第二十六話 ハプニング
花火は約一時間ほど上がり続けた。俺はその間、ずっと花の手を握り続けた。花は満足そうな不満そうな入り混じった顔をしていた。なんとなく理由はわかるがそこはスルーする。
最後の花火が上がり終えた後、会場はこれまでにない歓声に包まれた。雨が降らなくてよかった。
「花火も終わったしそろそろ帰るか」
俺は花の手を引き歩き出す。何か言いたそうな顔をしていたが、花が言わないなら俺が聞いたらいけない気がして黙って歩く。そういえば一成達も来てるみたいだけどこの人の中だ、見つけるのは針の糸を通すようなことだろう。
「あ、遼君! 花ちゃん!」
見つからないと思っていたら見つかった。
詩織ちゃんと一成だ。詩織ちゃんは浴衣を着ていた。貧乳でも浴衣が似合うというがまさにその通りだと思う。今日の詩織ちゃんは普段より三割増しくらいでかわいく見える。
「遼。まさか見つかるとは思っていなかったよ」
「俺も見つけるのは難しいと思ってたよ。このまま合流するか?」
そのほうが花もさっきみたいな気は起こさない。あまり言うことではないがその方が俺は楽なのだ。別に花が嫌いとか一緒にいたくないとかではない。むしろ好きだと思うし一緒にいたい。でも今はまだ桜もいる。俺は桜も好きなのだと思う。二人への気持ちをはっきりとしないまま花の魅力に負けて流されると俺はかなり後悔すると思う。なんて女々しい男なのだろう。
「それはダメー。今日は一成君とのデートだもん。花ちゃんもデートの邪魔されるのはイヤだよね?」
詩織ちゃんが花に同意を求める。それだと邪魔をするのが悪いといい合流しないに決まっている。
「そうですね。せっかくの二人きりのデートを邪魔するのは悪いですし、今日は別行動にしましょう」
まあそうなるよな。わかっていた。今日はどちらにとってもデートなのだ。腹を括ろう。
「それなら仕方ないな。帰りも別々になるよう出口は違うところから出よう」
俺と花は西の出口へ、一成と詩織ちゃんは東の出口へ向かうことにした。
「花ちゃん花ちゃん!」
別れる前に詩織ちゃんが花と小声で話している。ここからでは何を話しているか聞こえないが二人とも顔を赤くし微笑んでいる。
「じゃあ遼、俺達は行くよ。気をつけてな」
「そっちも気をつけて。花、行こうか」
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二人と別れ再び手を繋ぎ歩き出す。人が多いせいで各出入り口に分散していてもなかなか前に進まない。この人じゃバスも乗れないかもな。
「花まだ歩ける? この人じゃ帰りのバスに乗るのはかなり待ちそうだ」
「私なら大丈夫です。今日はヒールではないのでそこまで疲れていないですよ」
微笑みを返す花。少し休憩してから出ようかと提案するがこのままで大丈夫と歩くことを続けた。
「花火、きれいでしたね」
「あぁ、すごく」
途中から俺は花火ではなく隣の花を横目で見ていた。花火なんかよりもきれいで花火と違って消えない美しさがそこにあったのだ。消えるなんて悲しすぎる。少し花火が嫌いになりそうだ。楽しかった、だけどそれ以上にモヤモヤとした感情強い。
そんなことを考えていると前のほうで人が横に避けていくのが見えた。たくさんの人が出口へ向かう中逆走している人がいるようだ。何をしているんだ? だんだんと近づいてくる。そいつが俺と花の間を無理矢理通ろうとし繋がれた手が離れた。
「きゃっ!?」
「花!?」
そいつは俺達に体当たりするかのようにぶつかってきた。俺は体をよろける程度で済んだが花はそのまま横に倒れた。ぶつかったやつはもう見えない。大勢の人がいるのに花が倒れても誰も見て見ぬ振り。こいつらホントに人間かと怒りを面に出すがそれよりも花だ。起こさなければまた何が起こるかわからない。
「花大丈夫? 立てるかい?」
「すいません遼さん。ありがとうございます」
「別に花は何も悪くないよ」
そう言って手を差し伸べる。見た感じ怪我はしていなさそうだ。花の手を引き起こそうとする。
「いたっ!?」
花の顔が悲痛に歪んだ。倒れた時に足を挫いたのか、左足を庇う様に立ち上がる。
花の手を取りゆっくりと人ごみから抜ける。座れそうな場所があったので花を座らせ足の様子を確認する。そこまで強く捻った感じではなさそうだ。
放置すると悪化させるかもな。応急手当しないと。確か屋台に氷があるはずだ。
「花、少し待っててくれるか? 屋台に氷をもらってくる」
「わかりました。ここで待っています」
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俺は人の流れとは反対の方へ走る。あまり花を待たせるわけにはいかない。速く、もっと速く。
屋台に着き、事情を話すと氷と袋をもらい必要になるからとタオルまでくれた。俺はお礼を告げ花の元へと走る。ナンパされてなければいいけどな。急いで戻らないと。
花が見えてきた。最悪だ。三人組みにナンパされている。なんだか今日はイライラする!
