1幕8話 「相克」
運動場の中央、ラクロとウェートは向かい合う。二人の視線が空気を張り詰めさせる。
「始める前に言っておくわ。」
トリルの一言が静寂を割く。
「今回の勝負では能力の使用は許可する。」
一瞬、周囲がざわめく。視線がラクロとウェートに突き刺さる。
「ただし。」
声が、わずかに低くなる。
「殺す気でやるのは禁止。危険と判断したら、私が即座に止める。」
小さく鼻を鳴らすウェート。その目には「勝利」を疑ってなどいなかった。
「――いいわね?」
釘を刺し、トリルは静かに離れる。
「始めッ!」
その言葉が発せられたと同時に二人は動き出す。
◇
「エア・ボレアス!!」
ウェートの手に風が収束し、弓の形を成す。迷いなく構え、狙いを定めようとする。しかし、
目の前にラクロの姿など無かった。
「なっ、どこに....」
言い終わるより早く、視界が跳ね上がる。
「ーーッ!!」
手を蹴り上げられる。風の弓が空中で四散した。
「くっ、!」
咄嗟に後退する。さっきまで自分が立っていた場所にラクロがいた。微動だにせずこちらを見ている。
(......一瞬で死角に入ったのか。)
蹴られた場所が痛む。その痛みがウェートをやる気にさせていく。
「エア・ボレアス、、、」
まだ、構えない。
◇
蹴ったところを見る。赤くなっている。
(強く蹴りすぎちゃったかなぁ。)
一瞬、気が緩む。
(いや)
すぐに切り替える。ウェートの手には再び風の弓。すぐには構えない。
「今の一瞬、君は能力を発動していない。」
ラクロは何も答えない。
「素であの速さ。」
わずかに口元が歪む。
「面白いッ!」
弓先を地面に向ける。
「脚が速いなら、封じるまで!」
「やべっ!!」
走る。何かする前に。だが、間に合わない。
「風乗昇!!」
地面に放たれた風の矢。それはラクロの前に着弾。──爆ぜる。
「うおっ!!」
渦巻く風が、足元から噴き上がる。体が、浮く。そのまま巻き上げられる。そして、ふっと、風が途切れる。
「おぉうっ!」
支えを失った体が落下する。
「空の上じゃ、移動も何も出来ないだろう。」
地に立つウェートはすでに次の矢を構えていた。
「早く能力を出さないと、」
弦にかかる指が緩む
「死ぬぞ。」
指が離れる。
「風矢!」
放たれた矢がラクロ目掛け、飛んでいく。避けることもできない。何もしなければ当たる。しかし、そんな状況で一人ため息を吐く。
「しょうがないなぁ。」
右手をゆっくりと握る。
「あんまし使いたくないんだよ。」
拳が黒いオーラに包まれ、
「【纏】」
寸前の矢へと振り下ろされ、風はかき消える。この光景を見て、ウェートは笑っていた。
「ほぉ、威力は低いが、いとも簡単に。」
エア・ボレアスを構え直す。
「今度は、これだ!」
指を離す!
「ウィ・ワレード!!」
鋭い風の矢が放たれる。
「まだやるのかよぉ。」
同じように黒い拳で矢をかき消す。 その瞬間、別方向から風を裂く音。反射的に身をひねる。
「うおっと!!」
目の前を風の矢が通り過ぎる。
(別方向からの二発目ッ!)
直後、背中に軽い衝撃。
「くっ!」
「どうした。」
地上のウェートが冷たく言う。
「そんなんじゃ、君は死んでるぞ。」
一撃を躱しても、次の矢が構えられている。空中だと躱しきれない。
(まずい、早く下に!)
地面に着くまではまだ距離がある。このまま格好の的になるのか。
(はっ、)
一瞬、脳裏をよぎる。あの、爆発の記憶。赤く、熱く燃えた国。炎が一瞬で広がる。
「このイメージ、やってみるか!」
右手が黒く染まる。それにウェートが気付く。
「何をしようと無駄だ。ウィ・ロー!」
また矢が飛ばされる。
(また拳でかき消すのだろう。)
だが、違った。ラクロは矢を──掴んだのだ。
「【爆】!」
掴まれた風の矢が、黒く染まり、膨張、そして、弾けた。まるで爆発したかのように。小さな爆風が至近距離で炸裂。
「アっッ!!」
その衝撃がラクロを下へ叩き落とす。一気に、地面へ。
「【纏】!」
体全体を黒に染める。直後、地面に激突。轟音と共に土煙が巻き上がる。
「いっってて...」
立ち上がりながら、自分の体を確認する。
「あぶねぇ、体全体に【纏】してて正解だったな。」
土を取り払い、ウェートに目線を向ける。
「まだやるか?」
風がウェートに集まっていく。
「当たり前だ。」




