき、少し考えてから言った。

「証拠はないんだけど……F-16Vはもともと、比較的高い重力環境でも優れた機動性を得るために設計されているよね」

「今は同じ空力レイアウトをアルカディアの環境で拡大して、それに元の機体をはるかに超える推力が加わっている」

「だから、全体的な飛行感覚にかなり余裕が出ているんじゃないかな?」

この話、科学的すぎる。

俺は……。

……少し整理する。

「つまり……重力差が、拡大された空力レイアウトを通して感じられているってことか?」

「簡単に言えば、重力の違い?」

「アルカディアの重力は、地球より少し軽いんだよな?」

ソフィアが言った。

「全部推論だけど、なんとなく答えは近い気がする」

「それに、素材も製造技術もかなり違うから、一概には言えないけどね」

「確かに。地球の素材や製造技術と、ここのものを同じようには考えられないよな」

俺は笑いながら言った。

「もし地球とまったく同じサイズのF-16VSが一機あったら、もっとはっきり感じられるかもしれないな?」

ソフィアが笑って言った。

「本当にそんなものを作ったら、経理部がたぶん……発狂するね」

体感では、今は8G。

もう9Gに届きそうなところまで来ている。

それでも、このF-16VSの状態は安定している。

機体そのもの以外の雑音がまったく感じられない。

金属が歪む音も、その感覚すらない。

ソフィアも余裕そうで、まったく無理をしている感じがない。

そして俺は……。

自分でも驚いた。

まだ耐えられている。

本物のF-16Vで8~9Gになった時、どれだけ苦しいのかは体験している。

中に長くいれば、視力すら失われる。

まるで天窓がゆっくり閉じていくような感覚になる。

だが今の俺は、まだ耐えられている。

このままなら、11~12Gくらいまでは上げられると判断した。

絶対に、俺の身体がここで強くなったからではない。

おそらく、その鍵の一つは重力にも関係しているんだろう。

科学者じゃない俺には断定できない。

ただ、確実に言えることが一つある。

このF-16VSは、通常のF-16Vよりかなり大きいにもかかわらず、

機動性から推力、そして火力まで、

まるで数倍以上だ。

俺の頭の中では、このF-16VSの飛行包線がどんどん更新されていく。

俺は今までできなかった曲技飛行まで始めた。

零式艦上戦闘機を真似して、

機体を失速させ、

枯れ葉のように空中で揺れ動かしながら落下させ、

そこからそのまま操縦を回復させる技。

「木の葉落とし」。

F-35が高速飛行中に突然機首を大きく引き上げ、

機体そのものを空気ブレーキとして利用して減速する、

コブラ機動。

そして、あるアニメに出てきた、

高空・高速から急降下し、

絶命する限界に到達する直前、

最低高度で引き起こす、

「ペリカン・ダイブ」。

ソフィアもその一連の飛行にかなり夢中になっていて、頬が赤くなっている。

よかった。

俺のせいで、ソフィアが最初に指定していた空中ビークルを操縦できなくなったことへの罪悪感も、少しは軽くなった。

悪かったな。

もう、このF-16VSは完全に操縦できる気がする。

ただ……。

本来のF-16Vと比べるなら、こう言うしかない。

F-16Vは、とにかく慎重に扱って、壊さないようにしなければならない機体だ。

それに対してF-16VSは、

リアル系ゲームの中に突然、スーパー系の機体が出てきたような感覚だ。

推力が強すぎて、自分自身の重力すら無視できる。

剛性と靭性を同時に備え、

高速時の圧力やねじれにも耐えられる。

たぶん俺が初めて出会った、

限界を無視して思い切り操縦できるビークルだ。

テスト終了。

帰りの着陸では、わざと一つ遊んでみた。

急ブレーキからのドリフト。

地面から約1センチほどの高さを、ドリフトするように低空で横滑りしながら着陸する。

F-35の単純な垂直着陸より、こっちのほうが見応えがあると思う。

ソフィアにも体験してもらいたかった。

彼女は、この締め方にかなり満足していた。

ソフィア視点

俺たちは戦闘機を降りると、すぐに水分と電解質を補給した。

今日は本当に、予想外の驚きの連続だった。

最初は、ヘルのせいで当初の計画で操縦する予定だった空中ビークルがなくなり、

アルカディア製のF-16Vに変更されたことに、少し文句を言おうと思っていた。

でも、こう言うと混乱する。

だから、みんなもヘルが付けた新しい名前、

F-16VSを使うことに同意した。

私は自分がテクノロジーオタクだということをよく分かっている。

だけど、このF-16VSという、私たちの技術を使ってリバースエンジニアリングされた再現機体については、

使われている技術がすでに私の知っているものだったから、正直あまり興味がなかった。

それが、ヘルとパートナーとして操縦した瞬間、

私の感情は一変した。

面白すぎる!

私たちが普段使っている空中ビークルや空中戦闘機とは少し違う。

これは、大気中を飛行することに特化した機体だ。

その空力レイアウトも、大気環境を飛ぶためのもの。

私たちの戦闘機との大きな違いは、

おそらく、存在する領域そのものにある。

私たちの戦闘機は推力が非常に十分だった。

だから、製作する段階では空力レイアウトの最適化を考えていなかった。

推力が十分にあって、そのまま宇宙へ行ける。

それなら、なぜ大量の資源を使ってまで、大気圏内での空力限界を追求する必要があるのか?

