第六十五話 あんたは出てくるな
今までなかった姉回です!
教育実習最終日となった姉さんの最後の授業は特に何もなく、いつも通りの授業だった。何か特別なことをする人ではないのはわかっていたのだが、みんなが残念そうにしている。そんな最後の授業もチャイムが鳴り終了となった。
「じゃあ今日まで私に付き合ってくれてありがとな。次の授業でまた会おう」
姉さんが教室から出て行くのだが、最後のセリフはみんな首を捻らせた。今の授業が最後のはずだ。
次の授業は体育だ。外でサッカーの予定だったはず。まさか、体育の授業に乱入するつもりではあるまい。姉さんが入ったら一対二十二でも勝てる気がしない。キーパーは残念なことになるだろう。
さすがの姉さんでも他の授業には来ないと平と体育着に着替えるために更衣室へ向かう。
ちなみにすごく、ものすごく残念なことにうちの学園は男女で体育が別々である。体育館とグラウンドを交互に使っているので一緒になることがほとんどない。女の子の揺れるおっぱいが見れないなんて体育の授業の意味を成していない。
グラウンドへ向かうと姉さんがいた。運動する気満々のジャージ姿で。体育の先生と楽しそうに話をしている。確かあの先生は陸上部の顧問だったはず。姉さんのことも知ってて当然かもしれない。
ぞろぞろと集まるクラスメイトも姉さんがいることに驚きを隠せないでいる。この中でキーパーになるやつは不幸だ。
「お、来たな。お前ら全員かかってこい!」
「あんたは出てくるな! クラスの男共を殺す気だろ!?」
「何を言っているんだ? サッカーで人が死ぬわけないだろ?」
自分の能力をわかっていない。姉さんが本気で暴れたら熊だって殺せる。あなた自分が規格外の人間だって気づいていないのか?
体育の先生も苦笑いをしている。おそらく怪我人が一人や二人出るどころじゃないことを理解し、もう諦めた表情だ。おそらく先生も現役の姉さんを相手にするのが大変だったのであろう。
「ほら早くしろ。お前ら全員で私と勝負だ。一点でも入れられたらお前らの言うことを何でも聞こう」
それを聞いた男子生徒が大いに盛り上がった。姉さんを知る二人を除いて。先生はもうだめだと天を仰いでいる。
「遼、お前はキーパーだ」
「いや、姉さん止めれるの俺ぐらいだぞ?」
「だめだ。お前は私の的になれ」
「帰れよ!」
平が哀れみの眼差しを向けてくる。やめろ。そんな目で俺を見るんじゃない。お前ポンコツなんだから俺の前で壁にでもなっていやがれ。
クラスのみんながグラウンドに散っていく。みんなは姉さんの恐ろしさをわかっていない。学園祭前に怪我でもして踊れなくなったら呪ってやると渋々ゴール前へ向かう。
そしてキックオフ。余裕なのかボールを渡して仁王立ちし始めた。ボールを渡した相手はバスケ部のやつ。サッカー部のやつがパスを要求したのでパスを出す。
しかしこれを姉さんがインターセプト、ものすごい勢いのドリブルで一人、二人、三人と抜いていきもうゴールの目の前だ。そして見せ付けるかのようにボールを高く浮かせオーバーヘッドシュート。まるでボールが友達のキャプテンのようだ。そしてそのボールは矢の如くとんでもない速さで真っ直ぐ飛んでいく。
あぁだめだ。止めれる気しない。俺はここで死ぬんだ。みんなさようなら。
深々とボールが体に突き刺さる。そこで意識を失う。気がついたら知らない天井……いや、保健室のベッドの上だった。
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「じゃあで今日でこの学園での教育実習は終わりだ。学園祭も一緒に楽しみたかったが客として来るよ」
最後のHRで姉さんが挨拶をする。ちなみに俺は保健室から戻ってきたばかりだ。昼食も食べ損ねたせいでお腹が空いている。ちなみに体育の時間は姉さんの無双で終わったそうだ。
委員長から姉さんへ花束が贈られクラスが拍手に包まれる。なんだろう、最終回を見ている気持ちになる。おめでとうとは誰も言っていない。
「ありがとう。ちなみにだが、私は教員試験に間違いなく合格するから。理事長には話を通しているから来年もよろしくな」
そのセリフを聞いた瞬間、クラスの女子はうれしそうにしているが、男共の顔から一気に血の気が引いていった。それだけで寝ている間に何があったのか分かってしまう。
姉さんの挨拶が終わり、放課後になったので部活に行こうしたのだが、姉さんに呼ばれどこかに連れて行かれる。向かっているのは校舎の上のほう。屋上へと続く扉の前で立ち止まる。学園では屋上の立ち入りを禁止されているので基本的に誰も近づかないのでここに来るのは初めてだ。暗く、狭い空間だ。
「ここが入れないのは何でか知っているか?」
「誰かが飛び降りたとか?」
それが一番有力だろうと思ったのだが、姉さんは馬鹿にするように笑う。それ以外だと何があるんだ?
