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その28

 ヘルフリートが唸り、カーティスが思わず声を漏らした。フロリアーノはゆっくりとまばたきしただけだが、彼にとってはそれさえも大きな反応といえた。

 これはどういうことだ。ベアトリスは周囲の反応を肌で感じながら、ドルフのいやらしいにやけ面を眺めた。ギャングのランキングを作る目的が見えてこない。ランキングを操作する側に立つことで己の地位を盤石にするメリットはあるだろう。だが、はっきり言って回りくどい。ドルフは《モノリス》の縄張り、そしてジェイラスのジュースを手に入れたのだ。あとは実力行使で地位は築ける。なぜそうしない。もしかすると、ドルフは手に入れた力に陶酔しているのかもしれない。力を誇示したいがために、よき統治者を気取っているのか。

 このニヤニヤした、いけ好かない獣は、うぬぼれたマヌケにも見える。だが、そうではないとベアトリスは知っている。この男は、見た目からは想像できないほど緻密で慎重、そして狡猾なのだ。


「それでそのランキングは、誰がどう決めるんだい?」


 その質問を待っていたとばかりに、ドルフはにぃっと歯をむき出した。


「最初は《エピタフ》が決める。だが、心配なさんな。それは暫定的なものだ。コミッションで過半数の同意があれば、すぐにでも順位は入れ替える。公正だろ? 七大ギャング……おっと、今は六大か、その公認じゃなけりゃ意味がないからなァ」

「順位が上がると、どうメリットがあるんじゃ?」


 カーティスが大きな目を光らせる。


「《エピタフ》はセントラルとデュイストーンズを合わせた、でけェ土地を持っている。ランキングが正式に決まり次第、その順位に従って土地を配分しようじゃねえか」

「しけた墓地なんかもらっても嬉しくないぞ」


 とヘルフリートが皮肉をこめた横槍を入れた。


「もちろん、セントラルの一部だ」


 これは大きな報酬だった。セントラル地区ほど魅力的な場所はなく、どのギャングも喉から手が出るほど欲しい地区だった。だがジェイラスの時代は、セントラルに手を出すなどほとんど自殺行為だった。価値も高いがリスクはそれ以上だったのだ。それが順位変動だけで手に入るというのだから、プライムたちが目の色を変えたのも無理はない。

 だがベアトリスは違った。セントラルには惹かれるものがあるが、それ以上にこのランキングが放つ不穏さを感じとっていた。

 このランキングには二つの目的が隠されている。まずは、ギャング同士の警戒心を強める目的。これによりお互いが今以上に牽制し合い、抜け駆けを阻止し合う展開になるだろう。そして、他ギャングの情報を得る目的。ランキングの報酬を得るには順位を高く保たなければいけない。それには他のプライムを納得させるだけの情報、つまり組織の内情を申告する必要がある。

 どちらも一番得をするのはトップを走る者だ。下位が足を引っ張り合ってくれて、背後に最も近づくものを管理することができれば、展開を完全に掌握できる。


「さァて、おおむね気に入ってもらえたようだが、自分の順位を見てから“やっぱり気に入らない”なァんて言い出されても面白くねェ。今の段階でどうするか、決めてもらおうじゃないか」


 ドルフのにやけ目がプライムたちを順番に見た。そこには揺るぎない自信がある。

 それもそのはず、プライムはこの提案を蹴れるわけがないのだ。ランキングを認めないのでは、上位になる自信がないと見なされてしまう。この激変の時期では、そんな些細な弱気が命取りになると、どのプライムも知っていた。

 ヘルフリートが真っ先に、続いて他のプライムもランキング制を承認した。ドルフは満足そうにうなずいて、


「よし、よし。それじゃァ、暫定ランキングの発表といこうか」


 手を屋根型に組んでにやけている。そして、わざとらしく、たった今思い出したかのように、


「……おっと、暫定とは言ったが、これには現在の情勢を反映してある。まあ、誰にでも知れた程度の情報で、正確性は定かじゃねェな。だが、ある程度の真実は含まれている、そう思ってもらいてェ」


 とつけ加えると、人差し指で背後に合図を送った。メイナードが進み出て、懐から巻かれた干染布を取り出す。布の一端には重しがついており、メイナードの指が緩むと同時に滑り落ちる。布は重りに導かれするすると引き伸ばされ、書かれた内容を明らかにしていく。プライムの視線が自ずと集まる。ランキング最後尾を明らかにすると、重しの降下は弾むようにして止まった。プライムたちの動きも止まっていた。

 ベアトリスはジロリと暫定ランキングを上から見返した。数字の横に組織の名前が記されている。トップを飾るのは《エピタフ》だ。《モノリス》を倒し、今やパレットタウン最大のギャングとなった《エピタフ》がその位置にいるのは当然だった。その次に《バンク》、《ファーナス》と続く。無尽蔵ともいえる資金を有することが《バンク》をこの位置に収めたのだろう。《ファーナス》は単純な戦闘力が評価されたに違いない。そして《サルーン》。ベアトリスの《ハウス》の名は、干染布の一番下に記されていた。《バケット》の名前はなかった。


「御覧の通り《バケット》は除外だ。ジェイラスは、やつらにも当然のように大ギャングの権利を与えていたが、おれァ反対だ。コミッションにも顔を出さないやつにやれる物はねェ」


 ベアトリスが感じたのは、我が組織が最下位だった落胆やそれが他のプライムの目に触れた屈辱ではなかった。暫定での順位がどうであろうと関係ないとさえ思っていた。それでもベアトリスがランキングを今一度確認したのは、この順番になった理由を読み取るためである。現状、《モノリス》を倒した《エピタフ》が突出している。これは認めなくてはならない。そして《バンク》が莫大な資金力を持つことも、《ファーナス》が警戒すべき戦力を備えていることも事実だ。しかし全てを総合した組織力では、二位以下、四つのギャングの力は横並びと言っていい。どの組織が何位であってもかまわない状態なのだ。それなのにドルフは《ハウス》と《サルーン》を下位に置いた。これには必ず理由がある。“誰にでも知れた程度の情報”ではない何かを《エピタフ》は尺度にしているな。そうベアトリスは直感した。

 その後ろでフニペロが大げさに肩を落としていた。それがポーズだと知らない者はいなかったし、この場に真の意味で暫定ランキングで一喜一憂するマヌケはいなかった。


「他に議題もないようじゃ。今回のコミッションはここまでかのう」


 とカーティスが言った。それがその場の主導権を何気なく握ろうとする老人特有の虚栄心だと白い目を向けられたギョロ目のプライムは、きまり悪そうにせわしなくステッキで床を叩きながら口髭をひねった。カーティスに言われるまでもなく、コミッションは終了の段階に入っていたのだ。肩を並べて廊下を歩きたい間柄でもないので、プライムとそのビビッドは、意識して間を空けながら陰気くさい部屋から出ていった。

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