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45/60

その45

 エルピディオは、着地の衝撃がなんでもないかのようにすっくと立ち上がると、腕を高く上げ、手を打ち鳴らした。騒がしい中でもそれは不思議と反響し、周囲は途端にしんとなった。だが興奮まで消えたわけではない。エルピディオに注がれた視線は、どれも熱気でぎらついていた。

 エルピディオの合図に合わせて、肌もあらわなコスチュームを着た美女が数人、どこからか干染布を張った大きな板を引っ張ってきた。この部屋のどこからでも見える大きな板だ。それを彼の背後に設置すると、美女らは板の横で微笑みとともに待機した。

 エルピディオの声が響いた。

「今回の決闘は、カシミロ対チリーノ!」

 低く、よく通る声だった。彼は後ろの板を手の平で叩いた。『カラー』が干渉し、布に二人の名前が浮かび上がる。

 スカウトされた者は、正式にギャングのメンバーではない。決闘で戦うのは彼らでも、便宜上、スカウトしたメンバーの名前で進行するということらしい。

「配当率は……」

 黒眼鏡の下ではっきりとしないが、エルピディオはカラス、そしてチリーノの連れてきたボビーへと視線を走らせたようだった。

「まあ、こんなもんか」

 再び掌が板を叩く。カシミロの下には「1.2」という数字、続いてチリーノの下に「200」という数字が現れた。百分率ではない。二百倍の配当を意味した数字だった。一気に部屋が沸き立った。

 いつの間に飛び降りていたのか、板の影からフニペロがニコニコしながら現れた。

「そんじゃ、一口千チントで~」

 構成員たちが殺到した。

 フニペロはチントを受け取ると、ズボンから濃い緑と薄い緑の布切れを取り出し、それぞれ渡し始めた。濃緑色がカシミロで薄緑色がチリーノ、これが賭けの引換券のようだ。受け取ったチントは、無造作にズボンの中に投げ入れられていった。チント硬貨は、低純度のジュース結晶を加工したもので、布と比べて明らかにかさばるし、重さもある。なのに、フニペロのゆったりとしたズボンは、張り裂けることもなければ、重さでずり落ちることもないらしい。底の見えない大穴のように、限界なくズボンはチントを飲みこんでいった。不思議な光景だった。

 この熱狂の外にあるのは、ベアトリスを除けば決闘の当事者である四人だけだった。

 チリーノは緊迫した面持ちで床の一点を見つめ、動かない。ボビーは配当率が気に食わないらしく、巨体を怒らせながら落ち着きなくうろついていた。

「あんたは賭けないのか」

 とカラスがカシミロに尋ねた。

「真っ先に買ったよ」

 カシミロのポケットには濃い緑色の布切れがぎっちりと詰まっていた。

「全財産分だ」

 カシミロはにやりと笑った。カラスもつられて笑う。

「だが、こんなむちゃくちゃな賭けをして《ハウス》は大丈夫なのか。みんながあんたに賭けたら破産するぞ」

「分かってないな。おまえは《ハウス》を分かってない」

 カシミロはあごで構成員たちを見るように促した。カラスの予想に反して、薄緑の券をもった者もかなり多くいるのだった。

「勝てるかどうかじゃない。勝ったらどうするかだ。なにせ二百倍の配当だ。飽きるほど贅沢してもいい。組織に献上してのし上がるってのもありだ。奴らは、そんな夢を買ってるんだ」

「だが、現実はチントを失う」

 カラスはつぶやいた。

「そうだな。その失った分だけ、ベアトリスの正しさを痛感するのさ」

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