第三十四話 眠り姫
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それが私の原動力!
俺が落ち着きを取り戻したのでお祭りの会場に戻ろうと立ち上がる。桜はまだクルクル回っている。目が回っていそうだな。
「桜、そろそろ戻ろうか。時間ももうすぐで終わりそうだ」
「ならここで花火を見て行きましょう。今年からこのお祭りでも花火をあげるそうよ」
知らなかった。毎年この時期にやるのは地元民だと誰でも知っているが花火は一度も上がったことがない。きっと協賛してくれた方が多くてお金が余ったのだろう。
確かにここなら人も少なくて視界も広いから花火がよく見えそうだ。まあ戻っても人が多いしここでゆっくりするのもいいかな。
石段に座りなおそうとしたが桜がふらふらしていたので手を取ってあげ、石段に座らせた。やっぱり目が回ったよね。俺も隣に座ると桜が俺の肩に頭を預けてきた。
「さっきは困らせるようなことをしてごめんね」
「俺も気持ちよかっ……じゃなくて、別にいいさ。俺は二人の行動に嫌とは言えない立場だからね。……やりすぎはよくないけど」
やりすぎはよくない。今はまだいいがいつ自制が効かなくなってもおかしくない状況が何度も起きているのだ。次耐えられるという保障はないんだ。
「遼は真面目ね」
「好きな子のことを真剣に考えるのは普通じゃないか?」
「普通の男子高校生は好きなことエッチしたいって考えるんじゃない?」
「俺だってやりたいよー! かわいい子二人にせがまれているこの状況で我慢している俺を褒めてくれよー!」
あ、また本音が出てしまった。最近なんだか俺の心がかなり脆くなっている気がする。しかも力が入って立ってしまったし。急に立ったから桜も驚いてるし。とりあえず座って落ち着こう。
「ふふっ、はいはい。遼は頑張っているねー♪」
そう言って桜が俺の頭を撫でてくる。身長が俺が高い分いつも桜や藍の頭を撫でているがこんな気分だったのかな。とても落ち着くし気持ちがいい。女の子はこんな気分を味わえるなんてなんて羨ましいんだろう。
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しばらく頭を撫でられていると会場のほうかがざわざわしてきた。灯りが全部消えているみたいだ。そろそろ花火が上がるのかな。
しかし一向に花火は見えない。まだ上がってないのかなと思ったが音が聞こえた。もしかして神社の裏側からは見えないとこに上がっているのか?
「花火、私達が見える位置の反対に上がっているみたいだね」
「そうだな。見える位置に移動する?」
黙り込んだ桜は俺の腕に抱きつき頭を俺の肩に預けてきた。
「少しこのままがいいかも。さっきみたいに急に立たないでね」
仕方のない子だ。俺達は二人で花火の音だけを聞いていた。花火大会の時とは違い周りには誰もいない、俺達二人の空間になっている。
これっていい雰囲気じゃないか? 俺がキスしてもいい気がする。いや、それはだめだ。桜に勘違いさせてしまうかもしれない。花も桜も唇が柔らかかった。あの感触はくせになりそうだ。少しぐらいいいかな?いやいや、雰囲気に流されてはいけないと決めたじゃないか!
少し恥ずかしくなって横目に桜を見てみる。俺の肩に頭を預け目を閉じている。そしてすぅーすぅーと規則正しい……あれ?桜寝てないか?
