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清楚系ヤンデレと天使な小悪魔と  作者: みゃゆ
一年 夏休み 後半
35/87

第三十五話 やっぱり家に帰るのは難しそう

 タクシーの中でも桜は起きない。そろそろ桜の家についてしまう。起きてくれたらそのままタクシーで帰れるのだが……間違いなくこの子は起きない。


 桜の寝顔はかわいい。ホントに天使のようだ。この状態で保存したい。あ、狂気的なことはないよ。明るかったら写真を撮りたいが暗いしタクシーの運転手さんにも迷惑がかかってしまうってこと。起きたら小悪魔改め淫魔になってしまうのがもったいないほどだ。


「兄ちゃんの彼女さんべっぴんさんだね」


 気を使ったのか運転手さんが話しかけてきた。まあ桜も寝てるし話し相手になってもらうか。


「いえ、彼女ではないですよ」


「そうなのかい? でも恋人じゃない男の横で寝れるなんてそうとう好かれているんだね」


「まあ好かれているのは確かですね」


 実際は俺も好きだけどそれを言うとややこしくなりそうだ。でも人生の先輩の意見を聞いてみるのもありなのかもしれない。


「あのおじさん、タイプの違う女の子二人に同時に好かれたときはどうしますか?」


「そんなのどっちも取るに決まっているだろ。ハーレムは男の夢じゃないか」


 そう言って豪快に笑う運転手さん。意見を聞く人間違えたな。


「でもよ兄ちゃん、それはこの日本では許されないことだ。兄ちゃんが悩んでいることは俺も昔悩んだことがあるよ」


「その時はどうしたのですか」


「俺はどちらも選べなかった。その後にすごく後悔したんだ。これは年寄りの言葉として受け取っても受け流してもいい。人生は反省はしても後悔しないように生きろ」


 その言葉はすごく簡単そうに聞こえるが実際はすごく難しいのだろう。おそらく自分の選択に責任を持って行動せよってことなのかもしれない。よく考えて動けってことだよな。


「兄ちゃんはまだ若い。だから自分が後悔しない選択をゆっくり考えるといいさ」


「はい、ありがとうございます」


「ちなみにそのお嬢ちゃんともう一人ってのはどんな子なんだい?」


 このおっさん突っ込んでくるな! まあ桜も寝てるしこのおっさんとももう会うことはないと思うから別に話しても問題ないか。


「この子は天使のようにかわいい笑顔を見せてくれる優しい子なのですが、中身は小悪魔です。もう一人は可憐な花のような美しくてかわいい気の利く子なのですが、中身はヤンデレです」


「…………兄ちゃんも変な子に狙われたもんだ」


 ごもっともだと思います。でも俺は花と桜の二人が好きなのだ。見た目は二人とも申し分ないほどかわいいってのもあるけど中身が好きなのだ。あれ?この言い方だと俺が特殊性癖の持ち主みたいに聞こえるかな?


「兄ちゃん、ヤンデレには気をつけねえと一つの間違いで刺されるぞ」


 脅さないでくれよおっさん。てかこのおっさんヤンデレって言葉の意味がわかるのか。やっぱりタクシーの運転手してると客と話すネタのためにいろいろ用語の勉強とかしてるのかな?


「小悪魔ってのも……なんだかいろいろ持ってかれそうだな」


 はい、先ほど童貞を持ってかれるとこでした。でも早いとこ童貞卒業しないと一成に負けてる気がしてなんか嫌だ。男のプライドってやつ?


「まあ兄ちゃんならどっちでも大丈夫そうだな」


 また豪快に笑うおっさん。この少しの間で俺の何が分かったのだ!? 俺いろいろと悩んで困っているんですけど……


 その後も花と桜の話でおっさんと盛り上がったりおっさんの昔話を聞かされたりで、気がつくともう桜の家の近くまで来ていた。


 ―――――――――――――――――――――


「着いたぞ。楽しかったから料金は俺が出してやろう」


「いや、それは悪いですよ。ちゃんとお支払いします」


 そう言って財布を出すがおっさんは首を振る。


「若いもんは年上が出すって言ったら奢られておくんだよ。社会人になったらこういうことが何度もあるから覚えておけ。ほら早くお嬢ちゃんを連れてきな」


 俺は桜を抱きかかえタクシーから出すとおっさんはじゃあなとドアを閉めて去っていった。男前なおっさんだったな。参考になることはほとんどなかったがいい暇つぶしになってくれた。


 さて、問題はこのお姫様だ。おっさんがあんだけ豪快に笑っていたのに結局起きなかった。寝た振りではないよな。こんなぐったりしてるし。とりあえず家の人に引き取ってもらったあと俺は歩いて帰るか。


 桜の家の前まで行きインターホンを鳴らすとすぐ扉が開いた。そこに立っていたのはすごいいかつい筋肉の塊みたいな人だった。とりあえず挨拶と事情説明をしなきゃ。


「あの、桜さんの友達の篠崎です。お祭りの途中で彼女が寝てしまったので運んできました」


 筋肉さんは俺の顔を見て、お姫様抱っこされている桜を一瞥した後また俺を見てにっこり笑った。


「君が篠崎涼君か。妹がすまないな」


 妹? ってことはこの筋肉さんが桜のお兄さん? 確かブレイクダンスをしている兄がいるとは聞いていたがまさかこんなマッスルな人とは思わなかった。


「お兄さんですか? パワームーバー?」


「ん? 君もブレイクダンスをやっているのだったな。俺はパワーではなくストロングだ」


 なにそれ? 聞いたことない。俺が知っているのはスタイルとパワーの二種類だ。もしかしてブレイキンじゃない?


