1幕 9話 「覚悟」
戦闘は激しさを増す。飛んでくる矢を躱し、近づこうとするラクロ。だが、ウェートは矢で牽制し、距離を取る。
◇
「ラクロ君!ウェート君!二人とも頑張れ!」
戦闘の最中、フレットは声を張り上げる。
「ほら!アイラちゃんも一緒に応援しよ?」
アイラは一瞬だけフレットの方を見るが、すぐに視線を前へと戻した。
「フレット、流れ弾に気を付けなさいってトリル教官が言ってたでしょ?」
小さく息をつく。
「ちゃんと見てなきゃ怪我しちゃうわよ。」
アイラの素っ気無い態度にフレットは頬を膨らませる。
「もう!......それにしても二人とも、本当に凄いわね。ね!コアニちゃん!」
急に話を振られ、体が跳ねる。
「そ、そうですね。ほ、本当に二人とも強くて。どっちが勝つかは、分かりません。」
その時、背後から静かな声が落ちた。
「ラクロ君にとって、ウェート君は不利な相手よ。」
びくり、と三人の肩が揺れる。最初に反応したのはフレットだった。
「と、トリル教官!」
振り返ったその先に、トリルが立っている。
「良いわよ、そんなに構えなくて。」
その一言に安堵する。
「あ、あの、トリル教官。ラクロが不利ってどういうことですか?」
アイラはトリルに質問する。
「私は今初めてラクロ君の能力を見たから、絶対とは言えないわ。」
静かに続ける。
「ラクロ君の能力は現状、近接系。近づかなきゃ意味をなさない。それに......」
目の前の戦闘に視線を戻す。ウェートは距離を取りながら矢で牽制。ラクロは踏み込むたびに、矢に勢いを削がれる。
「状況は、さっきから何も変わっていないの。」
「......あっ。」
コアニが声を漏らす。
「ほ、ほんとだ!!」
コアニが反応し、アイラも理解する。フレットは、まだ気付いていない。
「えっと、どういうこと?」
フレットの言葉がトリルの重いため息を生む。
「状況は変わっていないの。つまり、」
少し声を大きくする。
「ラクロ君はウェート君に近づけていない。」
「あっ!ホントだ!」
気付き、パッと表情を明るくするフレット。コアニも凄いと褒めている。そんな光景をアイラは微笑ましそうに見つめている。
「ねぇ、アイラさん。」
トリルが背後から呼びかける。
「なんですか?」
「ラクロ君の能力を教えて貰えないかしら。」
「えっ!」
アイラは驚く。すでに知っているかと思っていたからだ。
「えっと、実は私もラクロの能力を見るの、今日が初めてで.....」
言葉を探すように、少しだけ間が開く。
「何も...知らないです。」
その一言にトリルは目を細める。
「......そう。」
視線をラクロ達に戻す。戦いはまだ続いていた。
◇
(くっそ!全然近づけねぇ!)
前へ出る。矢が迫る。矢を躱す。その隙にウェートは距離を取る。さっきからずっとこの繰り返しだ。
「どうした!もう疲れたのかい!」
「ウェート!お前、息が上がってるじゃないか!」
平気を装う。しかし、お互い限界まで近い。それに加え、ラクロは攻撃を受けすぎた。
(一撃一撃の威力が小さくても、流石にたくさん受けると痛むな。)
「早めに決めないと。」
思考の末に決心する。ラクロは矢を躱しながらずっと考えていた、ウェートへと、一気に近づく方法を。
(──アレを、試してみるか。)
両足に力を込める。
「【纏】!!」
両足を黒いオーラが覆われる。そして、足の先に力を込め、前へ走り出す!
◇
「【纏】!!」
声が聞こえ、ウェートは警戒をする。見ると、脚が黒いオーラに包まれていた。
(向かってくるか)
ニヤリと微笑む。
(ならこちらも。)
風を集める。今までより多く、弓が軋む。作られた風の矢は、今までより一回り大きい。
「いくぞ。」
◇
「【爆】!!」
爆ぜる。衝撃が脚先を貫き、ラクロの体は前方へ弾けた。弾丸の如く、前へ。
ウェートは迫るラクロに狙いを定め、弦から指を離す。
「ウィ・ロー!!」
放たれた風の矢が風を裂く。今度は距離を取らない。自分を、信じている。
矢とラクロの間合いが狭まる。片足を前へ突き出し、矢を向かい受ける。
衝突、風の矢と黒い脚の押し合い。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
押していたのはラクロだった。抵抗も虚しく、ついには風が軋み、砕ける。矢は次第にその形を失い、弾けた。風の跡をラクロは一直線に通過していく。そしてーー
(アイツっ!なんでまだ避けないんだよ!)
ウェートは必ず避ける。そう思っていた。その予想に反し、ウェートは、動かない。段々と距離は縮まっている。それでも、動かない。
「避けろぉぉぉぉ!!!」
ウェートが静かに口を開く。
「見事。」
次の瞬間、ラクロの片足は地面へと衝突し、刺さっていた。
「.....え?」
わからない、何が起こったのか。いや、起こる前に何があったのか。周囲が騒めいている。
「あっ!ウェートは!!」
慌てて顔を上げる。すると、目と鼻の先に大きな怪我など付いていないウェート。その隣にトリルが立っている。
「はぁ、君達のお陰で無駄な出費が増えたわ。」
トリルの身に付けている腕時計が怪しい光を帯びていた。




