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迎えに来た少女

堂島(どうじま)(あつし)

中学生で185センチ。

陸上部エース。

歯向かう奴は、いない。

陰で笑う奴は、たくさんいた。

きっかけは、理科の宿題だった。

解いてこなかった堂島が、授業前、隣の春人のノートを奪い、解答を丸写しした。

そして、答え合わせ。

堂島は、自分の答えをそのまま読む。

けれど、それは間違っていた。

教師が軽く叱る。

この教師というのが若い女性で、堂島がいつも猥談のタネにしていた。

だから、声なき笑いが、教室にさざなみを広げた。

堂島は、自分を見た。

直後の休み時間。

殴られた。

蹴られた。

遊びを装って。

顔だけは狙わない。

(あざ)が見えないための打算。

「行けー!」

「ローキック!」

「もう倒れるぞ!」

クラスの声援は、堂島ではなく春人に飛ぶ。

それが、なにより残酷だった。

翌日も。

その次の日も。

果てしない。

無間地獄(むげんじごく)


「いつになったら終わるんだ!」

 自分の声で、春人は目をさました。

 うすよごれた天井が広がっている。

 いつもの自室だ。

 公園から帰るや、もうどうにでもなりやがれと、眠ってしまったのだ。

 そして、今の夢を見た。

 夢であり、過去の現実でもある。

 その証拠に汗がビッショリだ。

 春人は、ムックリ身を起こした。

 それにしても。

 なぜ、こんな時に、あんな時の夢を見るのか。

 いいや、すっとぼけるな。

 わかってるはずだ。

 逃げ、だからだ。

 いじめられてひきこもったのも、みつきのもとを去ったのも、同じく逃避(にげ)だからだ。

「......ざけやがって」

 春人は、だれにともなく呻き、なんとなしに壁の時計を見た。

 午後4時ちょうど。

 "今日はずっと公園(ここ)にいる"のなら、まだ間に合う。

 間に合って、どうなる?

 妖怪退治とやらに手を貸す気か?

 まさか。

 そこまで考えてはいない。

 だけど、せめて会って断らなくては。

 それが僕の妖怪退治だ。

 春人は、いきおいよく立った。

 閉めきったカーテンから()れる西日が、朝日そっくりだ。


 玄関を飛びだすと、家の前の通りに、春人を待っている人がいた。

 巫女装束(みこしょうぞく)の美少女。

「みつき!」

 佐藤満月(みつき)は、こちらを向いて、静かにほほえんでいた。

 朝、公園で見せた溌剌(はつらつ)とした笑みではない。

 何もかも許す、やさしい笑みだ。

 そうか。

 みつきは、見抜いていたんだ。

 僕が、またやって来ることを。

 あるいは葛藤も。

 だから、迎えに来てくれたんだ。

「さっきは、かってに帰っちゃって、ほんとゴメン」

 春人は、深々と頭を下げた。

 みつきが、首を小さく横に振る。

「ここじゃなんだから、場所、変えよう」

 春人の提案に、みつきはコックリ頷き、先立って道を歩きだした。

 春人は、何も言わず、それに続いた。

 夕焼けの下、2人はしばし無言で歩いた。

 悪くない沈黙だ。

 心が通じ合っている。

 ただ、それだけじゃない。

 前を歩くみつきが、あんまりにも目に毒なのだ。

 衣の上からでもわかる、やわらかな曲線。

 絶妙に隠れて、隠れきらない。

 何、考えてんだ、僕。

 視線を逸らしては戻し、逸らしては戻すのだった。

 ところが、春人の幸福をよそに、空を黒い雲が覆いつつあった。

 やがてその凶兆は、ある疑念となって春人にも及んだ。

 みつきの先導が、おかしいのだ。

 まっすぐ行けたはずのところをわざわざ迂回したり、分かれ道で立ちどまったりする。

 まるで目的地など定まっていない足取(あしどり)だった。

 さらに、もっと別の意図、たとえば時間稼ぎのような狙いを感じる。

 うらさびしい路地にさしかかったところで、春人は業を煮やして訊ねた。

「ねえ、みつき、どこへ行くの?」

 みつきは答えない。

 あてどなく進んでいく。

 様子が変だ。

 春人は、足を止めて大声を出した。

「どこへ行くの⁉」

 みつきが、はたと立ちどまった。

 ピカッと雷光が満ちる。

 遅れて轟いた雷鳴に合わせ、みつきがゆっくり振りかえった。

 そしてそれは、みつきではなかった。

 どこにも焦点のない目。

 浅く開いた死者の口。

 なにより顔の半分以上に、大きな黒い虫がビッシリしがみついているのだ。

 と、みつきだった者の鼻が、モゾリと動いて虫になった。

 髪が、モゾリ。

 襟が、モゾリ。

 指が、モゾリ。

 みるまに真っ黒い人形と化したそれは、ザアッと崩れたかと思うと、ことごとく宙を舞い、春人を中心に旋回を始めた。

 黒い竜巻だ。

 ブウウウウウン

 ブン ブン ブン

 ブ ブ ブ ブ ブ 

 獰猛な羽音が、うずまいている。

 蟲が集まって、みつきに化けてたんだ。

 悟るやいなや、蟲たちが殺到してきた。

 

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