でも今。

「空力レイアウトを追求する必要はない」という考えは、今日、完全に崩れ去った。

ヘルの操縦技術による部分もある。

でもF-16VSは、

今まで存在していたとは思わなかったほど大きな付加価値があることを証明した。

私たちの技術と組み合わせることで、

大気を支配できる怪物のような戦闘機が生まれた。

アルカディアにとっても。

そして開発科にとっても。

これは予想外の収穫だった。

電解質を補給しているヘルを見ながら、

私は以前、重姫女王に現状を報告した時のことを思い出した。

重姫女王は私に聞いた。

「あなたたちは、ヘルと一緒に暮らす可能性はあると思う?」

私は重姫女王の意味を分かっていた。

厳密な意味では、私たちはすでにヘルと一緒に暮らしている。

でも、重姫女王が言っているのは、

もっと深い意味での話だ。

私は言った。

「私たちの中では、セフィが今のところ一番深く入り込んでいます」

「もう、傍から見たらちょっとどうかと思うくらいです」

「可能性があるとすれば……ヘルのほうは……」

「あちらは、今の状態を維持するつもりみたいです」

女王は笑って言った。

「いかにも、あの可愛い重姫らしいですね」

「でも、私はあなたたち三人には、もっと深い関係になってほしいと思っています」

「人類代表である彼と、私たちの間に良い前例ができれば、それは素晴らしい実績になるでしょう」

「寿命については、私たちにとってほとんど問題になりません」

「あなたたちの時間を、それほど奪うこともないでしょう」

「ぜひ考えてみてください」

「種族間の健康に関する問題については、衛生研究科に調査させます」

「もちろん命令ではありません」

「決めるのは、それぞれ本人です」

「何か助けが必要なら、いつでも伝えてくださいね~」

命令はしない。

現場の判断に任せる。

うちの女王は、本当に……。

だから私は、ヘルが過去の飛行記録をまとめた報告書を渡してきた時、

あんな攻勢に出た。

おかげで、かなり面白いものも見られたけどね。

そう思っていた時だった。

突然、身体に一瞬、痺れるような感覚が走った。

全身を貫く。

気持ちのいい鳥肌のような感覚。

なるほど。

ビークルに乗っている状態だと、副作用はここまで軽減されるのか。

これは、癖になりそう。

しかも、いつものように、

人前であんな直接的な反応が出ることもない。

それに伴う恥ずかしさもない……。

助かった。

現在、実験は次の段階に入った。

操縦権をソフィアに渡す。

パートナー状態での飛行技術を、ソフィアが再現できるかどうかを見るためだ。

俺はコックピットの横で、心配しながらソフィアに言った。

「本当に大丈夫か? 俺も乗っていたほうがいいんじゃないか?」

ソフィアは苦笑した。

「それじゃ意味がないよ」

「今回の実験は、パートナーを解除した後、練習によって操縦の熟練度が上がるかどうかを調べるためのものだから」

「君がいると、パートナーのことを意識してしまって、実験に失敗する可能性があるでしょ」

ソフィアの言うことはもっともだ。

俺が接続部分を握っているだけでも、うっかりパートナー状態に入ってしまう可能性がある。

でも……。

「じゃあ、俺を端に置けばいいだろ。触らなければ問題ない」

ソフィアは呆れた顔をした。

「君が使えるシートベルトがないんだよ」

「全部、重姫規格だからね」

「私が適当に飛んだら、君なんてコックピットの中で投げ飛ばされて死んじゃうよ……」

「……この時だけ、なんでそんなに馬鹿になってるの?」

ソフィアの言うことももっともだった。

じゃあ、シートベルトを身体に思いっきり巻きつけたら?

……たぶん、身体が振り回された時に、自分で自分を締め上げる。

……分かった。

認めよう。

俺は心配すると馬鹿になる。

……昔からそうだ。

結局、俺は諦めるしかなかった。

それでも最後まで抵抗して、コックピットの後ろの隅に自分を押し込もうとした。

だが、固定できない。

……馬鹿すぎる。

俺は何をやってるんだ?

ソフィアが一人でF-16VSを操縦して離陸していくのを見ながら、俺は不安な気持ちになっていた。

ん?

「なんでベローナの時は、こんなことにならなかったのか?」だって?

頼む。

水上バイクで、どうやったら大変なことになるんだ?

壊れるとしても、たぶん壊れるのはバイクのほうだ。

こっちは戦闘機なんだぞ……。

俺は展望台から、スクリーンに次々と送られてくるソフィアの飛行記録を見ていた。

そして頭の中で、今の彼女の状態を描いていく。

かなり順調だ。

それに、飛行技術も……

俺の感覚では、七~八割くらいの熟練度がある。

やはり、以前の実験結果と同じだ。

パートナーを解除した後、重姫が再び単独でビークルを操縦すると、

単独での熟練度が上がる。

感覚としては、副操縦士を経験した後に、正操縦士になるようなものか?

