第六十九話 学園祭一日目:借りてもよいかの
理事長はメイド喫茶を堪能しているようだ。開始時間前からいるにも関わらず、すでに一時間以上メイドに囲まれてニヤニヤしている。
花の姿が見えなかったので聞いてみると今の時間は宣伝に行っているそうだ。おっぱいを強調するかのようなメイドが宣伝していたら男性客は間違いなく増えるだろうと予想したのだが、まだ客数は少ない。他のクラスがもっと目の引くことをやっている可能性があるな。
そう考えていると花が戻ってきた。宣伝効果がなかったのか少し困ったような顔をしている。
「戻りましたー。あの、お客様たくさん連れてきたのですが……」
「連れてきた?場所の案内をしてたんじゃないのか?」
「え?それでよかったんですか?」
花が連れてきたと言うのを確認するために廊下に出るとものすごい行列ができていた。目測だが三十人は超えている。こんなに大勢はさすがに入りきらないので、何人かに頼んで整列役と最後尾に立ってもらうことになった。まずはこの列を何とかさばかなければならない。
「客が増えてきたようじゃな。我は他の場所を見てくるとしよう」
理事長が席を立ち教室を出ようとする。メイド達が手を振っているのだが、理事長に対してそんな対応でいいのか疑問しか浮かばない。あんな見た目だがこの学園で一番偉い人なんだぞ。
「そうじゃ。少し物足りぬのでこやつを借りてもよいかの?」
理事長は行列をさばくために奔走していた俺を捕まえ委員長に問いかける。正直今抜けるのは非常にまずい気しかしない。
「理事長ちゃんの頼みなら問題ないよー。瀬戸内さん達も戻ったし篠崎さんが抜けるぐらい頑張れるよ」
「感謝するぞ。また明日も最初の客で来るぞ。ほら貴様、我を案内するのじゃ」
権力恐るべし。学生の出し物よりも自分を優先するとはかなりのわがまま姫だ。それでもこの人には人をひきつける何を持っているからこんなに人気なのだろう。
手を引かれて教室から出る。小さい妹を持ったような感じがするのだが、この人はロリババア、いやババアって歳ではないが年上なのだ。それに学園のトップだ、それなりの対応をしなければならない。
「そうじゃ、貴様は我といるときは執事でいるのじゃ」
「それは学園祭が終わってもってことですか?」
「うむ、我にも有能などうg……もとい秘書がほしいのじゃ」
今道具って言いかけたよね。自分の仕事を押し付ける人がほしいだけだろ。
「俺は学生だから秘書なんてできないですよ?」
「そうじゃったな……。ではたまにでよいので我の暇つぶしに付き合うのじゃ」
「はぁ、それぐらいならいいですよ」
学園の権力者からの願いを断ると今後の学生生活に支障をきたしそうなので受け入れるしかない。そんな頻繁に呼ばれることなんてことはないはずだし特に問題はないだろう。
「それでは我が執事よ。案内頼むのじゃ」
「かしこまりました、お嬢様。私は一時からダンス部の出し物があるのでその時間まででもよろしいですか?」
「かまわんぞ。貴様のダンスも見てやろうではないか」
結局見てくれることになったな。こんな小柄では体育館のステージが見えないのではないのかと考えたが、二階席もあるし権力を使って前に来る事だっておそらく可能だろうと考えた。
小柄と言えば桜も来ると言ってたがダンスをすることどころか大会以来連絡すらとっていない。距離を置くのはもう終わりにしないといけないかな。花と教室で話すこともかなり少なくなってるからな。桜とも会いたいな。
正直に言うと距離を置いたところで何も分からなかった。忙しかったと言うこともあるが、少し寂しいと思ったぐらいで二人のことに関しては特に新たに知ったことはなかった。
「どうかしのたか?」
上を見上げるように理事長から声を掛けられる。上目遣いなんてものはなく、身長差のせいで完全に見上げる形になっている。桜でもこんなに見上げはしない。
「いえ、何でもございません」
「それならよいのじゃが、何か考えておったようじゃったからの」
