第七十一話 学園祭一日目:仲間意識
買ってきた食べ物を食べ終え移動することになった。理事長は普通にフランクフルトを食べていたので安心した。桜が祭りの時にやってた食べ方をしたらここにいる生徒が理事長に襲い掛かってもおかしくない。
時間は午前十一時、三十分前には準備に行きたいから一時間半はまだ遊べる。次はどこに行こうかとパンフレットを取り出し三人で確認する。
「お嬢様、行きたい場所はありますか?」
「そうじゃの……桜、お主は他校の生徒じゃ、何か行ってみたい場所はあるかの?」
いきなり話を振られて焦る桜。ここ最近は焦っているところもよく見るようになったがやはりこの子はかわいい。パンフレットに目を通しながらあわわとかわいい声をあげる。
「えーっと……それじゃ、体育館でやってる劇を見ましょう」
「よろしい。では参るぞ」
体育館だとこのあとの移動も楽になるので個人的にはすごく助かる。二人は小柄だからできるだけ前のほうで見てもらいたいのだが、席はまだ空いているだろうか?
「のう、貴様が踊るダンスはどんなものじゃ?」
移動中、理事長が質問してきた。ダンス部の活動がわからないことはないはずなのが、今回踊るのはフリースタイル。桜にもそのことは話していないので詳しく話すとしよう。
「私は普段はブレイクダンスを踊っています。それは桜も知ってると思うけど今日はフリースタイルを踊ります」
フリースタイルと聞いて二人が首を傾げる。二人が知っているのは有名である三つのジャンルのようだ。二人にフリースタイルの説明をする。それでもわかっていなさそうだったので見ればわかりますと伝え体育館に入った。
この時間から十二時までは劇の時間で十二時からはバンド部の演奏があるようだ。ちょうど劇が終わったところで次の出し物の為にステージを準備している。
前の席へと向かうとちょうど三人分空いている席があったのでそこに腰掛けることにする。
「あれ? 桜ちゃん?」
後ろの席から桜が声を掛けられたので振り返ると三角帽子を被った魔女……のコスプレをした詩織ちゃんがいた。この格好からするにバンド部の演奏は以前にクラブハウスでやったものだろう。
「桜ちゃん来てたんだー! 何で理事長と一緒にいるの? それにこのイケメン……遼君!?」
どうやら詩織ちゃんは俺の事をすぐには分からなかったようだ。イケメンなんて詩織ちゃんから言われるとは思っていなかったよ。
「私はたまたまさっき遼と会ったから二人と合流したのよ」
「二人ってことは遼君と理事長?」
どういう組み合わせだって顔をしているので説明する必要がありそうだが、理事長がニヤニヤしているのが気になる。
「お主、我と仲間よの」
「え? 理事長どういうことですか?」
理事長の目線は詩織ちゃんの、女の子にはあるはずで詩織ちゃんには無い部分を凝視している。先ほどの桜とのやりとりを思い出し理事長の言いたいことが分かってしまう。
「お嬢様は詩織ちゃんも小柄で貧乳と言うことに仲間意識を持っているんだよ」
「さすがじゃな。その通りじゃ。貴様、我に喧嘩売っているのか?」
なぜそうなる。俺は理事長の言葉を代弁しただけだ。詩織ちゃんには伝わっていなかったし正確に物事を伝えるためには必要なことではないか。
「失礼しましたお嬢様。差し出がましいことを口走ったことをお詫び致します」
「そういう無駄な口は初にそっくりじゃの。よい、許すのじゃ」
「ねえ遼君、さっきから理事長のことお嬢様って読んでるけど見た目だけでなくほんとに執事になったの?」
「そうじゃぞ。こやつは我の執事じゃ。学園にいる間は我に従事してもらう」
詩織ちゃんが俺に対して憧れの目線を投げかける。理事長の人気はとんでもないな。おそらく理事長につっかかれるのは姉さんと桜ぐらいだろう。
「それで女の子二人を侍らせているわけね。花ちゃんは?」
「花は教室でメイドの仕事をしているはずだよ」
詩織ちゃんはそれを聞いて苦笑いを浮かべる。女の子の最強の武器と最強の防具を備えた花の姿を思い浮かべたのだろう。
「あー、花ちゃんのメイド姿は人気そうだねー。ライブが終わったら一成君と行ってみるよ」
「遼のダンスは見ていかないの?」
「遼君何時からなの?」
ダンス部は一時から三十分だと伝えるとスマホを取り出しておそらく一成に連絡しているのだろう。しばらくしてメッセージが帰ってきたのかスマホをしまいそれまでは見るから一緒にメイド喫茶に行こうと言った。
「ふふふ、なんだかRPGのパーティみたいにメンバーが集まるの。リーダーはもちろん我じゃ」
なんだよそれ。今日は姉さんと藍も来るそうだから合流するとほんとに大人数での進行になってしまうぞ。できるだけ目立ちたくないのだが、この格好に理事長が付いているとなると嫌でも目立つ。
「詩織、その格好ってことはあの時と同じ曲なの?」
「そうだよ。あの時できなかったもう一曲も披露するからお楽しみに!」
「その格好からするにお主、宇宙人であるな?」
理事長知っているんだ。気になったので聞いてみるとアニメは日本の文化なのじゃと言うことだ。確かにそうだが、こんな口調の人がアニメを見るとは思わなかった。
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四人でそんな会話をいているとステージの準備が終わったようで、これから劇が始まるようだ。"現代版桃太郎"というタイトルの劇のようだ。童話の話をいかに現代風にしたか気になる。
桃太郎は孤児で拾われた設定で、悪いのは村の村長で、犬、猿、キジの変わりに仲間になるのが、空手家とボクサーと自衛隊員と最後のはかなりふざけていると思った。村長ごときが勝てるわけないと思ってたら案の定ボコボコにされていた。
確かに現代版だが夢も希望もない話だった。自衛隊員役の人がすごいノリノリでそれだけがおもしろかった。もしかしたらそこしか狙っていなかったのかもしれない。
「なかなか面白かったの。やはり現実味がある話がよいの」
「失礼ですがお嬢様。自衛隊員が仲間になることは現実からかけ離れていると思われます」
俺のこの意見に対して桜と詩織ちゃんも賛同した。空手家とボクサーはまだいいとして自衛隊員は無理がある。
「理事長、まだ現実味がある話なら自衛隊員よりも初さんですよ」
詩織ちゃんの中では自衛隊員と姉さんのパワーバランスはイコールになっているみたいだ。馬鹿にするわけではないが自衛隊員では姉さんに勝てないと思う。もちろん武器無しの素手だ。
「確かにそうじゃの。あやつはどうなっておるのじゃ? あの美貌で完璧な頭脳と破壊的な力を持っているなぞ人間じゃないのではなのか?」
「確かにうちの姉は人間離れしていますね。私でも人間ではないのかと思うほどに壊れています」
うちの姉はどうやら俺だけではなく他のみんなからも人間扱いされていないようだ。そんなこと知られたらここにいるみんな殺されてしまう。
「初の弱点は無いものかの」
「ありますよ」
完璧ではないのだ。家事なんて全くと言っていいほどできないし、実はかわいい服が好きだし、彼氏のこと大好きだし。
それを伝えると理事長の顔がにやりと笑った。姉さんへの対策が決まったのだろう。
「それじゃあそろそろ時間だから準備してくるね!」
詩織ちゃんが席を立ち持ち場へ向かっていく。ステージでは劇の準備が終わったようだ。この劇が終わったら詩織ちゃんの出番、その後は俺となっている。花も誘えばよかったな。連絡は入れておこう。




