1幕 6話 「砂と風と弓」
10時頃、外は雲一つ無しの快晴。風は強く、運動場の砂が大きく舞い上がっていた。
「うべしッ!目に砂がぁぁぁ!」
目に異物が入る気持ち悪さ、小粒の涙が流れる。
「ちょ、大丈夫?」
「んっ、大丈夫。アイラも気をつけろ、ほんとにやばい、目が開けられねぇ。」
アイラに気をつけるよう促す。
「言われなくても分かってるわよ。先に来ていた皆がああなんだから。」
前方にはラクロと同様に目を手で抑え、呻き声を上げている者が大量にいる。
「酷い有様よね。」
「なんでこんな所を運動場にしたんだよぉ。」
運動場の愚痴を吐いていると、後頭部を何かで強く叩かれる。
「まったく。兵士になった人達が、たかがこれしきの事で狼狽えないで欲しいわ。」
聞き覚えがある女の人の声、
(いてて、誰だ、聞いたことある声だけど、、、)
「トリル教官?」
「へぇ、私の名前を憶えていたのね。改めて、私はプリル・トリル。あなたたちの実践訓練の先生よ。まぁ好きに呼んでくれたら良いわ。早速だけど、今から実践訓練の説明をするわ。さぁ、早く目を開けて。」
「「いや無理でしょ!!」」
一同が提案に反論する。
「こんなに砂が舞い上がってたら!」
「まともに目が開けられないし!」
「訓練できませんって!」
それぞれが、いくつもの不満を並べていく。不満を聞いているトリルの頭に血が段々と上る。
「うるさい!私だってやりたくないわよ!でも、やらなかったらお金が貰えないのよ!」
さっきの喧騒が嘘の様に静かになる。この場の全員は同じ事を思った。『思ってたんと違う』と。
「トリル教官って思ってた感じとなんか違う。」
「私も私も、てっきり冷静な人かと思ってた。」
トリルはため息を吐き、頭を抱えてしまう。
「もういい。えっと、ウェート・グレンディ君、だったかな?あなたの能力ならこの砂を何とかできるでしょ?」
ウェートの名前が呼ばれる。
「、、はい。このくらい、なんてことありません。」
歓声が湧き上がる。開けられない目に希望の光が見えた気がした。
「ならやってちょうだい。私もだからーー」
「できます。が、こちらから条件を出したい。」
喋るのを遮って交渉を持ちかける。小さなため息が聞こえた。
「しょうがない。良いわ、聞いてあげましょう。それで、条件は?」
「ラクロ・ストロークと勝負をさせて欲しい。」
自分の名前が急に呼ばれて驚く。
「ち、ちょっと待って、オレと勝負?何でだよ。」
「簡単なことだ。僕は君の実力を知りたい。それなら実際に戦った方が早いだろ?」
「んな無茶な、、」
「良いわ。その条件を承諾する。」
「いや、だからオレの意見はぁ?」
「ここにいる全員のためだと思いなさい。」
「そんなぁ、、」
話を聞いていた他のみんなも「お願い!」と悲痛な声で言ってくる。悩みに悩んだ末に勝負することに承諾する。
「しょうがないなぁ。やりますよ、やりますから、早くなんとかしてくれ、ウェート。」
「君達。少し遠くに離れていろ。巻き込まれたくなければ。」
ウェートは掌を天へと翳す。皆は急いで後方へと下がっていく。
「うおっとと!」
突然、様々な方向から風が吹く。まるで中央に吸い寄せられるように。体全体を使って踏ん張らなければこっちも吸い寄せられそうだ。少し時間が経ち、いつの間にか風も止んでいた。おそるおそる目を開ける。その光景に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「す、すげぇ。」
ウェートは手を上に翳していた。その手の上には砂でできた大きな球ができていた。地面は土のような物に変わっている。彼はニヤリと笑い、砂の球を前方へ放る。それは運動場を転がり、そのまま真っ直ぐこちらへ ──
「みんな!横に避けなさい!」
トリルの指示より前に全員が動いていた。重い音と共に砂が分散する。
「ウェート!急になんだよ!危ないだろ!」
睨みながら怒るが、ウェートは眉一つ変えない。
「僕は言われた通り、この砂をどうにかした。さぁ、ラクロ君。君の実力を見させてもらおう。」
そう言うと、ウェートは手を前に伸ばす。すると風が強く吹き、どこからともなく何かが現れる。
(あの形は、本で見たことある。たしか、)
「神よりもたらす風の弓」
風がウェートの手で弓の形へと変化する。小さく、身軽そうな弓だった。風の弓を構え、弦を引っ張り、
「白刃風」
何かが凄い速さで放たれ、ラクロの元へ飛ぶ。背筋に悪寒が走り、考えるより先に体が避ける行動を取っていた。間一髪で避け、何かは後方へと通過した。頬に痛みが走る。どうやら少しだけ掠り、血が流れていたのだ。冷や汗が止まらない。
「ッ!おいっ、お前またっ!危ねぇだろ!」
「勝負はもう始まっているんだ。君も早く能力を出したまえ。さもなければ、死ぬぞ。」
先ほどと同じようにウェートは構える。その目からは殺気が溢れ出ており、周囲の者たちにより一層の緊張感を与える。危機感を感じたラクロは、続けて回避の予備動作に移る。
「クソっ!」
「ウィ・ワレー!」
ウェートがそう言葉を発した瞬間、突如として弦を弾こうとしていた手は何者かによって抑えられた。無骨なマスクを身に着けた人物がウェートの手を掴み、ウェートは突然の出来事に呆然とした表情になる。抵抗の為、ウェートは体を揺するもその人物は離そうとしない。力の差を感じ取ったのか、じきにウェートは抵抗する力を抜きエア・ボレアスを解除した。それを見たマスクを付けた人物は肩の力を抜き、やがてウェートから手を離した。
「勝負をしても良いとは言ったわ。でもね、今すぐなんて言っていないわよ。」
その人物はゆっくりとマスクを顔から外した。無骨なマスクを着けた人物はトリル教官だった。