やはりと言うべきか人の上に立つ物は部下や周りの人に対する変化に敏感だ。理事長なんてやっていると先生方だけでなく学生のそういうところもちゃんと見ているのだろう。それを考えるとこの人も姉さん同様、超人的な何かを持っているんだろう。
「お気になさらないでくださいお嬢様。どちらから伺いますか?」
学園祭のパンフレットを取り出し理事長に見せるとゲームがしたいということだったので三年生のフロアに向かうことになった。
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三年生のフロアは活気が溢れていた。高校最後の学園祭なのだ、悔いの無いように楽しむために先輩方は張り切っているのだろう。
俺達が来たことに気がついた三年の先輩方はみんな理事長に声を掛けたり手を振ったりしている。理事長もそれに応えるように手を振り返す。さすがは学園一の人気者。そして横で一緒に歩く執事服姿の俺を見た女性達がキャーキャーと騒いでいる。何だか恥ずかしい。
軽く微笑み手を振り返すと何人かの女子生徒が気絶した。デススマイルのようだったのでこの格好でいる間は封印しようと誓った。
「貴様もなかなかの人気じゃの」
「からかわないでください。お嬢様には敵わないです」
そんな周りからチヤホヤされながらも歩き、目的の場所にたどり着く。"ゲーム館"とそれだけデカデカと書かれた看板がかかっている。ここは三年のクラスの出し物の教室なのだが、何をやっているかの詳細が不明だ。扉を開けて二人で中に入ることにする。
「いらっしゃい。"ゲーム館"へようこそ」
愛想がない接客をしたのは部長だった。いや、正しくは"元"部長だ。
「ここ部長の教室だったんですね」
「む、お前篠崎か?」
「はい、そうですけど」
部長が俺の顔と格好をじろじろと見る。男にこう見られても全然嬉しくないのだが、俺だってことをわかっていなかったようだ。髪をアップにして、執事服を着てモノクルを付けてるだけでわからないものなのか?
「のうデカブツ、我の執事がどうかしたのか?」
「!? 理事長!?ご無沙汰しております」
部長が小柄な理事長に対して土下座をするように頭を下げる。どういう関係なのか気になる。とりあえず説明しなければならないようだ。
「お嬢様、こちらはダンス部の元部長で私がお世話になった方です」
「ほう、確かにこのデカブツはダンス部の元部長であったな。よろしい頭を上げるのじゃ」
「お、お嬢様……!? お前ほんとに篠崎か?」
「はい、私は篠崎遼ですよ。そしてお嬢様の執事です」
その教室にいた全員の目が見開かれた。執事服を着ているのだから執事じゃないほうが驚くのだが、何に驚いているんだ?
「おいデカブツ、はよ我を案内せよ」
「失礼致しました。……こちらへどうぞ」
元部長がこっちを一目したあと教室にあるゲームへと案内する。すると後ろのほうからもう一組が入って来たようだ。
「おう、遊びに来たぞ」
その声に聞き覚えがあった。元部長と縁のある人、何度かあったしこの前はすごいものを見せられた。
振り返るとそこにいたのはやはり桜のお兄さんだった。元部長と仲がいいと聞いていたので学園祭に来たのなら間違いなくここには寄るだろう。
「ん? 君は篠崎君か?」
「お兄さんよくわかりましたね。部長は信じてくれなかったんですよ」
「え? 遼がいるの?」
お兄さんの後ろからひっこりと小さな影が出てくる。連絡を取っていなかったからその声を聞いたのは約一ヶ月振りだ。明るく響く声だが心が落ち着く。
「桜……」
「え? えぇぇぇ!? このイケメンが遼!?」
久しぶりに会うのになんだその反応は少しショックだぞ。
「む、貴様の彼女か?」
「遼この幼女誰よ? まさかあんた私達と距離を置いている間にロリコンに目覚めたの!?」
「失礼な女じゃな。この学園で我の事を知らないだと?」
めんどくさいことになりそうだ。とりあえず二人には説明しないといけない。桜には勘違いもとかないといけないな。
学園祭はまだ一日目が始まったばかり。早速トラブルっぽいのに巻き込まれるとは。今度どうなるのやら。