隣にいた重姫の研究員が俺を見て言った。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

「何かあった場合はこちらですぐに操縦を引き継いで、遠隔操作で着陸させることもできます」

「それに、私たちのコックピットは独立した脱出装置としてもかなり信頼性があります」

「元のF-16Vにある射出座席のような脱出装置とはまったく違います」

「信頼性はかなり高いですよ」

重姫の研究員の説明を聞いて、

俺は少しだけ安心した。

そう。

ほんの少しだけ。

たぶん今日は、ソフィアが何度もDeath flagを立て続けたせいで、俺が落ち着かなくなっているんだろう。

俺には不安薬の補充が必要だ。

あの味が懐かしいな……。

……よし。

俺は病気だ。

「不明な活動を検知! 開発部浮遊プラットフォーム、沖合!」

突然、研究員の重姫がスクリーンに現れた赤い点を見て、警告を発した。

スクリーンの地図には、

ソフィアが乗っているF-16VSと、開発部の浮遊プラットフォームの外側、

海上に不明物体を示す赤いマークが表示されていた。

研究員の重姫たちは警戒を強め、それぞれの作業台を操作しながら、自分たちの担当を口にしていく。

「空中自律機を現場に放って観測します」

「生体反応ではないことを確認」

「規模は宇宙艦クラスと判断」

「既知の軍艦型との照合を開始します」

すごいな。

軍事部隊じゃないのに、臨機応変の対応能力がかなり高い。

すぐに臨戦態勢へ移行した。

作業台を操作していた重姫の一人が言った。

「空中自律機、現場に到着。映像をメインスクリーンへ送ります」

メインスクリーンに映し出された映像を見て、

俺には見覚えがあった。

以前、未知の宇宙船を持ち去ろうとしていた、

クロノスの宇宙戦艦の型だ。

少し古びていて、変な落書きまでされている。

だが、間違いない。

あのビークルを俺が見間違えるはずがない。

隣にいた重姫の研究員が疑問を口にした。

「クロノスの宇宙戦艦……? でも、どうして?」

「どうしてあんなところにいるの? それに、あの変な落書き……」

その時、

聞き覚えのある声が横から聞こえてきた。

「偽装だよ」

「万が一発見された時には、紛失した宇宙戦艦を海賊が使っている、と言い訳できるようにしてある」

「ここにいる理由は……たぶん、以前、大量に侵入して未知の宇宙船を強奪していった連中の残党が、そのままアルカディアに隠れていたんじゃないかな」

「帰る機会を待って、その時にお土産でも持って帰るつもりなんだろうね」

そう言ったのは、

いつの間にか現場に来ていたベローナだった。

俺はベローナを見て、疑問を口にした。

「お前……」

ベローナは眉をひそめて言った。

「恥ずかしすぎる……」

「ちゃんと給料をもらって仕事をしてるのに、家に引きこもってるなんて……」

「……もっと恥ずかしい」

ぷっ。

……まあ、今はそれを言ってる場合じゃない。

ベローナがいるなら。

俺は、どうやら責任者らしい重姫の研究員に聞いた。

「余っている空中ビークルはあるか?」

「ここには、まだ実験中のものとか、もう使えるものがあるんだろ?」

そうだ。

ベローナと一緒なら、俺は……。

「What the hell……」

俺の目の前にあった機体は、

ありえないほど小さかった。

俺とベローナは格納庫の隅へ向かった。

そこには、使われていない戦闘機が一機置かれていた。

誰にも操縦できない機体らしい……。

そりゃ誰にも操縦できないだろ……。

……いや。

今回のは違う。

小さすぎる。

小さすぎて、ベローナが乗ることすらできない。

だが、かけられていたシートをめくると……。

そこにあったのは……。

F-16VS。

等倍サイズ。

つまり――

地球の通常サイズのF-16VSだ。

隣にいた重姫の研究員が言った。

「実は、最初にこっちの機体を作っていたんです」

「0号機です」

「実験ですから、試作としてまずは元のサイズのまま作って、そこから改造実験をしました」

「結果が予想以上に良かったので、そのまま私たちのサイズの機体も作ったんです」

「どうせ開発用ですから、帳簿には細かく書くのも面倒で……」

……よく開発科、解散させられなかったな。

もしかして、才能がありすぎるから解散させにくいのか?

俺は喜ぶべきなのか。

それとも、恥ずかしがるべきなのか。

まあ、俺は嬉しい。

だって、俺専用の機体ができたんだから。

……でも。

連れてこられたベローナの出番がなくなった。

気まずい……。

いや!

ここは奇跡を作る開発科だ。

俺は重姫の研究員に聞いた。

「武器は?」

「ここには、開発中の武器とか、使えるものはないのか?」

研究員の重姫は笑って言った。

「多すぎますよ」

「まだテストしてくれる重姫が見つかっていないものが、たくさんありますから~」

そして、俺たちはベローナを見る。

ベローナは驚いて、小さな声で言った。

「もしよければ、私に任せてください……」

「……なんだか、すごく危険らしいですけど」

今、ベローナが何か文句を言ったような気がする。

……気のせいだよな?

ソフィア視点

最初から、Death flagなんて何度も立てなきゃよかった!

私は今、敵の戦闘機に追われている。

ヘルとパートナーになった時の操縦感覚が、まだ身体の中に残っていなかったら、

私はとっくに蜂の巣にされて、捕まっていただろう。

たぶん、残っているのは操縦感覚だけじゃない。

ヘルが下すかもしれない判断まで、再現できる。

私が操縦すればするほど、

その操縦感覚と技術がどんどん熟練して、

私自身の技術になっていく。

まるで学習加速装置。

ビークル限定。

ふざけないでよ!

さっきヘルとパートナーで操縦した時、

攻撃に関することなんて何もテストしてないんだよ!

反撃しようとする。

でも、頭の中が真っ白になる。

これが問題だ。

パートナー状態で実際に経験していない部分は、完全には応用できない。

よし。

分かった。

でも、

今じゃない!

