第二十七話 誰がどう見てもラブホの現場
花を背負って花火会場から歩いて帰る。時々大丈夫かと聞くぐらいで会話はない。背中の感触に意識を取られて会話のネタが思いつかないのだ。
「あの、遼さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、花は軽いからそんなに苦ではないよ」
「でも入学した時よりも少し体重が増えたのです」
それは入学時よりも明らかに成長していますからね。入学時の推定カップはDだったが今ではFだ。スタイルを維持したままでかくなっている。藍とはある意味で違う成長だ。女の子の成長ってすごいね。
「少し痩せないといけませんね」
「前も言ったけど花は今のままでも細いから痩せる必要はないよ」
ここから体重を落とすとなると胸を小さくするしかないんだよ。そんなことはあってはならない! おっぱいは正義! あまり大きすぎるのも問題だが今のままでいいんだよ!
「ですが……」
「いや、むしろそのままのほうがいいよ。変に痩せようとすると体のバランスが悪くなる可能性があるし。花はスタイルもいいから大丈夫」
おっぱいが縮むからなんて口が裂けても言わないよ。俺の信用問題と男のプライドに賭けてね。
そんな時肌に冷たい感触が走った。小降りではあるが雨が降ってきたのだ。
「降ってきましたね」
「花火が上がったあとでよかったけど今のこのタイミングか」
「私やっぱり降りましょうか?」
「無理をしたら悪化させるからだめ。あと十分もしないうちに着くから大丈夫だよ」
もう少しで花の部屋に着く。これぐらいの雨なら問題はない。少しペースを上げるか。
ペースを上げようとしたその時、急に雨は土砂降りになった。まるで二人の今日あった出来事を洗い流すかのようだ。
「りょ遼さん!!」
「走るぞ花! 離すなよ!」
この雨はまずいぞ。走れば五分くらいでは着くが、体を冷やしたら風邪を引いてしまう。今日はなんだかついてない。
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花が住んでいるアパートの前まで着いた。急いで部屋に入り花を風呂場へと運ぶ。
「タオルを持ってくるから花は体を温めておいて」
「遼さんも一緒に!」
「俺はあとでいいから。ゆっくり体を温めて」
そう言って風呂場から出て行く。降ろして気づいたが、服が濡れてスケているのだ。服着たままでも一緒に入ったら男なら我慢できなくなる。
バスタオルを風呂の前に置いてあと、風邪を引くといけないので一度服を脱ぐ。幸いにも下着はそこまで濡れていなかった。パンツ一丁で風呂上りの女性を待つ男と思われたくないので、花が戻るまでに体を拭かなければ。
体を拭き終え服を絞ろうと思い台所へ向かっていると風呂場の扉が開いた。ゆっくり温まってって言ったのに早すぎだろ。
「あの、遼さん。私はもう大丈夫なので、遼さんも……」
「………………」
花と目が合う。パンツ一丁でだ。オワタ。しかも花は裸にバスタオル一枚。
何でそんな格好で出てくるかな!? これ誰がどう見てもラブホの現場だよ!? 俺が変態さんだったら花ちゃんおしいくいただくところだよ! むしろいただきたい。いや、雰囲気に流されるのはだめだ。何があっても絶対! その前に弁解しないとえらいことになる。
「あのー、えっとね。服が濡れてたから絞ろうかなーと」
「あ、はい! たぶんそうだろうなとは思いました。私の服も濡れているのでこんなお恥ずかしい姿を見せてしまいすいません!」
「いえ、ありがとうございます!」
おっと、また本音が出てしまった。そんな姿なかなか見れるもんじゃない。水着よりもエロい。てか、本番前みたいな感じじゃね?
