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n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


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第30話 帝都前夜

 レスティーナの一行が帝都へ向けて旅立ってから、すでに二十日以上が過ぎていた。


 最初の頃は平原と農村が続いていた街道も、日が経つにつれて様子が変わっていった。


 街道は次第に広くなり、石畳も整備されている。


 宿場町は大きくなり、人の数も増えた。


 商人の馬車、貴族の護衛隊、巡回兵。


 帝国の中心に近づいている証だった。


 夕暮れ時。


 レスティーナの馬車は丘の上の街道をゆっくりと進んでいた。


 その時だった。


「……見えてきました」


 御者の声が聞こえた。


 レスティーナは馬車の窓を開けた。


 遠くの地平線。


 そこに――


 巨大な都市が広がっていた。


 帝都。


 帝国の中心。


 広大な城壁が都市を囲み、その中央には白い宮殿がそびえている。


 塔がいくつも空へ伸び、夕日の光を受けて黄金色に輝いていた。


 レスティーナは小さく息を吐いた。


「……大きいわね」


 隣に座るエルガルトも窓から外を見た。


「さすが帝都です」


 街道には人の列が続いていた。


 商人、旅人、兵士、巡礼者。


 あらゆる人間が帝都へ向かっている。


 レスティーナの一行は、その流れに加わる形で進んだ。


 やがて巨大な城門が見えてくる。


 帝都の外門だ。


 高さは城館の塔ほどもあり、分厚い鉄の門が据え付けられている。


 門の前には長い列ができていた。


 入都の審査を受けるためだ。


 レスティーナの馬車が近づくと、帝国兵が手を上げた。


「止まれ!」


 騎士が前に出る。


「帝国皇帝の勅命による入都だ」


 騎士は巻物を見せた。


 兵士はそれを確認すると、驚いた顔になった。


「……勅命?」


 すぐに姿勢を正す。


「失礼しました!」


 門番たちは慌てて道を開けた。


「お通りください!」


 巨大な門がゆっくりと開く。


 レスティーナの馬車は帝都へ入った。


 そして――


 レスティーナは驚いた。


「……すごい」


 帝都の中は、まるで別世界だった。


 広い石畳の通り。


 三階、四階建ての建物。


 商店の看板。


 露店。


 香辛料の匂い。


 焼き肉の煙。


 人、人、人。


 数えきれないほどの人々が行き交っていた。


 馬車の数も多い。


 貴族の豪華な馬車。


 商人の荷馬車。


 兵士の隊列。


 まさに帝国の中心だった。


 エルガルトが感心した声を出す。


「人口は百万を超えると言われています」


「百万……」


 レスティーナは思わず笑った。


「私の領地の何十倍かしら」


 馬車は大通りを進んだ。


 やがて帝都の中心区へ入る。


 そこはさらに豪華だった。


 石造りの屋敷。


 庭園。


 噴水。


 貴族たちの馬車が次々と通り過ぎる。


 そして――


 大きな建物の前で馬車が止まった。


 白い石造りの館。


 皇帝の紋章が掲げられている。


 御者が言った。


「帝国宮廷の客館です」


 レスティーナは馬車から降りた。


 すぐに扉が開き、宮廷役人が出てくる。


 豪華な衣装を着た中年の男だった。


 男は深く頭を下げた。


「お待ちしておりました」


「あなたは?」


「宮廷書記官、アドルフと申します」


 彼は丁寧に礼をした。


「皇帝陛下の勅命により、あなたをこの客館へお通しするよう命じられております」


 レスティーナは頷いた。


「ありがとう」


「長旅でお疲れでしょう」


 アドルフは微笑む。


「今日はゆっくりお休みください」


「……今日は?」


「はい」


 アドルフは静かに言った。


「謁見は明日です」


 レスティーナの目がわずかに細くなる。


 いよいよだ。


 帝国皇帝との対面。


 帝国の頂点。


 この世界で最も権力を持つ人物。


 アドルフは続けた。


「明日の朝、宮殿へご案内いたします」


「わかったわ」


 レスティーナは客館の中へ入った。


 中は驚くほど豪華だった。


 赤い絨毯。


 大理石の柱。


 金の装飾。


 部屋は城館の貴賓室より広い。


 エルガルトが感心したように言った。


「さすが帝都ですね」


「そうね」


 レスティーナは椅子に座った。


 長旅の疲れが少し出てくる。


 だが心は落ち着いていた。


 その時だった。


 扉がノックされた。


「誰?」


「宮廷書記官アドルフです」


「どうぞ」


 扉が開く。


 アドルフが一枚の書類を持って入ってきた。


「これは?」


「明日の謁見の手順です」


 レスティーナはそれを受け取った。


 紙には細かい注意事項が書かれている。


 礼の角度。


 発言の順序。


 立つ位置。


 レスティーナは苦笑した。


「ずいぶん細かいのね」


「宮廷ですから」


 アドルフは少し声を潜めた。


「それと……」


「何?」


「あなたに会いたがっている貴族が何人もいます」


 レスティーナの眉が上がる。


「もう?」


「あなたの噂は帝都中に広まっています」


 アドルフは少し困った顔をした。


「逃亡農奴を受け入れる領主」


「新しい農業制度」


「急成長する辺境領」


「……かなり話題です」


 レスティーナは笑った。


「悪い意味で?」


「半々でしょう」


 アドルフは正直に答えた。


「あなたを危険視する貴族もいます」


「でしょうね」


「ですが」


 アドルフは続ける。


「興味を持つ者も多い」


 レスティーナは窓の外を見た。


 夜の帝都。


 無数の灯りが輝いている。


 巨大な都市。


 巨大な権力。


 そして――


 巨大な欲望。


 レスティーナは静かに思った。


(ここが帝国の中心)


 この場所で。


 明日。


 皇帝と会う。


 そして――


 この領地の未来が決まる。


 レスティーナはゆっくり立ち上がった。


「エルガルト」


「はい」


「明日は忙しくなるわ」


「間違いなく」


 レスティーナは小さく笑った。


「面白くなってきたわね」


 帝都の夜空には、満月が浮かんでいた。


 そしてその月の下で。


 帝国の運命を揺るがす会談が、静かに近づいていた。


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