表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/108

第32話 幼き王子との出会い

 皇帝との謁見を終えたレスティーナは、宮殿の長い廊下を歩いていた。


 大理石の床は磨き上げられ、窓から差し込む光が白く反射している。壁には帝国の歴代皇帝の肖像画が並び、静かな威圧感が廊下全体に漂っていた。


 エルガルトが少し後ろを歩きながら小声で言った。


「それにしても……」


「何?」


「北方領の再建ですか」


 レスティーナは軽く肩をすくめた。


「難題ね」


「難題どころではありません」


 エルガルトは苦笑する。


「北方は数年前の反乱と飢饉で荒廃した土地です」


「知ってる」


「農民も少なく、貴族も逃げ出した領地です」


「だから皇帝は私に命じたんでしょう」


 レスティーナは淡々と言った。


「逃亡農奴を受け入れる私なら、何とかできるかもしれないって」


 エルガルトは腕を組んだ。


「……試されていますね」


「ええ」


 レスティーナは笑った。


「面白いじゃない」


 その時だった。


 廊下の向こうから、軽い足音が聞こえてきた。


 複数人。


 だが騎士の重い足音ではない。


 子供の歩く音だ。


 角を曲がって現れたのは、小さな一団だった。


 先頭にいるのは――


 一人の少年。


 年齢は十歳ほど。


 背筋をまっすぐに伸ばし、堂々と歩いている。


 金色の髪。


 澄んだ青い瞳。


 整った顔立ち。


 その後ろには、近衛騎士が数人控えていた。


 エルガルトが小さく息を呑む。


「……殿下」


 レスティーナはすぐ理解した。


 皇族。


 しかも近衛騎士が護衛している。


 ただの皇族ではない。


 少年はレスティーナたちの前で足を止めた。


 青い瞳が真っ直ぐこちらを見る。


 そしてはっきりした声で言った。


「お前がレスティーナか」


 レスティーナは軽く礼をした。


「はい」


「辺境領主レスティーナです」


 少年は腕を組んだ。


 背丈はまだ低いが、その仕草にはどこか王族らしい威厳があった。


「私はアルヴェルト」


 短く名乗る。


「帝国第一王子だ」


 やはり――。


 レスティーナは心の中で思った。


(この子が)


 第一王子アルヴェルト。


 皇帝の長男。


 皇位継承者。


 そして――


 レスティーナの前世の記憶にある「物語」の重要人物。


 アルヴェルトはレスティーナをじっと見ていた。


「父上が言っていた」


「妙な領主が来た、と」


 レスティーナは思わず笑った。


「否定はできません」


 アルヴェルトは少し眉をひそめた。


「笑うのか?」


「はい」


「普通は怒るだろう」


「本当のことですから」


 その返事に、アルヴェルトは少し考えるような顔をした。


 十歳の少年だが、その瞳には年齢以上の聡明さがあった。


「逃亡農奴を受け入れているそうだな」


「ええ」


「なぜだ」


 レスティーナは少しだけ考えた。


 だが答えは簡単だった。


「働く人が欲しいから」


 アルヴェルトは瞬きをした。


「それだけか?」


「それだけです」


 レスティーナは続けた。


「土地が余っている」


「働く人がいない」


「だから来てもらう」


 アルヴェルトは腕を組んだまま考え込んだ。


「……合理的だ」


 小さく呟く。


 エルガルトは少し驚いた顔をしていた。


 王子が真面目に考えている。


 アルヴェルトは顔を上げた。


「北方領の再建を命じられたらしいな」


「はい」


「難しいぞ」


 レスティーナは笑った。


「簡単な仕事なら、私じゃなくてもできます」


 アルヴェルトは少しだけ口元を上げた。


「面白いことを言う」


 そして突然聞いた。


「お前は何歳だ?」


「十歳です」


 アルヴェルトの目が少し驚いたように見開かれた。


「……同じか」


「殿下も?」


「十歳だ」


 レスティーナは少し笑った。


「それは偶然ですね」


 アルヴェルトはしばらくレスティーナを見ていた。


 やがて言う。


「レスティーナ」


「はい」


「北方領を再建してみろ」


 まるで挑戦するような口調だった。


 レスティーナは平然と答えた。


「やります」


 アルヴェルトは頷いた。


「成功したら」


 少し考えてから言う。


「私が見に行く」


 レスティーナは少し驚いた。


「視察ですか?」


「そうだ」


 アルヴェルトは真剣な顔で言った。


「自分の目で見たい」


「何を?」


「お前のやり方を」


 レスティーナは小さく笑った。


「歓迎します」


 アルヴェルトは満足そうに頷いた。


 そして踵を返す。


「行くぞ」


 後ろの近衛騎士たちがすぐに続いた。


 少年の小さな背中は、廊下の向こうへ消えていく。


 静かになった廊下で、エルガルトが息を吐いた。


「……驚きました」


「何が?」


「第一王子が、あんなに長く話すなんて」


 レスティーナは窓の外を見た。


 帝都の空が広がっている。


(第一王子アルヴェルト)


 まだ十歳の少年。


 だが将来、帝国の頂点に立つ人物。


 そして――


 前世の記憶では「物語の中心人物」。


 レスティーナは小さく笑った。


(面白くなってきた)


 皇帝の任務。


 北方領の再建。


 そして幼い王子との出会い。


 この小さな邂逅が、やがて帝国の歴史を大きく動かすことになるとは――


 この時、まだ誰も知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