「あの、遼さんも体を温めてきてください。服は……私の学園指定のジャージなら着れるかと思いますので準備しておきます」
うむ、この場をひとまず退散しないことには俺の立派なやつを見られてしまう。パンツに隠れてはいるがそろそろまずい。
「わかった。花も着替えててね。その格好だと折角温まったのにまた体を冷やしてしまうよ」
そう言って風呂場に逃げ込んだ。狭い通路通る時に花の体に触れないよう、そして極力体を見ないようにして。
危なかったーのか? 気づかれていないよね? 花はそういったことに疎い感じがするので大丈夫とは思うが。とりあえず寒くなってきたから温まろう。
五分ぐらい温かいシャワーを浴び風呂場から出ると、学園指定のジャージが用意されていた。着てみると大き目のサイズなのかちょうどいい感じだった。
部屋に戻ると花はパジャマを着てベッドに腰掛ていた。桜のパジャマと似ている服だが色気は断然花が上だ。まだタオル一枚だったらどうしようとか考えていたがそんな心配は無用だった。
「花ありがとう。今日はこれを着て帰るよ。悪いけど傘も借りていいかな?」
折角の祭りを楽しんだあとこんな解散の仕方は少し納得がいかないが、起きてしまったことに何を言っても過去は変わらない。今日はホントに運が悪かったのだ。
花はベッドからゆっくり腰を上げた。傘を準備してくれるのだろう。しかしそうではなかった。
「遼さん私まだ何もお願いしていません」
何のことだ?何かお願いを聞くと約束した覚えが……約束、お願い……約束!?思い出したぞ!昔の花とした約束!
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『助けてくれてありがとう。何かお礼をしなきゃ……』
『なら今度はあなたが私を助けてね。』
『女の子が困っていたら助けるのは当たり前だ。』
『そう。でしたら私のお願いを一つ聞いてちょうだい。』
『そんなことでいいなら。今できることならなんでもやるよ。』
『そうね。なら次に会えたら友達になってくれないかしら。』
『それはいいけど、そんなことはお願いに入らないよ。』
『ん~。わかったわ。今度会った時に私は何かお願いをする。今はそれがお願いでいいかしら?』
『決められないならそれがお願いでいいよ。』
『約束よ! そして今度はあなたが私を助けるの。その時は私もお願いを聞いてあげる。これも約束よ!』
『うん、約束する。』
幼い俺達は変な約束をしたもんだ。そして俺はその約束をいままで忘れていた。一度会ったあの子の顔さえも。花は覚えていたのか?
「花、約束を……。でもあの時の俺は……」
あの時の俺は太っていた。今の俺からは想像できない、昔の俺の面影は全くと言っていい程ないのだ。それに覚えていたら入学式の時にお願いされているはずだ。
「ごめんなさい、実は忘れていました。この前お姉さんと会って初めましてではないと聞かされて思い出したのです。あの時私と約束をしたのは遼さんだったんだって」
「その考えは軽率過ぎるよ。あの時は一成もいたんだ。助けたのが一成と考えてもおかしくはないはず」
「いえ、遼さんが昔、その、今とは全然違うという話は聞いています」
「一成さんが変わっている可能性だってあるんだよ!?」
俺は何を必死になっているんだ。たぶんこの場から逃げたいのだ。この状況、花の態度、いろいろな観点から見ると花がお願いすることは予想がつく。おそらくそのお願いを俺は叶えてあげられない。
「お姉さんに聞いたのです。一成さんは昔から何も変わっていないと。それで合点はいくのです」
だめだ。つんだ。これ以上言い逃れは無理だ。もう腹を括るしかないのか。
「わかった。約束だ。お願いは聞く。ただし、俺が無理だと判断したものはできない。それでいい?」
約束は破らない。でも妥協はしてもらう。これが俺が出した最適解だ。
「構いません。そんなに難しいことではありませんよ」
それを判断するのは俺だよ。こういう形で約束を果たすのは心苦しいが気持ちの整理がつかないまま流されるのはイヤなのだ。
「私のお願いは……」
俺はつばを飲み込む。頼むから無理なことは言わないでくれ。聞くだけでも恥ずかしいこともだめだ。意識してしまう。そうなると取り返しの付かないことになりそうだ。そして花がゆっくりと口を開いた。




