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その23

 早朝、カラスがサーボリを淹れていると、マクシミリアンがガレージから現れた。イスにどっかりと腰を下ろし、カラスをにらみつける。一瞬も視線をはずそうとしない。カラスはそれに気づいていないかのようにサーボリをカップに注いだ。ポイットはやれやれと首をすくめた。

 すると、マクシミリアンはカラスの方へ無言で空のカップを押しやった。カラスはくちばしを歪めると、そのカップを湯気が立つ褐色の液体で満たした。部屋に漂う香ばしい匂いが一層強くなり、カップがマクシミリアンに差し出される。白い手はやや乱暴にそれを受け取ると、すぐに口に運んだ。香りを鼻に抜けさせるように息を吐く。ふたりは対面でゆっくりとサーボリを味わった。マクシミリアンの視線はカラスに突き立ったままだったが、それ以上のことは起こらなかった。


「今日もふたりは早いな。おはよう」


 ニコラス、シャーリー、そしてアルがほとんど同時に部屋に入ってきた。ニコラスは丸められた布を膝においていた。広げればテーブルいっぱいもありそうな大きな布だ。


「いつまであの汚いマットレスで寝起きすりゃあいいんだ」

「それも検討しなければいけないね。だが、まずこっちだ」


 ニコラスは布をテーブルの端に据えると、転がすようにして展開した。そこにはカラフルな図形が隙間なくかっちりと組み合わさっていた。パレットシティとその周辺の地図だとカラスにもわかった。


「さて、カラス。さっそく任務の話に入りたいところだが、その前に自己紹介をしておこう。君の名前は聞いたが、私たちからは名乗っていないからね」

「私はアルです。よろしく」


 イタチが礼儀正しく頭を下げた。


「あたしはシャーリー。火器の扱いなら任せな」


 ホルスターから抜き取られた小火器が複雑な軌跡を描き、手のひらで踊る。それは気づくと、再びホルスターに収まっていた。


「マクシミリアン」


 巨漢はぶっきらぼうに言った。


「以上が《モノリス》のビビッド。そして、私が《モノリス》のプライムである“枯れ木のデッドツリー”ニコラスだ。彼らが通り名を明かさないのは悪く思わないでくれ。ギャングのお遊びみたいなもので、身内にもすぐには明かさないものなんだ。なに、この世界に長く身を置いていればいやでも耳にするだろう」

「その襟章はもらえないのか?」

「みんなつけてるわよね」


 カラスが自分のジャケットをつまみ、ポイットが襟章のあるべき場所を指さした。


「もちろん君にも与えられる。もう《モノリス》の一員なのだからね。……と言いたいところだが、そうはいかない」

「なぜだ。まだ認めてもらっていないからか」


 ニコラスは声を出して笑った。


「いや、すまない。君の実力はじゅうぶん承知だ。襟章をあげられないのは別の理由から、というもの君に与える任務のためだ」

「なら、その内容を早く聞かせてよ」


 ポイットがせかすが、


「カラスはパレットシティに来たばかりだね?」

「そうだけど……」

「それなら、この街の情勢を知っておくのはいいことだよ」


 カラスは、それには及ばないと言った。


「村から出て来たばかりなのは本当だ。だが、数日間の滞在でだいたいのことは知っている。パレットシティはギャングが支配する街だ。治めているギャングの数は六つで、それが六大ギャングだ。それぞれが街の一区画を管理している」

「六つと言ったね?」

「ああ、街で聞いた話では六つと言っていた」


 マクシミリアンがバカにしたような笑みを浮かべたのをカラスは見逃さなかった。だが理由がわからない。カラスは《モノリス》に向かう前準備として、それとなく宿や路地で聞きこみをしていたが、ギャングに関する数字はだれの口から聞いても六だったのだ。


「六つ……ある意味間違っていない。だが、それは一般の知識さ。例えば、君がギャングと物資を取引するとしよう。君は話のはずみで街のギャングは六つだと言ってしまう。それだけで、相手は君をギャングをよく知らない、少なくとも精通はしていない者だと判断する。足元を見て物資価格をつりあげてくるかもしれない」

「それだけで?」


 ポイットが驚いた声を出した。


「『一の知識は一万チント、十の知識は値がつけられない』という言葉があるぐらいだからね。情報力は大事なのさ」

「へぇー。ねえカラス、聞いておきましょうよ」


 心底感心したようすでポイットが言った。カラスはうなずいたが、明らかに乗り気ではない。


「決して損はさせない。まあ地図を見てくれ」


 芯のあるニコラスの声に誘導されるようにカラスは色が散らばった布を見た。なるほど、この色分けは各ギャングがそれぞれ治める区画を示したものらしい。パレットシティが海に面した街であることも、カラスにとっては新しい発見だった。

 布の中央にひときわ大きな白いエリアがある。名称はセントラル。《モノリス》が以前治めていた場所だ。


「セントラルの説明はいらないだろう。今いるガレージもこの区画の端に位置している。現在、セントラルは《エピタフ》の領地になってしまった」


 ニコラスの指が白い区画に触れると、先からインクがにじみ出したように枠内を紫色に染めていった。

 これはただの布ではなかった。ヒュープルの『カラー』に反応して染まる、干染布かんせんふと呼ばれるものだ。微弱な『カラー』でも染まるため、幼児の知育から絵図を使った打ち合わせまで幅広く使われている。今したように、一度描いたものを容易に修正できるのも特徴だ。

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