アルカディア製F-16VSの優れた大気圏内性能のおかげで、ソフィアはなんとか逃げ続けていた。

ヘルから教わった操縦技術を使い、敵の攻撃をかわしていく。

だが、開発科も状況が悪いことは分かっていた。

緊急支援を要請する。

味方の戦闘機が到着するまで、あと15分。

しかし、それまで持ちこたえられるかは分からない。

敵もソフィアの飛行パターンに適応し始めていた。

5対1。

最悪の場合、脱出することになる。

機体を鹵獲される可能性もある。

独立したコックピットだけを捕獲される可能性もある。

プラズマ砲がコックピットに直撃する可能性もある。

電子戦装置もない。

もし電子戦装置があれば、敵をハッキングして味方にできるのに。

そう思った時だった。

敵機に包囲されかけている。

いや。

これは包囲ではない。

追い込まれている。

敵機はソフィアを、ある方向へと誘導していた。

その先にあるのは――宇宙戦艦。

ソフィアは気づいた。

自分は宇宙戦艦の射線上へと追い込まれている。

紫がかった青い光が、コックピットへ向けられる。

プラズマ砲。

「……っ!」

その瞬間だった。

F-16VSの前を、黒い影が横切った。

そして、紫がかった青いプラズマを連続して撃ち出す。

宇宙戦艦の強力なプラズマ砲と、黒い機体の連続プラズマ砲。

二つの攻撃がぶつかり合う。

巨大なプラズマ爆発が起こった。

宇宙戦艦の砲撃が崩れ、消えていく。

黒い影も攻撃を受けた。

だが、まだ飛べる。

「……この機体……」

ソフィアは、その姿を見ていた。

通常サイズのF-16VS。

そして、この機体を操縦できる人間は一人しかいない。

「ヘル……?」

――ヘル視点――

挿絵(By みてみん)

