第91話 王太子お茶会
王都の春は、花の香と煌びやかな建物の光に満ちていた。
宮殿の広間では、王太子の婚約者候補として令嬢たちが集められている。
大理石の床に反射するシャンデリアの光、金の装飾に囲まれた少女たちは、華やかさを競うように振る舞っていた。
私は窓際から静かにその様子を見つめる。レスティーナ・フォン・グランテ――北方領の再建を任された子爵であり、このお茶会に呼ばれたのは義理のようなものだ。皇子に恋心はないし、婚約者に選ばれたいとも思わない。
「……本当に、こういう場は疲れるわ」
隣でエルガルトが苦笑する。
「領主様、お気持ちはわかります。しかし観察するだけでも学びは多いでしょう」
私は肩をすくめて深呼吸。
皇子の婚約者選定の場――令嬢たちにとっては、未来を賭けた戦場である。
その中でひときわ異彩を放っている少女がいた。
筆頭公爵の娘、メアリー・スー――頭の回転は速いが、自己中心的で気位が高く、常に自分は「神に選ばれた特別な存在」だと思っている転生者だ。
彼女は堂々と胸を張り、笑顔を振りまく。
だが、その笑顔の奥には、誰よりも優れている自分を誇示する気持ちしか見えない。
他者を思いやる余裕はなく、周囲の令嬢たちの視線や反応も、自分を称賛するための道具でしかない。
「やはり……自己顕示の塊ね」
私は小さくつぶやき、ティーカップを手に取りながら彼女の動きを観察する。
悪役令嬢は、他者の話を遮り、自己中心的に自分の能力や家柄を誇示する。
だが、皇子の冷静な目には、そんな行為はすべて丸見えで、逆効果でしかない。
皇子は十三歳ながら、王太子としての眼差しで少女たちを見定める。
誰が婚約者にふさわしいか――いや、誰がふさわしくないか、瞬時に判断しているのだ。
悪役令嬢は自分を特別だと思い込み、神に選ばれたかのように振る舞う。
その気位の高さは、周囲の令嬢に微妙な圧力を与えるかもしれない。
しかし、皇子にとっては、ただの自己顕示にすぎない。
式の進行が進む中、私は静かに考える。
この少女の自己中心的な性格、周囲を支配しようとする姿勢……北方領での都市運営に応用できる心理の読みとして参考になる。
そして式の終盤、皇子はすべての候補者を見渡し、頭の中で評価を整理する。
悪役令嬢の選民意識も、自己顕示も、ヒロインの計算高さもすべて丸裸だ。
「……今回は、婚約者を選びません」
静かに告げられた言葉に、広間は一瞬で凍りついた。
悪役令嬢は目を見開き、口を開くも言葉にならず、顔を真っ赤にしている。
自分が特別だと信じ、神に選ばれたと思っていた少女は、皇子の判断に完全に敗北したのだ。
ヒロインもまた、予想外の結末に肩を落とす。
私は静かに微笑むだけ。
皇子に恋愛感情はない。だが良き主君としての目は学びになる。
人の心理や駆け引きを理解することは、都市運営や商会戦略に活かせる。
式が終わると、皇子は静かに退場した。
少女たちは落胆し、親たちは慌てて顔を整える。
悪役令嬢の顔は、自己顕示の後の無力さに引きつったままだ。
外に出ると、王都の春風が頬を撫でる。
花の香、商人たちの声、城門の賑わい――その全てが都市の活力を象徴している。
私は微笑み、頭の中で北方領の施策を考え始める。
(次の商業施設の拡張は……物流の改善は……)
皇子への感情は一切ない。
ただ、良き主君としての目と、都市運営の学びを最大限に活かす――それが私の行動原理だ。
悪役令嬢の敗北も、ヒロインの焦りも、すべて北方領や商会戦略の参考材料。
王都の街並みを眺めながら、私は再び誓った。
「北方領の都市を、さらに発展させる――!」




