第六十六話 学園祭前日
学園祭の前日に何をするかって? 俺は早く帰って寝たかったけど思いのほか準備に手間取って帰れない。委員長曰く、このままだと学園にお泊りらしい。それはそれで面白いのだが俺にはダンスもあるから体調は万全で挑みたい。きっとダンス部が二日目でないのは生徒会の陰謀である。そう思うことにする。
教室の飾り付けや看板はすでに準備が終わっていて、まだ準備ができていないのはみんなの衣装だ。手作りなんて手間をかけるから時間がかかってしまったのだ。あたりはもう暗く午後七時を回った。衣装の購入費用を売り上げから天引きでもよかったと思ったのだが、女子がそれを許さなかった。特に委員長が。
「俺の執事服はまだできないのか?」
「もう少しでできる。篠崎君は明日ダンス部もあるから帰っていいよ」
そんなこと言われて帰る白状者ではない。みんな頑張っているのに一人だけ帰るなんてありえない。だが、手伝うことも無くやることがないので暇だった。作成中の衣装に目を通す。
「ほんとにこれが俺に似合うのか?」
「遼さんなら背も高いですし細身なのできっと似合いますよ。モノクルなんて着けるとそれっぽいですよ」
「モノクルならちゃんと準備してるよ」
用意周到だな。さすがにそこまでやるつもりはなかったのだが、委員長の言葉を聞いた女子の目がキラキラしているので逃げることはできないようだ。
「あ、レシピ作ってなかった!」
「おいおい今さらかよ。メニュー決めたときに何で作らなかったんだ?」
委員長しっかりしてくれ。本番で料理するのは俺を除く男連中だぞ。俺はホールにでることになっているからキッチンは誰に任せるんだ。平は大丈夫みたいだが他のやつら料理できるのかよ。
いや、委員長は頑張っているのか。俺達がもう少ししっかりしていればよかったのかな。委員長のせいにするのはお門違いだ。これは来年の課題にしよう。
「それでしたら遼さんがレシピを作ってはいかがですか?」
花の提案に対してクラスの女子が不思議そうな顔をする。そりゃそうだ。普通の男が料理がうまいだなんて聞いたら驚きだ。
「篠崎君、メニューにある料理作れるの?」
「これぐらいだったら朝飯前だ。花の料理のうまさまではいかないが、満足できる味を提供できることは保障するぞ」
その言葉を聞いたクラスのみんながざわめきだす。料理ができることに対してではなく、花の手料理を食べたことに対してだ。男共は涙を流し、女子はきゃーきゃー言ってる。花の手料理なら平も食べたことを話すと一気にしーんとなった。何この統一感。
「それでは遼さんに任せます。女子は手を離せないのでお願いしますね」
「篠崎君お願いね」
花と委員長の美人さん二人に頼まれたら断る理由はない。手をひらひらさせて了承すると男共を集めてメニューの説明をしながらレシピを作る。メニューはオムライス、ハンバーグ、ミートソースパスタ、それとデザートのパフェだ。カレーの案も出たのだが教室が匂いで充満するため却下となった。
「お前らで料理をやったことがないやつは?」
この質問に対して半数の男共が手を上げたので、こいつらはドリンク要員にすることにした。まずい料理を出されたら困るからね。残りはやったことはあるそうなので説明をしていく。
この中で一番時間がかかるのはハンバーグだ。あとで必要な分を準備をすることになったのでオムライスの説明をする。ミートソースパスタの説明は簡単だった。ミートソースがレトルトなのでレンジでチン、パスタは時間通りに茹でる、あとは皿に盛り付けて完成。料理をやったないやつでも誰でもできる。
オムライスは以前花が作ってくれたものの味を思い出しながら説明しながらレシピを作っていく。チキンライスから作り、ガーリックバターで風味を出しながら、ケチャップは女子に任せることになった。味が落ちるがチキンライスも作り置きして冷凍保存をしたほうが楽そうだったので、男共を引き連れて家庭科室に向かう。
「平はサラダ以外も作れるのか?」
「肉料理以外なら大丈夫だからオムライスは俺に任せろ」
途中自信あり気にそう言うので一通り教えたら平に丸投げしようと決め、家庭科室の扉を空ける。食材と道具を用意して男共に最初はレシピを見ながら作らせる。男共全員を連れてきたのでドリンク要員が手持ち無沙汰のようだ。
「お前ら暇なら夜食を買ってきて女子に届けてくれ。こっちの分は準備しておくからお前達は女子と楽しんできていいぞ」
その言葉にドリンク要員のみんなが一気にいい顔になり、家庭科室から出て夜食を買いに行った。あの顔は間違いなく女子と一夜を過ごすことを楽しもうとしている。こっちに来なかったことを後悔させるために残っている男共には英気を養ってもらおう。
空いている作業場に立ち、食材と調味料を確認する。鶏肉、ひき肉、にんじん、たまねぎ、ケチャップ等揃っているので何を作るか考えながら家庭科室に常備されている調味料を確認すると思いもよらぬものが見つかった。早速準備に取り掛かる。
「篠崎ー、これでいいかー」
「おーい篠崎、大さじってどれぐらいだ?」
男共に呼ばれては指示・指導をしながらみんなで食べる夜食を準備する。みんなが自分達とは作っている料理と使っている道具が違うと気づき不思議そうな顔をするのだが、先ほど見つけたものを入れたらクラスの男共の顔に気合が入った。やっぱりみんな好きだよね。
「篠崎、それ勝手に使って大丈夫なのか?」
「あったから別にいいんじゃん?いちお先生にここの使用許可はもらってるし」
使えるものは使わないとね。少々食材を多く使ってしまったので、あさっての分は明日の売り上げから
少しいただいて買い足せばいいのだ。
みんなの作業も順調そうで保存分が大量にできる。これで明日の分ぐらいは持つだろうと一段落着いたので、作っていた夜食をみんなに振舞うことにする。
何人かに手伝ってもらいながら皿に盛り付けていく。みんなに行き届いたところで食べ始める。
「「「「「いただきます」」」」」
誰にでも作れて、大勢がいるときに向いてて、みんなが大好きな料理、カレーだ。先ほど見つけたのはカレーのルーだったのだ。勝手に使ったけど文句は言わないでくれ。
「やっぱりカレーは最高だぜ!」
「カレーうまいよ!うまいよ!」
「篠崎さすがだぜ!」
男しかいないのが残念だが、それでもクラスの男子の絆は深まるに違いない。ドリンク要員達よ、残念だったな!別に仲間外れにした訳ではない。あいつらが女子と共に過ごすことを選んだんだ。受け入れられるかは別だけどね!
人数が多かったので一人一食分しか作れなかったが、食後は満足感がにじみ出ている。おいしく食べてくれると嬉しい気持ちになる。作ったかいがあったようだ。明日にはこいつらもこの気持ちがきっとわかるはずだ。
「平、片付けとここの仕切りを任せていいか?」
「ん? 別にいいけど瀬戸内さんのとこに行くのか?」
「少し、な。すぐに戻るから頼んだぞ」
「そういう事なら任せておけ!」
そう言って家庭科室から出て行く。平にはああ言ったが目指す場所は教室ではない。上へと向かうために階段を一つずつ上っていく。時間は午後八時半を過ぎたところだ。今の時間はどんな景色が見れるのだろうか。