「姉ちゃんおっぱいおっきいねぇ~。俺達と楽しいことしな~い」
「そうそう。折角花火でいい雰囲気なったんだしさ~。ちょ~っと遊ぼうよ~」
「あそこにホテ」
「おい」
俺からこんな低い声出るんだと俺が驚いた。
「お前ら、よく人の連れに手を出そうとしたな?」
俺は今怒っている。たぶんいままでこんなに怒ったことはない。怪我をしている花にナンパしてるやつもそうだがここにいる人間全員にだ。たぶん顔もとんでもないことになっているはず。桜やみんなには見せられないな。
「邪魔だどけ。彼女は怪我をしている。お前らと遊んでいる暇はない」
「ちっ、男連れかよ。お前ら行くぞ!」
なんとか去っていった。暴力沙汰は勘弁だ。あの程度のやつらなら三人だろうと負けはしないが今は花の応急処置が優先だ。
「少し痛むかも知れないけど我慢してね。足を固定するよ」
先にタオルを巻き足を固定する。花が痛そうな顔をするが我慢してもらう。その後は氷を入れた袋で捻った部分を冷やすようにまたタオルを巻き固定する。その間、花はずっと黙っていた。
「とりあえずこれでよし。大丈夫そう?」
「ありがとうございます。少し立ってみます」
そう言って花は立ち上がろうとするが痛んだのか顔を歪めバランスを崩す。とっさに手を掴み倒れる花を抱きかかえる形になってしまう。柔らかな胸が俺の体に押し付けられる。普段なら大喜びの俺だがそんな場合ではない。
「これでは歩けないね。タクシーは捕まらないだろうし……。仕方がない」
抱きかかえる形の花を一度体から離し、背中を向ける。そしてそのまま花をおぶる。
「りょ遼さん!?」
「動くと危ないからちゃんと捕まっててね」
花をおぶったまま歩きだす。あんな大きいもの持っているのに思ったより軽い。これぐらいなら花の部屋まで送れそうだな。
「すいません遼さん。少し……甘えさせていただきます」
花は俺の体に体重を預けてきた。胸の感触が背中に伝わる。柔らかい。背中から花の鼓動を感じる。もう一度言うがいつもの俺なら大喜びのだがそんな場合ではない。そんな感情とは裏腹に平常心を保とうとするが心臓の鼓動は早くなる。やはり本心は隠せないものなのか? だってこんなに柔らかいとは思ってもいなかったもん!
「遼さんの鼓動をすごく感じます。なんだかすごくうれしいです」
そんなこと言うといつもの俺に戻っちゃうよ!? 弱っている子は落としやすいと言うけどそれよりも俺のほうがちょろい気がするよ。
「や…そ……」
花が何か呟いた。やとそしか聞き取れなかったがたぶんやきそばだろう。さっきおいしそうに食べていたしお腹でも空いたかな?
「花? お腹空いたの?」
「へ? そんなことないですよ?」
やきそばではないとなるとなんだろう。お腹空いてないならそのまま帰るか。
タクシー乗り場を通り過ぎるが怪我をしている花を見ても譲ろうとする人はいない。みんながみんな見て見ぬ振り。
こんな冷たい人間にはなりたくないな。歩いて帰るしかないか。
だが二人に優しくないのはここにいた人だけではなかった。天もまたまるで二人を嘲笑うかのようだった。




