第92話 悪役令嬢の敗北
王都の夕暮れ、宮殿の広間を後にした私は、足早に自室へと戻った。
胸の奥が、熱く、そして悔しさで張り裂けそうだ。
――なぜ、私が選ばれなかったの?
私はメアリー・スー、筆頭公爵の娘。選ばれし者、神に選ばれた存在。十三年の人生の中で、私は何度も「特別であること」を証明してきた。
だというのに、あの王太子――あの十三歳の皇子に、私は婚約者として認められなかった。
「信じられない……どうして……!」
机に拳を打ちつけ、胸の中のもどかしさをぶつける。
私はこれまで、知識も戦略も全てを駆使して、周囲を圧倒してきた。
学び、策を巡らし、誰よりも完璧に振る舞った。
なのに――たった一度の茶会で、私の存在は、あっさりと皇子の判断から弾き出されたのだ。
鏡の前に立つ。
自分の顔を見つめると、怒りと悔しさが入り混じる。
そう、私は神に選ばれた特別な存在。
だが、それを皇子に認めさせることができなかった……。
私は深呼吸して、頭を整理する。
今回の敗北は痛い。だが、ここで折れるわけにはいかない。
私は自己中心的で、選ばれし存在――その事実を誰よりも強く信じている。
(次は、必ず取り返す……!)
思考はすぐに次の策に向かう。
まずは帝都商会での影響力を誇示し、北方領の動きを察知する。そして……皇子にもう一度注目させる。
頭の中で、商会経営の戦略を何度もシミュレーションする。
「私は、完璧に振る舞う。誰よりも目立ち、誰よりも利益を上げる。皇子の目は必ず私に向く……!」
しかし、現実はあまりにも痛い。
ヒロインのリリアも、皇子に媚びる計算高い態度を見せたのに、あの冷静な判断には逆らえなかった。
それでも私は諦めない。
この敗北は、単なる一時の出来事に過ぎないのだ。
部屋の窓から、王都の街並みを眺める。
夕陽に照らされた宮殿の塔、商人たちの賑わい、人々の生活の光景――
全てが私の次の策の舞台だ。
(北方領か……レスティーナの動きはどうなっているのかしら?)
情報操作も欠かせない。転生者として、私は自分の力を最大限に発揮する。
街の噂、商会の影響力、人々の心の動き――全てを手中に収めれば、皇子の注目は逃さない。
私は再び机に向かい、紙と筆を取り出す。
敗北の原因、失敗した振る舞い、そして次の戦略を書き連ねる。
自己中心的な性格ゆえに、思考は止まらない。
すべては自分のため、すべては私が特別であることを証明するためだ。
「次は、絶対に……!」
私の声は小さく震える。だが、その瞳は決意に満ちている。
たとえ皇子が私に興味を示さなかったとしても、私は自分の力で舞台の中心に戻る。
この世界は私のためにある。私は神に選ばれた特別な存在なのだから――。
窓の外に広がる王都の街を見つめながら、私は次の一手を思案する。
商会の再編、帝都での影響力拡大、北方領の動向を探る情報網の構築……
どれも、皇子に再び目を向けさせるための手段だ。
そして、私の中で一つの結論が固まる。
――今回の敗北は、単なる序章に過ぎない。
私は必ず、誰よりも光り輝く特別な存在として、この世界の舞台に戻ってみせる。