「おーい、桜ー」
反応がない。やっぱり寝ている?動きたくない理由ってもしかして眠かったから!? まあ花火が上がってまだ十分ぐらいだから終わるまで寝かせてあげるか。
俺は空いている手で寝ている桜の頭を撫で、頬に触れてみる。女の子は全てが柔らかくできているようだ。甘い匂いもするし女の子ってプリンじゃないのかと思ってくる。
「そんなんじゃ食べられるぞ」
俺は独り言を言いながら桜の頬をプニプニとつついてみる。体を動かし少し嫌そうな顔をする。こういういたずらもたまには悪くない。普段は見れない桜のかわいい顔を見れるのだ。仮に花だったら、胸の弾力を調べてみたいところだが俺が捕まってしまう可能性があるのでできればこういう状況になってほしくない。
いろんなことを考えながら寝ている桜をいたずらするのだが、起きる気配がない。今度は頬を引っ張ってみるが起きない。寝ている姫にはキス……それは論外だ。花火もおそらくもうすぐ終わる。寝るにしても一度起きてもらわないと俺も動けない。腕をがっちりホールドされているのだ。さて、どうやってこの眠り姫を起こそうか……
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花火が終わった。そして桜は起きない。こんなにいたずらしても起きないなんてこの子すごいかも。なんとか腕から引き離してせめておぶってやらないといけない。
「おーい桜ー、花火終わったから帰るぞー」
無反応。次だ。
「おぶってやるから手を離してくれないか?」
これもだめか。これでだめなら引きずってやる。
「……お姫様抱っこするから手を離してくれないか?」
離したよ! こいつ起きてるんじゃないか!? でもまつげをこすっても反応がないから間違いなく寝ているとは思う。お姫様抱っこするしかないのか。
落ちないように桜の腕を俺の首の後ろに回し俺は桜を抱き上げる。小柄だからかすごく軽い。羽根を持っているようだ。女の子に体重を聞くと「りんご一個分」とかふざけたことを言うやつもいるが、桜は重さを感じさせないほど軽かった。
そろそろ会場には人が少なくなっているはず。バスは恥ずかしいからタクシーで桜の家まで送ろう。そう決めて動き出す。神社の裏側から出るとまだ人がちらほらいるが少なくはなっている。俺は桜を抱えたまま会場だったところを歩き道路まで出ようとする。
「あ、遼兄ぃ」
げっ! 藍!? まだ帰っていなかったのか!? あまり遅くまでいるとお兄ちゃん心配だから早く帰りなさい。
「藍、もう遅いから早く帰らないと危ないよ」
「うん、今から帰るとこ。友達がトイレに行ってるの」
藍の後ろには友達であろう子が三人、なんだかキャーキャー言ってるな。藍が友達を一瞥すると黙り込んだ。一瞬見えたが藍、そんな顔したらだめだよ。
「桜さん起きないの?」
「困ったことにな」
「眠っているお姫様にはキスしたらいいと思う」
「お前本気で言ってるんだよな」
もち! と親指を立てる藍。キスはしないよ。今のところ俺からはね。そんなやり取りをしていると藍の友達が戻ってきた。
「遼兄ぃ、藍は先に帰るけど……今日は帰れそうにないね」
「やっぱそうなるよな。桜を送り届けたら姉さんに迎えにきてもらおうかと思ったけどたぶん無理だよな」
「初姉ぇは彼氏といちゃいちゃしてた。今日は初姉ぇも帰ってこないと思う」
姉さんがいちゃいちゃ?暴力を振るってるの間違いじゃないか?
「藍、姉さんがいちゃいちゃするわけないだろ。きっと暴力を振るってたに違いないよ」
藍が乾いた声で笑って目をそらす。図星のようだ。藍には姉さんが暴力を振るっている現場をいちゃいちゃしているように見えたらしい。
「でも彼氏さん喜んでいた」
「まさか一成の兄ちゃんはドMなのか?」
「初姉ぇはそう言ってた。殴ったり暴言を吐くとすごい喜ぶって」
一成、お前の兄ちゃんどうにかしたほうがいいぞ。あんなのに殴られて喜ぶなんて普通の人ではない。ドMの医者って嫌だ。
「じゃあ藍達帰るね。遼兄ぃ、寝ている子を襲っちゃだめだからね」
そう言って帰っていく藍。むしろさっき俺が襲われそうになったんだが……。とりあえずタクシーを拾わないと。
道路に出ると思いのほかタクシーはすぐ着てくれた。桜を先に乗せて俺も乗り込み運転手さんに桜の家までお願いする。この状況で桜の家に行くとご両親に何言われるかわからんぞ。俺の不安な気持ちも気にせずタクシーは桜の家へと向かうのであった。
寝ている人を起こすのは大変です。
特にお酒を飲んだ後の大人は。




