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その24

「さて、順番にいこう」


 紫色になったセントラルの西側は、カラフルな区画に囲まれている。形状はまちまちだが面積はどれも同じぐらい。真北にあるのは、塗られたセントラルと同じ紫色の区画だ。ニコラスの指がそこに移動した。


「ここはデュイストーンズ地区。治めるのは《エピタフ》、ここ一帯の墓場を管理している。シンボルカラーは紫、プライムはドルフだ」

「心気臭いな」

「いや、そうでもない。《エピタフ》は墓地の管理と同時に、それらの葬儀も一手に引き受けている。早かれ遅かれ、どんなヒュープルでも避けられないのが死だ。彼らは絶対に需要の尽きない収入源を手にしているはずだった」

「だった?」

「ジュースだよ。ヒュープルがジュースを常飲するようになって、その死体はジュース結晶に吸われてしまうようになった。故人の体がそこにないのに、高い金を払って土地と墓石を用意することに住人は疑問を持ち始めたのだろう。葬儀は簡略化され、埋葬の習慣は急激に廃れていった。《エピタフ》は資金源を失い、弱体化しつつあるギャングだったんだ」


 今度は染めることなく、ニコラスの指は一つひとつ図の南側へと移動していく。


「ラウドハマー地区。治めるのは《ファーナス》。この地区は金属を扱う煉瓦造りの工房と球根型の窯が並び、西端には鉱山がある。居住者もその工房や鉱山で働いている者が多い。それらを全部取り仕切っているのが《ファーナス》だ。シンボルカラーは赤、プライムはヘルフリート」

「七大ギャングでも最も血の気の多いプライムさ」


 とシャーリーがつけ加えた。


「マクシミリアンよりもか?」

「ヘルフリートに比べたらマクスはかわいいもんだ。あたり一面を焼け野原にはしないもの。赤いつなぎの連中を見かけたら、妙な気は起こさないことだね」


 マクシミリアンがどうでもよさそうに短い声を上げた。ニコラスは続ける。


「サースティアベニューを治めるのは《サルーン》だ。砂埃が舞う乾燥した地区で、通りに沿って木板を使った質素な建物が軒を連ねている。日用雑貨、生鮮食品や衣服を扱う小さな店が多いが《サルーン》の主要な収益はそれらではなく、酒場だ。特にジュースを使った混合酒、カクテルの提供を始めてからというもの、かなりの資金力を蓄えていると聞く。シンボルカラーは黄、プライムはカーティス」


 マクシミリアンがよそ見をしながら、


「かなりのジジイだ。ギョロギョロした目つきは不気味だが、いかにも紳士的で暴力的な気配をさせねえあたり、プライムとしては一風変わってやがる。まあ、こういうやつほど危険なんだがな」

「酒造に目をつける前の《サルーン》は、決まった名前を持たない、略奪を繰り返し金品を売りさばく悪党どもの集まりだった。それを一代でまとめ上げ、今の規模にまでしたカーティスの手腕は恐るべきものだ。しかし、より注意すべきは《サルーン》構成員が未だならず者の性質を失っていない点だ」

「やつらに言わせれば、ならず者じゃなくガンマンなんだとよ。くだらねえこだわりだ。乗り手が露出した二輪の動力車にまたがり、時代遅れの回転装小火器を振りかざす。妙なスタイルだが、危険度は指折りだ」


 ニコラスの指はさらに南へ移動する。


「フリックライツ地区。パレットシティ最大の歓楽街を取り仕切っているのは《ハウス》だ。カジノ、シアター、サーカス……楽しいことならなんでもやる。ヒュープル一対一の闘いを競技化し、見世物にしたのも《ハウス》が最初だろう。シンボルカラーは緑、プライムはベアトリス」

「女か」


 とカラスが目を少し見開いた。なんとなく、プライムは全員男だと思いこんでいたのだ。


「七大ギャング唯一の女性プライムで、私と同じぐらい若い。だが、あなどってはいけないぞ。フリックライツでのもめ事は驚くほど少ない。およそギャングらしくない要素に思えるが、それも《ハウス》が目を光らせているからだ」


 今度はアルが補足する。


「フリックライツのどの店にも、緑の制服がいます。一見、従業員のようですが、彼らは全員《ハウス》の構成員です。彼らは娯楽の邪魔を許さない。その迅速で容赦のない対応から、掃除屋などと呼ばれたりもします。掃除屋がいるおかげで、フリックライツは安全で楽しい歓楽街であり続けられる。その利益を《ハウス》は吸い上げているわけです」

「時代にのっとった、より文明的なギャングというわけだ。そして、さらにその色が濃いのが……」


 ニコラスの指は街の南、海に面したエリアを示した。


「ソルトフリーズ地区。所どころ残雪のように建物や路面を覆っているのは、海風が運んできた塩だ。強烈な塩害もたらす潮風を防ぐため沿岸部には高層のビル群が林立し、この一帯はオフィス街として発展した。ソルトフリーズを支配する《バンク》は、莫大な資金を背景にした金貸し屋だ。貸した金が例え一チントであろうと、あらゆる手段を使って必ず取り立てるが、それ以外はまっとうだ。他のギャングも様々な業種の資金源を持つが、あくまで傘下に従えて利潤を得ている。それに対し、ギャングでありつつも一つの企業として成功したのは《バンク》が初めての例だろう。シンボルカラーは青、プライムはフロリアーノ」


 シャーリーが後を継いで話しだした。


「フロリアーノは我慢強い。行動力が欠如してるんじゃないかってぐらいにね。ギャングの間で有名なジョークがある。“フロリアーノに手を出したって? なら三年は大丈夫だ。その後は保証しないがね”」

「でも、それはただのジョークじゃない。実話らしいんです」


 とアル。


「なんでも、ちょっかいを出した同じギャングのメンバーが三年後、忽然と姿を消してしまったそうです。フロリアーノがプライムになったのも、そいつが任されるはずだった大仕事を代わりに引き受けたのが足がかりらしい」

「フロリアーノは時期を待っていただけ。復讐と昇進を一気にしちまったのさ。にしても三年だよ。殺された方は理由もわからなかっただろうね」


 ニコラスの指はセントラル地区を半周し、真南に位置するエリアを示していた。他に色分けされた区画はなく、パレットシティの説明は終わったかのように見えた。


「《モノリス》、《エピタフ》、《ファーナス》、それに《サルーン》でしょ。あとは《ハウス》に《バンク》と……」


 ポイットがギャングの名前を列挙しつつ、順番に指を折り曲げた。

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