ソフィアが宇宙戦艦の射線へ追い込まれている。

それを見た瞬間、頭の中が冷えていった。

新しく名前を付けたF-16VSSを操縦する。

フルスロットル。

ソフィアの周囲を回り、そのまま敵の射線へ入る。

そして、ソフィアへの攻撃を遮りながら、敵の光線へ向けてプラズマ砲を撃った。

プラズマ砲同士は相殺しない。

爆発する。

至近距離で受けた爆発により、F-16VSSも損傷した。

スーパー系のような機体でも、ダメージは受ける。

「……っ!」

衝撃。

電気が弾ける。

フルスロットルで飛び続けていたリズムが崩れた。

すぐに耐G呼吸を行う。

筋肉を収縮させ、血圧を維持する。

ブラックアウトを抑え、意識を戻す。

「……まだいける」

F-16VSS。

F-16VSよりも、むしろこちらのほうが恐ろしい。

小さい。

だからこそ、無茶ができる。

ただし、フルスロットルを何度も使うことはできない。

機体を調整する。

そして急速にロールして旋回。

敵戦闘機へプラズマ砲を撃ち込む。

一機。

二機。

追ってきていた敵戦闘機を撃墜する。

残りは三機。

追いかける。

敵は編隊を組んでいる。

中央の機体。

動きが読みやすい。

「そこだ」

撃墜。

残り二機。

一番近い機体は無視する。

そのまま、宇宙戦艦へ逃げようとしている機体へ向かう。

スロットルを上げる。

予測した限界値。

まだ許容範囲内。

宇宙戦艦から援護射撃が飛んでくる。

軌道を読む。

「そこ!」

撃墜。

「問題ない」

ベローナから通信が入った。

残り一機。

だが、ヘルはその機体を無視した。

宇宙戦艦へ機首を向ける。

宇宙戦艦が上昇する。

逃げようとしている。

艦からの砲撃が飛んでくる。

しかし、その軌道は読みやすい。

まるで人混みの中をバイクで走るようなものだった。

その時、ソフィアから通信が入る。

『ヘル、追尾されてる!』

ヘルが見た。

先ほど無視した敵機が、戻ってきていた。

そして、F-16VSSの後ろについている。

「……しつこいな」

遠くから、紫がかった青い光が飛んできた。

黄色い粒子をまとった光線が、ヘルの後ろにいた敵機を貫く。

『Target down』

「……」

ヘルは、思わず笑いそうになった。

「覚えるのが早いな」

開発科が用意した武器。

長距離地対空プラズマ砲。

狙撃用のプラズマ砲だった。

「砲身が破裂しなければいいが……」

そう思いながら、宇宙戦艦へ向けて攻撃する。

敵艦の重要な飛行装置を狙う。

プラズマ砲を撃つ。

いくつかの砲塔を破壊する。

レーダーを破壊する。

砲塔を破壊する。

外部エネルギー装置を破壊する。

そして飛行装置を破壊する。

宇宙戦艦から、何かが発射された。

信号弾のようなものだった。

地球でいう降伏信号なのかもしれない。

だが、宇宙戦艦はまだ上昇を続けている。

「……」

ヘルは信号弾の発射装置も破壊した。

宇宙戦艦は、もはや何もできない。

すべての砲塔を破壊され、飛行装置もほとんど機能していない。

屠られる羊のようだった。