「ストロングは……まあこんなところで話すのもなんだし中へどうぞ。桜も重いだろ?」


「いえ! 桜さんは羽根のように軽いので大丈夫です!」


「いや、こっちが悪い気がするんだ。入ってくれ」


 気遣いしてくれたのか。それに気づかないとは俺はどんだけあほなんだ!


 筋肉さん改めお兄さんに中へ案内されリビングに入る。この家に来るのは二回目だな。


「桜はそこのソファにでも置いといてくれ。こいつは一度寝るともう朝まで起きないぞ」


 言われた通りにソファに桜を寝かせる。海に行ったときもそうだったがやっぱり眠ったらなかなか起きないのか。ホントに眠り姫だな。


 お兄さんに案内されダイニングの椅子に座るとお兄さんがお茶を出してくれた。今日もご両親はいないのか。


「うちの両親なら今日は君のご両親と遊びに行っているはずだが」


「そうなんですか。何も聞いていないです」


「実は俺もそろそろ友達のところに行こうと思っていたところなんだ。タイミングがよかったね」


 確かに家に誰もいなかったら寝ている桜の体をまさぐり鍵を探すはめになっていた。


「今日は桜も帰ってこないと思っていたんだが……君は桜と付き合っているのか?」


「いえ、付き合ってはいないですよ」


「ちなみに昔のことは覚えているか?」


「覚えています」


「そうか。なんで付き合っていないんだ?」


 ブレイクダンスの話が聞きたかったのに桜の話になってしまっている。桜も寝てるし話しちゃうか。


「いとこの花さんをご存知ですか?」


「もちろんだ。桜とは姉妹のようにしていたからな」


「実は俺、桜と花から好かれているみたいなんです。俺は二人のことが好きだから選べずにいるんです。最低な男ですよね」


 少し自虐的になる。実際最低なのだから仕方がない。たぶんお兄さんが怒って殴ってくるはず。むしろ殴ってほしいぐらいだ。Mじゃないよ。自分で殴るのは絵的になんか嫌だから人にやってほしいだけだからね。でもこの人に思いっきり殴られたら肉塊になってしまうね!


 お兄さんは腕を組んで何かを考えている。見た目で判断するのは悪いが脳筋だと思っていた。すいません。


「それなら仕方ないな。別に桜と付き合わなくてもいいんだぞ」


 脳筋だったよ!もっと何か考えているかと思ったんですけど!見た目を裏切らないな!


「まあ桜を好きでいてくれるのは兄としても嬉しいよ。あいつは頑張って今の姿でいられるんだ。確か君がダイエットしたと聞いたときからあいつもやり始めたな」


 両親同士が仲がいいって怖いね。俺の知らないところでいろんな情報交換されているんだもん。俺って中田家ではどういう扱いなのかな?


「そういえば初さんがこの前桜の邪魔をしたら殺すって言ってたんだがその時はなんのことかわからなかっただ。たぶん君とのことだったんだな。あの時の初さんは怖かった。俺も本気で殺されるんじゃないかと思った」


「うちの姉がすいません」


 とりあえずこのマッスルでも姉さんは怖いらしい。うちの姉は一体何を目指しているんだ!?あんなのが教師になったらPTAが黙っていないだろ!


「おっともうこんな時間だな。俺はもう出るから君は泊まって行きなさい。もうバスもないしこの時間から歩いて家まで帰るのは危険だ。桜もここで寝てるし桜の部屋で寝ていいぞ」


「お兄さんもこの時間から歩くのは危ないのでは?」


「友達の家は歩いて五分もかからんから問題ない」


「でしたらお兄さんの部屋は……」


「俺の部屋は……ちょっと今はだめだ。いろいろと散らかっている。前も桜の部屋で泊まったそうだし大丈夫だ」


 そう言ってお兄さんは家から出て行った。ブレイクダンスの話が聞けなかった。でも確かにお兄さんの言う通りこの時間から歩いて帰るのは大人でも危ない。ご厚意に甘えるしかないのか。結局泊まることになったよ。


 俺はソファで寝る桜に目を向ける。気持ちよさそうに寝ている。寝顔がかわいい。起きそうもないし俺もここで寝るわけにはいかないから桜の部屋で寝させてもらうとする。


 俺は立ち上がって桜の部屋に向かう。今日は初めて会う人にいろいろ話しすぎた。タクシーのおっさんはともかく桜のお兄さんにまでもだ。まあ脳筋だったからそんな深くは考えていないとは思うが。


 桜の部屋に入りベッドの下から布団を出し床に敷く。さすがに桜のベッドで寝るわけには行かない。いや、ホントは寝たいよ。ダイブして枕に顔を埋めて匂いをかぎたいけどなんか変なのに目覚めそうだからやらない。でも絶対いい匂いする。少しぐらいいいかな? ……寝よう。


 横になった俺は目を閉じる。起きたら風呂に入りたい。今日は桜が寝ぼけて抱きついてくることがない事を祈りながら意識を睡魔に奪われていくのだった。

ストロングの説明がなかったので書いておきます。

ストロングスタイルは筋力で地面に脚をつけない動きを得意とした踊りをするスタイルです。

動画を見たらわかりますが人間業ではありません。

筋力が全てと言ってもおかしくないスタイルです。

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