「この学園で飛び降りするやつなんていねぇよ。答えはこれだ」
そう言って姉さんが取り出したのは一本の鍵、その鍵を扉に差し込み回すと開錠された。驚いた顔をしていると姉さんがニヤッと笑った。
「答えはここの鍵は私がもらったからだ」
そう言って扉の向こうへと歩を進める。暗かった空間へ光が入り込む。次に感じたのは扉から吹かれる突風。後ろに倒れそうなほどの強さだ。
「どうした遼、早くこっちに来い」
扉の向こう側から姉さんが手を差し伸べてくる。こことそこじゃまるで異世界のような感覚に囚われる。勇気を出し足を進める。
…………
扉の向こう側はもちろん異世界ではなく学園の屋上だ。しかしこんな風景みたことがない。夕陽が沈み行く街を一望できるそんな場所。この街にこんな景色が見れる場所はあと何ヶ所あるのだろうか。
「きれいだ……」
「あぁ、ここは私とあいつのお気に入りの場所だ」
あいつとはおそらく一成の兄さんのことだろう。二人は付き合っているし、この学園の卒業生でもある。そんな場所に連れてくるなんて姉さんの頭が壊れてしまったのかと心配しだす。
しばらく街を眺めながら姉さんが少しだけ語る。学生時代に理事長と賭けをしてその時の景品がこの鍵だそうだ。話した事がないのだが一体ここの理事長ってどんな人なんだ?姉さんに甘すぎる気がする。
「この鍵はお前に預ける。お前がとってもいい場所になるといいな」
そう言って屋上へと続く鍵を受け取る。学生時代の思い出が詰まった場所を継承するかのように姉から弟の手へと渡される。
「姉さん、ここでの思い出って……」
「話す訳ないだろう。私達二人の大切な思い出だ。お前もそういう人を……桜か花を連れて来れたらいいな」
姉さんが笑っている。いつもクールな姉さんがこんな顔するのは課金ゲームでSSレアを引くようなものだぞ。だからと言って姉さんに課金はしない。搾り取られる。
ここが、この場所がどれだけ大事だったのか、どれほどの思い出が詰まった場所なのか、それはまだわからない。分かる時が来るのだろうか?
きっとお前にも分かる時が来るよと姉さんは昔を思い出すかのように屋上で踊り始めた。ブレイクダンスのようなかっこよさもポッピンのような驚くような動きでもなく姉さんが大人の女性から女の子に戻ったようなかわいらしいステップだった。
そうか、今日の姉さんは最後の日に学生時代を思い出すためにサッカーに参加したのか。あまりみせないがちゃんと人らしいところもあるんだ。
笑顔で踊る姉さんを眺めながら微笑んでしまう。この場所が今度は俺の大切の場所に、大切な人との思い出を刻む場所に……
最初から読んでる方は分かる通り初は暴力的ですが、面倒見がいい姉です
暴力的なところさえ無ければいい姉なんですけどね……