「……管制塔か艦橋はないのか?」

もし見つけていたら、それも破壊していただろう。

そして、最後の一撃を加えようとした。

その時。

『もういい。敵は完全に降伏した。このままだと戦時法に違反する。だからヘル、もう止めて』

ソフィアからの通信だった。

ヘルはF-16VSSの砲口を宇宙戦艦へ向けたまま、周囲を旋回する。

そして敵艦を確認する。

「俺はここの軍人じゃない……」

『ヘル!』

ソフィアの声が響く。

「確認する。怪我はないか?」

少しの間。

そして、ソフィアが答えた。

『大丈夫。ただ、ちょっと緊張しただけ』

ヘルは息を吐いた。

遠くから味方の戦闘機が近づいてくる。

「そうか……疲れた。家に帰りたい」

――ソフィア視点――

ソフィアは、眠っているヘルを抱えていた。

ヘルは「ランラン猫」外骨格を身につけたまま眠っている。

この男が、さっきまでF-16VSSを操縦していた。

そして、宇宙戦艦を撃破し、一個編隊の戦闘機まで撃墜した。

そんなことをしたとは、とても思えない。

しかも、自分を助けるために。

プラズマ砲とプラズマ砲をぶつけるなんて。

どうなるか分からなかったはずなのに。

それでも、ヘルはやった。

「……怖い」

ソフィアはそう思った。

自分が大切に思っている相手のためなら、簡単に自分を射線の中へ置いてしまう。

しかも、冷静だった。

一歩間違えれば、戦争犯罪者になりかねないほどに。

だが、ヘルはちゃんと手加減していた。

敵戦闘機のパイロット5人は捕虜になった。

宇宙戦艦も、ヘルがしたのはすべての武装を奪っただけだった。

それでも分かる。

必要なら、彼は人を殺す。

軍人として考えているわけではない。

極端なのだ。

何もかも。

それなのに。

「……」

ソフィアは眠っているヘルを見る。

どうしようもない。

それでも、手放したくない。

そんな気持ちが、止まらなかった。

大破したF-16VSSから降りてきたヘル。

水分も失い、足元もふらついていた。

抵抗による疲労で、身体も限界だった。

その時の彼は、とても小さく、脆く見えた。

さっきまで巨大な機体を操縦していた人間とは思えない。

「本当に、どうしようもない……」

ソフィアは思った。

おかげで、もう彼を任務の対象としてだけ見ることができなくなってしまった……。


PS ベローナ視点

いったい、これで何本目の武器なんだろう……。

事が終わった後……

私は開発科に付き合って、残りの武器の試験をしていた……。

どれもプラズマ兵器で、しかも試作品。

残留したプラズマによるオゾン臭と、静電気でピリピリする感覚が、もう不快になるくらい溜まっている。

廃棄・回収される場所には、もう小さな山ができそうなくらい銃が積まれている。

それなのに、次から次へと運ばれてくる武器。

珍しく、私はイライラしていた。

ヘル~、ソフィア~。

どうして早く迎えに来てくれないのよ~。



挿絵(By みてみん)

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